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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第17回 若者頭の世界A〜若者頭の非日常〜
 
 ……なんて事を昨日まで思っていたのだが。

 なんと驚いた事に、俺の行動は結果オーライだった事が今日判明した。

 その日から、雅姫は普通の高校生活を送れるようになったのだ。
 同級生・先輩問わず、男子に必要以上に話しかけられる事は無くなり、
 女子からの嫉妬の視線などは見受けられなくなった。

 なぜそうなったのか、俺は最初解らなかったのだが、
 クラスメイトの噂話を盗み聞きして得た情報によると、
 どうやら俺が雅姫と会っていたのを遠目で見た奴がいるらしく、
 それで雅姫に余計な事をしたら俺の家のヤクザからなんらかの
 制裁を受ける……などという根も葉もない噂が流れているようだ。

 こっちとしては悪評の上塗りでしかないような噂だが、
 雅姫が前の学校で受けたのと同じイジメを受けて、
 昔あった……タイトルを忘れたが……とにかくなんかの海外映画の
 ヒロインの少女のように、超能力を暴発してしまう事はないだろう。

 ただ、雅姫は環境の変わりように困惑気味のようだが……。
 いずれ慣れるだろう。そう願いたい。

「で、結局……俺を狙う刺客は校内には居ないって事で、いいのか?」
「いえいえ若、それについてはまだ油断できませんよ?」

 雅姫が通常の高校生活をようやく送れた1日目の放課後。
 いつものように黒塗りの防弾装甲車で会話をする俺と親父の部下。

「明日辺りに、親父様達が他の組との部隊と共に、その敵対組織のアジトに乗り込みますからね。
 もしかすると、組織はそうなる前に若を捕えて、人質交渉に利用する可能性も無きにしも非ずです。
 ですから明後日までは、警戒していてくださいね。
 私達は若に、学校生活だけはまともに経験してほしいのですから」

「……おう、わかったよ」

 孤独な事が、学園生活なのか……?

 ふとそう思ったが、俺は敢えて訊かなかった。
 組のモンの中には、様々な理由でマトモな教育を受けていないヤツが大勢いる。
 俺の親父だって、当時は極道の戦乱期であったがために学校には行けていない。
 ソイツらからしたら、普通に学校に通えている俺は……なんて幸せ者か。

 だから俺は、そんな無粋な事は訊けなかった……。

     ※

 翌日。危惧していた事が起きた。

 雅姫が――さらわれた。

 事の発端は、俺の下駄箱の中に入っていた、手紙。
 最初は恋文の類かと思ったりもしたが、この俺に恋文など縁が無い。
 ならば果たし状的なモノかと思い、開けてみれば……。

【お前の女は頂いた。返してほしければ、武器を持たずに体育館まで来い。
 なお、お前の取り巻きにこの事を知らせたら、女を殺す】

 そんな、ワケの分からん事が書かれていたのだ。

 ……俺の、女? 誰の事だ?

 最初は全く誰の事だか分らなかったが、すぐに雅姫の事ではないかと思い至る。
 俺に関わりある女と言ったら、現時点で雅姫以外、思い当たらない。
 それだけ俺は、家が極道だったがために、女とは無縁な人生を歩んできたからだ。

 というか、まさか……人質とはな。
 このような形で刺客が俺の命を狙ってくるとは。
 親父の部下の忠告も当たるモンだな。

 だが同時に、これは敵対組織が俺をハメるための嘘ではないかとも思う。
 なぜならば雅姫も、一応、異能力者の端くれである。
 俺のもとにきた情報が嘘でなければ……の話ではあるが。
 もしそうなら俺の家の敵対組織に彼女はそうそう簡単に捕まる事は無いだろう。

 けれどさらわれた事が本当であった場合、非常に大変なので、
 とりあえず教室まで確認しに行った。
 彼女は真面目な人だ。だからいつも、朝早くから学校にいる……。

 ――いつも来ている時間に、彼女は居なかった。

 ただ遅いだけなんだと、思いたかった。
 けれど、どうしても不安は拭えない。
 もしも彼女が、とてもとても酷い目に遭っていたら。
 そう考えただけで、心臓が、異常なくらい高鳴る。
 冷や汗が、頬を伝う。

 そして、気付いた時には――。

 ――俺は、大きな足音を立てて走り出していた。

 向かうは、体育館だ!!

