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作品名:ずいっぽいの 作者:雪平

第2回 側小姓みたいなもの 〜但し美形とは限らない〜
なんやまた会(お)うたのう。またこんな道端で奇遇やな。
ウチは今から買い物に行くとこよ。ちょっと遠めのスーパーで卵とか淡路の玉ねぎが安売りしとってなぁ、買(こ)うて来てくれって頼まれたんや。
「誰に?」て、ウチのおばあちゃんやで。
そうそう、父方の祖母な。同じ大家が持つアパートで、ウチとは別の棟の部屋に住んどんのよ。
ほら、ウチは父子家庭の上にほぼ父親の実家暮らしみたいな環境で育っとったやろ? せやからウチにとって父方のおばあちゃん言うのは実質母親みたいなもんでな。
昔からおばあちゃんの言う事には基本的に逆らわんし、逆らうつもりもない。出不精のウチかて、頼まれ物(もん)があったらお昼に出掛けたりするわいな。

ほんでもまぁ、もっと身内思いな人間やったら、単にお使いっ走(ぱし)りで済ませんやったろうなぁ……。
ああ、いやな、ウチにはおばあちゃんの本音と言うか、本心がそれなりに透けて見えよんのよ。お互いに長い付き合いやしな。
今回のお使いかて、ホンマは「家に居(お)っても退屈やからどこか車椅子で連れてってくれへんかなぁ……」って思とったはず。
そうそう。ウチのおばあちゃんは足が悪いんよ。
膝の間接ん中にある軟骨が殆ど無(の)うなっとってなぁ。骨と骨がゴリゴリ擦(こす)れて痛むらしいんやわ。
せやから歩行機無しやとロクに買い物にも行けんし、家の中を歩くだけでも杖突く時があるんよ。
そんな状態やさかいにサポートセンターでレンタルしとる車椅子でちょくちょくウチが遠出させたっとんのやわ。
――んん、せやな。一応乗っとる者(もん)が自分の手で動かす事も出来るけど、ほぼウチが後ろから押すの専門で使用しとるな。

まぁそんな訳で、ウチは今おばあちゃんが出掛けたがっとんの察した上で、連れて来んと一人で買い物に向かっとる言うこっちゃ。
ホンマ酷い孫やで……。

んあ? 何でおばあちゃん連れてってやらんかったんかってか?
単純にウチの腸(はらわた)の調子が悪いからやなぁ。今日かて御昼までに五度はトイレに入っとる。
ああ……せやせや大きい方や。量かて毎度それなりに出よるさかい、普通に体重も水分もガンガン抜けてってる。
こんな状態じゃ、二・三時間掛けての買い物には付き合われへんよ。いつまたトイレに行きたくなるかも解らんし、いざ言(ちゅ)う時に近くにトイレがあるかも解らんからなぁ。
ウチ、昔からこう言う時は不安になりがちでな、もしかしたら道端歩いとる際に無様な醜態晒すんちゃうかとか考えてまうんや。
んなもんで、こうして一人でチャリンコ漕いで買いもんに行こうとしとる言うわけやな。
あぁ、今は大丈夫やで。一応腸(わた)のお薬は飲んどるし、まだ若いからか、ヤバそうになれば五分ぐらい前には兆候が出る。
もしも危ない時はそこのコンビニに駆け込むさかい、まだこうしておみゃあさんと話するぐらいの余裕はあるさいな。

