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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第7回 蜜蜂と極道とE
 
 黒いプロテクターを着込んだ謎の鬼仮面は、憲司を袈裟斬りにすると、
 そのまま刃に着いた鮮血を振り払い、鞘に収めた。
 まるで、同じような経験を何度も何度もしてきたかのような、手際の良さだ。
 そして刃の鮮血が、床に、そして輝の顔に降りかかると同時。
 バァッという音がしたかと思うと、憲司の身体から大量の血が噴出した。

「け……ケン、ちゃ……」

 輝の瞳に、夫がその場で、うつ伏せに倒れ行く過程がスローモーションで映し出される。
 憲司が倒れるまでの時間は、実際には一瞬の出来事であるのだが、あまりにも信じがたい光景である故に、
 輝自身が、己の心が壊れるのを少しでも先送りにしようと無意識の内に起こした、自己防衛措置である。
 ようは銃撃戦などの現実離れした現場にて、過度に緊張が高まり、
 弾速がスローモーションで見えるあの現象と同じ事が起こったのだ。

 しかしタイムラグを長くしようとも、迎える結果は同じ。

「け……ケンちゃ……い……いやあああああああぁぁぁぁぁーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!」

 あまりにも残酷な現実が、容赦無く輝に突きつけられる。
 声が枯れんばかりに輝が絶叫する。
 そのつぶらな瞳から、溢れんばかりの涙が流れ出す。
 顔が慟哭で歪み、瞳孔が極限まで開く。
 鬼仮面を掴んでいた手を思わず離し、憲司のもとへと這って歩く。

「ケンちゃん!! ケンちゃん!!! ケンちゃん!!!!」
 なんとか憲司のもとまで辿り着き、大声で呼びかける。
 しかし憲司はピクリとも動かない。それどころか、だんだんと体温が下がってきている。

「俺達の崇高なる計画≠邪魔すっからだ」
 鬼仮面が、面倒臭そうな声で輝に告げる。
 しかし輝は、憲司の容態を気にしていて気付かない。
 だが鬼仮面は、無視された事は気にも留めず、自然な感じで言葉を続けた。
「一応急所は外してある。たぶん、すぐに病院に連れて行けば助かるだろうよ。
 なぜ助けるかって? なぜって俺達は、今回の計画≠ナ無駄に人を殺す気は――」

 しかしその言葉は、
「てめぇッ!!!!」
「お?」
 今回の依頼の重要人物に、躊躇無く重傷を負わせた、
 謎の鬼仮面への怒りでいっぱいの龍斗の怒号に遮られた。

 ガギンッと、耳に深く突き刺さるような金属音がその場に響き渡る。
 不意打ちにも近い形で龍斗が仕掛けた逆刃刀による斬撃を、鬼仮面が瞬時に反応して受け止めたのだ。
 恐るべき反射神経である。憲司もこの反射神経のせいで不意打ちに失敗したのだろうか。
 とにかく怒り心頭の龍斗は、そこまで頭が回らず、ただただその場で鍔迫り合いを続けた。

「落ち着け青城!!」
 龍斗と同じく、怒りで顔を歪ませた巧壱が龍斗に呼びかける。
 怒る気持ちは解る。解るのだ。しかしここは冷静にならないと、勝てる戦いも勝てない。
 そんな思いを込めた声であったのだが、しかしそれは龍斗には届かない。

「へぇ、逆刃刀か。今どき不殺の誓いとは、なかなか見上げた精神じゃあないか、お前?」
 怒りの形相の龍斗を、挑発するような声で評価する鬼仮面。
 直後、龍斗の怒りの炎がさらに激しく燃え上がった。

「うるせぇ! それよりもテメェ、よくも俺達の目の前で人を!」
「勘違いしてもらっちゃ困る。あの男はまだ死んではいないし、そもそもあの男が先に攻撃してきたから、正当防衛だろう?」
「お前が! 俺達が捜していた、その子をさらおうとしているからだろうがッ!!」
 龍斗は、鬼仮面の左腕にて抱えられている小姫を見やった。
 見た感じ、小姫にこれといった怪我は見当たらなかった。
 みぞおちを打たれたりして、抵抗する間も無く一瞬で気絶したのだろう。

