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作品名:宿主 作者:本条想子

第4回 荒木主任と和田課長の追い出し作戦実行
 野崎専務は晴れて代表取締役社長に就任しました。これには、3千万円の大金が物を言ったのです。3千万円の貸主は自分にメリットがあるから貸したのであって、可愛がってもらっていると信じ切る甘さが社長にはありました。それは、早くも無理な買い付けとなって表面化して来るのです。社長は、一旦心を許すと妄信的になり、一旦不信感を持つたり用無しになると徹底的に排除しょうとする性格でした。 
 
 先ず、野崎新社長は3課に分けた営業を強化し始めました。営業1課と2課は今まで通り、和田課長と浅沼課長が率いました。玩具課は藤井係長が率い、会社のイメージアップのため自社ブランドの商品開発を帯びた課になりました。社長は自社ブランド成功で、ビックな社長になる事が夢だったのです。
 そんな中、開発とは無縁な1課と2課はノルマに向かって鎬を削ったのでした。とはいえ、勝負は課のメンバーの割り振りから決していました。1課は古株でしたが、体調不良や家庭のごたごたでトラブルを抱えている2人に、新人の青柳君でした。営業2課は荒木主任の後釜と思しき鳥居君と、それに続く入社3ヶ月でバリバリ営業成績を上げている2人でした。しかし、戦闘開始から1ヵ月の成績は、2課はノルマ達成でしたが、和田課長の1課はノルマを達成できずに敢え無く大敗しました。そこで、ノルマを達成出来た2課はご褒美の美酒を味わえたのです。そして、ノルマの達成が出来なかった和田課長は社長室に呼ばれ、間仕切りから聞こえるぐらいの声でお叱りを受けました。それは、後から入社した浅沼課長との力の差を延々と比較対照されるものでした。でも、和田課長は怒られる事は平気でした。それより、力がありながら野崎社長や浅沼課長から疎まれた荒木主任の二の舞になる方が恐ろしかったのです。今、ロードを動かしているのは、野崎社長と浅沼課長だったからです。
 荒木主任がロードに見切りを付け、退職する事になりましたのは、和田課長が2課と鎬を削っている真っ只中でした。和田課長は仕方のない結果だと思いました。何処へ行っても荒木主任なら直ぐに役職に付けるはずと思っていたのです。

 新入社員の青柳君は、まず商品を覚えるために、配送の仕事から始めました。しかし、営業で入社し配送なんてと1日で辞める社員や1ヵ月ぐらい配送の仕事をしていて色々会社の雰囲気が見えて来て辞めて行く社員もいました。いつも、1ヵ月以上は配送の仕事から入りますが、青柳君は同業種からの転職ですので、半月と早い段階で営業を始めました。普段、配送は年配の杉浦さんと若手の2人でやっていました。しかし、出入りが激しいので、誰か新人が配送の手伝いをしているというのが当たり前になっていました。しかし、この新人の手伝いがなくなると、配送の2人はてんてこ舞いだったのです。そこで、商品の大量入荷時と毎月の棚卸だけは、営業の課長以下が手伝う習慣になっていました。

 荒木主任は経理部へ入って行きました。
「荒木主任、いつも良い成績ね」
 と、女性の経理事務員が声をかけました。
「僕の月次推移表を出して見て」
 と主任が言って、パソコンの前に立ちました。事務員がパソコンを操作して、担当者別月次推移表を出しました。画面には、3課の全員の営業成績が表示されていました。
「ここまで、ただ働きのようなものだよ。仕方ないか、雇われているんだから」
 と、投げ捨てるように、荒木主任は言いました。
「何処かにヘッドハンティングされるのですか。それとも、独立でもするのですか」
 と、新入経理マンの川原君が興味深げに尋ねました。
「いや、もう日本とはおさらばだよ。海外へ行く予定さ」
 と、さばさばしたように言うのでした。
「来週の金曜日は、僕の送別会と河原君と青柳君の歓迎会だね。飲める口なの」
「えへへっ、あまり飲めないけど、お酒の席の雰囲気は好きですね」
 と、はにかみながら答えました。
「ふうぅん。あまり騒いでも目を付けられるし、好いんじゃないの」
 と、意味深な事を言って、出て行きました。

 野崎社長は、部長から専務そして社長になって変わっていきました。若いというだけで年上でも部下の荒木主任から意見されるのがかなり気に障っていたのでしょう。それゆえ、社員との差を付けるのに躍起になっていたのです。それは、他の役職者にもその傾向がありました。また、役職間の差を利用するところが、野崎社長にはあったのです。その際立ったものが、役職を意識させるために、名前だけではなく役職名を必ず付けて呼びます。社長はわざわざ大声で、昨日まで何々ちゃんだった主任を役付けで呼ぶのです。それで、社員もおのずと役付けで呼ぶようになるのです。そして、本人も会社側の人間になり、平社員側からは遠い存在になるのです。社長としては、織田信長の取った方式を狙ったものだったのでしょう。それは、領地を分け与えずに、草履を履く資格を与えたり、馬に乗る資格を与えたりする事で、出世を印象付けたのです。これを真似、あまり給料を上げずに、役職だけ与えている会社が増えています。これも不況のせいでしょうか、やたら役職で呼ばれて喜ぶサラリーマンの悲しい性なのでしょうか。

