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作品名:宿主 作者:本条想子

第3回 栗栖社長の宿主計画の終結
 野崎専務は、浅沼課長と煮詰めた社長交代計画の了承を和田課長からも取り付け、3人で栗栖社長に挑む事になりました。和田課長はただ頷くしかありませんでした。ここで異論など挟む余地があろう筈もありません。専務は意見を聞く気などさらさらないのですから。いつも、最初から用意された回答を求めるだけです。和田課長は浦辺部長同様に、栗栖社長から見放された思いでいましたから、後はロードにしがみ付くしかなかったのです。

 野崎専務は、社長の出社日に合わせて準備をして来ました。その時までに、野崎専務は2千万の資金を用意できていました。野崎専務は和田課長と浅沼課長を引き連れて、社長室へ入って行きました。
「社長、お話があります」
 と、野崎専務が切り出しました。
「なんだね、3人揃って。まあ、3人とも座りなさい」
 と言って、3人をソファーにすわらせ、栗栖社長も座り、身構えました。
「このまま、社長が出社されないのでしたら、我々役職者はロードの経営を辞退させていただきます。つまり、もう栗栖社長に付いて行けないという事です。それで、我々が出て行くか、社長が私にロードを譲渡して、勇退していただくかしてもらいたいのです」
 と、専務は唐突に迫りました。
「君たち、野崎君と和田君のロード発足メンバーと浅沼君の三人で独立したいというのかね。構わないよ、私は。野崎君独りの力でロードを経営していると思ったら大間違えだ。銀行だって、野崎君には、1円も貸してくれないと思うな。つまりは、私が築いたロードの実績にお金を貸してくれているんだよ。だから、私も発足時に苦労したんだ」
 と、日頃から用意してあった言葉を待っていましたとばかりに捲くし立てました。
「しかし、我々が出て行ったら、以前の会社のように経営が立ち行かなくなるでしょう」
 と、専務が自信有りげに言いました。
「前の会社は、我々4人が辞めて人材がいなくなったから倒産したのであって、今のロードとは大違いだ。君たち3人がいなくても私が戻って来れば、ロードは今まで以上に発展するよ。ロードには、荒木主任がいる。彼に部長を任せてもロードは今まで通りに成り立つと思うがね。それに、君たちが追い出した浦辺君を専務にする事だって出来る」
 と言って、社長はうそぶいて見せました。

 それを野崎専務が聞いて、顔には出しませんでしたが、一瞬たじろぎました。それに、浅沼課長も和田課長もまさかと思っていましたメンバーの名前が出て、心中穏やかではありませんでした。栗栖社長も事業をしている気配がなく、ぶらぶらしていて以前のような事業意欲がなくなっている様子と野崎専務から聞いていましたので2人は驚きでした。
 しかし、和田課長は荒木主任ならロードを率いられると思いました。それは、この5年間で経営システムがかなり確立されてきたからでした。そして、そうなった方がいいとさえ思いました。それは、同病相憐れむとでも申しましょうか、荒木主任と和田課長が野崎専務から虐げられているという思いからでしょう。和田課長には、浅沼課長との間に大きく水を開けられた思いがありました。そして、荒木主任の場合は、浅沼課長との争いもさせてもらえず、後から入社した藤井係長の下に置かれ、辛酸をなめてきたのでした。
 野崎専務が天下を取れば、ロード発足メンバーの和田課長が一般入社の浅沼課長に抜かれるでしょう。そればかりか、ロード発足メンバーが目障りで、和田課長の地位も風前の灯火なのです。もう少し以前に栗栖社長が荒木主任を買っている事を知っていたら、和田課長は栗栖社長と荒木主任へ寝返っていたでしょう。でも、もう遅いのです。
 
 野崎専務は心にもない事を強気で言いました。
「社長の会社ですから、我々に代わって他の役員を立てると言うのなら仕方ありません。我々は出て行きます」
 と、野崎専務は荒木主任に対抗意識を剥き出しにして言いました。
 しかし、専務は辞めるつもりなどさらさらなかったのでした。それは、浦辺部長が退職した時点から、栗栖社長が力量の差を分かっていたはずと自負していたからです。そして、専務は栗栖社長の経営者離れを察知している様子でもありました。それは、以前の社長のように栗栖社長も他人に会社を任せきりにしている間に、経営能力が落ちてきていると思っていたのでした。 

