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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第12回 蜜蜂と極道とJ〜慟哭の真実〜
 
 巧壱達が果てていた部屋から、さらに隣の部屋のベッドにて、憲司は上半身だけを起こして待っていた。
 首から下の上半身が包帯でぐるぐる巻きにされ、まるでミイラ男みたいになっている。
 いや正確には、ミイラ化した男、というのが正しい表現だが。

 そしてその傍らでは、憲司の妻にして小姫の母である輝が、
 憲司にかけられた毛布越しに、憲司の太ももの辺りを枕にして眠っていた。
 目には、涙の跡がまだ残っている。
 憲司が敵に斬られ、涙を流しながらも看病している内に眠ってしまったのだろう。
 そんな妻に、憲司は、妻と共に自分を今まで看病してくれた悠が用意してくれた、
 憲司にかかっている物と同じ毛布をかけてあげると、その頭を優しく撫でた。

「……ゴメンな、俺が弱かったばかりに……」
「貴方のせいではないでしょう、憲司さん」
 悠の上司であり、共に憲司を看病してくださった和久が、憲司に言った。
「貴方は娘さんを、必死に誘拐犯から守ろうとしたではないですか。
 後先考えず、いろんな人に心配をかける行動をとった点については反省すべきですが、
 貴方は立派に、家族を守ろうとしたではないですか」

「……和久、先生」
「あとは僕達に任せてください。なんとしてでも、小姫ちゃんは保護します」
 和久は憲司に向かってニッコリと、微笑んだ。
「元々、そのつもりでしたし……ね?」
 そろそろ、全てを話してくださいね。
 遠回しに、そういう意味合いを込めた言葉と共に。

「……ええ。分かっています。
 ただ、全てをお話しする上で……1つ条件があります」
「はい、なんでしょう?」
「妻に、聞かせたくはないんです」

「ええ、解っていますよ」
 和久は優しくそう声をかけた。
 巧壱達から事前に話を聞いていたので、その交換条件の内容にはある程度見当が付いていたのだ。

「奥様には知られたくはない、そういう秘密なんですね」
「!? ……ええ、おっしゃるとおりです」
 なぜ交換条件の内容が知られているのか、その理由も分からないまま、憲司は頷いた。
「では、巧壱くん達が回復して、奥様に別室に移動してもらった上で、改めて聞かせてくださいね」
「……分かりました」
 そして憲司は、決意を込めた鋭い眼差しを和久へと向け、誓った。

「全てを、お話しましょう」

     ※

「不思議なご夫婦ですね」

 羽佐間夫妻がいる部屋とも、巧壱達が果てている部屋とも、
 琉奈が先程まで眠っていた部屋ともまた違う部屋。
 驚いた事に、姫花の所属する極道一家『鹿児島組』によって貸しきりとなった、
 ホテル『紅域(クリムゾーン)』の最上階全室及び屋上の内の、とある1室にて。
 和久は、琉奈の義兄でありエリート医師でもある風深秀一だけを呼び出し、いきなりそう切り出した。

「まぁ、確かにそうだな」
 秀一は相変わらず、敬意を払いつつも大きめな態度で返事をする。
「幼児退行している奥さんに、本好きのご主人。
 日本国中を捜せば何組かいるかもしれんが、俺が知る限りではあの2人が初めて――」
「そういう事じゃ、ないんですよ」
 秀一の意見を、和久は途中で遮った。
 その意見に、秀一は眉根を寄せた。

「そういう事だ、山辺さん?」
「じつはですね、秀一先生」
 和久は目を細めつつ、
「僕は1度、あの奥様の手に触れました。そしてその瞬間……いろんなモノが、流れ込んできました」
「!? まさか、読んだ……いや読まされた≠フか?」

 琉奈と同じく、いや、付属している能力や特性に多少の違いはあるが、
 同じく霊能力者である和久に、相手の人権を無視した上で読む気がない和久に、
 輝は無理やり、自身の記憶を視せたのだ。
 和久の霊能力の特性を良く知っている者・秀一としては、
 その記憶が、和久どころか自分達を、なんらかの策に嵌めるための布石、
 と考えてしまうのも無理もない。

 だがそんな秀一の質問に対し、和久は「それは違うと思います」と即答した。
「奥様があの状態です。僕に対して心を開く≠ヌころか……心が暴走≠オているのでしょう。
 だから僕の中に、奥様の記憶が流れてくるのも無理ありません……いや、重要なのはそこではないですね」
 和久は1度、首を横に振ってから、さらに続けた。
「あの奥様の記憶に、僕は違和感を覚えました」
「違和感?」

