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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第4回 蜜蜂と極道とB
 
 琉奈達がいよいよ、目的の少女の大体の居場所を突き止め、場所を移動した後の事。
 琉奈が倒れる原因となったあの石碑の前に、1人の老婆が現れた。
 まるで占い師のような紫色のローブを身に纏い、これまた紫色のベールで顔を覆った老婆だ。

 その老婆の目の前にある石碑は、守り神、子孫繁栄の神、そして交通安全の神として有名な神――道祖神。

 本来ならば村の内外の境界や、分かれ道などで見かける神ではあるが……。
 さてさて、いったいこの道祖神様は……何と何の境界に置かれた神なのか。
 とにかくそんな神に、見るからに妖しげな雰囲気を醸し出す老婆が、
 琉奈の時と同様、何の躊躇も無く、右手で触れた。

 その瞬間、老婆は突如白目を剥き、まるで悪魔が取り憑いたかのようにビクビクと痙攣し始めた。
 痙攣は、時間と共に激しさを増していく。
 老婆の右手は石碑から離れ、身体中から汗が一気に噴出し、
 その躯体は地面を転がり回り、時に爪を地面に突き立て、
 付け爪であった紫色の爪はボキリ、と豪快に折れ、
 さらには口から少量ながら泡が吹き出し始め……かれこれ10分近く。

「ふ……ヒッ……ヒッ……ヒヒッ……」
 ようやく痙攣が治まったのか、老婆は仰向けのまま、途切れ途切れに笑った。
 よほど体力を消耗したのだろう。笑い声と共に激しく息まで吐き出される。

「よ……うやく……」
 少しは休めたのか、老婆はゆっくりと、その身体を起き上がらせる。
 そしてようやく立ち上がった瞬間、老婆は、琉奈達が目指している方向に目を向けると、
 誰もが悪魔ではないかと思う、邪悪な笑みを浮かべ、

「よう……やく……見つけたぞ……ヒメ@l……」
 今にも枯れそうな声で、そう呟いた。

     ※

 巧壱達が移動を開始してからしばらく経ち、現在午後17時10分。
 ようやく仕事から解放された青年・新堂櫂は、親友の巧壱達が向かっている場所へと向かうべく、
 目的地へと向かう快速電車に乗り継ぐために現在、京都州の京都駅に居た。

「あぁもう時間くったさかい! はよ行かんと見せ場が無くなるでぇ!」
 長期の州外での任務に備えて買った、大きいリュックを新幹線の荷物置場から引っ張り出し、そのまま背負い、
 東京州から乗ってきた新幹線をすぐに降りると、櫂は滋賀州へと向かう電車が通るホームを探し、駅内を見回した。
 数秒を費やし、ようやく案内看板を見つける。どうやら歩いて数分の場所にあるようだ。

 櫂は急いでダッシュした。見せ場が無くなるのは死んでもゴメンだから!
 そして目的地の事だけしか頭になかったからこそ、櫂は目の前に居る存在に気付かなかった!
 櫂の腹の辺りに、衝撃が走る。何か小さい物にぶつかった衝撃だ。
 次に、腹の辺りが冷たくなった。
 そこまで感じて、さすがに奇妙な状況だと自覚した……まさにその瞬間、

「い、いった〜〜い! 冷たい〜〜!」

 櫂の目に、1人の少女が映った。
 顔に白濁液……ではなく、ソフトクリームと思わしきモノをぶちまけ、
 さらには櫂とぶつかって転んだ拍子に、身に付けた丈の長い白いワンピース姿のまま、
 偶然にもM字開脚のポーズになってしまった、長い黒髪の10歳前後の少女が。

 なお、ワンピースの丈は長かったため、かろうじて禁断のデルタ≠ヘ見えなかった。
 なんだか、昔のラブコメに似たようなシーンがあるような気がする構図である。
 というか、ソフトクリームじゃなかったら櫂は確実に社会的に死んでいる。