「私も忙しい身なので、あちらもこちらもと出来ないので、いろいろと考えているところだった」
 と、栗栖社長は歩み寄りを見せました。
 野崎専務は、ここを逃したら荒木主任にロードが渡ってしまうと焦ったのでしょうか、専務が甘いのでしょうか、当初の読みから一転して、かなり栗栖社長に有利な条件を出してしまったのでした。
「社長、ロードを私に譲渡してください。営業権として2千万円を用意します。しかし、数字では表せない社長への感謝として、5年間に渡り毎月50万円を顧問料としてお支払いします。社長、いかがでしょうか」
 と、間髪を入れずここぞとばかりに専務は条件を出しました。
「私も他の事業にかまけてロードを放置し過ぎたのは私の不徳のなせる業。そこまで言うのなら、野崎専務にロードを譲ろう。しかし、営業権つまり暖簾は5100万円だ。専務一人に譲るのだから、会社からの肩代わりは駄目だ。個人の出資でないと。最初に三千万円で、残りを一年の分割で月額350万円ではどうかな」
 と、栗栖社長は言い放ちました。
 浅沼課長と和田課長は、もっともな意見だと思ったのでした。自分独りの物にするのに会社の資金を当てるなんて、ずるいとも思いました。しかし、結果的には役員報酬を増やして支払うのだろうという事は分かっていたのでした。

 野崎専務は、憧れの大物社長にもう1千万の借り入れを頼む事にしました。
「はい、営業権は5100万円という事でお願いします」
「では、皆で頑張ってくれたまえ」
「はい、手続きは後日にしましょう。ご連絡します」
 と丁寧に野崎専務は言って、栗栖社長に握手を求めました。社長は含み笑い浮かべ、専務は満面の笑みで、2人が固く握手を交わしました。栗栖社長が社長室を出ると、浅沼課長が拍手をして野崎専務の社長昇進を祝福しました。遅ればせながら、和田課長も続いて拍手をしました。その音を聞き、栗栖社長は勝利の笑みを回りの社員に振り撒き、会社を出て行ったのでした。
 
 そして、後日、契約書が取り交わされました。営業権は5100万円です。それは、3000万円を頭金で支払い、1年間で月額350万円を返済するという2100万円の借用書となりました。会社の借入は、栗栖社長が個人保証してきた分を全部はずし、野崎新社長に変更しました。栗栖社長は全く経営から退き、株式も100パーセント野崎専務に譲渡されたのです。
 
 栗栖社長は、このように全く自分に借金が残らないようにして、会社を去るのです。残った借金は野崎新社長に引き渡され、会社が成功すれば返せるのです。良い意味で、暖簾分けをしたと社員たちには挨拶をして、引き継ぎを終えました。つまり、頑張れば誰でも社長になれるというような事を言ったのでした。  

 このように、栗栖社長は、何の問題もなく会社を去れたのです。しかし、日本の企業家の中には財産を残しつつも、有価証券報告書の虚偽記載やインサイダー取引、証券取引法違反、脱税、違法献金などの罪を犯して禍根を残すこともあるのです。果たして、政権を渡したからといって全く責任から逃れることができるのでしょうか、逃れても良いものなのでしょうか。


 ロードはかなりの粗利が出ているにもかかわらず、利益分だけ役員報酬が支払われ、内部留保が出来ない現実があるのです。運転資金は結局のところ、銀行から借り入れなければならなくなり、ますます借入額が増え続けるという具合です。つまり、商品でつまずけば、零細企業のロードなど跡形もなく潰れる事を栗栖社長は知っていて逃げ出したのです。鼠などが火事の前に逸早く逃げるように、借入責任から逃れるための潮時を見据えていたのです。そして、野崎現社長に自ら会社を乗っ取らすように仕向けたのでした。
 栗栖社長が以前の会社で考えた事は、このままどんなに働いても、年俸が800万円程度で終わるということでした。前社の役員は、島田社長の家族のみでした。役員報酬の合計が月額500万円にもなっていることを知り、独立を考えたのでした。彼が雑貨卸の会社に入社した時は、年収300万円にも満たなかった事から比べると大した出世にはなるのです。しかし、会社を動かしているのが自分だと考えると、彼は割り切れなくなったのでした。会社が軌道に乗ってからというもの、島田社長が彼に任せきりで、毎日顔を見せては早々に指示を出して出掛けて行くのでした。また、役員に連ねている家族は、顔を見せた事など一度もなかったのです。いくら利益を上げても、その分だけ役員報酬として外部に流出しているのです。利益が出ている時に内部留保しておけば、利益がでない時でも補てん出来るのです。

 大企業のように雇われ社長であれば、次期社長へ借入を引き継げば逃れられるでしょう。また、天下り役人や地方自治の役人であれば、国民の税金を尻拭いに使えば無駄遣いも平気でできるのです。そんな風潮が今では、大企業の倒産まで国民の税金が当てにされて、企業家のいい加減な経営に拍車がかかっているのです。


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