小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第6回 蜜蜂と極道とD
 
 午後17時35分。
 ようやく新堂櫂は大津駅へと到着した。
 途中の駅で出会い、滋賀州へと辿り着くまでに、
 お互いに自己紹介を済ませた翠色の瞳の少女――日向姫花と共に。

「……はぁぁぁ〜〜〜〜…………」
 着くや否や、深い深い溜め息を吐く櫂。
 だがそれも当然であろう。

 龍斗をロリコン′トばわりしてからかった手前……。
 今、龍斗と会うたら、絶対逆にロリコン呼ばわりされるわぁ〜〜……どないしよ?

 しかしそんな櫂の心境など露知らず。姫花は無邪気に微笑みながら、櫂に訊ねる。
「ネェネェお兄ちゃん。いったいそのお友達はどこにいるの?」
「……あ、そういや移動中連絡してへんな。またメールせんと――」

「お兄ちゃん、今の笑いどころなのに」
「は?」
 姫花の謎発言に、困惑する櫂。
 姫花はそんな事お構い無しに、告げた。

「ネェネェお兄ちゃん、って言ったんだよ? 『姉ぇ姉ぇお兄ちゃん』って。姉なのに、お兄ちゃん……ぷっ、キャハハハッ! 笑っていいんだよ?」

「気付くかっ! つうか嬢ちゃんの笑いのツボがイマイチ分からへんわっ!」
「え、これに笑わないなんて……どんだけぇ〜〜? マジワロスwww」
「古っ! 100年以上前の流行語とネットスラングやと!? もう死語やん!?」
「そういうお兄ちゃんも、今主流の標準語じゃなくて、もはや古語と言ってもいい関西弁じゃん。お互い様じゃない」
「古語やないわっ! まだ一部地域では使われとるわっ!
 つーか俺の関西弁は俺のキャラを形作る重要な個性や! アイデンティティや!」

 出会ってから今まで、ずっとこの調子でコントを繰り広げている2人である。
 ちなみにこの場で1番の重要事項である、姫花の素性についてだが、
 櫂が電車内で訊ねたところ――なんという偶然であろうか。
 姫花の出身地は、櫂の目的地である、ここ滋賀州であるという。
 だが昨日、些細な事で親と喧嘩し、今日電車に乗って家出したらしい。
 そして家出中に、先ほど櫂と出会って今に至っているのである。

 ちなみに櫂と共に、結果的に滋賀州に戻った理由についてだが、
『本当は戻りたくないけど、私のソフトクリームの対価は安くないから……お兄ちゃん意外とイケメンだし、
 対価分、デートなりなんなりしてもらって私を楽しませてほしいわ。でも仕事があるなら、仕事が終わるまで待つからね』
 という、なんとも強情な理由であった。

「つうか家出って……さっきも言うたけど、親御さん心配してるやろ。もうそろそろ帰ったらどうや?」
「いやよ」
 頬を膨らませ、プイッとそっぽを向き、姫花は櫂の提案を却下した。
 そんな不意打ち気味に可愛らしい一面を見せた姫花に対し、櫂は口角を吊り上げて苦笑するしかなかった。

 櫂自身としては、もしかすると自分達の捜している少女かもしれない姫花が、
 自分達と一緒に天ヶ崎研究所に行ってもらうにあたり、親が近くにいないのはむしろ好都合である。
 だが今回の依頼内容はあくまで、親の許可を取った上での、捜索対象の少女の保護である。
 故に一緒に行こうにも、まずは姫花と親御さんを仲直りさせねばならないのだ。

 まぁそれ以前に、勝手に天ヶ崎研究所に連れ帰ったらそれこそロリコン変態≠竄なぁ。

 そんな社会的に抹殺されかねない称号を得たくはない櫂は、再び姫花を説得すべく、口を開こうとした……その時であった。
 ……尾けられとる……?
 大津駅から出た直後は感じなかった気配が、今現在、背後に3つ。
 いや、正確にはそれはただの気配ではなく……殺気。
 嬢ちゃん狙っとる、他の研究所の刺客か何かやろうか……ここで戦ってもええが、
 相手の得物が何か分からん以上、下手に先制攻撃できへんな。

 今までの戦いを振り返り、頭の中でそう結論付けた櫂。
『Little-Bee』が今まで、天ヶ崎研究所の依頼で動く時、九割以上の確率で戦闘が勃発していた。
 そしてその数々の戦闘の中で、櫂は回を重ねるごとに、より鋭い戦略眼を身に付けてきた。

『Little-Bee』結成当初は、それこそ自分の力を過信し、それを逆手に取られ、
 惨敗する事も少なくなかったが……今は違う。
 今の彼は、初依頼の時に琉奈が認めたように、『Little-Bee』のリーダーに相応しい才覚を発揮し始めている。
 よほどの強敵でない限り、負けは無い。

