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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第5回 蜜蜂と極道とC
 
 その後。10分近い時間をかけて、ようやく羽佐間は落ち着きを取り戻した。
 そして落ち着いたついでに、巧壱達は家にお邪魔する事にした。
 羽佐間の絶叫による、周囲の家の反応が気になったからだ。
 ちなみに家の中には、小姫は居なかった。学校に行っているのだろうか。

「ええと……今の時点では、可能性がある、というだけなのでまず心配は要りません。
 それよりも、小姫ちゃんが狙われる原因に、心当たりはありませんか?
 その原因を取り除けば、もしかすると誘拐されずに済むかもしれません」

 家の居間にて、巧壱は改めて羽佐間に訊ねた。
 天ヶ崎研究所からの依頼の完遂は先延ばしになるだろうが、
 先延ばしにしてでも、今は羽佐間さんの精神を安定させねばならない、と判断したのだ。

 学校からの帰りに誘拐される可能性もあるが、最近の物騒な日本国の治安を考慮し、
 日本国ほぼ全ての小中学校が、武装した教師付きの集団登下校をほぼ毎日実施しているため、心配は無用だろう。
 羽佐間は、まだちょっと涙が出そうな顔をしているが、素直に巧壱の質問に答えた。

「……ゴメンなさい、私には分からないわぁ」
「そう、ですか」
 巧壱達は落胆した。しかしその直後、羽佐間は言った。

「でもぉ、ケンちゃんなら分かるかもしれない〜〜」
「ケンちゃん?」
 巧壱と龍斗は怪訝な顔をしたが、琉奈達女子組は「あ」と閃き、
「もしかして、旦那様ですか?」
 琉奈が代表で訊ねた。

「うん、そうなの! ケンちゃんはねぇ、なんでも知ってるんだよぉ」
 羽佐間は得意気に、手で涙を拭いながら答えた。
「で、では……旦那さんが帰ってくるまで、お邪魔していてよろしいですか?」
「うん、いいよぉ」
 羽佐間は警戒する事無く許可を出した。
 その様子を見て、巧壱達はなぜか、嫌な予感しかしなかった……。

     ※

「なぁ美羽瑠、羽佐間さんって……その……幼児退行、というヤツをしているのか?」
 羽佐間がお茶とお茶菓子を用意する間、琉奈は羽佐間に聞こえないよう、
 細心の注意を払いながら、医学に詳しい美羽瑠に訊ねた。
 美羽瑠は「う〜ん」と、神妙な面持ちで悩みながら答えた。

「私よりも、サァヤが所属してる『チーム・ハートフル』のみんなの方が、こういうのに詳しいと思うけど……。
 私が診るに、確かに幼児退行しているわ。原因は……羽佐間さんが、知的障害を持っているから……かもしれない」
 普段はテンションが高い美羽瑠でさえも、テンションを抑えながら。
「実際どうなのか、今は全く分からないけど……とりあえず、羽佐間さんの旦那さんを待つしかないと思う」

「そうね。これ以上、私達のような……いろんな世界≠ノ足を踏み入れてきた人が関わったら、
 羽佐間さんの家庭にどんな影響を与えるか、分からないものね」
「下手をすれば、またさっきみたいになるかもしれねぇしな」
 優梨と龍斗も、神妙な顔付きで答えた。

 とそこへ、ようやく羽佐間が戻ってきた。
「はぁい、お待ちどうさまぁ」
 出てきたのは、ほうじ茶と羊羹だった。巧壱達はありがたく頂いた。

 だが食べようとしたその瞬間、巧壱は、自分達が自己紹介をしていない事にようやく気付いた。
 例えどんな人が相手でも、自己紹介をしないのは失礼になるので、
 巧壱は改めて、まずは自分から自己紹介をした。

「あ、申し遅れました。俺……私の名前は須桜巧壱といいます。聖華門学院大学に通う学生です」
「あ、これはどうもご丁寧に〜。私の名前は羽佐間輝(ひかる)といいますぅ」
 羽佐間輝は正座して、自己紹介をしつつ少し頭を下げた。
 なぜだか巧壱達は申し訳なく思った。
 だが自己紹介を途切れさせるわけにはいかないので、巧壱に続いて、琉奈達も自己紹介をした。