「ちょ、嬢ちゃん大丈夫かいな!? っちゅーか冷たっ!? 俺の服にも付いとるぅ!?」
「うへぇー……ベトベトぉ……急にぶつかってこないでよお兄ちゃん!」
「いや、えろぉすまへんなぁ。急ぎの用事があるさかい、前見てへんかったわ」

 俺の視界に映らんほど嬢ちゃんが小さかったのも原因やけど、とは敢えて言わない。
 言いそうになったが、なんとか飲み込んだ。
 もし言ってしまえば、今度こそ櫂は、周囲の乗客達によって社会的に抹殺されるだろうから。

 櫂は居心地の悪さを覚えながらも、少女に、ポケットに入れていたハンカチを差し出した。
 とりあえずこの場をなんとか紳士的に収めないと、他の乗客達にどんな目で見られるか……。
 そう思った最中、少女は貰ったハンカチで顔を拭きながら立ち上がった。

「もう、せっかく買ったアイスが台無しじゃない」
 少女は床に転がった、アイスのコーンの部分を見つめながら櫂に文句を言った。
「どうしてくれるのよ!? また買ったら目的地まで行くための旅費が無くなるわ!」

「ああもう分かったさかい。俺が代わりのアイスを買えばええんやろ!?
 任せとき、アイスの1本も奢れんようで、年上なんぞやってられ……んん!?」
「?? どうしたのよ?」
 櫂は少女の顔を見つめたまま身体を硬直させた。
 少女はそんな櫂を翠色の瞳で見つめたまま、怪訝に思った。

「ま、さか……」
 櫂は少女を注意深く見つめながら、背負った大きな鞄をコンクリート床の上に下ろすと、
 そのサイドポケットから1枚の紙を取り出した。

 それは、幼馴染で兄貴分の天ヶ崎宇宙が所属する天ヶ崎研究所から配布された、写真の資料。
 自分達の捜索対象である、1人の少女の写真がプリントアウトされた紙。
 櫂はその紙に写った少女と、先ほど自分とぶつかった少女とを見比べた。

 ―――あまりにも、似ていた。

     ※

 遡る事、約2時間半前。
 巧壱達は琉奈が見たという謎の追体験の映像を頼りに、
 とりあえず日輪川ダム湖を後にして、近隣の街中を捜索する事にした。

 日輪町は、日本国の中でも特に製薬会社が多い町だ。
 古来より近畿、特に滋賀州もとい近江は、東西の人間がぶつかり合う、
 まさに日本国内の流通の要とも言うべき場所であった。
 そしてそんな関係上、徳川幕府によって流通の仕組みが整うと、
 近江は三重州もとい伊勢と並んで、商いが盛んなエネルギッシュな場所と化した。

 言わば……当時はまさに、大流通時代! 商人王を目指す者達の熱き時代の始まりである!

 ――とまあ、どこかで読んだようなオーバーな表現はさておき。
 日輪町もそんな時代の流れに乗るべく、当時盛んであった医薬品産業を武器に、
 日本国内ありとあらゆる場所へと薬を売り込み、現在まで発展を遂げてきたのである。

 しかし、どうした事であろう。
 そんな経緯を経て発展をしてきたのであれば、東京州ほどとはいかないまでも、
 それなりに人口が多い……はずなのだが、町は驚くほど閑散としていた。
 見た限りでは、街に人は10人も居なかった。

 ほとんどの住民が東京州へと流れて行ってしまったのか。
 いや、それを考慮しても不自然なくらい人が少ない。
 おかげで聞き込みによる情報収集は、あまり期待できないだろう。

「で、どうやって捜すの?」
 そんな日輪町の街に着くや否や、さっそく美羽瑠が巧壱に訊ねた。
 巧壱は『少しは自分で考えてくれ』と心の中で思いながらも、
「とりあえず、この町の町長にでも聞いてみるか。捜そうにも、これ以上手掛かりは無いし」
 と気だるげに返した。

「確かにそうだな」
「だが、町長くらいの人に会うなら、まずはアポを取った方がよくないか?」
 龍斗の同意と、琉奈の提案が会話に続く。
「……その通りだ。白鳥、俺が町長の電話番号を調べるから、町長に電話をかけてくれないか?」

