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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第13回 蜜蜂と極道とK〜招かれるはずのない来訪者たち〜
 
『Little-Bee』の面々が滋賀州へと『出入』し、数時間後。

 ここは喫茶『RAINBOW』。
 くつろぎと気分転換が出来る場所として有名な喫茶店である。
 店主の名は秋宮奈々子。
 そして店員は、この喫茶店の看板娘と看板息子である、双子の秋宮真琴と秋宮亮。
 回転扉である出入り口を抜けると、まず目に入るのはこの3人の営業スマイルだ。

「いらっしゃいませ、何名様ですか? お1人ですね、こちらにどうぞ」
 とても2人の子供を持つ親とは思えない、とても美しい店主だ。
 この町のミスコンにも通用するのではないか、と思えるほど綺麗だ。
 まずはそんな店主の笑顔に癒されて、

「「いらっしゃいませ!」」
 痩身でありながら、スポーツをしているためにしっかりした体つきをした浅黒い肌の看板息子と、
 その彼と同じような顔をした看板娘の2人が、声をかけてくれる。
 元気な双子の子供達に元気を分けてもらって、ようやく日頃の怨み辛みの4割は無くなる。
 怨み深過ぎだろ、などとツッコミが来そうではあるが、しょうがない。

 なぜならば私≠ヘ、常日頃から俗世のいろんなストレスにさらされているのだから……。

「ご注文は何になさりますか?」
 カウンター席に座った私に、店主がミントの匂いのするお冷を出しながら声をかける。
 いい匂いだった。これは……ミントだろうか。さらに怨み辛みが消えていく心地よい匂いだ。
 ミント水の匂いを堪能していた私は、しかし店主の質問に答えない。
 というか、答えられない。答えたくない。

「?? お客さ―――」
 その言葉の続きを、私は聞けなかった。聞かなかった。
 代わりに私は店主に「ごめんなさいね」と言った。
 私の怨み辛みを、ここまで消してくれた喫茶店だったから……少し罪悪感もあったが。

     ※

「あれ? 秋宮姉弟?」
「は? 何言ってんだユージ? こんな所に秋宮がいるわけねーだろ」
 住宅街から街中へと続いている道にて、1台のバイクが停車した。
 ただナンパをしに行くためだけにバイクに跨り走らせていた、真琴のクラスメイトでもある坂元裕士と、
 彼の友達であり、クラスメイトでもあり、同じくナンパ目的で今回裕士とつるんでいる兵藤卓弥が、そこにいた。

 ちなみに卓弥の方はバイクを持っていない。かと言って2人乗りで走っているわけではない。
 というかそれだと男が男の腰を持つというなんとも気持ち悪い構図になるので2人はやむを得ない時以外絶対にやらない。
 じつは卓弥は、裕士のバイクのケツを掴み、スケボーを足にセットする事で、バイクと連動する形で移動していたのだ。

 そんな彼らであるが、移動の途中、この場では絶対に見かけるはずの無い人影達こと秋宮姉弟を発見したのだ。
 そこは、その人影達の通学路でもなければ、友達の家への道のりでも、ましてや娯楽施設への道のりではない。
 にも拘らず、裕士は秋宮姉弟を目撃した。いったいなぜだろうか。
 だが今現在、秋宮姉弟は見えない。通り過ぎてしまったのかもしれない。

「いや、絶対アレは秋宮姉弟だった。断言してもいいぜ」
 バイクの向きを反転させながら、裕士は言った。
「それならそれで、なんで秋宮姉弟がここにいるんだ?」
「知るか。とにかく引き返……いた!」
「え?」
 裕士の台詞にギョッとしながらも、卓弥はその方向へと顔を向け……た次の瞬間、