「ええ。なんというか……奥様の記憶の中の小姫ちゃんの印象が、途中から変わったような気がするんです」
「子供が成長すれば、印象も変わるだろう」
「そういう感じじゃ……なかった気がするんですよねぇ。それに……」
「それに?」
「記憶の1部に、ノイズが走っていたんです」
「ノイズ、だと?」

 ノイズと聞いて、まず秀一は、琉奈が視たという卑弥呼の記憶を連想した。
 アレにも、時間の流れによる劣化のせいか、所々にノイズが走っていた。
 それと同じようなノイズなのだろうか?
 だがそんな事よりもさらに気になる事が、和久の口から放たれた。

「ええ。そして憲司さんにも、同じようなノイズが」
「な、に……!?」
 夫婦の記憶に、同じような記憶のノイズ。
 そのあまりにも非日常にして異常な事実を聞き、秀一はさらに眉根をひそめた。

 だがそんな秀一などお構いなしに、和久はさらに続けた。
「もしかすると、この事件……僕や琉奈さんにも深入りできないほどの、
 よほど強い霊能力を持つ者が……背後にいるのかもしれませんね」

 果たしてその相手とは、琉奈の視た記憶の中に出てきた卑弥呼を指すのか。

 はたまた別の特殊能力者の事なのか。

「……山辺さん。1つ、琉奈から得た情報があるんだが」
「おや。もしかして、この事件の核心に迫りうる情報ですか?」
「ああ。おそらく、な」
 そして秀一は、和久に全てを告げた。
 すると和久は、どこか楽しそうな笑みを浮かべて、

「僕にも全てを読めない人がいて、そして卑弥呼絡みの誘拐事件……どうやらこの事件、一筋縄ではいかないかもしれないですね」

 今まで、一方的に知ってしまう側≠セった和久だ。
 もしかすると、初めて考える側≠ノなれた事に、どこか面白味を覚えているのかもしれない……。

     ※

「まずは……小姫のために全力を尽くしてくれて、どうもありがとう」

 秀一と和久が別室へと向かったのと同時刻。
 ようやく回復した巧壱や、宇宙絡みのゴタゴタのせいで疲労困憊状態となった琉奈、
 早朝の鍛錬から戻った櫂と龍斗、さらには彩音以外の『鹿児島組』の女達と共に朝食の準備をしていた美羽瑠と優梨、
 そして今朝のゴタゴタの中心人物にして、
 事件の中心人物の1人であろう土屋大地の後輩たる天ヶ崎宇宙は、憲司のいる部屋へと赴いた。

 ちなみに輝は、彩音によって、朝食を盛り付ける手伝いをしてほしいと別室へと連れ出された。
 一応言っておくが、ここは一応ホテルである。
 だが、あまりにも『鹿児島組』が大人数で、しかも1人1人朝食のメニューにこだわりがある上に、
 極道に対する恐怖を覚えているスタッフもいるために、あまり『鹿児島組』に対応できる人員がいないのだ。
 よって必然的に、極道一家『鹿児島組』に関わりのない、もしくは威圧感があまりない女性が必要になったのである。
 これも、一般人が武器を所持できるようになった時代ゆえの弊害だろうか……。

 それはともかく、巧壱達は憲司のベッドを取り囲むように、憲司の右側から、
 櫂、巧壱、琉奈、龍斗、優梨、美羽瑠、宇宙の順に並び、憲司からの次の言葉を待った。
 なぜか櫂が宇宙の方を見ようとせず、宇宙がそんな櫂を見て再び絶望のオーラを纏いつつも、話は続く。

「まず始めに断言しておくけど、小姫は僕達の娘だ」
 解っています、とは敢えて言わなかった。
 代わりに、なぜ改まってそんな事を言うのか、巧壱達は疑問に思った。
「理屈は解らない。けど、あの子は……僕達の娘だと断言できる。
 なんでだろう、って思った事もあった。
 僕達と過ごした記憶が、あの子の中に、確かにあったからかなぁ」

「ええっと、大地先輩の……義弟、の憲司さん?」
 憲司が斬られ、このホテルへと向かう途中で、巧壱から聞かされた情報を踏まえながら、
 宇宙はなんとか絶望のオーラを振り払い、憲司に問いかけた。
「意味が解らないのですが……ええっと、もしかして小姫ちゃんって、養子なんで――」