「別にいいけど……なんで私?」
 突然の指名に、困惑する美羽瑠。巧壱は苦笑しながら答えた。
「なに、電話する相手は町長だからな。普通の学生の俺や龍斗じゃ、ナメられるかもしれない」
「ああなるほど……って、ちょっと、私の家柄を利用する気!?」
 さすがにこればかりはヒステリック気味にノリツッコミするしかないお嬢様である。

「でも確かに、私達じゃナメられて……電話を切られる可能性もあるわね」
「ああ。しかも私達の目的は、都市伝説に関係のある女の子の捜索だ。
 ハタから聞けば、胡散臭い事この上ない。都市伝説云々の事情は伏せるとしても、な」
「ちょ、優梨!? 琉奈!?」
 しかし優梨と琉奈の冷静な判断によってこれ以上の反論がしづらくなった。

「……………分かった、分かったわよ! すればいいんでしょすれば! コーイチ、番号は!?」

 こうして美羽瑠は、ほとんど必然的に町長に電話をする事になったのであった。

     ※

 巧壱が日輪町の町長の執務室の電話番号をモバイルノートで調べ、
 美羽瑠が町長の執務室に電話をかけてから10分弱。
 ついに町長の居る町役場への立ち入りが許可された。
 さすがに財閥のお嬢様が相手じゃあ、町長も恐縮するしかなかったようだ。

「さすがは白鳥だな」
「ああ。おかげで難無く町役場に入れる」
「美羽瑠、お疲れ様」
「よくやったな、美羽瑠」
 その成果に、櫂以外のメンバーは美羽瑠に思い思いの労いの言葉をかけた。

「むぅぅ……嬉しいけど、なんか納得がいかないわ」
 だが自分の家柄を利用する形での活躍に、苦笑するしかないお嬢様であった。
 とにかく、櫂以外の全員が町役場へと入る事を許されたので、
 これ以上時間を無駄にしないよう、一同は走って町役場へと向かった。

「なぁ巧壱、私が視たあの映像……いったいなんだと思う?」

 走り出した直後、琉奈は巧壱にふと訊ねてみた。
 自身が触れた道祖神から流れ込んできた、正体不明の女性の記憶についてを。
 しかし、巧壱は答えない。
 今までと同じくらい理解不能の事態なので、どう答えたらいいのか分からないのだ。

 そんな巧壱に、琉奈がさらに訊ねる。
「私は……なんだか嫌な予感がする」
 やや俯き、疑惑の眼差しをしながら。
「もしかしたら私達は……何者かの罠の中にいるんじゃないのか?」
「……今はまだ、断言はできないな」
 眉間にシワを寄せつつ、未だに考えながら巧壱は答えた。

「けど、俺達は今まで何度も、その罠を越えてきた。
 そしてその罠の先に、いつも答えがあった。
 だから今回も、その答えを知るためには……前に進むしか、ない」
「……そうだな」
 琉奈は、これから起こるであろう様々な最悪な事態を覚悟して、呟いた。

     ※

「―――という事情がありまして、私達はその写真の女の子を捜しているのですが、
 あいにく情報が少なく、この町に居る、という情報以上の情報が手に入らなかったため、
 こうして、町長にお伺いしました」
 巧壱は町長の執務室の来客用の椅子に座り、机を挟んだ向かい側の椅子に座る、
 五分刈りが特徴的な、30代前半ほどの日輪町の町長に事情を説明していた。

 ちなみに琉奈、美羽瑠、優梨、龍斗の4人は、巧壱の座る椅子の後方で立っている。
 みんな仲良く並んで座るよりも、この方が威圧感を出せると踏んでの事だ。
 なお、この場で話した事情とは、無論、虚実を織り交ぜた事情である。
 もしも都市伝説云々の事情を話せば、今度こそ胡散臭がられるからだ。

