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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第9回 蜜蜂と極道とG〜凄まじき急展開の果て〜
 
 巧壱と共に鬼仮面を追おうとした琉奈が、再び眠りに堕ちた。
 まるで、糸の切れた操り人形のようだった。
 倒れる琉奈に気付いた巧壱と優梨が、とっさに彼女に駆け寄った。
 美羽瑠も駆け寄ろうとしたが、憲司の容態の方が一大事なので離れる事はできなかった。

「琉奈! しっかりして!」
「まさか、また例の記憶を!?」
 巧壱が琉奈の頬を右手で叩く。だが彼女の身体はピクリとも動かない。
「コーイチ! ルナは!?」
 憲司の応急処置を継続しながら、美羽瑠は叫ぶ。

「ダメだ! さっきと同じで全く反応が無い!」
 巧壱は歯噛みした。
 悔しさがこみ上げてくる。
 今回の任務を、これまでと同等の危険度だと思い、油断していたからだ。

 けれど甘かった。
 今回の事件に、これから先も絡んでくるであろう敵は、
 自分達が今まで立ち向かってきた敵とはまるで次元が違った。

 自分達よりも多くの場数を潜り抜けてきた、戦闘のエキスパート。

 だが、1度踏み込んだからにはもう戻れない。
 巧壱と琉奈、そして龍斗が彼らを攻撃し、生き延びた事で、彼らの目に『Little-Bee』は、
 彼らの言う計画≠邪魔しうる未知の勢力のように映っただろう。
 そうなってしまっては、相手側の1部の急進派が『Little-Bee』への総攻撃を仕掛ける事もありえる。

 この事件を、終結に導かない限りは……。

 しかし任務内容の全貌が未だに見えない現状で、いったい何ができるのか。
 いくら考えても、今目の前で起きている非常事態を意識してしまい、なかなか考えがまとまらない。

 だがそんな絶望的な状況下の中。

 ついに一筋の希望の光が見えた。

 1台の車が、突如として羽佐間邸の庭へと乗り込んでくる。
 車を置くスペースはすでに憲司の車で占拠されているので、
 突如登場した車は畑が耕されているスペースに強引に駐車した。
 巧壱には見覚えのある車だった。

 そう、あの車は――。

「すみません、遅くなりました!」
 バァンと強引にドアを開ける音と共に、1人の男が運転席から飛び出すと、
 邸内へと急いで駆け込んでくる。
 今回の任務を巧壱達へと依頼した1人、天ヶ崎宇宙であった。
 いや、宇宙だけではない。

 助手席からは琉奈の義兄である風深秀一。
 後部座席助手席側からは、秀一の助手兼看護士である東玲。
 後部座席運転席側からは本職が薬剤師である多様技師・山辺和久。
 そして和久の助手である真崎悠が、和久の後に続く。
 社会人プロチーム『紅の十字架(カーネリアン・クロス)』+α、大集合である。

「そ、宇宙さ――」
 あまりにも遅い登場への怒りと、ようやく来てくれた嬉しさと、
 なぜこの場所が分かったのか理解できない故の困惑のせいで、
 怒っているのか安堵しているのかよく分からない表情で、
 巧壱は駆けつけたみんなの名を呼ようとした……のだが、

「!? 琉奈!?」
 義妹である琉奈の異常にいち早く気付いた秀一センセーが、
 巧壱の傍で眠りに堕ちている琉奈にすぐさま駆け寄る。

「巧壱、状況を報告しろ。琉奈に何が……巧壱?」
「……え、あ、すみません。じつは――」
 秀一の相変わらずのシスコンっぷりのせいで思考を停止させていた巧壱が、
 慌てて琉奈に何が起こったかを、秀一に順を追って説明した。

「……相変わらずだねぇ、秀一先生は」
「そ、そうですね……」
 和久は相変わらずのニコニコ笑顔で巧壱と秀一の様子を見ていた。
 悠はそんな和久を見て苦笑した。

「いや3人とも、こっちに琉奈ちゃん以上の重傷者が居るんデスが!?」
 玲はすぐさま秀一と和久と悠にツッコミを入れた。
 するとすぐさま和久と悠が反応し、憲司の方へと振り返る。
 秀一センセーは巧壱から琉奈に何が起こっているのかを聞いた後で振り返った。