 ほんなら、さりげな〜く角曲がって、横から相手の顔を見てみよか。
 即判断を下し、なるべく自然な感じを装い、姫花と共に次の角を右へと曲がる。
 すると今度は、角を曲がってすぐ見つけた狭い路地裏に、素早く姫花と共に滑り込んだ。
 無論、とっさに状況を把握できずに混乱し、暴れようとした姫花の口を両手で塞ぐのも忘れない。
 なんだか本当にロリコン変態≠フようである。

「(ちょお、おとなしくしてぇな。嬢ちゃん狙うとる連中が俺らを尾けとったさかい)」
 櫂の足をかかとで踏んづけて抵抗してくる姫花に、櫂は痛みで顔を歪ませながらも小声で告げた。
 姫花は一瞬ギョッとしたが、すぐにおとなしくなった。
 追っ手が居なかった場合、シチュエーションがガチでロリコン変態♀ヨ連のアダルティ作品のそれである。

 それはともかく、櫂たちが隠れた直後、櫂たちを追っていたと思われる3人の人物が、
ついに櫂たちの隠れている裏路地を横切った。
 3人のうち2人は男性、1人は女性という構成だった。
 3人共まだ若く、見た感じ、櫂とほぼ同年代のように見えた。服装についても、今時の若者と何も変わらない。
 これだけの情報だと、櫂たちのような大学生のサークルなどの集団であるかのように思えなくはないだろうが、
 先ほども申した通り、3人とも凄まじい殺気≠放っていた。

 しかも、明らかに一般人の放つそれではない。

 なんらかの厳しい訓練によって会得した、火山爆発のように凄まじい精神を、
 鋭利な刃物のように洗練させて放つタイプの殺気=B
 これまでにも櫂、いや『Little-Bee』が受けてきたのと同じ、その道のプロが放つ殺気≠ナある。

 いったい何を殺す気なんや……いや俺らか。
 もしも隠れずに、そのまま戦闘に入っていた場合の事を、櫂はふと想像する。
 多勢に無勢である故に、ほんの数分で、自分が戦闘不能に陥るほどの深手を負うヴィジョンが脳裏によぎった。
 その事にゾッとして、思わず冷や汗をかきながらも、櫂は自身の緊張を和らげるため、敵についていろいろ考えた。

 そうでもしなければ、このまま思考停止して反応が鈍り、
 敵が攻撃してきた場合にくらわせる、カウンターの機会を逃しそうな気がしたのだ。
 それだけ相手は高圧的なのである。
 ……って、いやいやいや! 得物を確認せなっ!
 敵について逡巡すること数秒。
 敵の殺気に気圧されていたせいですっかり忘れていた、敵の得物の確認について、櫂はハッと思い出す。

 だが時すでに遅し。すでに3人は路地裏の、限定された視界からは消えていた。
 櫂は少々慌てながらも、物音を立てぬよう慎重に路地裏から顔を出した。
 このまま得物を確認しないで逃げ回ればいいかもしれないが、
 もし再び、あの3人と鉢合わせしてしまった場合を考えると、今の内に得物を確認し、
 対処法を考えておいた方が、勝率が高いだろう、と判断したのだ。
 しかし既に3人の姿は、先ほど櫂と姫花が歩いていた道路からも消えていた。

「あちゃー、逃がしてしもぅた」
 姫花の口から両手を離しながら、櫂は落胆した。
「これからの事を考えたら、今の内に敵の情報集めとかんとアカンやろーに。
 つーか康士さんと翔哉さんから、まだ敵の情報がないんか!?」
 康士と翔哉とは、『Little-Bee』をサポートするために結成された
 社会人チーム『紅色の十字架(カーネリアン・クロス)』の構成員でもある探偵である。
 だが、現在ではいろんな人が、人助けを目的とした様々な依頼をしてくるため『何でも屋』と化しているが。

「???? 敵≠ェいるんなら、あまり大声で喋らない方がいいんじゃないの?」
 姫花がチンプンカンプンだと言わんばかりの顔でごもっともな指摘をしてきた。
「グッ、確かにそうやな……って嬢ちゃん、なんか他人事な感じやな。
 嬢ちゃんが狙われとるんやで? じょ・う・ちゃ・ん・が!」
 とそこで、櫂はふと気付いた。

 そ……そういえば、さっき俺は嬢ちゃんに、嬢ちゃんを狙っとる輩がおる事を伝えたよな。
 にも拘わらず……なんで嬢ちゃんはその事すぐに理解してるんや?