「はいはい、お伺いしていますよ。ですがもう少々お待ちいただけますか?
 まさか電話をしてから10分でおいでになるとは思わなくて、まだ調べている最中なのですよ」
「ええ、構いません。では調査が済むまで、お待ちしますね」
 巧壱がそう言うと、町長は席を立ち、調査を担当させている職員が居る、
 全町民の個人情報が保存されている資料室へと向かった。

「巧壱の敬語……なんだか変な感じだな」
 町長が部屋から出た瞬間を見計らい、龍斗は呟いた。
 巧壱は龍斗の方に顔を向ける事無く「何か言ったか?」と優しい声で訊ねた。
 龍斗は「なんでもない」と素っ気無く返した。

「それにしても、よく信じてくれたなあの町長」
 唐突に、琉奈が巧壱の事情説明に対して意見を述べた。
「ええ。天ヶ崎宙次郎博士の知り合いの娘さんの家庭教師を、その知り合いから頼まれた、だなんてねぇ」
「しかも、その天ヶ崎博士が謎好きなために、私達は限られた情報を用いて女の子の家を突き止めなきゃいけない……なんて、
 ほとんど事実に近い嘘を盛り込むとは……私には咄嗟に思いつけない嘘だな」

「ああ。俺自身もビックリだよ。これしかない、と思って言ったデマカセなんだが……」
 優梨と琉奈の指摘に、当の巧壱も冷や汗を一筋かきながら苦笑した。
 確かに、1人の女の子の家に5人以上の大学生が訪ねる理由としては、家庭教師が1番ピッタリである。
 現に、家庭教師のアルバイトをする大学生は居るし。

「でもそんな事を言ったんじゃ、天ヶ崎博士に口裏合わせてもらわなきゃいけないな」
「ああ。女の子の家に行く途中で連絡するよ」
 龍斗の指摘に、巧壱は相変わらず苦笑しながら答えた。
「でも、その女の子の家の人に聞けば、すぐバレちゃうんじゃない?」
 しかし美羽瑠の指摘を前に、一同は同時に凍り付いた。
 美羽瑠の言う通りであったからだ。

「……………町長が女の子の家に電話をかけませんように……」
 思わず巧壱は、町長の座っていた椅子を睨み付けながら呟いた。
 とその時である。噂をすればなんとやら、町長が1枚の用紙を持って戻ってきた。

「すみません、お待たせ致しました」
 同時に巧壱達の心臓が跳ね上がった。
 しかし町長は、巧壱達の動揺には気付かなかったのか、そのまま椅子に座った。
 巧壱達は内心ドキドキしながら、町長が座るのを凝視した。

「ええと……写真の女の子ですが、この子で間違い無いでしょう」
 そう言って、町長は持ってきた用紙を巧壱に見せた。
 日輪町住民のデータベースに載っている写真。
 すなわち、今では小学校でも持つ事を義務付けられている、学生証の写真をズームアップしてプリントした用紙だ。

 そこには、天ヶ崎研究所から配られた写真の少女とそっくりな、蒼い瞳の少女がプリントされていた。
 だが天ヶ崎研究所が提供した写真の女の子は笑っているため、目の色が確認できず、
 本当に写真の女の子と同一人物かどうか、判断は難しい。
 しかしこれ以外に手掛かりは存在しないため、とりあえず巧壱は、
 学生証の写真の子が捜している女の子だと偽って、町長に女の子の住所を訊ねた。

 町長は一瞬、口をつぐんだ。
 町長として、さすがに町民を売り渡すような真似をしたくはないのだろう。
 だが悩みに悩んだ末に、

「分かりました、お話しましょう。天ヶ崎博士の謎好きの噂は、こちらにも多少伝わっていますからね」

 ―――滋賀州にまで噂が広がっているなんて、どんだけ謎好きなんだ天ヶ崎博士は。

 巧壱達は心の中で、同時にそうツッコミを入れた。

     ※

 町長が話してくれた住所の家へと、巧壱達は30分かけてようやく辿り着いた。
 そこには、どこにでもあるような2階建ての住居が建っていた。
 庭には柿や蜜柑の木が生えており、そのすぐそばには、タタミ8畳ほどの広さの畑が耕されている。