 宴会が始まりましたが、重苦しい空気が流れています。これは、いつもの事ですが、新入社員は気付かず、普通に話しました。
「新入社員が俺の前では寛げないよなぁ。かわいそうだよ。幹事、考えろよ」
 と、物分かりの良い社長のように言いました。
「はい、すいません」
 と、鳥居君が謝りました。
「いえいえ、えへへ」
 と言って、河原君はいつもの照れ笑いをしました。
「ヒット商品を開発するのは大変ですよね。子供のころ、『たまごっち』ってありましたがあんなのを開発できたら良いですね」
 と川原君が言いました。
「定価1980円の白の『たまごっち』を持っていたら、3万円でも譲ってくれと言われたぐらい、すごいブームだった」
 と社長が言って、玩具課の新商品開発に望みを託している様子でした。
「昔のヒット商品では、フラフープやダッコちゃんがすごかったなぁ。フラフープは大人向けで、270円かな。子供向けで200円だったかな。それから、ダッコちゃんは180円だったか。でも、倍以上の値段になっても買っていたなぁ」
 と、配送の杉浦さんが懐かしそうに言いました。
「1960年のダッコちゃんはキャラクターが変わって今も売っている。
1958年のフラフープはまた流行り出したし、1980年のルービックキューブは公式大会もあるし、長続きしているねぇ。
1980年代のスペースインベーダーも一大ブームになったが、ファミコンやゲームボーイの普及には勝てなかった。
たまごっちは、1997年第1次の爆発的ブームに次いで、2004年から2007年の第2次ブームを経て、2009年以降の第3次ブームが起こっているね。
社長、でも大手玩具メーカーとの開発競争なんて無理だと思いますよ」
 と、荒木主任はこの期に及んでも、臆面もなく平然と言ってのけました。

 イエスマンが多い中、荒木主任だけがこのような事を言っていました。しかし、これが社員や取り巻き連中には煙たい存在だったのです。まるで、今度の新商品開発をあざ笑っているように思ったのでしょう。荒木主任が退職して、一番清々するは、浅沼課長です。しかし、荒木主任は決定的な失敗をしたのでした。それは、この会社の最高権力者に取り入らなかった事です。その意味で、浅沼課長に負けたのです。でも、和田課長はあの物言いが根っからのもので、計算ずくでないところが羨ましいぐらいでした。
 それにしても、お酒に酔って終始にこにこ笑っている藤井係長からは、荒木主任にライバル心を燃やしている面影が見当たりませんでした。でも、二人の間には口を聞かないほどの、火花が飛び交っていたのでした。主任職は、荒木主任が先でした。しかし、係長になったのは、藤井さんでした。この時点で、浅沼課長と荒木主任の勝敗は決していました。野崎社長が選んだのは浅沼課長だったのでした。つまり、和田課長と荒木主任は浅沼課長の敵ではなくなったのです。そして、和田課長の場合は栗栖元社長を引きずる唯一の存在として疎まれるのでした。
 会社という社会も、一人の指導者で大きく変わります。また、その指導者に気に入られようと、社員も自分を押し殺して合わそうと繕うのです。それが、人間としての道に外れていようとも、その場にいる限り考える気力さえ萎えてしまうのです。これで、ロードは野崎社長と浅沼課長の万全なタッグが組まれたように思われました。

 次に、社長が和田課長に対して取ったやり口は、3人を2課に移動し、和田課長1人1課に残したのでした。そして、荒木主任が退職した後、浅沼課長の部長昇進と鳥居君の主任昇進が発表されました。
 これで、はっきりと栗栖社長に付いて来たメンバーの抹殺が完了した事になったのでした。また、和田課長ではなく鳥居主任のナンバー3も野崎社長の構想に入っている事は間違いないのです。鳥居主任は、ロードを訪れるビッグな社長方に次々と紹介されました。それを、鳥居主任も神妙な面持ちで受けていたのでした。それでも、和田課長は耐えるつもりでした。これで、野崎社長は心置きなく、和田課長を浅沼課長の配下に据える事が出来たのでした。営業2課は営業部と呼ばれるようになりました。しかし、営業1課は依然、和田課長1人という奇妙な形で残っています。

 和田課長が浅沼部長に抜かれる有り様は、面白いほどに社長が描いたシナリオ通りで、奇妙な方法でした。不甲斐ないと言えばそうなのかもしれませんが、仮にそれを跳ね除ける力があったにしても、和田課長はしなかったでしょう。それは、無駄な抵抗をして会社を退職しなければならなくなった浦辺部長や荒木主任の例からも、損な選択だと思えたからです。


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