「私の名前は風深琉奈という。巧壱と同じ大学に通っている」
 子供っぽい相手に古風な自己紹介。なんだかチグハグな組み合わせである。
「……私の名前は青城龍斗。巧壱と風深と同じ大学に通ってる」
 龍斗は巧壱に倣って一人称を変えたが、相変わらず無愛想だったので威圧感は変わらなかった。
「私の名前は白鳥美羽瑠! 聖マリア医科大学に通ってます!」
 美羽瑠は、なんだかさらに空気が重くなる予感がしたので、
 いつも通りのテンションを無理やり取り戻し、自己紹介をした。
「私の名前は菅原優梨です。耀星館学院大学に通っています」
 そして優梨は安定の、丁寧な自己紹介であった。

「コーちゃんにルーちゃんに、リューくんにミーちゃんにユーちゃん……。うん、覚えた!」
 みんなの自己紹介を聞き終え、輝はご満悦な表情になった。
「ところで、小姫ちゃんと旦那さんは、いつ帰ってくるんですか?」
 特に話す内容が無かったため、優梨はとりあえず輝にそう質問をした。

「う〜〜んとね……小姫ちゃんはぁ、5時には帰ってきてぇ、それでケンちゃんはねぇ、6時には帰ってくるよぉ」
「ご主人はどんなお仕事をしていらっしゃるんですか? やっぱり製薬会社にお勤めとか?」
「オクスリはねぇ、この町じゃもう作ってないんだぁ」
「え?」
 その答えに、優梨だけでなく、その場に居る全員が驚いた。

「えっと、この町って……医薬品産業が盛んな町だったんじゃ……?」
 巧壱がわずかに目を見開きながら質問した。輝は「う〜ん」と悩むと、
「よく知らないけどぉ、この町のオクスリ作ってる会社、みぃんな無くなっちゃったんだよぉ」
 どう質問しても、輝からはちゃんとした答えは得られそうにないだろう。

 巧壱達はその答えを保留にし、とにかく会話を途切れさせて空気を重くしたくないので、
 頭をフル回転させて話題を探し、輝と会話をし続けた。
 だが案外、話し始めればポンポンと話題は出てくるモノで、気が付けば小姫が帰ってくる時間になっていた。
 いや正確には、小姫が帰ってきて初めて小姫の帰宅時間だという事に巧壱達は気付いた。

「ただいま、ママー!」
 なんとも心和むアニメ声が、玄関から聞こえてきた。
 そんなアニメ声にも負けない甘い声で、輝はすぐに「おかえりぃー!」と笑顔で返事を返した。
 なんだかこうして聴いてみると、2人は友達のようだと巧壱達は思った。
 と同時に、ようやく小姫が居間に姿を見せた。

 蒼色の瞳をした、町長から貰った写真に写っている少女。
 そして、琉奈が謎の記憶映像の中で見た少女に非常によく似た少女である。
 記憶映像の中に出てきた少女と容姿が似ている少女の登場に、さすがの琉奈も驚きを隠せなかった。
 ほんのわずかに、琉奈の表情筋が緊張したのが巧壱には見て取れた。

 だが例え似ていても、別人である可能性がある限り疑い続けなければいけない。
 なぜならば、琉奈の視た記憶映像が、この街にとっては過去の出来事、
 すなわち少女が出て来たという記憶映像が、写真の中の少女が日輪町を去る前の出来事である可能性も捨てきれないからだ。
 故に巧壱達は、より正確な答えを得るべく、家族全員が揃ってから質問をするために、
 わざわざ輝さんに、日輪川ダム湖についてを、敢えて今も訊ねていないのだ。