 そう。普通であれば、人は自分が狙われていると指摘されても、無条件で信じたりはしない。
 必ず事の真偽が解るまで、指摘した相手を疑うはずなのだ。
 しかし姫花の場合は違った。彼女は路地裏に隠れた直後の、櫂の言葉を信じておとなしくなった。
 姫花があまりにも自然な対応をしていたために今まで気付かなかったが、
 櫂は、姫花と共に路地裏へと隠れるまでに、姫花に敵≠フ存在を伝えていない。

 という事は、すなわち――。

 まさか嬢ちゃんは……自分が狙われとる理由を知っとるんか??

 櫂がハッとした顔で、姫花を見やる。
 姫花は小首を可愛げに傾げた。
 それで騙される俺やないで!?
 櫂はすぐさま、姫花に狙われる理由を訊ねようとした。
 だが、次の瞬間。

「やっと見つけたでゴザルぜ、ヒメ様?」

 櫂と姫花の真上から、どこか和らげな男の声が降ってきた。
 突然の事に、ハッとした顔で、瞬時に声のした方向へと振り向く2人。
 同時に、2人の目の前に、1人の男が降ってきた。

 男は黒尽くめの忍者装束をしていた。
 ただのコスプレイヤーだったのならばいいのだが、
 男から放たれる殺気、そして上空――おそらく近くの建物の屋上から飛び降りる、
 という無茶スタントをしたところからして、間違いなく一般人ではあるまい。

 櫂はとっさに姫花の前に立ち塞がり、己の得物である改造モデルガンを手にとった――のだが、

 グキィッ

 という、なんとも間抜けな音が聞こえたため、相手に銃口を向けた瞬間にズッコケそうになった。
「……………へっ?」
 見れば、目の前に落ちてきた忍者装束の男が、右足首を両手で押さえながら呻いていた。
「い……いいいいいいいいいってぇぇぇぇぇぇーーーーーッッッ!!!!」
 痛がっている事からも分かるだろうが、どうやら骨折、よくても捻挫をしたようだ。

「……あ……アホちゃうか兄ちゃん?」
 敵だと思われる男のあまりにも酷いアホっぷりに、唖然とするしかない櫂。
「ふ、フゥーハッハッハッ! し、心配ご無用! イテテ。
 拙者は整骨・接骨技術を習得している故、っつぅ! こんなもの、数秒で治せるでゴザルぜ!」
 言うと、忍者コスプレイヤーは数回深呼吸をすると、両手に力を入れ「フンガッ」と叫んだ。
 すると手に持った右足首が「コキィ」という小気味良い音を立て……。

 なんという事でしょう……立って歩けるようになったではありませんか!

「ンなアホな!?」
 柔道の技の中に相手の間接を外したりくっつけたりする技があったりするが、
 忍者レイヤーの手際はまさにそれに酷似したモノであった。
 それを目撃した櫂は、ただただ目を丸くするしかない。
 いや下手すると、『紅色の十字架』所属の医師である秀一や和久、悠、看護士の玲も目を丸くするかもしれない。

「フゥーハッハッハッ! どうでゴザルか拙者の絶技は!? 貴様には到底真似できまい!?」
「くぅぅ……俺の負けや!」
 ガックリと地面に膝と両手を突く櫂。
「っていやいやいや、私を守るんじゃなかったのお兄ちゃん!?」
「ハッ! せやった!」
「なんで忘れるかなぁ!?」
 姫花の指摘によって、ようやく現実に戻った櫂は再び銃口を忍者レイヤーに向けた。

「兄ちゃん、嬢ちゃんを狙っとる研究所の刺客かいな?」
「……だったらどうするでゴザルか?」
 忍者レイヤーを睨みつけながら、櫂は問うた。
 忍者レイヤーは余裕の笑みを浮かべながら、櫂の質問を質問で返した。
「決まっとるやろ? 嬢ちゃんは渡さへん。どうしても奪うって言うんやったら、ケガする事になるで?」

「なるほどねぇ。ケガしちゃうか〜〜……カタギだからって手ぇ出さんと思うとったら大間違いだぞ、小僧」
「か、カタギ……って、まさかお前は……っ!?」
 次の瞬間、先ほどまでのゆる〜い雰囲気はどこへやら。
 忍者レイヤーから、低く太い声と共に、櫂たちの前に落下してきた時のような殺気≠ェ再び放たれた。

 櫂をカタギ呼ばわりする事からも分かる通り、忍者レイヤーは、驚くべき事に極道≠ネのである。
 忍者レイヤーに、自分を極道だと明かされたせいもあり、櫂は思わず後ずさりした。
 今まで様々な敵と戦ってきたが、極道は今回初めてなのだ。動揺するのも無理あるまい。