「とにかく、その子を返せ!」
 龍斗が右手を素早く、小姫を取り戻すために前へと伸ばす。
 だが一瞬遅く、鬼仮面はそのまま後ろに跳躍し、自分が侵入する際に割って入ってきた、
 2つある台所の窓の内の1つへと跳び乗った。
 着地の瞬間に少しよろけたが、すぐに体勢を立て直しつつ座り、再び言葉を紡ぐ。

「おっと、そうはいかない。俺達の計画≠ノゃ、この子が必要だから――」
「「させるか!」」
 だが鬼仮面が喋っている途中。龍斗の背後から、今度は巧壱と琉奈がバッと姿を現した。
 2人は同じタイミングで駆け出し、鬼仮面へと迫る。
 さらにはサークル形式チーム『Little-Bee』の回復要員である、看護士志望の白鳥美羽瑠も、
 巧壱と琉奈の不意打ちとタイミングを合わせ、憲司と輝へと駆け寄った。

「お?」
 鬼仮面が、間の抜けたような驚きの声を上げる。
 今度こそ不意打ちになるだろうと踏んだ巧壱と琉奈はそれぞれ、同士討ちを防ぐために敢えてタイミングをズラし、
 巧壱は天ヶ崎製合金仕込みの、黒紫色の革グローブをはめた拳を、そして琉奈はレイピアによる突きを鬼仮面へと放つ。
 拳は鬼仮面の胸に、そしてレイピアの切っ先は腹へと命中するかに思われた……のだが、

 その瞬間、鬼仮面はとっさに窓から飛び降り、2人の攻撃を避けた。
 鬼仮面が座っていた空間で、クロスするように拳とレイピアがニアミスする。

「なに!?」
「ウソだろ!?」
 2人は驚愕した。本気で、不意打ちが成功したと思ったのだ。
 しかしそれを、あの鬼仮面は余裕で避けた。
 黒沼泰波とはまた別の意味で、幽霊のような存在を相手取っているかのような、
 そんな気味の悪い錯覚を覚えるほど、鬼仮面の動きは軽やかで無駄が無い。

 窓から外へと降りた鬼仮面は、そのまま家の庭へと駆け出した。
 どうやら敷地の外へと逃げるつもりのようだ。
「待ちなさい!」
 遠距離攻撃可能な武器『ショート・ボウ』を所持している菅原優梨がとっさに動く。
 鬼仮面が進入する際に割っていない、無傷な方の窓を開け、顔と手を出し、
 敷地外へと走る鬼仮面の背後をショート・ボウで狙い、そのまま撃とうとした……だが、

「くっ!」
 引き金にかけた指がビタッと止まる。撃とうとした瞬間に、小姫の姿が目に映ったからである。
 目の前で人を傷付けられて、頭に血が上っていたせいで忘れていたが、相手は小姫を抱えているのだ。
 下手に撃って、間違って小姫に当たってしまう可能性を考慮し、咄嗟に撃つのを躊躇したのである。

「てめぇ!! 待ちやがれ!!」
 鬼仮面に余裕で逃げられ、プライドを傷付けられ激昂した龍斗は、
 その怒りに任せてすぐに玄関へと駆け出し、鬼仮面を追いかけた。
 靴を履かないでの疾走ではあるが、龍斗にとってそんなのは、些細な事であった。

「青城……くそ、勝手に行動するな!」
 巧壱が文句を言いながら、龍斗の後を追うべく窓枠へと跳び乗る。
「美羽瑠! 憲司さんの容態は!?」
 琉奈も窓枠へと向かいながら美羽瑠に訊ねる。

「今、シューイチ先生から貰った薬を飲ませたわ! これで傷が少しは塞がる!
 でも、出血が酷い……このままじゃ失血死しちゃう!」
 憲司が鬼仮面の袈裟斬りで重症を負うところを目撃し、一瞬だが冷静さを失って絶叫しかけたが、それを必死に抑え込むと、
 美羽瑠は憲司の服を脱がし、憲司の着ていたシャツで憲司の体を縛って止血しながら、憲司の怪我の状態を告げた。

「……輸血、もしくは造血剤が必要か」
 窓のすぐ外で琉奈を待っていた巧壱が、冷静に状況を判断する。
「造血剤は持ってきていないわ! ここまで事態が悪化するなんて、思わなかったもの!」
 美羽瑠が半分冷静さを失いながら答えた。