ウチとおばあちゃんの仲? そりゃまぁ、普段家では仲良えよ。
なんせかウチは父方の祖父母にとって初孫やったしなぁ。ウチの親が離婚する前からおばあちゃんはウチにべったりやったし、離婚してウチが父親に引き取られてからは余計に、や。
ほんでウチの親父は昔から愛想が無(の)うて、面倒事こそ起こさんけど親の喜ぶ事も滅多にせん。
親父の弟はんは……言うたら幼い時からの厄介児でなぁ。詳しくは言わんが、まぁ若い内からせんど迷惑を掛けられた上に、未だに恨みつらみを語ってウチに聴かせるぐらいや。
そんなんやから余り目立った所は無(の)うて甲斐性無しの変人はんでも、しっかり育ての親……んん、この場合はおばあちゃんやな。――に恩義感じて、色々世話する孫が可愛えぇらしいんや。
流石に世の中のボンボンはんよろしく毎月阿呆みたいな額のお小遣いやるような感じやないけど、それでも毎日必ず一食は飯を作ってくれるで。
あとはほれ、ウチの洗濯も基本的にはおばあちゃん任せになっとるな。流石に量が多い時はウチが干したり、取り込んだりはする。
せやからお互いに身内としての家族仲は良好やし、生活を支え合う上でも重要な間柄にあるんよ。
ウチの生活はホンマ、おばあちゃんが支えてくれとるから成り立っとる。

んでまぁ、ウチも昔の側小姓(そばこしょう)みたいにおばあちゃんの半介護じみた事はしとるよ。
うん。やや笑える話ながら、アレは背丈の割に大分肉が付いてもうとってなぁ。腹肉が閊(つか)えて自分で足の爪を切れへんのよ。
無論、間接が悪ぅて自由に足を伸ばせへんっちゅうのもある。せやからウチが代わりに爪を切っとるんやわ。
他にも筋肉の痛みを抑える湿布を貼ってやったり、乾燥肌の背中に薬を塗ったりするのもウチの仕事や。
風呂場で三助みたいな事もする。歳取ってから風呂嫌いになった事もあってか、週に二日しか入ってくれへんのが不満やが、その分入った時は体を綺麗にしたらななぁと思(おも)とるよ。
頻繁に体のコリが溜まらんようにアチコチ揉み解したっとるし、テレビかて、面白(おもろ)い番組はウチが録画して見せてやったりしとるなぁ。
あとは……いや、まぁ言(ゆ)うてもこんなんやろうと思えば誰でも出来る事ばかりか……。
ああ、せやな。なんやおみゃあさと話しとったら、段々ウチがおばあちゃんにやったっとる事が全部“しょぼぉ”感じて来たんやわ。
いつもは近所のおばちゃんらがウチの事を『よう出来た孫さんや』とか、介護してもろておばあちゃんも幸せやなぁって言うとるさかい、ウチもその気になっとったんかも知れんな。
今こうしておみゃあさんと話しとったら、結局ウチがやっとった事は全部誰でも出来る簡単な事――。やるかやらへんかの違いしかのうて、特別ウチやないとあかん事でもないんやな……って。
改めて考えると、やっぱりこんなんで半介護うんたら言うとらんと、さっさと地面に足付けて独立するなり、嫁はんもろて曾孫の顔でも見せてやる方が何倍も孝行になるんやろうなぁ。

――んん? なんや難しい顔しとるなぁ? どないしたんや?
はぁ? 自分じゃ今の話が自惚れなんか、エェ孝行話なんか判断出来んやと?
また下らん事で頭使(つこ)とんなぁ。ウチが言えた義理やないけど、おみゃあさも大概変やで。
ウチが今話したんはただの私生活――。住む所は違(ちご)ても、普通によくある祖母と孫の話やがな。
それを中途半端に半介護とか言うてエェ話風に聴かせようとしたウチの誤り――。芸人がネタを滑らして変な空気になったようなもんやろに。
それをまぁ、難しそうな顔して思深気(おもぶかげ)に考え込む素振りしよってさかいに……。
おみゃあさも本当に変わっとんな。ウチの感性が移って来とんのかね?

ああ、なんや話してたらまた腹の具合がおかしくなってきよったか……。
変な音も鳴り出してきよたし、ウチはここで失礼するわ。
ん、そこのコンビニで置き土産してから改めて買い物(もん)に行ってくる。

ほなな〜。


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