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作品名:ずいっぽいの 作者:雪平

最終回 月見酒 〜コンクリートと茣蓙の上〜
「肴(さかな)は炙ったイカでいい」なんて歌もあるけど、ウチはイカはあんまり好きになれん。
イカもタコも食えはするし調理次第じゃ好物にもなりよるけど、酒の肴に相応しいようなイカは口に合わんわ。
せやさかい今みたいにこうしてチー鱈(鱈のすり身シートを貼り付けた棒状のチーズのおつまみ)を食(は)む食むする方がええ。
チーズは基本的にカース・マルツゥ(蛆わきチーズ)みたいなゲテモノを除けば大概食えるからなぁ。
洋物のアテ(つまみ)を食みながら日本酒を飲むのもオツなもんよ。
ましてや今日は満月や。星(ほ)っさんも綺麗に光っとるさかい、えぇ月見酒日和よ。

ほんで、おみゃあさは何飲んどるん? なんも遠慮せんと飲んだらえぇで?
安物やけど赤白のワインに缶チューハイ、ウチのお気に入りの日本酒にウィスキーと、まぁビール以外は大体有る。
こうしてアテも色々用意したし、せっかくウチが月見酒に呼んでやったんやさかい、遠慮せんと飲みよし食いよし。
――ほぉ? 何で茣蓙(ござ)の上で酒盛りするんやてか?
別にええやん。ウチは子供の頃からこの茣蓙を愛用しとったし、そこで友達と一緒にべちゃくったり(お喋りしたり)おやつ食ったりしとったんや。
それが大人になって酒飲みのシート代わりになっただけや。まぁ、ちょっと手狭かも知れんがえぇやろ?
冷たいコンクリの上に茣蓙敷いて好きな酒を飲む。飲むなら酔わん程度に抑えてアテは小腹が空かん程度に食うたらえぇ。
それがウチの飲み方の一つやの。

せやせや、もう少ししたら炙ったベーコンと鮭とばも来るわ。
今日はおみゃあさと月見酒して飲む言うたらおばあちゃんが焼いたる言いよったさかいな。
柿ピーにサラミ、カルパスとそのまま食えるモンもえぇけど、火ぃ通した奴はちょっぴり贅沢な気持ちになるわ。
一手間掛けとるからか、変に美味しゅう感じんのよ。まぁ焼いとるんはウチやないけどな。
おみゃあさも好きなもん、食いたいもんあったら言いよしよ。
今日は家ん中にぼちぼち食いモンのバリエーションが揃っとんのやさかい。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

ふぅ……。今日は割と持つか思たけど、今一つやな……。
ああ、ウチの酔い具合よ。日によっては日本酒一瓶も行けたりしよるけど、今日はあんまりや。
せやけど一応冷やした番茶も置いてあるし、さっき追加された白飯に冷ややっこもある。
飲むもん食うもんに困らんかったら月見は続くわな。おみゃあさも居(お)るしのう。

――んで、昼間に言(ゆ)うとった事やけどな、ウチの志望っちゅうんは特に変わらんよ。
ウチが目指すんは今も昔も物書き屋。ライトノベルの物書き屋やね。
世の中にはいつまでも売れない三文小説書き続ける物書き屋も居(お)るが、
ウチみたいに基本何も書かず、無意味に日々を過ごす物書き屋はどんだけ居るんやろかね。
あぁ、最初は割とバリバリ書いとったが、いつしか段々書く量が減って来て、質も落ちてった。
書く事に楽しみを感じる事も無(の)うなって来たし、逆に苦痛を感じる日かて出始めよったよ。
それでも目的は変わらんのやわ。なんせか頭の中が変わらんからなぁ。
せやせや。前にも言うたが、最低でも一日一回は頭の中は小説の事で一杯になりよんのよや。
そんで時には無性に小説を書きたくなる。状況が許せばそのまま筆を執って書き始める。――で、えぇ感じで書ける。
ほんでも筆を休めて見直したら、「何やコレ?」な出来でがっかりする。慣れた頃には「あぁ、またか」で、特に思う所もなく消したりするな。
ほんまに心の病気、脳の病気と言われよる“うつ病”にでも罹っとんかねぇ。
そう感じるぐらいには非生産的で他人(ひと)の目から見て嘆かわしいもんやろねぇ。今のウチは。
みっともない――。だらしがない――。あきらめろ――。周りが思うとしたら大体そんな所やろか?
まぁ、せやからウチは何にも書いとらん。書いても消したらそれは書かんかったと変わらんのや。誰の目から見ても分かる『活動実績』としてはな。
……んんんん? 例え消しても、一度書いたならそれは『小説を書いた』事には変わりないんとちゃうかてか?
くかかっ! ウチ個人の意見としては、例え万回消しても『小説を書いた』と言うその実績は決して無駄やないよ。
ただウチの場合、実際に筆を執って書き始める頻度も少ないからな。事実上『無いもん』として勘定しとるだけよ。
ほんまに何百回何千回何万回と書き続けて消しとる人間と、ウチみたいな体たらくな不精もんを一緒には出来ひん。
たくさん書いて、たくさん消しとる人の手元にはな、ウチと一緒で何も『作品』があらへんやろうなぁ。
せやけどウチには無い『経験』がある。失敗の経験や。それはいずれ成功に繋がる糧になる。
最初は失敗を失敗と気付かず、次に失敗を失敗と気付くようになり、やがては失敗から学んだ事を生かして成功に繋げる。
それが理想の形であり、その形に向かって進み続けとる者(もん)がウチ如きと同じな訳あらへんやろうに。
毎日一回は小説の事を考える。けれども実際に筆を執って物書きをするのは月に何度もあらへんのよ。
突発的な衝動や。それが来ん限りロクに筆を執らへん者(もん)は、ホンマに活動実績が無い人なんよ。
経験も失敗もあらへん。毒にも薬にもなりゃせん。それぐらい酷いモンなんやで。ウチは。