「養子なんかじゃないッ!!」
 即座に憲司は、小姫が鬼仮面にさらわれた時以来に見せる怒りを込めて反論した。
「あの子は僕と輝の娘だ!! 理屈なんか解らない!! でもあの子は!! あの子は!! あの子、は……」
 怒りと悲しみ、そして混乱が入り混じった表情を浮かべた憲司の瞳から、一筋の涙が流れた。
 小姫を取り巻く謎は、そして憲司と輝と小姫の過去は、それだけ複雑で、それだけ愛おしいモノなのだろう。
 憲司の表情からその事を少しは悟った宇宙は、一瞬ギョッとしたが、すぐに自分の軽率な発言を反省し、

「軽率な発言、申し訳ありません。ですが、僕は知りたいんです。
 貴方の義兄であり、僕の尊敬する先輩である、土屋大地先輩の事を。
 大地先輩が執筆した本の中だけじゃ分からない事を、貴方は知っていますよね。
 どうか、僕達に、知っている全ての事を、順を追って教えてください。
 大地先輩の身に、いったい何が起こったのか……。
 そしてなぜ、小姫ちゃんと姫花ちゃんがさらわれなくちゃいけなかったのか……。
 それらの謎を解くために、どうか、どうか力をお貸しくださいっ!!」

 宇宙はその場で、深々と頭を下げた。
 研究者としての恥など、かなぐり捨てて。
 ただ1人の人間として、憲司と向き合うために。
 その姿に、巧壱達は目を丸くして驚いた。
 今までこんな宇宙の姿を、1度も見た事がなかったのだから。
 中でも1番驚いたのは、彼と幼馴染であり、さっきまで宇宙に対してなんらかの誤解をしていた櫂だった。

 櫂は、さっきまでの宇宙に対する印象など頭の隅にどけて、改めて、宇宙に問うた。
「宇宙にぃ……そもそもどうして俺達に、小姫嬢、もしくは姫花嬢の保護を依頼したんや?
 いやそれ以前に、土屋大地さんなんて人、俺、覚えが無いで?」
 櫂の質問に宇宙は一瞬口をつぐんだが、すぐに頭を上げて、質問に応じた。

「……そりゃあそうですよ。ていうか櫂は大地先輩の自伝小説読んだから解るでしょう?
 僕と大地先輩は、大学での付き合い……じゃなくて、大学で知り合ったんですから」
 なぜ言い直したのか分からない『Little-Bee』のメンバー達。
 だが櫂だけは分かったのか、なぜか軽蔑の眼差しで宇宙を見ながらさらに問う。

「で、チチクりアってたと?」
「だから違う!」
 宇宙は櫂の謎質問に即答すると、軌道修正するべくさらに続けた。
 というか、自伝小説にはいったい何が書かれていたのであろうか……?

「アレはおそらく近年のライトノベルのテコ入れ的な……って、そうじゃなくて!」
 だが自分でも知らず知らずの内に自分の中の話の軌道が逸れていたのにすぐに気付かず、
 宇宙は顔を真っ赤にしながらもすぐに、やっとの事で軌道修正すると、懐から1枚の手紙を取り出した。
 嵐の夜に、伯父であり天ヶ崎研究所の所長である宙次郎博士と共に読んだあの手紙だ。

「じつは大地先輩に、知り合って何回か会った時にこの手紙を渡され――」
「え、義兄さんライトノベルなんて書いてたの?」
 だがその台詞は憲司によって遮断された!
「え、ええ、じつはそうなんですよ。と言っても自伝的な内容で―――」
「「「「「「いい加減話を元に戻してくれません(くれへん)か2人共????」」」」」」
 そして宇宙の台詞も『Little-Bee』メンバー全員によって遮られた!

 すると宇宙は、気恥ずかしそうに咳払いをしてから、改めて手紙を全員に見せた。
「この手紙を、大地先輩から渡されました」
『Little-Bee』メンバー全員と憲司が一斉に手紙に視線を向けた。
 手紙には、こうある。


『親愛なる友、天ヶ崎宇宙へ――

 君がこの手紙を読んでいるという事は、おそらく僕は此の世にいないかもしれないね。
 そしてそれは、僕がある伝説≠守れなかった、という事でもあるだろう。
 とまぁ前置きはここまでにして、僕が死んだ場合に備えて、君に託したい事がある。
 君が僕の出来なかった事を成し遂げるかどうか、それは君の選択に任せる。
 なにせ、数々の大冒険をした僕が死ぬくらいだ。それだけ危険な事だろうしね。
 そして託したい事についてだけど……冗談抜きで、伏線などの小細工無しで、率直に言おう。

 卑弥呼の秘宝を守ってくれ。

 じつはコレは、ある情報筋からの情報なのだが、箸墓古墳などの卑弥呼の墓の候補地は、卑弥呼の墓じゃない。
 というか箸墓古墳に関しては、個人的に卑弥呼があんな間抜けで痛々しい最期を迎えたなどとは考えたくない。