「ママー、この人達だぁれ?」
 そんな緊張した状況の中。小姫は母親に笑顔で質問をした。
「小姫ちゃん、この子達はねぇ、小姫ちゃんを守るために来てくれたんだよぉ」
「守る?」
 10歳前後の少女の顔は、一瞬にして笑顔から怪訝な顔になった。
 当たり前であろう。何も説明無しにいろいろすっ飛ばしてそう紹介されたのだから。

「でもねぇ、小姫ちゃんが狙われる理由が分からないからぁ、ケンちゃんが帰ってくるのを待ってるんだぁ」
「はぁ?」
 説明無しの更なる紹介。小姫の混乱はピークに達した。
「ちょっと、輝さんは少し静かにしていていただけますか?」
 見かねに見かねたので、巧壱が説明を買って出た。
 と言っても、輝さんにもした紹介をもう1度するだけであるが。

「――というわけなんだ。解ってくれたかい?」
「……お兄ちゃん達がその、私を狙う研究者じゃないって証拠は?」
 案の定、ごもっともな質問を返された。
「もしそうなら、この瞬間にお前をさらってると思うが?」
 龍斗が面倒臭そうに言った。そんな龍斗を見て、小姫はビクッと身体を震わせた。
 どう見繕っても、龍斗みたいな体格と威圧感の持ち主は、小学生には脅威に見えるようだ。

「ちょっとリュート、怖がってるじゃないの!」
「そうよ、相手は小学生の女の子なのよ。もう少し考えなさいよ」
 とっさに美羽瑠と優梨が、小姫を守るように抱き付き、龍斗に意見をした。
 龍斗はチッと舌打ちした。

「ごめんなさいね、あのおっかないお兄ちゃんは青城龍斗っていうんだけど、普段からああなの」
 優梨が小姫に言った。龍斗は優梨を睨み付けた。
「お姉ちゃん、なんだか私と似てるね」
 しかし小姫の関心は優梨に移っていた!
「あら? そういえばユーちゃんって、小姫ちゃんと似てるわねぇ」
 そして輝は今さら気付いた!
 巧壱達はガクッとズッコケそうになった。

「まぁとにかく」
 そんな中、琉奈が一足先に体勢を立て直し、小姫に言った。
「私達に敵意は無い。とりあえず君のお父さんの意見を聞くために、私達はここに居るんだ」
 小姫は琉奈をしばらくの間見つめていたが、何を思ったのか「うん」と頷いた。

     ※

 巧壱達への警戒心がようやく解けたのか、会話は小姫も加わってさらに盛り上がった。
 大学の事、自分達が今まで関わった事件をいろいろ端折りながら巧壱達が話すと、
 小姫も学校での事、友達との事、この町が閑散としていく原因についての考察、
 などの、小学生とするものとは思えない会話も交えて、話は1時間にも及んだ。

「そろそろケンちゃんが帰ってくる時間だぁ」
 ふと時計に視線を向け、ようやく1時間が経った事を知った輝が、慌てて台所へと入って行く。
「あ、手伝います!」
「話に付き合せたのはこっちだからな。私も手伝おう」
「私も手伝います」
 琉奈達女子組は責任を感じて、一緒に台所に入った。
 巧壱と龍斗も手伝おうと思ったが、スペースが足りなかった。
 よって男性組が必然的に小姫の相手をする事になってしまった。

 巧壱と龍斗が、小姫と対峙する。

 ――なんだか重苦しい雰囲気となった。

 3人共その場から逃げ出したくなった。

 だがちょうどその時であった。
「ただいまー! 今帰ったよー」
 玄関から男性の声が聞こえてきた。旦那さんのケンちゃんであろうか。
 重苦しい雰囲気に限界を感じた小姫が、すぐに玄関に向かった。

「パパおかえりー!」
「おお小姫、いい子にしてたかー?」
 丸縁眼鏡が特徴的な、30代前半くらいの細身の成年ことケンちゃんは、
 その場で小姫の腰を掴み、高い高いをしようとしたが……腰に限界を覚えて断念した。

「あのねパパ、今お客さんが来てるんだ」
 ケンちゃんが手を放すのと同時に、小姫は言った。
「お客さん? 誰だい?」
「えっとね、天ヶ崎研究所の使いの人だって」
「天ヶ、崎……だと?」
 次の瞬間。ケンちゃんの顔が驚きに染まった。

