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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第15回 謎の考古学者A〜大地先輩の運命の出会い〜
 
 人魚と別れて……いったいどれだけの時間が経ったのだろう。
 数日経ったようにも、数年経ったようにも感じる。
 そんな風に時間の概念が無くなるほど、相変わらず僕は旅を続けていた。

『義兄さん……いったい、いつまで帰ってこないつもりなんだい?』

 いつだったか……国際電話で久しぶりに話した憲司との会話を思い出す。
「……すみません、まだ……帰れません」
『義兄さん、いい加減にしてくれ』
 苛立っているのだろう。少々声を荒らげつつ憲司は言った。

『僕もそうだけど、それ以上に、輝はとても心配しているんだ。
 小姫の幻想に囚われているけど、それでも僕には分かるんだ。
 なぁ義兄さん。1度でいいから……帰ってきてくださいよ』

「……憲司」
『このまま、もし義兄さんまでずっと帰ってこなくなったら、
 もしも輝が、周りの事を認識できるようになったら、
 今度こそ、輝は……輝はッ!!』

 憲司が、電話の向こうでどんな顔をしているのか。
 それが鮮明に分かるかのような、絶叫だった。
 けれど、僕はまだ帰れない。

「……もう少し」

 確かに、このまま帰らなかったら……今度こそ家族は引き裂かれるかもしれない。

 でも……。

「もう少しだけ……待っててくれないか?」

 僕は、あの人魚の言葉を。予言を――。

「もう少しで……輝を救える手段が、見つかるかもしれないんだ」

 ――信じたいんだ。

 あの子と共に過ごした数日間の中で、僕は知ったんだ。
 あの子は、絶対にウソをつくような子ではないと。

 電話を切った後、僕は、人魚の予言の中に出てきた存在を捜すため、
 とりあえずシルクロードを西へ西へと、移動し続けた。
 なぜシルクロードなのか……自分でもよく解らなかった。
 もしかすると僕の趣味なだけかもしれない。
 1番身近な、たくさんの人が行き来する世界の道≠セったからかもしれない。

 その存在がいる核心は……無かった。
 だけどその存在が現れるまでジッとしているのだけは嫌だったから。
 僕はガムシャラに、まるで三蔵法師一行のように西へと進む。

     ※

 そして今。僕はシルクロードが横断する国の1つ『土国』に来ていた。
『土国』はアジアとヨーロッパを結ぶ国の1つである。
 東西様々な人種や文化が融合したような、とても面白い国だ。
 しかしその影にはやはり凄惨な戦いがあったりもしたわけだけど……それは置いといて。
 
 とりあえず僕は、その土国の中でも特に人が多く集まるんじゃないかと
 個人的に思っている世界最大の市場『グランドバザール』へと入った。
 そこはさすが、シルクロードの隊商(キャラバン)の通り道と言うべきだろうか。
 なかなか商品……というか店の数が多い。確か5000軒以上もの店が並んでいるとか。
 しかもその内部は迷路のような複雑な道となっており、迷わないか心配だ。

「さて、どこから捜しましょうかね」

 アテなど無いけど、とりあえず大きめの通りから始めようと思う。
 それから僕は、じっくりじっくりと、僕が捜している存在が僕を見つける余裕を与えるために、
 たっぷりと時間をかけて多くの店を回った……全ての店を回るだけの時間が減るが、仕方ない。
 目的は、あくまでも『妹夫婦を救える存在』なのだから。

「なぁ兄ちゃん、買ってかない? 安くしとくよ?」

 そんな風にグランドバザールを回り始めて……17軒目の店の商品を見ようとした時だった。
 その17軒目の店を構える主人に、声をかけられた。見ると、どうやら『土国絨毯』の店のようだ。
 そしてその店の商品を見た直後……僕は思い出す。

 家の絨毯が、地味な柄だった事を。

 この際だ。新しい絨毯を勝ったらどうだい?
 ちょっと待て! さすがに衝動買いはマズイ!