あぁ……自虐が過ぎたか。
せっかくのえぇ夜空や言うのに、こんな話しとったら酒も肴も不味ぅなるな。
しっかし、あかんなぁ……。ウチも不幸自慢、堕落自慢は頭の中に留めとけと自分に言い聞かせてんのにこれや。
昼間おみゃあさが訊いた質問に答えんのでもこの様とはな。酒を不味ぅした事は素直に謝るわ。
ほんなら一つ口直しに、少し前向きな話でもしとくかねぇ。
さっきも言うたがウチの志望は今も昔も変わらず『物書き屋』やわ。ライトノベルの物書き屋。作家でもえぇで。
『小説家』って言い方は個人的にアレルギーが出るぐらい嫌いやさかいな。なるべくウチと話す時は控えてもらえたら嬉しいわい。

んで、ウチが物書き屋っちゅう職業を目指す動機やけどな、それはやっぱりそれしか出来る気せぇへんからやな。
いやいや、物書き屋を舐めとる訳やあらへんよ。
これは技能的な問題やあらへんし、ウチの身体の問題でもあらへん。心の問題やわ。
今でこそロクに物書きもせんと、阿呆みたいな日々の過ごし方をしとるウチやけど、やっぱり物書き自体は好きなんよ。
そりゃあもう愛しとるわ。どんだけ苦しい思いしようが、物書きの事を考え過ぎて胃をやられようが、それでも物書き自体は好きなんよ。
好きやからさかい毎日考える。考えて考えて、それに対する自分の向き合い方を見つめて鬱になる。鬱になっても直ればまた考える。
このループがある内はまず、自分が物書きを嫌いになってるとは思えんわ。
愛し過ぎて気が狂うとるだけにしか思えへんのや。
そんで、気の狂とるウチが物書き屋を目指さんとなったらどうなると思う? まぁ他人様が笑えへん結果が待っとると思うえ?
せやさかいウチは今も昔も志望が変わらんのや。
物書き屋になる為にどんだけ遠回りをしてもえぇ――。遠回りし過ぎた結果が八方塞がりで首吊るしかのうなったでもえぇ――。
せやから絶対に物書き屋になる事だけは諦めんなや――。そう思て自分の身の振り方を決めとんのよ。
自堕落な日々にもいずれ飽きが来る。
堕落も結局は飽き一つなんや。ウチにとってはな。
堕落に飽きたら今度は燃えるしかないやろうね。堕落は熱を失った人間が行き付く場所やが、それに飽きたなら熱を放って燃えるだけ。
燃えて燃えて、真っ白な灰になるまで燃えて、それで物書き屋として満足の行く結果を出せんかったらそこが終点なんやろな。
人生の終点――。えぇやん。馬鹿馬鹿しくて阿呆丸出しで訳解らん生き方やん。ウチにぴったりな未来やわ。
成功せんかったら灰になって終点へ。せやけど成功したならそれは燃料の投下やろね。
ますます燃えて、燃えて、どこまで燃えるか解らんぐらいよぉ燃えよるやろ。
それもまたウチの理想や。ウチにとって物書き屋を目指す意味は成否やない。目指し続ける事に意味がある。
物書きを目指さんようになった瞬間、それはもうウチにとっての死や。
ウチは死んだまま生きるのはごめんやで。人は生きる為に働けと言うなら、ちゃんと身も心もまっすぐ生きれる道を選ぶわな。

――ん? ウチが何を言ってるかさっぱり解らんとな?

あぁ、さよか……。さっぱり解らんか……。
こりゃウチが酔い過ぎたか、おみゃあさが酔い過ぎたかのどっちかやろな。
素面(しらふ)みたいな面しとぉるけど、おみゃあさが酔っ払ってウチの御高説を理解出来とらん可能性も否定出来まい?
無論ウチが酔い過ぎて頓珍漢な事を言うてる可能性も無きにしも非ずやが……まぁ、この話はこんでお開きにしとこうか。噛み合わんのやったら話すだけ無駄やろ。
まだ茣蓙(ござ)の上にアテは残っとるさかい、月見酒は続けるえ。
えぇやん、えぇやん、付き合えや。絡み酒もケースバイケース。
誰かに迷惑かける酒は好きやないけど、今日みたいな日なら別口や。
あぁ、せやけど泥酔するまでは飲みなや? ウチは酒は好きやけど酩酊した酔っ払いは嫌いでな。おみゃあさが危ない時は即座に家へ連れてくからな。
ほな、続けよか。


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