 美羽瑠の応急処置が運命の分け目であったのだろう。憲司はまだ息があった。
「よく頑張ったな、美羽瑠……にしても、なんて酷い傷だ」
 秀一は美羽瑠にささやかな称賛を与えると、すぐに憲司の容態をチェックした。
「刀傷か……人体の急所にまでは達してはいないが……一刻も早く設備の整った場所で手術しなければ死ぬぞ」

「さすがに持ってきた機材だけでは心配ですね」
 和久が冷静に状況を分析する。
「ですが近くの病院に運んでいては間に合わない。どうしますか、秀一先生?」
「どうするも何も――」

「どこぞの黒い無免許医のように、一か八か、この場で手術してみますか?」
 ニコニコ顔を少しも歪めずに、和久はトンデモない事を口にする。
 無論、秀一は目を見開くほど驚愕した。
 だが彼が驚いたのは、和久の言った事に対してではなく、

「……そこまで読めて≠「るなら……最後まで付き合ってくれるか、和久さん?」
 秀一が不適に笑う。
「ええ、今できる事を精一杯やりましょう」
 ニコニコ顔を崩さずに、和久は同意した。

「ちょ、ここで手術って本気デスか先輩!?」
「そうですよ、無茶ですよ山辺先生!」
「ああ。無茶なのは承知だ。だが時間は惜しい。この男は今回の依頼の意味を知っている証言者だ。
 絶対に死なせるわけにはいかない。
 それに琉奈がなぜああなったのか、この男ならより詳しく知ってそうだしな。
 なんとしてでも、助けてやる」
 秀一先生はより鋭い眼光を発しながら呟き、その場で手術の準備を始めた。

 和久は「やれやれ」と言いながら、
「巧壱くん、美羽瑠さん、優梨さん、そして宇宙くん。
 琉奈さんと……えっと、輝さん……でしたね。
 2人を別室に運んでください。今から……憲司さんのオペを開始します」

「!? ……分かりました」
 巧壱が代表で答え、美羽瑠と優梨と宇宙に目で合図する。
 3人は首を縦に振り、琉奈と輝の、それぞれの体重を考慮し、
 巧壱と宇宙は輝のもとへと、美羽瑠と優梨は琉奈に肩を貸すため駆け寄った。
 だが輝は、なかなか憲司から手を離してくれない。

「輝さん、憲司さんは絶対に助かります。俺達を信じてください」
 巧壱が、優しい声色で輝に話しかける。
 しかし輝は「……ケンちゃん……ケンちゃん……」と呟きつつ、
 さらに憲司の服を掴む両手の握力をいっそう強めたので、余計手を離せなくなった。
 仕方なく、申し訳ない気持ちになりながらも、巧壱と宇宙、さらには和久が3人がかりで、
 輝の両手を憲司の服から剥がす作業を開始する。

 ――とその時であった。

「??」
 和久が、珍しく顔に出るくらい困惑した。
 ……この方の記憶……何かがおかしいような……?
 突如流れ込んできた輝の記憶に、違和感を覚えたのだ。

 そして、それとほぼ同時。
 この人の顔、どっかで見た事があるような……?
 輝が、自分の先輩の親族であると未だに気付かない宇宙が、心の中で疑問符を浮かべた。

 2人の男が感じた、それぞれの違和感。
 数分かかってようやく輝の手を憲司の服から離す事に成功し、
 巧壱と宇宙が、輝を連れて別室に移動する間にも、
 それらの疑問が解消される事は無かった……。

     ※

 手術開始から、数十分が経った。
 あまりにも衝撃的な事態が起こったせいで、未だに誰もが口を閉ざしている。
 耳に聞こえる音は、隣のそのまた隣の部屋から聞こえてくる、
 秀一や和久の指示と、人肉を動かす時に出る粘着質な音。
 そして手術で用いる道具が触れ合う金属音のみ。

 だがそんな状況下で、突然宇宙がハッとした表情で沈黙を破った。
「ところで、櫂と龍斗くんはどこにいるんですか?」
 ここで巧壱達は、ようやく2人が今どういう状況なのかを思い出した。

「そ、そうだ! 青城は憲司さんを斬った犯人を追って行ったんだ!」
「あっ! そういえばカイは今どこにいるの!?」
「すっかり忘れていたわ! 早く2人を捜しに行かないと!」
 憲司が斬られたという衝撃展開のせいで忘れていた事が、突如として巧壱達の脳裏に甦る。

