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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第16回 若者頭の世界@〜若者頭の日常〜
 
 俺は極道一家の息子である。
 故に小学校時代から1人も普通の友達ができなかった……否。

 できるわけがなかった。

 いやそれ以前にヤクザ者が普通に学校に通えるのかどうかが疑問ではあるが、
 小さい頃は極道やら任侠がどういうものか知らなかった事もあり全然気にしてはいなかった。
 故にいろいろ理解し始めた中学生の頃に改めて気になったので親父にそこんところを訊いてみたところ、
 なんと今まで通った学校の校長がウチの組の幹部(幹部クラスが多すぎて誰だか分からんが)と
 友人であるらしく、その縁で俺を普通の学校に通わせる事ができたそうだ。

 なんだか昔、そんなドラマがあったような気がしないでもない経緯だった。

 しかしそれはそれとして、そんな経緯であるのならば、
 俺の正体がバレない限り普通の人達と同じく平々凡々な生活を送れる……と思いきや、
 なんとウチの組のモンの1部が余計なお世話を焼き、
 俺が、敵対組織の放った刺客やそこらのチンピラに殺されるのを防ぐために、
 わざわざ防弾装甲の黒塗りの車で送り迎えをしたもんだから、
 やはりと言うべきか、1発で俺の正体が学校中にバレた。

 それからというもの、俺の学校生活は孤独だった。
 今まで俺と親しくしてくれていた友達も、みんな離れて行った。
 ヤクザと関わるとロクな事が無いと、親に言われたのかもしれない。
 なにかの番組でやっていたが、学校というモノはコミュニケーションの場ではなかったのか。
 普通の勉学も確かに大事だが、それ以上に人との接し方を学ぶ場ではなかったのか。
 これでは何のために学校に通っているのか分からないじゃないか。

 ……でもまぁ確かに、俺と距離を置けば。

 俺の身の回りの血生臭い騒動に巻き込まれるリスクは減るだろうし、
 俺もカタギのモンが俺と同じ世界に関わって殺されたりするのを見たくない。

 だから俺は、開き直って孤独を貫いた……。

     ※

「「「「「「「「若! おはようございます!」」」」」」」」

「……おう、おはよう」

 高校生活、2学期初日の早朝。
 目覚まし時計の音で目が覚めて自室のドアを開けると、いつものように親父の幹部らが、
 まるで俺が某国の皇帝であるかのように、左右2列に分かれ、
 その上で横1列に何人も並び、頭を下げて出迎えた。
 最初の頃こそ良い気分に浸れていたこの朝の光景。
 だがしかし。何年も同じモノを見せられると、いい加減飽きてくる。

 いっそのこと、挨拶ではなく1発ギャグでもやらせるべきかと、
 いつだったか本気で思ったくらい飽き飽きしていた。
 だがよくよく考えれば親父の幹部連中が1発ギャグをやるのは、
 俺のいる組の新年大会で見飽きているので、
 どっちにしろ『飽き』が消える事は無いのだが……。

「若、今夜親父様と御袋様は隣州の組との会議のため、
 すでに外出されております故、
 できる限り、私達のそばから離れんでください」

「ああ、分かったよ」

 起床後の洗顔のために洗面所に行く道中、幹部の1人に声をかけられた。

 洗面所へと向かう通路の壁の中から。

 親父と何十年も前に知り合い、今なお組のシノギの情報収集ために、
 この日本国を秘密裏に飛び回っている『ヤマクグリ』でもある組員だ。

「ていうか、今日が会議の日だったっけ?」
 いつの間にか洗面所の裏の壁に移動していた彼に、顔を洗いながら訊ねた。
 確か会議の日は、5日後だと聞いていたが。

「いいえ。敵組織の裏をかき、敢えて予定を早めたのです」
「なるほど」

 最近、俺の家を始めとする多くの極道組織によって結成された
 極道連合『極道四十七曾』の仲違いを狙う組織が現れたらしい。

 らしいというのは、まだ不確定の情報だからだ。

 だがある程度、分かっている事はある。
 彼らは不可思議な能力で組織間の情報網に干渉し、
 味方同士で交換される情報を誤情報に変えるという、
 なんともハタ迷惑な異能力者集団……らしい。

 おそらくは今まで親父達に潰されてきた組織が雇った、
 今の社会に適応できなかった異能力者達を集めて作った集団だろう、
 というのが親父達の推理だが、果たしてどんな集団なのやら。

 とにかくそんな敵対組織に対抗するための作戦会議を考えるのが、
 今夜、隣州にて行なわれる会議なのだ。

 ちなみに会議には、組長の他にも数人の、武闘派幹部も出席する。
 ヤマクグリな組員は、そのせいで各々の組の本拠地の戦力が減り、
 組長の後継者候補……つまり俺を含めて数十人いるとされる、
 若者頭達を警護するための戦力が削がれ、その隙を敵対組織に狙われ、
 俺が殺される事を危惧しているのだろう。