 ブロロロロロロロロッッッ!!!! と排気ガスを派手に吐き出しながら、1台のバイクが彼らの傍を通り過ぎる。

 その瞬間、荷台に後ろ向きで座らされた上で縛られている秋宮奈々子が乗っているのを、彼らは一瞬だが目撃した。
「「え、えええっ!?」」
 2人は後ろを振り返りながらギョッとした。
 そして2人は改めて、目撃した。
 その荷台に、気絶している秋宮奈々子が縛り付けられているのを。

「な、なんで秋宮のお袋さんが!?」
「ま、まさか誘拐!?」
 2人は再びギョッとした。
 だが驚くのも束の間、背後から「あ! タクヤとユージ!」と女の声が聞こえた。
 それは間違いなく、2人の聞き知った真琴の声だった。どうやらこっちの道にカーブしてきたようだ。

「ちょうどよかった! ユージ、あのバイク追って! ママを取り返すのよ!」
「は!? いきなり何がどうした……って、何勝手に乗ってんだ!?」
 裕士の文句も聞かず、真琴は悪びれもせずにバイクの後ろの飛び乗り、
 バイクのケツを持っている卓弥の手を無理やり引っぺがす。

「は!? ちょ、な、何すんだよ!?」
「亮! アンタは後から追ってきて!」
 卓弥の文句も軽く流し、真琴は彼の後ろにいる亮に指示を出す。
 亮はその場で頷いた。

「ほらユージ! ハイヤァ!」
「俺は馬じゃねぇ!!」
 何がなんだかイマイチ理解し切れていないが、
 秋宮奈々子が誘拐されたという事をかろうじて理解できた裕士は、
 とりあえずガムシャラに、バイクのスロットルを全開にして走らせた。

「舌噛むんじゃねぇぞ秋宮ぁ!!」
「上等よぉ!!」

 そして、両者のチェイスは開始された……。

     ※

「――で、俺と秋宮姉とでソイツを追ったんスけど、撒かれてしまって……」
「結局、秋宮姉弟にソイツが託した伝言通りに、1日かけてここまで来たワケっスよ、琉奈先輩」
「な、なんで真琴と亮のみならず……裕士と卓弥も巻き込まれたんだ!?」
 まるでお祭り企画≠フような急展開に、琉奈は読者の心を代弁して驚いた。
 もうそろそろツッコミラッシュから開放されたい琉奈ではあったが、
 この調子じゃいつまでツッコミをさせられるか分かったモンじゃない。

「というか、伝言だと? いったいその、奈々子さんを誘拐した犯人はなんて言ったんだ?」
『なんだ、琉奈嬢の知り合いか』などと言いたげにその場を去っていく侠たちを尻目に、琉奈は問いかける。
 質問には、亮が答えた。
「……母さんを、誘拐したヤツは……こう言ってました。
『母を還してほしければ、滋賀州のホテル「紅域」に行き、そこにいる貴方達の知り合いと共に「大阪」に向かいなさい』と」

「大阪、だと? というかなぜ私達の居場所が?」
「俺達の動向を監視する必要があるのは、今回の敵だけだよな?」
「まさか、この場所が既に敵に知られているってのか!?」
「つーか、なんで秋宮姉弟にわざわざ大阪州に来いゆーたんやろな、その犯人」
「というか、ナナさん大丈夫なの!?」
「そうよ! そもそも奈々子さんはどうして気絶していたの?」
 亮の返答を始めとし、琉奈、巧壱、龍斗、櫂、美羽琉、優梨が話し合う。

「たぶん、睡眠薬のせいよ! その人、ママにスプレーみたいなもの吹き付けてたもの!」
「というか先輩たち! いったい今回は、どんな騒動に巻き込まれたんですか!?」
 秋宮姉弟が琉奈達に怒鳴る。最初の事件の時はこの2人が巻き込まれたのだから、神経質にもなるだろう。
 誘拐された時の、心に恐怖が徐々に染み渡っていく、あの感覚を知っているならば……なおさらである。