 巧壱達の目には、ごくごく普通の家に見えた。
 しかし、そんな家に住む女の子は、何を隠そう天ヶ崎研究所が保護を求めるほどの重要人物である。
 果たしてどんな家庭なのだろうか。
 巧壱達はゴクリと唾を飲み込んで玄関まで近付いた。

 玄関の、横にスライドするタイプのドアのすぐ傍の壁にかかっている木製の表札に、
『羽佐間』と、豪快な毛筆で書かれているのを確認する。
 間違いなく、目的地である『羽佐間』さんの家である。
 巧壱は1度深呼吸をすると、みんなを代表してインターホンを押した。

『はぁい』
 すると中から、なんともノホホンとした女性の声が聞こえてきた。
 写真の女の子の母親であろうか。
「すみません、私達、滋賀大学の新聞部ですけど」
 とっさに、1番相手に警戒感を抱かせない、柔らかい声が出る優梨が嘘を付いた。
 この羽佐間家に着くまでに、みんなで考えた嘘だ。

「実は私達、最近の滋賀州の行政について取材をしていまして。住民の1人として、ご意見をいただけないでしょうか?」
『取材、ですかぁ』
「無理に、とは申しませんが……」
 例え、今女の子の姿を確認できずとも、時間が経てば学校の登下校などで女の子を確認できるだろう。
 だから優梨は取材という嘘に無理強いはしなかった……のだが、

『分かりましたぁ。少々お待ちください〜』
 と人を疑う事を知らなそうな声が家の中から聞こえてから、数秒後……。

「お待たせしましたぁ」
 中から出てきたのは、30代前半くらいの歳であろう、茶色いボブカットヘアの女性であった。
「ええとぉ、取材ですよね? さ、どうぞどうぞ入って。お茶を出しますからぁ」
「すみません。質問は2つだけなので、時間はかけません」
「あらそうなのぉ? 残念だわぁ」

 本当にこの人――羽佐間さんは写真の少女の関係者だろうか。

 みんなの心に疑念がよぎるほど、羽佐間はおっとりとしていた。
 まるで、幼児のような警戒の無さである。
 しかしそんな事を気にしている場合ではない。優梨は即座に訊ねた。

「この写真の子は、貴女の娘さんですか?」
 訊ねながら、天ヶ崎研究所から提供された写真を羽佐間に見せた。
 すると羽佐間は「ああ」と頷いて、
「確かに、ウチの小姫ちゃんだわぁ。でも、なんで小姫ちゃんの写真を、あなた達は持っているのぉ?」
 肯定と疑問を返された。
 しかし巧壱達は、そんな事を気にする様子も無く、

「すみませんが、羽佐間さん」
 代表として巧壱が、羽佐間へと訊ねた。
「じつは私達は、新聞部ではありません」
「???? どぉいう事ぉ?」
「私達は、天ヶ崎研究所という研究所の依頼で、貴女の娘さん……小姫ちゃんを保護するよう言われました。
 なんでも小姫ちゃんが、もしかすると得体の知れない研究者によって誘拐される可能性があるからです」

「え、小姫ちゃんが……小姫ちゃんが……ゆ、ゆゆゆゆゆうか、い……!?」
 羽佐間が初めて狼狽をした。
「ええ。ですからまず、どうして小姫ちゃんが誘拐されるかもしれないのか、それを知りたいので―――」

「いやだよぉーーーーーーッッッ!!!!」

 だが巧壱の説得は、羽佐間の絶叫で遮られた。巧壱達ですら、狼狽するほどの絶叫だ。
 よく見ると、羽佐間はその場で、本当に泣いていた。まるで本当に幼児であるかのように。
「は、羽佐間さん、落ち着いてください!」
「小姫ちゃんがいなくなるの、いやだよぉーーーーーーッッッ!!!!」
「い、いえですからそうならないために私達が来たんですってばよッ!?」
 巧壱の語尾がおかしくなった。それだけその場は混沌としていた。
 


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