 まったく、まだ高校生になったばかりだというのに……。

 次期組長候補というのは、とんでもなく大変な立場だ。

 とまぁそんな事情はあるが、今は朝食の時間だ。
 この時くらいは明るい気分で食べたいので組の話はやめにしよう。
 今日の朝食は……また煮魚定食か。
 たまには海外の料理も食いたいもんだ。

     ※

 登校は、またしても防弾装甲の黒塗りの車だった。
 いつ見ても、まさに極道の車というべき高級車だ。
 車内の匂いからしてそもそも、他の車とは違った。

「そうそう若、今日はいつもよりも、
 例え授業中であってもお気を付けください」

 走行中、運転手を務める組員が話しかけてきた。

「あ? まさか殺し屋が来るような情報でも掴んだのか?」
「……まだ不確定要素ですが、若の所属するクラスに今日、転入生が来るそうなんですよ」
「……まさかソイツが、殺し屋だとでも?」
 俺は鼻で笑った。

「それが不確定だからこそ、気を付けてほしいのです」
「分からないんだったら、カタギなんじゃねぇのか?」
「それが……その転入生の身辺調査をしてみたのですが、
 どうにも奇妙な経歴と噂の持ち主でして……」

 いつの間に調べたのやら。
 というか俺の安全を確保するためとはいえ、転入生でも身辺調査に遠慮は無しか。
 つくづく、トンデモない家に産まれてきちまったよ。

「で、その奇妙な経歴と噂ってのか?」
 一応気になったので訊ねると、
「まずその転入生の名前は天谷雅姫(あまがいみやび)。
 中学まで『天照寮(てんしょうりょう)』という名前の児童養護施設にて生活しており、
 高校に合格するなり1人暮らしを始め、生活費はバイトで稼いでいます。
 しかし合格した高校で、天谷は……いわゆる『魔女狩り』事件の被害に遭い、高校を中退。
 その後、我々の情報網にも引っかからない場所へと潜伏したとしか思えないほど、
 我々でもその後の消息は掴めず……そして現在に至ります。
 ちなみに『天照寮』には、赤子の時に施設の前に置き去りにされていたそうで、
 両親の情報については何も掴めませんでした」

「……確かに、なんともキナ臭いヤツだな」

 天涯孤独な少女が、高校でなんらかの異能力を発揮し、
 イジメに遭い、どこか知らない場所へと潜伏し、
 そして親父の留守と同時に表の世界に再出現……。

 何か裏があるとしか思えない経歴だな。
 組員がここまで警戒するのも頷ける。
 俺の所属する組が現在敵対している組織も、確か異能力者集団だから、
 その刺客として俺のもとに派遣された可能性は高いわけだ。

「その、異能力についての情報は?」

 今や異能力者が増え始めたこの世界。
 俺たち極道もそんな変わりゆく世界に対抗するために、
 様々な対抗策を練ってきた。
 もちろん俺も例外ではない。
 相手がどんな能力者であろうとも、多少、ケガは負うだろうが、
 それでも負ける気はしない。

 だがそれでも、もしもという場合があるので、相手の情報を一応訊いてみた。

「相手の思考を読み取る。相手の記憶の改ざん。予知。
 今現在判明しているのは、これだけです」
「PKは?」
「我々が調査した限りでは、ございません」
「じゃあ少なくとも、突然吹っ飛ばされたりは無い、か」

 それでも、敵に回ったら手強い事この上ないが。
 相手の思考が読めるんだったら、それこそ能力者の身体能力を
 上回る攻撃じゃないと当たらないだろう。
 記憶改ざん能力も、気をしっかり持ったまま一瞬で勝負を決めれば問題ない。
 予知能力も、断片的にしか未来を視られない能力だと聞いているので、
 連続で違う手段の攻撃をおこなえばいくつかは通じる可能性はある。

「……そんじゃとりあえず……無心でも貫いてみますか」

「ですが若、頭を使わないとだんだんボケていくという統計の結果があります。
 親父様は、これ以上若の成績が下がるのは看過できないと先日おっしゃって――」

「わかったよ! 学力に支障が出ない程度に警戒すりゃあいいんだろ!?」

 まったく……ほんとトンデモない家に産まれちまったぜ。

     ※

 そして組員の忠告通り、組が掴んだ情報の通りの転入生が、
 俺の所属するクラスにやってきた。

「はじめまして。天谷雅姫といいます。どうかよろしくお願いいたします」

 雅姫は腰までかかろうかという黒い長髪をツーサイドアップにまとめた、
 清楚可憐な容姿の和風美少女だった。
 性格はおとなしい方なのか、声に抑揚が無かった。
 体格は、完璧と言ってもいいほど整ったスレンダースタイル。