「それについては、僕が全て説明します」
 これまでの事件の解説に名乗りを上げたのは、宇宙であった。
 彼ならば、なんとか4人に説明できるであろう。

     ※

「はぁ!? 卑弥呼ぉ!?」
「俺達ですら知ってる、あの歴史上の偉人が関わってるんスかぁ!?」
 驚きかけた真琴と亮よりも、一瞬早く大きな声で驚愕する裕士と卓弥。
 出端を挫かれた双子はジロリと2人を睨み付けた。

「ええ。今までの情報をまとめると、そんな感じです」
 宇宙は静かな声で話を区切った。
「卑弥呼の秘宝を狙ったヤツらが、え〜……と、小姫ちゃん、と姫花ちゃん? を誘拐したのは理解できましたが、
 どうしてその誘拐事件に……同一犯なら、の話ですが……どうしてウチの母さんまで誘拐されるんですか?」
 解説終了してすぐに、亮はかろうじて冷静を保ちながら宇宙にごもっともな質問を投げかけた。

「それは……僕達にも分かりません」
 宇宙は首を横に振った。
「でも、今回の事件に『大阪組』という極道一家も一枚噛んでいるのは明らか。
 そしてその『大阪組』は、小姫ちゃんと姫花ちゃんの監禁場所の候補の1つです。
 もしかすると……事件の黒幕は、僕達を三手に分かれさせるのが目的かもしれない」

「ああ。おそらくそれで間違いないぜ」
 宇宙の説明終了を見計らって、1人の男が口を挟んだ。
 全員が声のした方に振り向くと、そこには神妙な面持ちの幹也がいた。

「間違いないって……いったいママを誘拐した人達の目的は何なの!?」
 須桜総合事務所に将来勤められるよう、毎日精神の鍛錬を積んできた亮と違って、
 ごくごく普通の一般人と同じ精神力を持つ真琴が、幹也の正体など関係無いと言わんばかりに噛み付いた。

 幹也はそんな真琴を見て一瞬ビックリしたが、すぐに口を開く。
「ヤツらの狙いは、おそらくは時間稼ぎだ」
「時間稼ぎぃ!?」
 ハタから聞けば意味が解らない返答だったがために、真琴はまた絶叫した。

「ああ。ヤツらの狙いは、姫花嬢と小姫嬢を使って、邪馬台国の封印≠解き、卑弥呼の秘宝を手に入れる事。
 だがそれにはいろいろと準備が必要のはずだ。遺跡の鍵穴≠フ発掘とか、開錠の仕方の解析とかな。
 そしてそれらをおこなうには、膨大な時間が必要だ。まぁヤツらなら人海戦術で、明日くらいには完了するだろうがな。
 それで肝心の時間稼ぎの方法だが……親父を通じて『京都』『奈良』『大阪』の連中に連絡を取り、訊いた結果―――」

「ちょい待ち!?」
 櫂がとっさに口を挟む。
「なんで黒幕相手に連絡取れるんや!? 連絡取らん方が、時間稼ぎになるんやないか!?」
 ごもっともな台詞である。だが幹也は表情を崩す事も無く続けた。

「すでに黒幕の正体は割れている。だから居留守を決め込む理由が無い。
 とはいえ無闇やたらに攻め込む事は出来ん。俺達は基本、仲間内での争いはしないからな」
「う、そういえば、そやったな……」
 あらかじめ現在の極道とはどういう存在なのかを聞かされていた櫂はすぐにその事を思い出した。
 その事について詳しく聞いていない秋宮双子と裕士と卓弥は、頭の上に疑問符を浮かべた。

「だがそれだと、仲間内でギスギスした雰囲気になってしまう。俺達『極道四十七曾』はそれも好まない。
 よって俺達は、抗争の代わりに『侠技』をして、仲間内での揉め事に決着をつけるよう結成時に決まり事を作った。
 そして『京都』『奈良』『大阪』が提示してきた時間稼ぎの手段≠焉A案の定『侠技』だったぜ」
「キョーギ? 競技?」
 なにげに幹也達の極道一家の総称が明らかになる中、巧壱達にとっては初耳である単語が出たため、
 みんなの疑問を象徴するように、美羽瑠の頭上にさらなる疑問符が浮かんだ。