「分かった。美羽瑠、憲司さんの事を秀兄ぃに連絡してくれ。
『紅色の十字架(カーネリアン・クロス)』もこっちに向かっているハズだ。きっと造血剤も持っている。
 優梨、それまで美羽瑠たちの護衛を頼む。私は……巧壱と鬼仮面を追う」
 琉奈も冷静に状況を判断しつつ、その瞳に怒りの炎を宿しながら、巧壱と視線を交わす。
 巧壱の瞳にも、激しい怒りの炎が宿っていた。

「ええ、分かったわ」
 優梨はすぐに返事をすると、今も憲司に声をかけ続けている輝に駆け寄った。
「輝さん、憲司さんは大丈夫です! 私達が絶対助けます! だから、安心してください!」

「ケンちゃ……ねぇ、ケンちゃ……ん……」
 輝はまだ完全には冷静さを取り戻していない。
 経緯は不明だが、幼児退行しているせいもあるだろう。
 どちらにせよ、心身を癒すには時間が必要である。

「巧壱、早くあの鬼仮面を追おう」
「ああ!」
 巧壱の返事と共に、琉奈も窓枠に飛び乗ろうとした……だが、

 次の瞬間、琉奈は激しいめまいに襲われた。

「な、に……?」
 琉奈の身体が、その場で崩れ落ちる。

 そしてそのまま――琉奈は再び、謎の記憶の海の中へと堕ちて行った……。

     ※

「待ちやがれ、この野郎!」
 一方その頃、龍斗と鬼仮面の追走劇は未だに続いていた。
 2人共走る速度がほぼ同じだからである。
「ふん、お前のようなカタギの人間と遊んでいる暇は無いんだがな」
 おそらくは櫂が遭遇した忍者レイヤーと同じく、極道なのだと思われる発言をしたのだが、
 頭に血が上っている龍斗には届かない。

「ちっ、このままじゃ埒があかねぇ。そろそろ振り切りたいんだが……」
 そんな龍斗を面倒臭く感じ始めた鬼仮面が、なぜか右手を右耳に当てると、龍斗を撒く手段を思案し始めた。
 なぜ右耳を触れるのか。それが彼の癖なのだろうか? いや、十中八九違うだろう。
 おそらく右耳に仕込んである無線か何かで、仲間と連絡を取っているに違いない。

 そしてそれを証明するかのように、
「お、アレか♪」
 鬼仮面が、仮面越しで見えない顔をニヤリと歪ませながら、右耳から手を離した。
 おそらく、通信相手からなんらかの応答があったに違いない。

 果たして、答えを得た鬼仮面の視線の先にあったのは―――。

     ※

「!? ここは……製薬会社……か?」
 走り続けること、約30分。
 いい加減スタミナが切れかけ、その疲れのおかげでようやく冷静さを取り戻し始めた龍斗は、
 とある製薬会社の出入り口である門の前で立ち止まった。

『アズラック製薬』

 製薬会社で有名なこの日輪町を代表する製薬会社の内の1社……だった会社。
 何が原因かは未だに不明であるが、今やその会社は倒産し、廃墟と化していた。
 そしてそんなゴーストカンパニーに、先ほど鬼仮面が入って行ったのを、龍斗はしっかりと目撃した。

「このまま、巧壱達を待つか……? いや、このまま逃がしたら、2度とヤツを捕捉できない!」
 応援を待とうかと一瞬思った龍斗であったが、今までにも何度か似たような判断を下し、
 そのせいで目標を見失った事が何度もあった事を思い出し、再び駆け出した。

     ※

 いったい、どれくらい歩いただろうか。
 製薬会社の製造工場の中を、龍斗は周囲の気配を探りながら慎重に進んでいた。
 逢魔が刻はとっくに過ぎ、完全に闇の住人の時間帯となったので、工場の中はあまりよく見えない。
 かろうじて在った唯一の光源は、窓から入ってくる淡い月光のみである。

 しかし龍斗にはそれだけで充分だった。
 最初の依頼を経て、自分の長所と短所を、身を以って知り始めた龍斗である。
 あれから、いかなる状況下の戦いにも臨機応変に対処できるよう、暗所での修行も本格的に実施した。
 そして今では、例え完全な闇の中の、完全に気配を殺し周囲と一体となった敵でさえも、
 修行により、さらに研ぎ澄まされた空間把握能力だけで捕捉できるようになっていた。

 それでも、例え淡くても光源があるのは、龍斗にとっては嬉しかった。
 なぜならば、空間把握能力だけでは、物体の輪郭は把握できても、色などは把握できないため。
 しょせん人間というのは、視覚からの情報にほとんど支配された生き物なのである。