 話を戻そう。
 そして肝心の卑弥呼の本当の墓に関してだが、その人は場所を教えてはくれなかったが、それ以外の情報は教えてくれた。
 それをもとに、いろいろ情報を集めていたんだが、ようやく場所を特定できたところで、ある研究者に研究資料を盗まれた。
 ソイツに関しては、動画サイト『ムーチューブ』に出ているから後で確認してみてくれ。

 本題はここからだ。
 あの研究資料は僕の物だと、ソイツに裁判で勝つために、ソイツに関するいろんな情報を集めた。
 だけどその過程で、僕は恐ろしい情報を入手してしまった。
 なんと、その墓に眠っている卑弥呼の秘宝を用いて、この国にテロを引き起こそうとするフザケた連中がいるという情報だ。
 これは下手に動けない。そう思った僕は、とりあえず様子見という事で、手を出さなかった。
 だが数日後。その研究者は何者かによって殺された。十中八九、卑弥呼の秘宝を狙っているテロ組織の仕業だろう。
 もしかすると僕も狙われる可能性もあるわけだけど、不幸中の幸いにも、テロ組織を尾行して得た情報によると、
 その研究資料の元々の持ち主である僕の存在に、組織はどうやら気付かなかった、というか資料を深く確認しなかったようだ。
 これで僕は無事にこれからも生き延びられるわけで万々歳なワケだけど、そもそもテロ組織が動いたのは僕の責任だ。
 だから僕が、命を懸けてでもこのテロを止めなければいけない。
 よって僕は大学卒業後、今までもしてきたようにソイツらの妨害をしつつ逃げ回ろうと思う。
 
 だから宇宙くん。
 もしも僕が殺されて、そして君が僕の出来なかった事を成し遂げてくれるのならば。
 同封した写真に写った、邪馬台国の鍵≠スる少女を捜し出し、どうか卑弥呼の秘宝を守ってほしい。
 秘宝の事を『大会』で発表するのはもちろん構わない。
 その代わり、発表直後に、誰も手が出せない場所へと、その秘宝を永久に封印してほしい。
 この国のためにも。そして今は亡き、この国の平和を願った卑弥呼のためにも。

 ――この世界の未知への挑戦者、土屋大地より』


「や、やっぱり……卑弥呼がこの事件に絡んでいるのか!?」
 真っ先に驚きの声を上げたのは琉奈だった。
 他の『Little-Bee』の面々も確かに驚いたが、彼女が1番驚いていた。
「え? どういう事だ、琉奈?」
 琉奈が秀一と玲とした会話の事を知らない巧壱が質問した。

 だがそれを、櫂は止めた。
「ちょい待ち巧壱、話がまたしてもズレてるで?」
「そ、そうよ。確かに衝撃の事実だけど、今は小姫ちゃんの事を聞く時でしょ!」
 美羽瑠も、まさかの偉人の登場に驚愕しながらも巧壱に言った。
 巧壱は「分かったよ」と不服そうな顔をしつつも了承した。

「そ、そんな……義兄さんがそんな、重大な事件に巻き込まれていただなんて……!!」
 一方で憲司は、両手で頭を抱えながら義兄に起こった事に対して驚愕していた。
「でも、それじゃあ……まさか……いやでもまさか! 関係あるもんか!」
 だが途中から、驚愕から否定へと言葉が変わっていった。
 いったいどうしたのだろう、と巧壱達は思う。

 だがその直後――。

「小姫は……義兄さんが連れてきた¥ャ姫は……卑弥呼に関係が!?」

 ――憲司は聞き捨てならない事実を告げた。

 事実を脳内で認識するなり、とっさに宇宙は憲司に問うた。
「連れてきた? いったいどういう事ですか憲司さん!?」
 すると憲司は、今度は声を震わせながら、
「……14年、くらい前の……事です……」
 まるで自分の魂を削るような思いで、ついに小姫の事を語り始めた。

     ※

 約14年前の事。
 当時、中学生だった土屋輝は――妊娠した。
 相手は、当時、高校生だった羽佐間憲司であった。

 洒落にならない事態ではあったが、不幸中の幸いというべきなのか……。
 輝の家族は、彼女の双子の兄≠ナある土屋大地だけだった。
 どうも数ヶ月前に、両親は夫婦水入らずの旅行で出かけた先で、
 テロ事件に巻き込まれて共に亡くなったのだそうだ。