「いわゆる『遊戯』だ。時に命の危険性もある、な」
「い、命の……?」
 それを聞いた亮は、さらに混乱した。
「そしてヤツらは、電話によれば俺達を姫花嬢と小姫嬢の監禁候補地である『京都』『奈良』『大阪』にそれぞれ分かれて向かわせ、
 俺達を『侠技』に無理やり参加させる事で、邪馬台国の封印≠解くまでの時間を稼ごうとしているようだ」

「ちょっと、なんでわざわざ『侠技』に参加するような流れになっているのよ!?
 ママやその……小姫ちゃんや姫花ちゃんを助け出すのが目的でしょ!?
 だったら直接、こっそり奪還すればいいじゃない!」
「極道の戦力をナメるな」
 未だに冷静になれない真琴に、幹也は絶対零度の声色で告げた。
 背筋にゾクッと寒気を感じた真琴は、それ以上喋らなくなった。

「こっそり? それができたら苦労しない。櫂から聞いていないのか?
 ヤツらの中には忍者もいるんだぜ? 忍び込んだら最終的に組同士の抗争に発展するぞ」
「だったら……だったら、どうするんや!?」
 櫂が絶叫しながら質問する。
「そんな素直に『侠技』に参加してもうたら、ヤツらの思うツボやないかっ!」

「確かに。だが参加するしかない」
 幹也は一切の迷いも無いまっすぐな眼差しを、櫂に向けながら言った。
 その場の空気がピリピリと張り詰め、さらには徐々に重くなっていく。
 幹也の声には、それだけの迫力があった。
 琉奈達では想像できないほど、多くの修羅場を乗り超えてきた彼だからこそ出せる迫力であった。

「なぜならば、その『侠技』で勝った組は、負けた組に1回だけ命令する事ができるからな」
『『『『!!!?』』』』
 だがそんな空気であるにも拘わらず、そんな空気にした張本人である幹也によって、
 突如希望がある事を告げられたがために、その場にいる全員が顔に出るほど驚いた。

「無論、姫花嬢と小姫嬢と奈々子女史の居場所を吐け……という命令もな」
「!? じゃ、じゃあ!」
「早く勝負を決めれば、姫花ちゃん達を助けられるかもしれない!」
 驚愕のあまり顔を硬直させていた美羽瑠と優梨が、ようやく見えた希望に歓喜した。

「そしてもう1つ言っておく事がある。その『侠技』を端折れる可能性も、出てきた」
『『『『えっ!?』』』』
 さらなる希望が見つかり、歓喜するどころか逆に驚愕する面々。
「どうやら親父によると、どの組の組長とも連絡が取れないらしい」
「?? どういう事ですか?」
 巧壱は質問した。

「これは俺の推測だが……もしかすると、この事件にそれぞれの組の組長は関わっていないかもしれん」
「いやだから、どういう事ですか?」
「俺と同じ若者頭が、この事件を引き起こした可能性があるって事だ」
「な、いったいどういう事だ? 私は極道の事をよく知らないが、組長の許可無く勝手な事は出来ないんじゃないのか?」
 琉奈が質問した。

「ああ。その通りだ」
 幹也は1回頷くと、さらに続けた。
「だが俺達の親父……つまり組長が連絡すれば、相手の組の組長がまず出るはずだ。
 にも拘らず出ないという事は、相手の組長達に何かがあったという事。
 だが若者頭がそれについての説明をしないところからすると、若者頭が後ろめたい事をしている可能性は高い。
 もしかすると、組長は事が済むまで拠点のどこかに監禁されている可能性もある。
 他の組への断り無く拠点の外に移動すれば、その組の近隣の州の組から連絡が入るはずだしな」