 ――いったいどうしたんだろう。

 小姫は疑問に思ったが、父親の反応からして尋常じゃない何かを感じ取ったのだろう。
「いいかい小姫、パパは今から、彼らとしなくちゃいけない話がある。
 とてもとても重要で、秘密のお話なんだ。だから、ママの手伝いをしててくれるかい?」
「う、うん……分かった……」
 小姫は素直に従い、台所へと向かった。

 とてもとても、両親想いの良い子であった。

     ※

 巧壱達は、ケンちゃんとやらに自室に通された。
 ケンちゃんの自室は、古今東西様々な本が陳列された、いくつもの本棚が並んだ部屋であった。
 もしかすると実際の部屋の広さは、タタミ十畳はあるのではないかと思わせるほどの本棚の数だ。
 ちなみに本棚は、本屋や図書館のように等間隔に並べられているものだから、歩けるスペースが非常に狭い。

 そんな部屋の中を1列に並びながら進み、不可抗力にも異性同士が変なトコを触っちまう事態も発生してしまったが、
 それを乗り越えなんとか巧壱達は、かろうじて全員が集合できるスペースがある、
 ケンちゃんの机が置かれた、部屋の奥の方へと到着する事ができた。
 なんだか非常に長いようで短い時間の移動であった。

「いやスマンね。ニイさんの影響で、僕もいろんな事を学習するのが好きになってね。
 世界中のいろんな本をコレクションしたら、こんなになってしまったんだ」
 ケンちゃんが歩きながらそんな説明をしてくれた事を、巧壱達は思い出す。

 なんともハタ迷惑なコレクションの収納法であろうか。

 巧壱達は同時にそんな事を思った。
 だがある意味ケンちゃんの容姿からしてピッタリな趣味とも言えた。
「さてみんな、はぐれずに来れたかい?」
 そう言いながら、ケンちゃんは巧壱達に座布団を差し出した。

「はぐれる心配があるなら、本棚をこんな配置にするな」
 ケンちゃんが差し出した座布団に座りつつ、龍斗がケンちゃんを睨み付けた。
「まあまあ落ち着いてくれ。こんな配置にしたのには理由があるんだ」
「理由?」
 琉奈は座布団に座りながら小首を傾げた。

「この世界にある面白い本が、あまりにも多過ぎるからだ」

 全員その場でズッコケた。

「それに、もしもの時にちゃんと動けるようになる仕掛け≠烽るから大丈夫さ」
「……どういう事だ?」
 明らかに含みを持たせた台詞だった。気になったので、巧壱は体勢を整えながら静かに訊ねた。
 だがケンちゃんはニコニコと笑いながら、話を切り替えるように本題に入った。

「まずは……はじめまして、だね。僕の名前は羽佐間憲司。妻にはケンちゃんって呼ばれてる」
 知ってるよ、などとは巧壱達は言わなかった。話が進まないから敢えて言わなかった。
「君達……というか、君達のように、小姫を保護しようとする人達が来る事は分かっていた。
 ニイさん……輝のお兄さんの方の、義兄さんね。その義兄さんから聞いていたから」

「お義兄さん?」
 美羽瑠が反芻した。
「土屋大地っていう、君達のバックに付いている博士の友達だった人だよ」
「天ヶ崎博士の、友達?」
「どっちの天ヶ崎博士だ?」
 美羽瑠と龍斗が疑問に思った。

 だが一方で、

 つ、土屋大地……だと?

 と琉奈は心の中で驚愕していた。
 自分のルーツを知るために渡英した時、
 自分に話しかけてきた死者と同じ名前なのだから、仕方ないだろう。

 同姓同名の別人? だが、こんな珍しい名前だ……同一人物の可能性も……?