「なんだって、それは大変だ! 早く2人を見つけないと!」
 いつもはふんわりしている印象を受ける宇宙も、今日ばかりは焦っていた。
 状況が状況なだけに、マイペースでいるわけにはいかないというのは解るが、
 それでも巧壱達には、なぜだか今の彼はどこか不自然に見えた。

 と、その時である。

「みんな、無事かぁ!?」
「だから無事じゃないヤツもいるって言ってるだろうが!」
 突然庭の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 無論、櫂と、敵に逃げられてピリピリしている龍斗の声である。

「櫂!? 龍斗くん!?」
「え、カイ!? リュート!?」
「今までどこに行ってたんだ新堂!? それと青城!」
「須桜くん、それよりも青城くんにあれからどうなったのかを訊かない、と……?」

 噂をすればなんとやら。
 噂をした4人が同時に驚愕すると、一斉に、声がする庭へと向かった。
 みんな思い思いの事を口にしながら2人の姿を確認する……と同時に、

「おお、コイツらか。櫂たちの仲間ってヤツらは」
「ああ、みんな俺達の仲間や!」
「正確にはあと数人いるけどな」
 そんな2人とナチュラルに会話を交わす多くの侠(おとこ)達が4人の目に映った。
 初めて対峙する極道を前に、4人とも目を点にして、そのまま石化したかのように固まった。

「で、アンタが櫂たちのボスか?」
 だがそんな事などお構い無しに、幹也が代表して巧壱に訊ねてくる。
 巧壱が何かを言おうとした。だがその前に櫂が質問に答えた。

「ああ、巧壱はボスやない。リーダーは俺や」
「ああ? いやそういう意味じゃなくてだな、誰がお前らに依頼してるかっていう意味だ」
「あ、そっちか。それやったら今回の場合は、宇宙にぃ……っちゅー事になるんかな?」
 次の瞬間、幹也の眼光が宇宙を捉えた。宇宙はさらに身体を緊張させた。

「えっと、宇宙サン……だったな。いきなりで悪いんだが、できるだけ早く俺達の拠点に来てほしい」
「……………え?」
 緊張ゆえに、少し遅れてから返事をする宇宙。

「今回のアンタの依頼に、俺達のようなヤクザ者が絡んでる時点で解っているだろ?」
 1回溜め息を挟むと、幹也はさらに続ける。
「つまり、俺達の敵は同じって事だ」
「よ、よく解らないのですけど?」
 宇宙にとってはチンプンカンプンな意見であった。

「あぁ? アンタ俺達の事を先生≠ゥら聞いていないのか?」
「先生?」
 本気で首を傾げる宇宙。幹也は呆れた。
「はぁぁぁ……先生よぉ、後輩にもう少し情報を教えとけよぉ」
「え、後輩?」

 するとその時。宇宙の脳裏に、約4年前に交わされたある会話の内容が甦った。

 それは、宇宙がまだ大学に入学して間もない頃に交わされた……ある先輩との、約束……。


『宇宙くん、もしも君が……いずれその謎≠ノ、なんらかの形で関与する事になれば、
 その時は僕の教え子≠ニ会う事になるだろう。その時は、是非とも仲良くしてあげてくれ』

『教え子、ですか。バイトで家庭教師でもしているんですか、先輩?』

『まぁそんな感じだね。とにかく、だ。宇宙くん、その時は……』

『ええ、解りました。もしも関わる事になったら、仲良くしますね』


「…………え、ま……ままままままままさか!?」
「おお? その反応……ようやくそれっぽい記憶を思い出したか」
 その教え子が極道だったのだから、驚くのも無理ないと思うが、
 それでも、宇宙を知る者からすれば信じられないくらいの驚愕っぷりだった。

 思わず幹也は笑みをこぼした。
 今頃宇宙が思い出した事への怒りを忘れるくらい、今の宇宙の顔が面白顔であったのだ。
 つられて幹也の舎弟達と、櫂と龍斗でさえも思わず笑みがこぼれた。
 ギスギスした空気が、ようやく少しは緩和された。
 代わりに巧壱達にとってはチンプンカンプンな状況になったが。

「まぁとにかく、だ」
 笑うだけ笑うと、幹也は直々に仕切り直す。
「俺達は、土屋大地先生に関わりのある事件に巻き込まれた。
 ならば、拠点を同じにしておいた方が、いろいろ便利だと思わねぇか?」