「?? なんでだ?」
 外に無闇に出てはいけないという謎の決まりに疑問を感じ、龍斗が質問した。
「組長が拠点を離れた隙に、俺達『極道四十七曾』の敵対勢力が攻め込んでくる可能性があるからな。
 隣県ならぬ隣州の組に、一応コチラの組への警戒をしてくれるよう頼まなきゃいけないんだ。
 まぁそんなワケだから」
 ここで幹也は1度深呼吸してから、なぜか巧壱へと視線を向けて、再び話し出した。

「巧壱、とか言ったな。これからお前に『京都』『奈良』『大阪』にておこなわれる『侠技』について説明する。
 これまでの『侠技』の記録書なども見せたいから、ちょっと別室に来い」
「?? 別にいいですけど……」
 なぜ自分だけ呼ばれるのか皆目見当が付かない巧壱に、幹也は訊ねた。

「んん? わっかんないかなぁ? お前はチームの中でも特に切れ者な気がしたから呼んだんだが?」
「はぁ!? ちょい待ちぃ幹也さん! ここはリーダーの俺が行くのがスジやろ!?」
 一応『Little-Bee』のリーダーである櫂が、不服故に口を挟んだ。
 確かに彼はリーダーである。最初の事件の時に、琉奈よりお墨付きを与えられたリーダーだ。
 故に、櫂の言い分は正しい。リーダーが中心となって作戦を立てねば、そのリーダーはただの神輿なのだから。

 だが櫂の事情を知らない幹也は、不思議そうな顔で櫂を見ながら訊ねた。
「?? お前、お笑い担当じゃなかったっけ? 関西弁だし」
「関西弁関係無いやろがっ!?」
 不意打ち気味に発せられたボケに、櫂はすぐにツッコミを入れた。

     ※

 巧壱が幹也と共に別室に行った後、部屋には琉奈、美羽瑠、優梨、櫂、龍斗、宇宙、亮、真琴、裕士、卓弥の10人が残された。
 どうも台詞だらけになってしまうのも納得の多さである。
「さて、卑弥呼絡みの事件という事が判明したわけだが……」
 敵陣地に向けて出発するのがいつになるかは分からないが、少なくとも巧壱が戻るまでは暇である。
 故に琉奈は、その暇を潰すためにも、そしてみんなと情報を共有するためにも話を切り出した。

「私が先ほど新たに視た夢についても含めて、これからのために、情報を整理しないか?」
 この言葉に、全員が賛成した。
 さすがにここまでで、多くの情報が交錯しているのだ。今の内に整理して置いて損はないだろう。
そして口火を切った琉奈が、最初に情報を開示した……。

「……なるほど、卑弥呼の弟ですか」
 宇宙が顎に手を当て、なぜ琉奈にその情報が、卑弥呼によって与えられたのかを主に思案しつつ続けた。
「で、その弟君に琉奈さんは違和感を持っていると?」
「ああ。なんというか……どうも姉弟というには歳が離れ過ぎているような気がしたんだ。
 それに……なんだか家族以上の情愛も、感じたような気もする」

「琉奈がいうには、確か卑弥呼が10代後半の時に、その弟君は赤ん坊だったのよね」
 優梨は確認のために訊ねた。琉奈は正直に、すぐに頷いた。
「確かに、離れているといえば……離れてはいるわね」
「ていうか、ヒミコに弟君なんていたの?」

「いやそれ常識ですよ、美羽瑠さん」
 宇宙は美羽瑠に指摘した。
「いや宇宙兄ぃ、俺も初耳やで?」
 だが櫂によって宇宙の頭の中だけで形作られていた常識は崩れ去った。
 確かに、この事実を知っている人は少ない方であろう。なにせ教科書にすら載っていないのだから。

「いやそれ以前に、風深が視た、風深に似たヤツは誰なんだよ?」
 龍斗が根本的でありながら、今まで触れていなかった謎について問いかけた。
「卑弥呼の関係者の女性……でしょうかね? 卑弥呼の召使いの1人、とか……」
 宇宙がさらなる思案を開始した。