 未知の勢力――極道。
『Little-Bee』がこれからも活動するならば、いずれはぶつかる事も充分考えられた組織である。

 けれど、なぜだろうか。
「極道、やと?」
 そんな未知の敵を前に、緊張感が高まり心臓がバクバクといつも以上に高速で血液を全身に送り出し冷や汗が出る。
 にも拘わらず、櫂は不適に笑っていた。

「こちとらいろんな敵とぶつかってきたんや」
 そう。櫂は今までに、様々な敵と戦ってきたのだ。
 武装した大人。改造人間。警備ロボット。
 さらには常識では理解できない力を持つ異能力者とも、だ。

 そんな櫂が――。

「極道相手に遅れをとる……俺やないで!?」

 ――極道に負ける道理がどこにあろうか。

 櫂は一瞬も躊躇せず、忍者レイヤーに向けた改造モデルガンのトリガーを引いた。
 同時に忍者レイヤーが、改造モデルガンから撃ち出された麻酔針を避けるために地面に屈み、
 そのままクラウチングスタートの体勢をとり――麻酔針が頭をかすりながらも、
 恐れずに櫂に向かって駆け出した。

「!!?」
 まさか、麻酔針を避けられるとは思わなかった櫂。
 しかしこれまでにも1度か2度、発射直後に避けられた事があるにはあるので、慌てはしない。
 すぐに気持ちと作戦を切り替えると、姫花を左腕で抱きかかえ、後ろへと跳躍。
 櫂の立っていた場所に、一瞬だが銀色の閃光が横切った。どうやら相手の得物である忍者刀のようだ。

 現在、時刻は午後17時52分。
 もうすでに暗くなり始めた時間帯ではあるが、奇跡的にわずかな光を反射して一瞬だけ光ったのだ。
 おかげで何とか凶刃を避けられた。櫂はさらに冷や汗をかいた。
「判断が早いな。極道に遅れをとらないというだけはある。だが、これが防げるか!?」
 忍者レイヤーが何かを投げつけてくる。
 暗いのでよくは見えないが、櫂はすぐに投擲武器だと判断した。

 瞬時に、暗闇の中でおぼろげながらも捉えた影――おそらく手裏剣を、
 改造モデルガンより射出させた麻酔針で弾き軌道を逸らす。
 闇夜に染まりつつある街の中、金属音が嫌というほど響いた。
 まだ金属音が響く中、忍者レイヤーがササササッと、まるで、台所を主に拠点としている、
 あの黒い凶悪生物G≠フように俊敏に動き、櫂との距離を詰める。

「ちぃっ!」
 櫂はなんとか慣れてきた夜目の恩恵もあり、瞬時に忍者レイヤーの動きに反応し、
 改造モデルガンでその刃を受け止めた。
 再び金属音が周囲に響き渡る。ギリギリギリと、両者の、前へと押し出す力が拮抗する。

 鍔迫り合い(櫂のモデルガンに鍔など無いが)となる中、忍者レイヤーが、
 忍者刀からわざと右手を離し、それを櫂の方へと伸ばしてくる。
 櫂が抱えている姫花を掴もうとしているのだ。

「ひぃっ!?」
 間近で戦闘を目撃し、悲鳴を上げる姫花。
 なんだかんだ言っても、姫花はまだ小学生なのだ。
 殺し合いにも発展しかねない戦闘は教育上よろしくないだろう。
「!? 嬢ちゃん!?」
 自分がそんな状況に姫花を巻き込んでしまった事に責任を感じた櫂は、
 姫花の身を案じ、一瞬、気が逸れてしまう。

「優しいでゴザルなぁ、君は」
 フッと、忍者レイヤーが微笑んだ。
 そして次の瞬間、
「だけどギリギリの戦いの中で、余所見はいけないでゴザルなぁ!」
 再び真顔になった忍者レイヤーが、気が逸れて力が緩んでしまった櫂の胸に、
 そのまま右手の掌底を命中させ、思い切り突き飛ばす。

「がはぁっ!?」
「きゃああ!」
 バランスが崩れ、そのまま地面に倒れる2人。
 そしてその隙を――忍者レイヤーは見逃しはしない!

「これで、終わりでゴザル!」
「!!?」
 忍者レイヤーは瞬時に櫂の背後へと回り込んだ。
 櫂は後ろを向こうとしたが、胸を強打されて受けたダメージのせいか、
 身体が思うように動かなくなっていた。

 そして次の瞬間。櫂は、首筋で何かチクッとした痛みを覚え――そのまま気絶した。

 午後17時59分。
 新堂櫂、重要人物である日向姫花を庇いながら戦っていたが故に敗北。
 


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 573