 ………………敵対組織め、いったいどこでそんな情報を……。

 都合が良すぎるレヴェルで、俺好みの女性じゃないか。

 刺客かもしれないのに、一目惚れしてしまった。

 組員からの忠告が無かったら、間違い無く、少なくともハニートラップに引っかかっていた。
 彼女の情報、あらかじめ聞いておいて正解だったかもしれない。 

 正直に言えば、組員達の杞憂で終わってほしい。
 そしてさらに言えば、俺と彼女の立場の壁が無くなってほしい……。

     ※

 しかし現実はそう甘くはなかった。
 俺が一目惚れするほどの美少女なのだ。
 クラスの男子どころか、同学年、いや男性の先輩でさえも放っておかない。
 休み時間にでもなれば、いろんな男子生徒が彼女の周り、
 それが無理なら一目見ようと教室の出入り口に群がった。

 ……正直言って、呆れる光景だった。

 彼女の他にも、それなりに整った顔立ちの女子もいるだろうに。
 なぜ転入生というだけで、しかも美少女だというだけで、
 こうも熱狂できるのだろうか……。

 俺個人としては、彼女が刺客だった場合……この状況はありがたいが、
 群がられて苦笑している彼女を見ていると、なんだか哀れに思う。
 しかも、そんな彼女を見つめる、クラスの女子の視線に、
 嫉妬や憎しみのそれが混じっているのも分かる。

 これは近い内にイジメが起こるな……と思うと、さらに彼女が哀れに見えた。

     ※

 だから俺は、早いところ決着をつける事にした。
 事が起こる時期さえ早めてしまえば、おそらく彼女は次の標的の前へと移動するだろう。
 彼女のような美少女が俺の前からいなくなってしまうのは非常に無念極まりないが、
 これも、彼女が前の高校で受けたイジメが再び起こらないようにするための措置だ……。

     ※

 俺は彼女を、ありがちな手段ではあるが、手紙で呼び出す事にした。
 俗にいうラブレター……であるが、今回それからラブは抜いたヤツだ。

「え、えっと……気持ちは嬉しいんだけど……」

 そして案の定、先方は嬉しい勘違いをしてくださった。
 しかもなんだ、俺に少しは気があるのかこういう状況は初めてだからか……。
 絶対後者だな。
 とにかく彼女は顔を赤らめていた可愛い。

 ……けど俺は、言わなくてはならない。

 告白ではなく。

 質問を。

「いい加減、正体を明かしたらどうだ?」

 ボディガードの組員は校内までは入ってこれないので、
 今の状況は自殺行為に等しい。
 例え俺が、どれだけ強くとも。

「お前の過去はある程度……俺の家、センコーから聞いているだろうが、
 俺の家には相手の身辺調査をできるヤツがいる。
 そいつによって、ほとんど調べ上げられている」

 けどイジメなんてモノを、俺の所属するクラスで起こしてほしくない。
 それによって、雅姫にトラウマを掘り起こしてほしくはない。

 だからこそ、俺は言う。

「お前は一時期、表の世界から姿を消しているな」

 その端整な顔に惹かれながらも、なんとか話す。
 彼女のトラウマを掘り起こすかもしれない。
 だがそれは、もし彼女が刺客ならば。

「それに、前の学校で『超能力騒ぎ』があったのも聞いた。
 そして超能力を持つ集団が、俺のいる組を潰そうとしている事も……」

 俺の殺害、もしくは誘拐の失敗によって。

「天谷雅姫、お前は……俺の命を狙っている刺客、なのか……?」

 今この瞬間の出来事の中だけで、完結する。

     ※

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜…………」

 下校時刻。
 迎えに来た黒塗り防弾装甲車の中で、俺を深い溜息を吐いた。

「若、大丈夫ですか?」
「これが大丈夫なように見えるのかよ」
 思わずありきたりなツッコミを入れる俺。
 だけどそのツッコミには、いつもの気力は入らない。

 なぜならば、ハズレだったのだから。

 天谷雅姫は、刺客じゃなかったのだから。

 ほんの数瞬だけだが、彼女につらい過去を思い出させてしまったのだから。

「しかもよぉ、妄想癖が俺にあるんじゃないかって誤解されちまったよ。
 言葉では言っていなかったけど目がそう言ってた絶対あの目はそうだ、うん」
「若、我々に言わずに行動したからそうなったんでしょ?
 ついに刺客と激突! な感じになったら遠慮せずに呼んでくださいよ。
 まだダメだ! な感じだったら止めますし、助太刀いたしますから」

「それ以前に校内に入れるのかよ」
「それはそれ、これはこれですよ若」
「……何も考えていないだろ」
 ジト目で親父の部下を見やった。
 目を逸らした……っておいバカ前見ろ前。

 なんだかムカついたが、雅姫に変な誤解をされた事にショックで怒る気力は無かった。
 というか、そもそもこうなったのは独断に走った俺のせいだ。
 例の異能力集団によってもたらされた誤情報を俺に話した、ならばともかく、
 せっかく情報をくれた部下に対して怒るのは筋違いだ……。
 


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