「というか結局、邪馬台国ってブッチャケどこにあったんスか?」
「そこに行けば全ての問題が解決するかもしれないじゃないっスか。なんでみんな行かないんスか?」
「は? アンタら、ばかぁ?」
 どこぞのツンデレヒロインが言いそうな台詞を、真琴が裕士と卓弥に向けて吐いた。
「どこにあるか分からなかったからちょっと前まで%本国で『邪馬台国論争』があったんでしょ?
 いや、今でもあるか。確か、今度のは『南地方』のどこにあるかの論争だったっけ?」

「え、ちょっと待って真琴」
 だがそこに突如、亮は口を挟んだ。
「どうしたの亮?」
「そもそも、あの『南地方』か『西地方』かで争ってた『邪馬台国論争』ってどうして終わったんだっけ?」
『『『『あ』』』』
 その瞬間、誰もが一番重要な事にやっと気付いた。

「そ、そういえば……いつの間にか終わってたような?」
「時間の流れがどうとか、そんな終わり方じゃなかったな」
 美羽瑠と琉奈が、首を傾げ、記憶を遡りながら言った。
「いえ、時間云々が原因ではありません」
 そんなみんなの疑問を解消すべく、宇宙はみんなに解説した。

「あの『邪馬台国論争』は、大地先輩の手紙にあった、ある考古学者によって終わりを迎えさせられました」

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「なんやと!?」
「どういう、事だ?」
 全員が思い思いに驚愕した。それを見計らい、宇宙は再び話し出す。

「もうすぐ皆さんの携帯電話に、大地先輩の手紙にあった『ムーチューブ』の映像が届くと思います。
 その映像に映っているのは、考古学者の日日晶(たちごり・あきら)。
 自分の富と名声のためなら、例えそれが大悪党であろうと利用する、考古学業界の下衆野郎です。
 そしてその下衆野郎こそが、約5年前、邪馬台国は近畿にあると、その証拠まで提示して考古学業界を納得させ、
 江戸時代から続いた『邪馬台国論争』を終息させたんです」

「え、そ、宇宙兄ぃ……?」
「証拠? いったいどんな証拠があったんだ?」
 宇宙の言葉遣いの違和感に対し櫂が混乱する傍ら、琉奈が宇宙に質問する。
「邪馬台国に関係するだろう、とある1つの遺跡の最深部の鍵≠、
 確か……『ムーチューブ』で呼びかけて集めた霊能力者達の協力を得てこじ開けた、だったかな?
 僕もまだ調べている途中ですから、詳しくは知りませんけど」

「霊能力者の、協力?」
 かの有名な奇術師ハリー・フーディーニのようだ、と琉奈は思った。
『脱出王』という異名を持つ、米国で最も有名な奇術師フーディーニ。
 彼は生前、母の死をキッカケに、多くの自称・霊能力者のイカサマを暴く活動に熱心に取り組んでいた。
 自分が暴いた自称・霊能力者達の用いるトリックを応用し、自身のマジックに使うため、でもあったが、
 その本当の狙いが、死んだ母と交信できる霊能力者を捜すためであった事は、
 現代から約100年後の未来であるミツバチ作中でもあまりに有名である。

「え、もしかして……これから本格的に、オカルトが関わってくる?」
 するとここで、琉奈の霊能力以外のオカルトにまだ耐性の無い優梨が怪訝な顔をした。
 確かにここまでの説明を聞けば、オカルトが関わってくる可能性も否定は出来まい。
「オカルトに関わり合いたくないんなら、ここでリタイアしてもええで?」
 これから先の戦闘の激化も考慮して、櫂が優梨に提案する。

 だが優梨は、自分の頬を両手で引っ叩き、気を引き締め直してから、
「冗談言わないで。これは小姫ちゃん達の命が懸かってるかもしれない戦いよ?
 私だけ逃げて、安全圏で待っているだなんて、絶対に嫌よ!」
「そか。なら……絶対に、嬢ちゃん達を奪り還さんとな」