「……………そうですね」
 顎に右手を当てて考え込んだ宇宙が、冷静にそう決断を下した。
 情報面、人員面、安全面、あらゆる事を考慮した結果、
 自分達とは別の情報管理をしている組織の手を借りれば、
 より早く事件が解決すると結論を出したのだ。

「解りました。では、この家で出た怪我人の手術が終わり次第、
 別の場所で控えている3人の仲間と合流し、そちらの拠点に向かいます」

     ※

「――で、今に至るというわけだ」
「い、いろいろと急展開だな」
 義兄の話を聞きながら、目を点にしていた琉奈が正直な感想を漏らした。

 捜していた少女が見つかったかと思えば、
 少女を巡って龍斗と極道であろう鬼仮面が死闘を繰り広げ、
 別の場所では櫂が忍者レイヤーと死闘を繰り広げ、
 最終的に廃工場に行き着き、そこで同じく人捜しをしていた極道と死闘を繰り広げ……。

 ……この凄まじい急展開ラッシュについていくのは、常人には絶対無理であろう。

「あ、そういえば秀兄ぃ……憲司さんはどうなったんだ?」
「琉奈、俺を誰だと思っているんだ?」
 これまでに起こった事の報告の中に、憲司や輝の状態についての事が無かったので、
 琉奈は義兄を信頼しつつも、それでも心配なので疑問を口にした。
 すると返ってきた言葉は、琉奈がもっとも待ち望んでいた言葉。

「美羽瑠が応急処置をしていなかったら、確実に死んでいた。
 ギリギリの状態だったが……今は隣の隣の部屋で奥さんと一緒に眠っている」

 義兄の言葉に、安堵する琉奈。
 誰かが傷付くのを、メンバーの中でもっとも良しとしない彼女だ。
 よほど安堵したのか、その表情には喜びが垣間見えた。
 だが無情にも、今は喜びに浸る余裕はほとんど無い。

「それはそうと琉奈、お前、また視た≠だろ?」
 それを教えるかのように、秀一は琉奈に、今回の事件解決の鍵を握る可能性がある、
 琉奈が視たという謎の記憶映像≠ノついて真剣な眼差しで問いかける。

 本当は琉奈の身体が心配で心配で心配で問いかけたのだが、
 琉奈自身、時間があまり残されていないことが解っているがために、正直に、
「……ああ、視た」
 その言葉を皮切りに、琉奈は義兄とその助手に、
 自分が視た記憶映像≠フ内容を語りだした……。

     ※

「弥生時代……ずいぶん昔の人の記憶を視たんだな」
 秀一は表情を変えずに驚いた。
 今までにも琉奈は、死者生者問わず、様々な者の想いを視てきた。
 だが秀一の知る限り、約2千年も昔の記憶を琉奈が視た事は、
 今までに一度も無い。

「眠るたびに、記憶映像の時間が飛び飛びで、しかも1部にノイズが走ってる?
 なんか、ヒントを小出しされているみたいだねぇ」
 玲が腕を組みながら正直に印象を述べた。

「いや、おそらく違うだろう」
 だがそれを秀一は即座に否定した。
「二千年もの大昔の人間の記憶だ。
 此の世に存在する以上、劣化を避ける事は絶対にできない。
 必ず何らかのエラー、今回ならノイズが生じるのは必然だろう」

「ならあの記憶は……誰かが編集などをしていない、紛れも無い本当≠フ記憶なのか……」
「そういう事だ、琉奈」
「え、ていう事は……」

 琉奈と秀一の会話に、玲は驚愕の表情で割って入った。
 当の2人は、なぜ玲が驚愕しているのか分からない。
 だが、次に玲が口にした言葉によって、

「人の記憶を無機物に保存させる事ができて、その無機物に触れた者……それも霊能力を持つ琉奈ちゃんの記憶にソレを刷り込めるほどの異能力の持ち主で、弥生時代に生きていた女性で、しかも、男の子をお供にしていた……もしかして、琉奈ちゃんに記憶を刷り込んだのって……」

「……卑弥呼?」

 驚愕していたその理由と。

 自分達がいったい何を相手にしようとしているのか。

 その2つを、2人は驚愕の表情と共に思い知った。
 


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