 同時に心の中で、天使と悪魔が意見を出し合う。

 何がマズイんだよ、いいじゃねぇか絨毯くらい。
 いや相手は商売のプロだ。もしも高く売りつけられたらどうするんだよ。
 そこは日本国民の値切り≠フ腕の見せ所だろ?
 そもそも君は絨毯の相場を分かっているのかい?
 できる限り安くすれば問題ないじゃねぇか。

 ――悪魔(笑)の勝利!

 交渉術はともかく、値切りの経験はありませんが……やってみましょう!
「じゃあ、買いましょうかね。いくらですか?」
「えっとだね――」
 そして僕と店主の、激しい値切りバトルが繰り広げられる……かと思いきや、

 ヒュバッという風切り音と共に、右手に持った財布が目の前から消えた――否。

 僕はバッと、周囲を見渡した。そして見つける。
 2人の15歳前後くらいの年齢の少年2人が
『グランドバザール』出入り口へと走り去って行くのを!!

「なっ!? ひ、ひったくり!?」
「兄ちゃん、早く追わないと」

 慌てる僕に、店主がまったりした調子で言った。
 なぜ店主は慌てないんだ!? ここではそれが普通なのか!?
 などと一瞬思ったが、その疑問の答えを考えている場合ではない。
 僕は店主に1回だけ頭を下げると、すぐにひったくりの2人組を追った。

 しかし2人は、まるで陸上選手のような速さで走り去ってゆく。
 しかも僕からひったくった財布を、まるでアメフト選手のようにパスしつつ
 走っているために、もしも追いついたとしても奪還できるとは思えなかった。
 2人をまだ、僕の視界の中に捉えてはいるが、このままではまかれる。

 一応こういう事態を見越して財布を2つに分けて持ってきてはいた。
 だからホテルまでは戻れるくらいの金はあるのだが、それでもこのまま逃げられるのは悔しい。
 多くの国を股にかけて歩き続けるほどの体力は僕にあるにはあるのだが、
 ここはまるで迷路のような造りの『グランドバザール』である。
 まるでチーターのように短距離で、猛ダッシュをしてしまえば、
 あとは角をランダムに曲がるだけで、すぐに姿をくらませる事ができるのだ。

 そして、ひったくりの少年達は。

 ついに僕の前方10mほど先で。

 左へと、曲がろうとした―――。

 ―――のだが、

 その瞬間、僕の隣から何か≠ェ物凄い速度で走り抜けて行った。
 よく見ると、それは僕と同い年くらいの、東洋人の女性であった。
 腰までかかる黒い長髪の1部を、2つのシニヨンにした、
 まるで大和撫子のような雰囲気を纏う、美しい女性だった。

 そんな女性が……僕を追い越し、ひったくり少年達に追いつかんばかりの猛ダッシュを見せていた。

 女性が猛ダッシュして自分達を追っている事に、
 後ろを振り返って初めて気付いたひったくり少年達は、
 最初は左へと曲がろうとした……ところで急ブレーキをかけ、
 少々足に無理をさせながらも180度回れ後ろして、
 僕と女性から見て右側の道へと駆けようとした。

 女性は、僕と同じように少年達は左の道を進むと思い込んでいたために、
 間違えて少年達が先ほどまでいた左の道へと曲がったまんま、
 少年と同じように、とっさに急ブレーキをする事ができない。

 女性が誰だか、僕は知らない。
 そして女性も、僕の事は知らない。

 にも拘らず、女性は僕を助けようとしてくれた。
 それだけでも、とてもとても、嬉しかった。
 けれどやはり『グランドバザール』の道を熟知しているひったくり少年達には、
 誰であろうとかなわないんだな……。
 女性が少年達を捕まえる事に失敗した瞬間、ふと心の中でそう思う。

