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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第3回 蜜蜂と極道とA
 
 今からおよそ、百年が経った日本国。
 都道府県制が廃止され、代わりにほとんどの県≠ェ州≠ヨと変更され、
 かつて北海道と呼ばれた諸島は北海道諸島王国、
 沖縄県と呼ばれていた諸島は沖縄諸島王国と改名して独立を果たした世界。

 まぁぶっちゃけ、明治時代に明治政府が北海道のアイヌ民族と沖縄県の琉球民族を
 降す前の状態に戻ったような、そんな日本国での事。

 巧壱達は依頼対象である少女を捜すため、その少女の写っている写真が撮られたと思わしき、
 滋賀州は湖東にある、日輪城跡の近くの日輪川ダム湖へと、電車やバスを乗り継ぎついに辿り着いた。

 ちなみに時刻は午後1時半。
 巧壱達にとっては、今日中に少しでも手掛かりを見つけたいと思うくらい遅い時刻だ。
 もしもその手掛かりが導く少女の居場所が、
 滋賀州とはまた別の州であった場合、さらなる移動をしなければいけないからだ。

 それも、少女を狙っていると思われる他の研究者よりも早く。

「なかなか綺麗な場所だな」
 そんな1秒でも時間が惜しい状況でありながらも、慌てず騒がず、着いて早々、
 琉奈はその身に、地平の彼方より吹いてくる、受けるだけで心地良い気分になる、
 爽やかで清潔なそよ風を受けると、髪をかき上げながら正直な感想を言った。

 確かに猶予が残されていないかもしれない状況ではあるが、
 だからと言って目の前の景色に感動しないというのは、景色に対して失礼であるからだ。
 ちなみに目の前に広がるのは、空の青と、湖の青、そしてその湖を囲む大自然の緑である。
 風が吹き、草花が揺れ、水面に波紋が生まれ、水面を漂っていた鳥が飛び立つ。
 大自然ならではの光景が、目の前に広がっていた。

「カイも来ればよかったのにね〜。外国の絶景とはまた違う、素晴らしい絶景なのに」
「そうね。まったく、まさか私達とこっそり話した事で勤務態度を悪く見られて、
 罰として店長からもう1日出勤するよう命じられるとはね」

 美羽瑠と優梨が、琉奈と同じようにそよ風を受け、髪をかき上げながら、
 現在ここには居ない、サークル『Little-Bee』のメンバーの1人の事を思い、苦笑した。
 そう、本来ここに巧壱達と共に来るはずだった新堂櫂はまだ彼らの町に居るのだ。
 ちなみに龍斗の場合は、ギリギリ店長に巧壱達と話しているところを見られなかったためにセーフであった。

「で、巧壱。その女の子、どこに立っていたんだ?」
「写真を見た限り、位置はこの辺なんだが……」
 龍斗の質問に、巧壱が写真と、周りの風景を見比べながら答えた。
 だがその答えを得たからといって、事態が進展するわけではない。

「巧壱、これからどうするんだ?」
 今度は琉奈が質問をした。すると巧壱は、眉間にシワを寄せつつ、
「この写真を観光客に見せるわけにもいかないだろうし……果たしてどうするべきか」
 巧壱はダムの周りに集っている、数人の観光客を見ながら呟いた。
 さすがの巧壱でも、これ以上どう捜査を進めればいいのか分からないようだ。

「えっ? どうして観光客に訊かないの?」
 美羽瑠がワケの分からない顔で巧壱に訊ねた。
 すると巧壱は「はぁ」と溜め息を吐くと、
「観光客の中に、女の子を狙っているヤツが居たらどうするんだよ」
「あ、そっか」
 言われて初めて、美羽瑠は納得した。

「宇宙さんに、連絡は取れないんですか?
 その女の子の写真の出所とか、聞き出せばすぐに解決すると思うけど」
 優梨がごもっともな質問をした。
 巧壱は、未だに眉間にシワを寄せながら答えた。