     ※

 体育館のドアは、開いていた。
 中に入ると、電気の点いていない、薄暗い広大な空間が目の前に広がっていた。
 目を凝らすと、その中心に、痩身の人物と、その人物の足元の床に転がった人物が立っていた。
「ずいぶんと遅いじゃないですか」
 立っている人物が、俺に声をかけながら、俺がいる方へと歩を進めた。
 坊主頭で、三白眼の、俺や雅姫と同い年くらいの男だ。

 そして彼の足元で転がっているのは――眠っている天谷雅姫だ。

「待ちくたびれましたよ。何度か、この娘を見捨てたのかとも思いました」
「冗談じゃねぇ。カタギが自分のせいでさらわれて、見捨てる奴は侠(おとこ)じゃねぇぜ」
 そう言いつつ、俺は相手のもとへと歩を進めた。
 見れば見るほど、男は今まで見た事も無いヤツだった。
 転入生が刺客だという考えは、親父の部下の思い過ごしだったのだろうか。

「おや、近付いていいんですか? 近付けば、あなたの女に何をするか分からないですよ」
「お前の顔がよく見えないんだ。死ぬ前によぉ、俺を殺した奴の顔くらい覚えておきたいんだよ」
 近付く理由を、適当にでっちあげる。
「というか、ソイツは俺の女じゃねぇ。無関係のクラスメイトだ。とっとと開放してくれや」
 自分でも、徐々にドスがきいた声になっていくのが解る。

 そう。俺は怒っていた。
 敵対組織の刺客が俺の好きな女をさらった事に対してもそうだが、
 彼女に危険が及ぶ事を微塵も想定していなかった、俺自身にも。

「御冗談を。あなたがこの女と一緒に居るところはしっかりと確認しましたよ?」
「……なに?」
 まさかこいつ……雅姫が普通の学校生活を送れるようになったキッカケである、目撃者か?
 一瞬そう思ったが、そんな事は後で調べればいい。
 今は、どうにかして距離を詰めて、隙を突いて雅姫を助け出さないと……。

「おっと、それ以上は近付かないでください」
 近付く途中で、男は言った。
 俺は思わず、ピタリと足を止めた。
「それ以上近付けば、さすがに彼女に何もしないわけにはいかないですよ」
 そう言うと、男は指パッチンをした。
 いったい、何の真似だと思ったが……。

 次の瞬間、驚愕した。

 なんと、眠っていたハズの雅姫が立ち上がったのだ。

「驚きましたか、若さん?」
 ニタニタと薄気味悪い笑みを見せながら、男は言う。
「これが私の能力です」
「……情報通り、お前も異能力者か」

「ええそうです。ちなみに私の能力は『液体操作』。
 と言っても血液の逆流とか、そんなエグい事はしません。
 私、そういうスプラッタな映像が嫌いなんですよ。
 ちなみに私がこの世で1番嫌いなのはゾンビ映画です。
 気持ち悪いとか以前に、あの痛々しげな状態のゾンビがですねぇ、
 なんかこう、見るとトリハダが尋常じゃないほど立つんですよ。
 というワケですので……」
 長々とした説明の後、彼は再び指パッチンをした。
 すると、さらなる驚愕の出来事が起きた。