 しかし次の瞬間。

 驚くべき事が、起きた。

 女性が間違えて左の道へと入ってしまった……まさにその瞬間。
 なんと女性は、駆け込んだ勢いをそのままに、
 曲がり角の壁の柱へと跳び、そしてそのまま柱を踏み台にして、
 身体をバネのように使い、一気に少年達の駆ける方向へと跳んだのだ。

 曲がり角の壁が邪魔で、3人の姿が見えなくなった。
 僕は慌てて3人が向かった方向を見た。
 するとそこでは、まだ3人のチェイスが繰り広げられていた。
 少年2人が、徐々に高い障害物の上へと飛び上がり、ついには壁の上を走る。
 女性も少年達を追いかけ、いろんな障害物を使って壁の上へと到達し、駆けた。
 それを見かけた少年は、さらに難易度の高い場所へと移動しながらも、僕の財布をパスし合う。

 それを見て、僕は驚愕した。
 まさにその様は、かの有名な源義経の八艘飛びのようだったのだから。
 そして僕は、ここでピンときた。
 やはり源義経は生き延び、大陸へと渡っていたのだと!

 源義経は、幼少期に鞍馬の天狗に教育を受けたという伝説がある。
 そしてこの天狗であるが、一説によると海外からの移民ではないかという仮説が存在する。
 鼻が高く、そして肌が赤いのだ……もうお分かりであろう。
 それこそが、海外出身であった事の確たる証拠。
 おそらくその天狗は、アフリカ発祥の『超人』を意味する言葉『ヤマカシ』と、
 人間の本来の身体能力を引き出す修行法であるパルクールの語源となったと言われる、
 古代アフリカのとある民族紛争の中で英雄となったヤマカシ・パルカール氏に、
 その超人的肉体になるための鍛練法を教わった弟子の1人である欧州の民なのだ。
 そしてかの源義経は、衣川の戦いの最終局面にて、その欧州出身者である師匠にこっそり連れられ、
 そのまま北へ北へと進み、ついには海を越えてそのままチンギス・ハーンとして第2の人生を謳歌した。

 そしてその時に、おそらくシルクロード方面にも彼の八艘飛びが伝わったのだろう。
 僕の財布をひったくった少年達と、その少年達を追っている女性がその証拠だ。
 僕は今、歴史学者だけでなく、民族学者も感動しうる奇跡の瞬間に遭遇している……って、
 そうじゃなくて早く彼女達を追わないと見えなくなる……と思ったのだが、

「はいこれ、あなたのでしょう?」

 日本語で、話しかけられた。

 声の主は――先ほど少年達を追って行った女性だった。

 いつの間にか、少年達を追っていた彼女が僕の前に姿を現していたのだ。
 僕がひったくられた財布を、手に持って。
「!? い、いつの間に!?」
 彼女が日本語を喋れる事以上に、いきなり目の前に現れた事に対して驚愕する僕。
 いや、驚愕はこれで終わらない。僕はすぐにもう1つの事柄に気付く。

 少年達が………………道の片隅でボロ雑巾になっていた。

 まさか目の前のこの女性がしたのだろうか。
 だとしたらこの女性、得体が知れなさ過ぎる!

「ちょっと、取り返してあげたのにお礼もないの?」
 僕が少年達の末路と、得体の知れない女性とを交互に呆然としながら眺めていると、
 当の得体の知れない女性は、プンスカとコミカルに怒りながらそう言った。
 僕は一瞬、何を話しかけられたのか分からなかったけれど、すぐに目の前の事を理解した。

「あ、いやごめん……えっと、ありがとう。取り返してくれて」
「ふふ、あそこで助けなかったら人として最低でしょー常考」
「……んん?」
 じょう、こう? なんだろう。どっかで聞いた事があるんだけど思い出せない。

「というかこんな場所に1人でいたら危ないわよ。またさっきみたいにひったくられるお」
「……お?」
 またしても聞き慣れない単語。
 果たしてその正体は……さておき、