「残念だけど……宇宙さんに、今回ばかりは詳しい情報は望めない。
 さっき駅で電話してみたけど、もしかすると電話を盗聴される可能性があるかもしれない、
 とか言って、なかなか話してはくれなかった」
「盗聴って……それって手紙に書いてあった、他の研究者、とか?」
「ああ、そうだ」
 美羽瑠の質問に、巧壱は即答した。

「なら、どうやってこれからその女の子を捜す? もう手立てが無いんじゃないか?」
 琉奈も眉間にシワを寄せ、巧壱に訊ねた。
 さすがにここまで来て、調査終了にはしたくないからだ。
「確かに、無いかもしれない……けど、1つ気になる事がある」
 そう言って巧壱は、みんなに写真を改めて見せ、

「なぜ、この写真なんだ?」
 みんなの目をジッと見つめながら、訊ねた。
「他にもこの女の子が写っている写真が、あったんじゃないのか?
 女の子の居場所が、すぐに分かるような写真が。
 けど、天ヶ崎研究所から送られてきたのはこの写真だ。
 だったらこの写真が送られてきた事に、何か意味があるんじゃないか?
 俺はそう思えてならない。みんなはどう思う?」

「……そう言われると、確かに意味があるようにも……」
「ああ。天ヶ崎研究所が、途中で調査が不可能になるような手掛かりを送ってくるとは思えねぇし」
「今までも、ちょっと調べればすぐに見つかるようなモノが送られてきたし……」
「うん、確かに!」
 琉奈、龍斗、優梨、美羽瑠が巧壱の意見に同意した。

「だからもう少し、二手にでも分かれて、この辺を調べてみないか? 何か見つかるかもしれない」
「ああ、そうだな。それじゃあ男女で分かれよう。何か見つけたら、すぐに携帯電話に連絡すればいい」
 巧壱と琉奈の会話に、全員が頷いた。

     ※

 1時間後。

「ねぇ、本当に写真に意味があるのー?」
 いい加減、美羽瑠は捜索に疑問を覚えた。自分も同意したにも拘らず。
 女子3人でダム湖の北側の林を捜索している最中の事であった。
「そう言わないで、美羽瑠。私も疑問に思えてくるから」
 優梨は苦笑しながら言った。正直、彼女も精神的に限界が近そうだ。

「それに、琉奈だって頑張っているんだから、もう少し頑張りましょうよ」
「……分かった。もう少しだけ、頑張ってみる」
「いや、私を基準に考えられても……」
 2人の会話に、琉奈は苦笑しながら言った。

 琉奈だって、美羽瑠、そして優梨とは体力に差がある事は承知しているのだ。
 そしてその差のせいで、琉奈が2人に無理を強いる時がある事も。
 だからこそ琉奈は、2人には、

「休みたいなら、休んでもいいんだぞ?」
「る、琉奈がそう言うなら……少し休みましょうか、美羽瑠?」
「ふへぇ〜〜……やっと休めるぅ〜〜」
 ようやく休憩が取れ、美羽瑠は近くにあった、木陰になっている木の幹に腰掛けた。

「そうとう限界だったみたいね」
 優梨も近くの木に腰掛けた。
「ああ……探すのに夢中で、美羽瑠の事を気遣ってやれなかった」
「そんな、ルナのせいじゃ!」
 自分を責めようとする琉奈に、美羽瑠は反論しようとした。

 確かに琉奈は美羽瑠、そして優梨よりは体力があるのだが、
 たまにその事を忘れ、2人を気遣う事を疎かにしてしまう事がある。
 そしてそのせいで、時々、琉奈は2人に迷惑をかけたと軽く自己嫌悪してしまう事がある。
 けどその問題は、冷静に考えれば美羽瑠と優梨が琉奈を呼び止めれば解決する問題である。
 しかしなぜ2人はそんな事をせず、ただ琉奈のペースに頑張って付いて行こうとするのか。
 その理由は簡単である。