 雅姫の体が勝手に動き、なんと服を脱ぎ始めた≠フだ。

「は!?」
 ギョッとすると同時に、思わず目を逸らした。

 だがそれがいけなかった。

「隙ありです」
 男がそう言った直後。
 なんと雅姫の体が、あり得ない速度で俺の間合いへと移動した。
「!?」
 思わず後退しようとした。
 だが次の瞬間。

 俺の腹に、1撃が入った。

 雅姫による、寸勁だった。

「がっ……はっ……!!」
 まるでハンマーで殴られたような、とんでもない威力だった。
 おそらく俺が後退しようと重心をズラしていなければ、確実に今の一撃で墜ちていた。
 というか、なんで雅姫が寸勁なんて技を使え……まさか男がさせているのだろうか。
 さっきも、体育の授業前以外で絶対にしないであろう脱衣≠烽オたし……。

 ……そういえば、と思い出す。

 男は自分の能力を『液体操作』だと言っていた。
 そして人間の体は、7割が水だ。
 なるほど。男は水分を含むモノを自在に操る事ができるらしい。
 恐ろしいヤツだ……しかし、それなら俺の体を操って自害させてもよかったんじゃ?

「さすがは極道。ボスから聞いた通り、我々への備えができているようですね。
 その程度の一撃じゃ倒れないくらい、肉体改造にも余念がないようですね」
 そして男は、再び指パッチンをした。

「チッ」
 痛みをこらえ、残っている力を使って、すぐに横へと避ける。
 俺がいた場所に、雅姫のかかと落としが炸裂した。
 ブレザーを脱ぎ、そしてワイシャツのボタンが半分ほどはずされた
 破廉恥な格好になったが故に、制服という拘束から少々解き放たれ、
 そのB級アクション映画的な激しい動作で雅姫の胸元が大きく揺れる。

 …………意外と、胸があるんだな。着痩せしてたのか?

 腹に鈍痛が走る身としては何とも眼福ではあるが、
 雅姫の名誉的に、そして目の前の状況的に長く見ている場合じゃない。
 すぐに雅姫の回し蹴りが飛んでくる。
 とっさに躱す俺。
 今度は掌底が飛んでくる。
 
 …………捕まえた。

 俺は飛んできた雅姫の腕を掴み、そのまま後ろ手に回して動きを止めようとした。
 だがその前に雅姫は、俺にそのまま突っ込み、頭突きを食らわせてきた。
「ぐっ!?」
 衝撃で、一瞬目がチカチカした。
 その瞬間を、雅姫は逃さない。
 すぐに俺に正拳突きをくらわせた。

 …………思わず、膝をついてしまった。

「やれやれ。呆気ないですねぇ。極道とはいえ常人、といったところですか」
 相変わらず男はニタニタ笑っている。

 自分の手は汚さず、自分が操るモノに全てを背負わせる……下衆な男が。

「まぁ、私の能力でこんなにも長い時間生き残っていた人は少ないですからねぇ。
 大抵の敵は、私の能力で襲いかかってくる味方に攻撃を与えられず、
 最初から勝負を捨てる人が多かったですので、
 個人的に、称賛に値いたしますよ。あなたの戦いには」

 下衆男がまたしてもベラベラと話し出す。
 長話が好きなのだろうか、この下衆男は。

「ですが、ここまでのようですね若さん」
 下衆男が手を上げる。
 指パッチンの前の動作だ。
「私のボスが、あなたを人質として欲しています。
 そして私のボスはせっかちですので、そろそろ墜ちてほしいのです」
 下衆男が再び指パッチンをした。
 雅姫の体が動く。

 そして。

 同時に俺も動いた=B

「!?」
 下衆男が驚いた顔を見せる。
 一瞬、俺への攻撃を忘れたためか、操っている雅姫の体の動きが鈍くなる。
 その瞬間を、俺は見逃さない。
 すぐに雅姫に近付き、その体を腕ごと抱きしめ、床に押し倒した。

 倒れる途中、なんだか胸元に柔らかい感触を覚えたが、
 すぐにそれを頭から追い出した。
 同時に俺は、下衆男へとあるモノ≠投げつけた。
「!?」
 反射的に右手で受け取る下衆男。
 俺が投げたのは、シャーペンの芯入れと同じくらいの大きさの金属の板……否。