「いや、それを言ったら君も危ないんじゃないかなぁ?」
「え? 私?」
 そんな女性の反応に対し、僕は一瞬頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
 だがすぐに、この女性が、あの少年達を撃退した事を思い出す。

「あ、そうだね。君は強かったね」
「……ううん、私は弱いよ」
「??」

 なにやら女性がボソリと言った気がするが、よく聞こえなかった。
 だから僕は思わず、女性の気持ちも考えずに、何を言ったのかを訊こうとした。
 でもその前に、女性はニパッと笑いながら僕に言う。

「あ、心配してくれるん!? 照れるっちゅーの!」

 今思えば、訊かなくてよかったと心から思ったワンシーンであったが……。
 ま、またしてもどっかで聞いたような言葉が!
 いったい何なのか、そっちの方も気になる……。

「と、そうそう、ところでオニーサンはどうして1人でこんな所に?
 さっきも言ったけんど、集団で行動しないとさっきみたいに危ないお」
 そんな僕の気も知らないで、女性は僕に質問をしてきた。
 僕は返答に困り、とりあえず適当に答える事にした。

「いや、ちょっと……人を捜してて」
「人?」
「うん」

 これは僕と、僕の家族の問題。
 だからこの女性には詳しくは事情を話さない。

 でも……僕は同時に思ったのだ。

 もしかすると、この女性が。
 僕の捜し求める存在についての情報を知っている可能性があるのではと。

「……あ、そうだ君……えーと?」
「人に名乗る前に、まずは自分から名乗るのが常識っしょ」
「あ、そうだね。僕の名前は土屋大地。大学生だ」
「私の名前は一姫。天海一姫(あまみいつき)。同じく大学生なのだぜ!」
「なのだぜ!?」

 だから僕は――彼女にその存在についての情報をちょっとだけ話した。

 まさか一姫さんこそが、その存在だったとは気付かずに……。

     ※

「――まぁそんなわけで、遭難の末、運良くイエティ達に助けられた僕は、
 そのイエティの群れと交流がある、ヒマラヤの奥地に存在するという
 幻の寺院『闇悟羅(あんごら)寺』に連れて行かれて、事なきを得たんだ」
「「い、イエティ!?」」
 回想しながら話した僕の物語に、思った通りの驚愕をしてくれる宇宙くんとハイド君。
 僕は2人の反応の良さに嬉しさを感じ、笑みをこぼす。

「こ、今回はイエティが出ましたか。さらに荒唐無稽な話に磨きがかかっていますね」
「ちょ、ハイド君、失礼だよ」
「ふふ、まぁいいよ」
 2人の会話を見ていて、またしても僕は笑みをこぼした。


 捜していた存在である一姫さんと出会って、その後に繰り広げた冒険は、今でも忘れられない。
 今でも夢だったんじゃないかと思うくらい、いろいろぶっ飛んだ大冒険だったからだ。
 そしてそれが夢じゃない証拠は、今も僕の周りにはいくつかある。

 そのどれもが、僕にとっては大事なモノ。

 だから僕は、守りたい。

 例えこの命と、引き換えにしてでも……。

     ※

 最後の部分は、出版社に託されていたメモの最後の部分にあった走り書きの内容を載せたものです。
 大地先輩が執筆した自伝の内容とは関係ありませんが、今回の事件の謎を解くヒントになるのではと思い、掲載しました。

 まさか大地先輩が、僕とハイド君との青春時代の裏で、これほどの悲しみを背負っていたとは。
 後輩として、少しは気付いてやれなかったのかと……読み終わった今、僕は後悔しています。
 しかし今はまだ悲しんでいる暇はありません。
 悲しむのは、事件を解決してからでも遅くはありません。
 だから今は、大地先輩の過去から、少しでもこの事件の全貌を見い出さなくては。

 おそらく事件の鍵を握るのは、大地先輩と土国で出会った謎の女性。
 まずはこの女性の素性を、翔哉さん達に調べていただきましょう!
 


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