 サークル形式探索チーム『Little-Bee』。
『Little-Bee』のサポートを目的としたプロ集団『紅の十字架(カーネリアン・クロス)』。
 そしてそんな2チームに今まで、いろんな形で関わってきた、多くの人達。
 ここまでで、みんながみんな、様々な経緯でこの事件に関わる事になってしまった。
 けれど、みんな……さらわれた大切な者達を奪り還したいという思いは一緒だった。
 故に、優梨の覚悟を目の当たりにし、櫂はニッと笑いながら言葉を返す。
 いや、櫂だけではない。その場にいる他のみんなも、引き締めた表情のまま頷いた。

 するとその時。ギィ、と部屋の扉が開く音がした。
 巧壱と幹也が、部屋に入ってきた音。

「それじゃあ、みんな……幹也さんと話し合って、誰がどの州に行くかを決めたから、発表しようと思う」

カザミルナ≠ニいう1人の少女の運命≠フカウントダウンが、始まった音……。


     ※

 同時刻。鹿児島州。
 ここは、日向姫花の住む極道一家『鹿児島組』の拠点。
 江戸時代に建てられた、2階建ての木造建築の豪邸である。

 敷地面積は東京ドーム2個分。
 敷地内には日本百景に選ばれそうな、大きな池や松などの木が植えられた日本庭園エリア……だけと思いきや、
 自給自足のための畑や田んぼ、戦闘訓練用のアスレチックや道場など、
 様々な、100年前の極道の家のイメージからかなりかけ離れたモノが作られている。
 敷地の隅には土蔵造りの倉庫という、歴史を感じさせる建造物もあるにはあるが、
 あまり印象に残らないほど、ここ100年の間に作られたモノ達は印象が強過ぎた。

 邸内の部屋の数は総勢約200名を抱える『鹿児島組』組員達全てを世話できるほどで、
 建てられた当時は組員全員で会議ができるほど広い和室や板張りの廊下など、
 それはそれは古き良き日本の家屋らしい構造をしていたのだが、
 現代に至るまでに3回ほど火事に遭い、そのたびに補修工事をし、
 今では外見だけでは分からないが、中に入れば和洋中がほどよく混在しているという、
 なんだか奇妙なバランスの上に成り立っている豪邸であった。

 そんな鹿児島組の豪邸ではあるが、現在邸内にて、ドタドタドタドタッ!! と、
 物静かな環境が似合いそうな和風の外見のイメージを壊しかねない音が響いていた。
 組の幹部クラス、すなわち幹也よりワンランク下の位の者達が、
 揃いも揃って組長の執務室へと向かっている足音である。

「組長、幹也君を向かわせたというのは本当ですか!?」
「なぜ俺達じゃなく、アイツなんだ!?」
「確かにヤツはウチの若者頭だ。だがだからこそ、彼はここに残るべきではないのか!?」
「しかも彼は若衆の1つ『東郷血流弩連』を引き連れて行きましたよ!?
 これではウチの戦闘力が3割減ったも同然じゃないですか!」
「近隣の州の組の助力があっても対処できない敵が現れたらどうするつもりですか!?」
「どうして幹也君の出陣を許可したんですか!?」

 板張りの廊下を歩きながら、組長の執務室に着くまで我慢できなくなったのか、
 みんな口々に本当に言いたい事を敢えて言わずに¢蜷コで組長に問いかける。
 しかしどうした事か、もう執務室まであと少しだというのに、組長からは何も返事がない。
 だが誰もそのことを気には止めず、組長への苛立ちの勢いそのままに、ついに全員が執務室へと突入する。

 だが、そこには組長の姿は無かった。

 代わりに、置き手紙が1枚……執務机の上にあった。

『侠には避けてはならぬ戦がある 組長』

 そんな、組の幹部達が『顔に電気がついて』怒り出しそうな……置き手紙が。
 


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