 2人はそれでも琉奈が大好きだから。

 ただそれだけである。
 そしてだからこそ、自分達より体力がある琉奈と親友である事を、進んで選択しているのだ。
 とにかくそんな庇い合いが原因で時々起こっていた、
 自己嫌悪とフォローの応酬が久しぶりに始まろうとした……その時であった。

「?? なんだ、この気配……?」
 琉奈は急に立ち上がり、自分達が先ほど進んでいた方向から見て、
 少々右寄りの方向へと、美羽瑠と優梨の事など忘れ、進み始めた。
 琉奈の固有能力の1つである霊能力が時々発動し、トランス状態に陥った時に見られる、
 琉奈本人でさえも自覚していない、あの夢遊病のような行動であった。

「る、ルナ!? いったいどうしたの!?」
「まさか、琉奈の霊能力?」
「という事は……この先に絶対、何かがあるわ!」
「あ、待ってよ美羽瑠!」
 美羽瑠と優梨は慌てて立ち上がり、おぼつかない足取りながらも琉奈を追った。

     ※

「巧壱、新堂からメールが来たぞ」
「おお、どんな内容だ?」
 場所は変わり、ダム湖の南側の大平原。
 少々背の高い草原をかき分けて進み、少女の手掛かりらしき何かを探しながら、
 巧壱と、携帯電話を手にした龍斗は喋っていた。

「今仕事が終わったそうだ。でもってさらに移動するなら連絡くれ、だと」
「連絡か……その移動するか否かを決める手掛かりがまだ無いから動けん、って送っといてくれ」
「了解」
 龍斗は携帯電話を操作し、櫂へと進捗を伝えるメールを送った……まさにその時であった。
 突然、巧壱が持っている携帯電話が鳴り出した。

「!? 何か見つかったか!?」
 巧壱はすぐに携帯電話を開いた。メールではなく、通話の待機モードである。
 すかさず巧壱は通話ボタンを押した。するとその直後、優梨の悲鳴に似た声が轟いた。

『須桜さん、早くこっちに来てください! 琉奈が! 琉奈が!』
「!?!? 落ち着け菅原! とにかくそっちに行く! 待ってろ!」
 心臓の鼓動が、まるで小動物の心臓のように速く高く鳴り始めた。
 携帯電話を切ると同時に、巧壱はすぐさま走り出す。

「おい、巧壱! 待て、何があった!?」
 龍斗は突然走り出した巧壱に、なんとか並走しながら訊ねた。
 巧壱がそれほどまでに慌てる理由など、1つしかないにも拘らず。
 それでも訊かずにはいられなかった。

     ※

 見覚えの無い、景色だった。
 周囲に広がるのは、どこまでも続く大平原。
 そこはまるで、此の世の風景ではないような――そんな現実離れした風景だった。

 そんな寂しげな場所に、1人の女性がいた。いや正確には、目の前に立っている。
 私と同じような色の、長い髪を生やす……どこか悲しげな顔をした女性だった。

 女性は私に何かを告げた。けれどよく聞こえない。
 ところどころ、ノイズが走っている。
 まるで壊れかけの白黒テレビを見ているような感じがした。

 いや、実際そういう感じの構図なのかもしれない。
 私は……私ではない誰かの人生を、その人の視覚を介して追体験しているのだ。

『本■でその■を、お連れ■なるつも■ですか?』
 私は言った。正確には、私に似ている女性が言った。
『ええ。だっ■、放って■■ないでしょう?』
 私が中に入っている女性が、下を向いた。
 するとそこには、私の両腕に抱かれた、まだ1歳にも満たないであろう赤ん坊がいた。