「やれ。小五郎」

 次の瞬間。
 1発の弾丸が、下衆男を襲った……。

     ※

「む? 若が校舎内で急いでおられる」

 数十分前。
 高校の全容が見渡せる、高校の近くにそびえるマンションの屋上にて。
 全身を黒装束で統一した男が、狙撃銃の光学スコープ越しにそれを確認した。
 彼は、彼の目と鼻の先にある高等学校に特別に入学する事になった、
 とある極道組織の頭の後継者である若頭を守るために派遣された、
 彼が所属する極道組織一の腕前を持つ狙撃手。
 その名を、生天目小五郎といった。

「そんなに急いで、いったいどこへ……トイレというワケでもないし……」

 小五郎は若頭の動向を確認し続けた。
 そして、若頭がHR前の体育館へと入っていくのを確認して、彼はピンときた。

「あっ! なるほど。呼び出されたんですね、刺客に」
 言うと同時、彼はすぐに狙撃の準備を進めた。

 そして、自分があらかじめ若頭に渡していた発信機≠ェ妙な移動をし、
 さらにはその発信機≠ノ触れている者の体温が変わった事を、
 持参した大型画面の携帯端末のレーダー機能と体温測定機能で確認した直後。

 彼は躊躇なく――引き金を引いた。

     ※

 もしもという時に配備されていた、
 俺が所属する極道組織一の狙撃手からの狙撃を受け、
 俺が投げつけた発信機≠持っていた下衆男の右手に風穴が開いた。

 俺の計画通りだ。
 慌てた様子で窓際の道を通って体育館まで行けば、
 必ず小五郎が察して、俺に合わせてくれると思ったぜ。

「ぐ、ああぁぁああ!?」

 撃たれた直後、下衆男のその叫び声が、体育館中に響き渡る。
 するとその瞬間、俺に抱き締められていた雅姫が目を覚ます。

「……あ、れ……? 私、いきなり頭を殴られて……」
 下衆男に眠らされていたせいか、雅姫は混乱していた。
 その隙に、俺は雅姫から両腕を放し、下衆男に向き直った。

 右手の痛みのせいか雅姫が目を覚ましたせいかは知らないが、
 下衆男は再び、雅姫を操ろうとはしなかった。
 ただただ、追い詰められた小鹿のようにプルプルと震え、
 俺に涙目を見せている。

「な、なななななななななんでっ……なんで立てるんだっ!?」
 そしてどうやら俺が立てる事が信じられないらしい。
 まぁ寸勁と正拳突きを腹に受けたのだからしょうがない。
「なに、簡単な事だ」
 別に隠す事でもないので、タネを明かしてやった。

「正拳突きの瞬間に、氣を腹に集中させて防いだだけだ」

 次の瞬間、俺は「お返しだ」と言って、
 雅姫を操った下衆男の腹を思いっきりぶん殴った。

 下衆男は背後の体育館の耐衝撃ガラスに衝突し、そのまま床にずり落ちて気絶した。

     ※

「おい雅姫、大丈夫か?」
 下衆男が伸びたのを確認して、俺は雅姫に向き直った。

 だがこの時俺は――すっかり雅姫の状態を忘れていた。

 向き直った直後に映る、雅姫の、ワイシャツがはだけた胸元。
 もう1度激しい運動をすれば下着が見えそうだ。
 顔が熱くなり、すぐに目を逸らす。
 そして雅姫は、そんな俺の様子を不審に思い、
 改めて自分の体を確認し……すぐに左腕で胸元を隠すと、

「い、いやあああぁぁぁああああっっっ!!!!」

 今までの彼女からは想像できない程の大きな悲鳴を上げ、
 俺に右手を向け……って、おいまさか……。

 と思った時には後の祭り。

 俺は、彼女の『記憶改ざん能力』をモロに受け、
 のちに彼女と一緒になるまで、この時の記憶を思い出す事は無かった……。

     ※

 まぁ、彼女が俺を殺した事で、一生のトラウマにならなかった事に比べれば、
 この程度の……まるでラブコメのような面倒な展開くらい、安いモンだ。
 


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