 窓から差し込む淡い月光が、工場の中に放置されている、様々な機材や実験器具を照らし出す。
 どれもこれも、龍斗が見た事のないものばかりである。
 手で触ってみると、埃と共に黒い油がついた。
 ――天ヶ崎研究所の実験スペースも、何ヶ月も放置すればこうなるかもな……。
 そんなくだらない事を一瞬思いながらも、それでも龍斗は先へと進む。

 するとさっそく、自分が現在居る部屋の隣の部屋から、ガタリッと物音がした。
 ヤツか……!?
 龍斗は身構え、そして気配を探る。
 だが気配を探るよりも前に――。

 カッ カッ カッ カッ

 ――なぜか靴音が聞こえてきた。

 思わず唖然とする龍斗。
 逃げる側であるはずの相手が、自分の位置を知らせるような間抜けな事をやらかしているのだ。
 唖然とせずにはいられない。
 迷い込んだ一般人か、とも思ったが、それは違うとすぐに分かった。

 な……なんて、殺気だ……。

 壁越しでも感じた。理解できた。
 相手が本気である事を。ただの一般人ではありえないほど鋭い殺気を放っている事を。
 そしてその殺気の向ける先は、おそらく自分である事を……。
 にしても、どうして殺気を消さずに放って……? 俺を誘っているのか?
 そうとしか思えなかった。

 先ほどの鍔迫り合いで、龍斗が素人ではない事くらいは、さすがに相手も理解したはず。
 さらに言えば、相手の口ぶりからして、謎の計画≠フ遂行のために、追跡者の存在は真っ先に消したいはず。
 ならばここは、一気にカタをつけるために、気配を消して暗殺しようとするのが得策であるハズだ。
 にも拘わらず殺気を放って誘っているのは、自分の実力にそうとう自信があるのか、
 はたまた他者の気配を察知する事ができないのか……………………もしくはただの馬鹿か。

 だがどれにしろ、龍斗の取るべき行動は、最初からたった1つだ。
 龍斗がそろそろと、慎重に、殺気が放たれる部屋へと続くドアを探り当てる。
 ドアノブを握ると、緊張のあまり、呼吸が乱れ、全身から発汗した。
 落ち着け、落ち着け俺……確かに相手は回避能力が高い、俺よりも格上の相手だ。けど、だからと言って――。

 呼吸が整うのと同時。バンッと勢いよく、龍斗はドアを開け放つ!

 ――あんな愉快犯な誘拐犯相手に尻尾巻いて逃げるなんて事、できるかよ!!

「!?」
 開け放つと同時に、真っ先に殺気を放った相手へと斬りかかる。
 しかし、相手は驚いたのか、すぐに殺気を引っ込めたものの、
 不意打ちで仕掛けた龍斗の斬撃を、瞬時に受け止めてみせた。
 ガガンッという音が、埃まみれの空間に響きわた――。

 な……なんだ、この手応え……それにこの音……刀じゃ、ない!?

 ――ったかに思えたが、手応えと同様に音もおかしかった。
 鬼仮面は羽佐間邸で、逆刃刀を持つ龍斗に刀で応戦をしたハズ。
 しかし聞こえてきた音は、金属音にあらず。
 どちらかと言えば、堅い木に鉄を打ち付けたような音である。

「おおっと、危ねぇ危ねぇ」
 いったいどういう事かと、龍斗が不思議がっている最中。
 疑問の対象である、相手の剣士の声が聞こえてきた。
「な……っ!? 誰だ、アンタ……?」
 鬼仮面とは違う、男の声であった。

「その声……チッ、人違いかここまで来て。まさかテメェ……アイツ≠フ舎弟か?」
「は!? てめぇナニ言ってんだ!?」
 男が龍斗の刃を受け止めながら、嬉しそうに感想を呟く。
 だが、龍斗にはなにがなんだかサッパリな台詞である。

「でもまぁいい。どっちにしろウチのお嬢≠ノついていろいろ喋ってくれそうだ」
 だけどそんな龍斗の質問を無視して、男がさらに言葉を連ねる。
 龍斗の混乱はピークに達しようとしていたが、これだけは解った。

 男は、なにがどうしてか自分に怒りを向けている事を……!!