『……■解し■した。ですが■断はなさら■いでください。■ょせん私■は、こ■子とはまた違う■■なのですから』
『ええ、分■■ています。そ■■この子供と共に■れば、私は運■■選択を迫ら■■■いう■も……』
 ノイズが酷くなる。
 けれど私は、なぜかその会話の内容を、なんとなくだが理解できていた。

 いや、それだけじゃない。
 私が……私ではない、誰かの中に居るからだろうか。
 正確な、私が中に入っている女性の考えは分からない。
 だけど、女性がどんな想いを持っているのかは、解った。


 女性は、自分が抱いている赤ん坊を……赤ん……坊……を……――――。


 そして、私が彼女の想いを完全に理解しかけた、まさにその時。


 なぜか突然、その女性の追体験の映像は早送りにされた……。



     ※

「琉奈! 琉奈! 目を覚ませ、琉奈!」
「琉奈! 目を覚まして!」
「ルナ! ルナ! ルナ!」
「風深! おいどうした!?」

 優梨の緊急連絡によって、10分弱で女子チームのもとにかけつけた巧壱達が目にしたのは、
 ダム湖の北側にある、石を彫られて作られた石碑――もとい道祖神。
 そしてその傍で意識を失っている琉奈と、そんな琉奈を必死で看病していた美羽瑠と優梨であった。

 巧壱達はすぐに琉奈の傍まで行くと、みんなと共に名前を連呼しつつ、琉奈の肩を前後に揺らした。
 これまでも何回か、琉奈が同じような状態になったのを見た事があったが、
 何度見ようと、慣れるモノではなかった。
 そして巧壱達が、琉奈を呼び続けて1分が経とうとした……その時である。

 琉奈の両目から――雫が流れ落ちた。

 突然の事に、その場に居る全員が息を呑んだ。
 どこからどう見ても、尋常ではない状況だ。
 もしかすると、今すぐに起こさなければいけないかもしれない。
 みんなが同時にそう感じ、琉奈の意識を呼び戻すため、再び名前の連呼が始まろうとした。
 しかしちょうどその瞬間、パチリ、と急に琉奈は目を覚ました。

「?? ど……どうしたんだ、みんな?」
 まだ目覚めたばかりで焦点が定まらないのか、時おり目を細める琉奈の目が、
 自分の周りに集っている、櫂以外のメンバーを見ながら訊ねた。

「どうした、じゃないわよ!」
 今にも泣きそうな表情をしている美羽瑠が、真っ先に琉奈に言った。
「ルナったら、この石碑に触ったかと思ったら急に倒れちゃうし、なぜか泣いちゃうし、大変だったんだから!」
「え、石碑? それに……私が、泣い……た……?」
 琉奈はまず、自分の目の周りを手で触れて確認した。
 すると確かに美羽瑠の言った通り、その手には証拠たる涙が付いた。

 ではなぜ、自分は泣いたのか。
 普段ほとんど泣いた事の無い琉奈は怪訝に思い、まずは倒れる前の記憶を手繰った。
 トランス状態に陥っていたためぼんやりとしか思い出せないが、
 確かに何かに触ったような気がした。

 そしてその後は……。

 その後は……まるで記憶に靄がかかっているようで、なかなか思い出せない。
 琉奈の中に、苛立ちが募る。そして苛立ちが最高潮に達したのだろう。
 琉奈が、さらに思いつめた顔で記憶を手繰り始めた……まさにその瞬間。

 琉奈の頭の中で、何かが カチリ と音を立てた。

 そして、カチリと音を立てた何か≠ェキッカケになったのだろうか。

 琉奈の頭の中に、先ほど夢で見た映像が そ の ま ま の 状態で甦ってきた。

「そ、そうだ……私は、あの石碑に触った時、視たんだ」
 そして琉奈は、思い出す。完全には思い出せないが、それでも印象に残った部分は覚えている。
「あの女の子は……この日輪町に居る!」
 途中で早送りにされた、謎の女性の追体験の最後のワンシーンにて。
 自分達が捜している少女が、出てきた事を……。
 


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