 驚愕のあまり、憲司の説明そっちのけで勝手に名前の推察を始める琉奈。
「ああ、たぶん甥っ子の方だよ」
 そんな琉奈の心境に気付かない憲司が、龍斗達の質問にそう答えた。
 なんともいい加減な返答であろうか。

「それで……宇宙博士の友達の土屋大地さんという人は、どうして俺達が来る事を知っていたんですか?
 それでそれは、貴方の娘さんの小姫ちゃんと、どう関係があるんですか?」
 コレクションである本を、後先考えずに陳列したり、
 義理の兄の友人関係を把握していなかったりするような人である。
 もしかするとこれからする説明も、なんともいい加減なモノになる可能性があるため、
 巧壱は憲司が答えるべき質問のみを絞り、まくしたてるように訊ねた。

 すると憲司は、急に暗い表情を浮かべた。
 自分から自然に話したかったのか。それとも、できる事ならば絶対に言いたくはなかった事なのか。
 巧壱は『しまった?』とふと思った。昔から自覚の無い原因でひんしゅくを買う巧壱である。
 知らず知らずの内に、またしても他者を傷付けていたのかもしれない、と感じたのだ。
 同時に龍斗が「やれやれ」と言いたげな顔をした。女子組は冷や汗をかいた。

 しかし憲司は、頑張って口を開いた。
「……分かった。じゃあ話すよ。君達の、知りたい事」
 口を閉ざして問題を先延ばしにしても、何も変わらない事を知っているのだから。
「じつは、小姫は――」

 そしてついに、憲司の口から小姫の秘密が暴かれようとする――その時であった。

 突然廊下の方から、ガシャンと、ガラスが割れるような音が聞こえてきた。
 かと思えば、今度は「きゃああああっ」という女性の悲鳴も聞こえてきた。

 しかも……2つ=c…。

「!!? 輝!!? 小姫!!?」

 憲司が条件反射で2人の名を呼び、同時に自分の机の中心を思いっきり叩いた。
 するとどうだろう。その部分だけ四角く、まるで奈落のように沈み、
 同時に部屋の本棚が、まるでモーゼが海を真っ二つにしたあの神話のように左右へとズレ、
 部屋の入り口までの広い道を作った。
 おそらくこれが仕掛け≠ニやらなのだろう。

 一瞬の事だったため、巧壱達は何が起こったのか理解できなかった。
 憲司はそんな巧壱達を迂回し、すぐに小姫達が居る台所へと急いだ。
 巧壱達も、すぐに憲司を追った。
 床を踏み鳴らす音が激しく耳の中で反響し、不快感を覚えたが、気にしている暇は無かった。
 もしかすると、いや絶対、小姫を狙う組織が攻めてきたのだから。

 おそらくは、巧壱達を尾行して……。

 巧壱達は心の中で、悔しげに舌打ちした。
 ――もう少し、もう少し……周りの気配に気を配っていれば……!!
 けれどそれは、後の祭り。
 しかしだからこそ、巧壱達は今すぐ侵入者を制圧する事で、それを帳消しにしなければならない。
 一般人であろう家族の平和を、これ以上壊さないために……!!

 10秒もかからずに、台所へと辿り着いた。
 巧壱達が台所に飛び込むように入ると、そこにはバイク乗りが着るような、全身を覆うタイプの黒いボディスーツに、
 これまた黒いプロテクターと鬼仮面を装着した長身の男性が、左腕で気絶した小姫を抱え、右手で日本刀を持って立っていた。
 龍斗並みにガッシリした体格であったので、すぐに男だと判別できた。

 下を見ると、男の右足を、輝が必死に掴んでいる。小姫を、自分の娘を渡さないために。
 男は足を激しく動かして、必死に輝を引き剥がそうとしていた。
 今の男は、隙だらけである。そしてその隙を、憲司は見逃さない。
 憲司は、護身用として持ち歩いている改造スタンガンを懐から取り出し、容赦無く男に突きつけた。

 だが改造スタンガンが男に届こうかという、まさにその瞬間。

 憲司を見てすらいない男の右手が、まるで独自の意思でも持っているかのように反射的に動き――。

 ――憲司を、袈裟斬りにした……。
 


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