「悪いが鍔迫り合っている時間はねぇ。お嬢が心配だから、ソッコーで片付けさせてもらうぜ」
「!?!?」
 男から、再び鋭い殺気が放たれる。
 とっさに龍斗は、男の傍からバックステップで離れた……その瞬間!!

 桜花流鞘術[おうかりゅうしょうじゅつ]奥義 覇断鞘[はだんしょう]

 男より、どこか厨二病チックな技が繰り出された。
 次の瞬間、龍斗は『なんだその技名?』などと考える間も無く――その場で逆刃刀を落とし、膝を突いた。
「……な、んだ……と……!?」
 気付いた時には、遅かった。
 男が、逆刃刀を受け止めた棒状の物を動かした時には、既に龍斗の身体に4発もの打撃が撃ち込まれていた。

 そして打撃ポイントに激痛が走ったのを龍斗が認識した瞬間、彼の全身からすっかり力が抜けていた。
 いったい男は、龍斗に何をしたのだろうか。
 なんにせよ、男は現在の龍斗の動体視力さえも凌駕する速度の斬撃を放てるのは確かである。
 すなわち、今の龍斗に為す術は……何も無かった。

 午後18時57分。
 青城龍斗、突如現れた謎の男の謎の奥義により戦闘不能。

 両肩と、両膝……それをほぼ一瞬で、木の棒で叩いた……!?
 しかしそんな絶望的な状況であるにも拘らず、今の龍斗の中では、絶望よりも困惑の方が強かった。
 なにせ、今までの敵とは明らかに戦闘方法も、ついでに言えばキャラも異なるのだ。
 困惑の度合いも桁違いであろう。

「さて、と。じゃあ質問……いや尋問と言った方がいいか。とにかく、だ……お前、ウチのお嬢≠どこに――」
 一瞬にして無力化された龍斗に、男が淡々とした口調で質問をしてきた。
 しかし龍斗には解っていた。男のその言葉の裏には、先ほどまでの龍斗以上の怒りが込められている事を。
 龍斗、本気で絶体絶命…………であったのだが、救いの手は意外な場所から差し出された。

「ちょ、待ってぇな! ソイツは俺の友達やがな!」
「……え? 新堂?」
 なぜか仲間の新堂櫂の声が聞こえ、そのワケを知るためすぐに声のした方へと振り向くと、
 そこには、龍斗が入ったドアとは違うドアがあった。
 さらに目を凝らすと、暗闇の中、2人の男に肩を借りて、なんとか歩いている櫂が目に映った。

「なに? さっきまでお嬢を助けようとしてくれた櫂のダチ……だと?
 じゃあ、さっきこの工場に入った、お嬢をさらった野郎はどこに行きやがった!?」
 櫂の姿を認め、なぜここでこんな形でしかも誰かも分からない相手が
 介入した状態で合流したのかについて龍斗が櫂に訊ねるどころか自分の力で考える間も無く、
 先ほどまで龍斗と戦っていた男が、困惑した声を埃っぽい空間に響かせた。

「兄貴、もしや俺達……櫂の仲間と鉢合わせして潰し合うよう、相手にハメられたんじゃ……?」
 櫂に肩を貸している、櫂から見て右側の男が、龍斗と戦っていた男に意見を言う。
 すると男は、先ほどまでと同じく鋭い殺気を放ちながら、
「クソッタレ! いったいどこのどいつだ!? お嬢をさらって行きやがった野郎は!?」
 工場内にて、さらに大声を張り上げた。

「兄貴、叫んでも何も変わりませんよ」
 そんな男を宥めようと、静かな声で1人の男が声をかけた、
 櫂に肩を貸している、櫂から見て左側の男の声だ。
「まずは櫂にしたように、コイツとも自己紹介をし合いましょうよ。
 もしかすると、お嬢をさらった連中の特徴を覚えているかもしれませんよ?」

「……確かに、そうだな」
 男は、櫂の左側に立つ男の言う事にも一理あると判断したのか、
 すぐに怒りを抑えると、一歩、龍斗の前へと踏み出してきた。
 淡い月光が男の姿を照らす。
 右目に縦長の疵がある事を除けば、男はワイルド系イケメンのカテゴリに入るであろうビジュアルをしていた。

「始めましてだな、青年。俺は西エリア所属の極道一家『鹿児島組』若者頭をやっている、東郷幹也だ」

 容姿の通り、一筋縄ではいかない相手であった……。
 


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