 一家の中心人物にして金銭面の援助者である両親を喪い、2人は離れ離れになり、
 それぞれが別の親戚に預けられる事に、一時期なりそうだった。
 けれど唯一の家族と別れる事をよしとしなかった2人は、無理やり親戚を説得し、
 金銭面を援助してもらえる親戚を見つけたため、今まで生きてこれたらしい。

 そんな状況下での、妊娠。
 あまりにも金銭的にも倫理的にも洒落にならない事態である。
 大地も、2人を認めてはいたものの、ただただ苦笑するしかなかった。
 けれど憲司が高校を中退して働きに出たおかげで、なんとか金銭的危機は脱した。

 そして、必然的に憲司が土屋兄妹と暮らすようになってから数ヶ月。

 ついに輝と憲司の第一子・小姫が誕生した。
 家族は4人になり、いずれは大地が妻を持ち、5人、いや6人になるんじゃないか。
 輝と小姫がいる病室にて、そんな会話が生まれるほど、その時の4人は幸せであった。

 だが、4年後。

 ソ ノ 幸 セ ハ  儚 ク 壊 レ タ

 輝と小姫は、交通事故に遭った。
 原因は、相手の飲酒運転だった。

 輝は、命だけは助かった。

 しかし生殖器が事故の際に、再生不能なレヴェルにまで潰れてしまった。

 小姫は――亡くなった。

 以来、輝は心的外傷後ストレス障害(TPSD)を発症。
 今も小姫が自分の傍にいるという幻想に囚われたまま、心を閉ざしてしまった。

 それから、4年後。
 退院した輝のもとに、大地は、4歳前後くらいの1人の女の子を連れて訪れた。
 その女の子は、どこか、生前の小姫と同じ雰囲気を持っていた。

 女の子は輝を確認するや「ママ」と呼んで、抱きついた。
 すると輝も、TPSDによる幼児退行をしてはいるが、
 元気な声で「どうしたのぉ、小姫ちゃん?」と返した。

 憲司は驚愕した。その瞬間を見た時も。その後の出来事にも。
 輝と憲司と小姫しか知らない事を。大地は絶対に知らない事を。
 その少女は――小姫と名乗る少女は、知っていたのだから。

     ※

「……卑弥呼? 正直驚いたけど、そんなの関係無い。あの子は……小姫は、僕達の娘だ。
 例え血が繋がっていようともいなくとも、あの子のおかげで、輝はまた心を開いてくれたんだ。
 例え小姫の正体がなんであろうと……あの子は、僕たちの娘だ。
 義兄さんが言っていた君達には、僕と輝が連れ添うのを条件にすれば、小姫を保護されても構わない。
 けど、アイツらは……小姫を誘拐したアイツらだけは、絶対に……絶対に、許さないッ!!」
 最後にそう締めくくり、憲司は『Little-Bee』と宇宙との会話を打ち切った。
 巧壱達は、憲司に1度頭を下げてから退室した。

     ※

 これが、羽佐間夫妻の背負う、あまりにも、あまりにも重い過去。
 なるほど。和久が輝の記憶に違和感を持つはずである。
 なぜなら途中から、なぜか同じ記憶を持つ別の子供に入れ替わっていたのだから。
 そしてそんな事情を持つ、夫の憲司の話を聞いた『Little-Bee』と宇宙は、誰も言葉を発する事が出来なかった。

 だが、その沈黙は突如として破られた。
 ドサッと、何かが床に崩れ落ちる音がした。
 音のした方に顔を向けると、そこには床に膝から崩れ落ち、その瞳から大量の涙を流す美羽瑠がいた。

「なんで……なんで、家族との幸せを願ってた羽佐間さんが……そんな目に遭わなくちゃ、いけないのよぉ!!」
 激情が、慟哭の涙となって美羽瑠の瞳からさらに大量に流れ出る。
「まったくよ」
 優梨が美羽瑠を優しく抱きしめながら言った。
 その目にも、美羽瑠ほどではないが涙が流れ出ていた。
「なんで、羽佐間さんがあんなにも不幸にならなくちゃいけないの?
 羽佐間さんは、何一つ悪い事なんて、してないのに……」

「クソッタレ!!」
 優梨が言い終えた直後、その場に怒声と共に4つの打撃音が響く。
 美羽瑠と優梨が音のした方に顔を向けると、そこには壁に拳を打ちつけた巧壱、琉奈、櫂、龍斗がいた。
 声を出したのは、おそらく龍斗だろう。
「そんな家族に、あの鬼仮面……ますます許せねぇ!!」

「俺は、その鬼仮面てヤツを見てへんけど……」
 龍斗の怒声に、櫂が同調する。
「姫花嬢の事もあるし、俺もソイツぶっ飛ばしたい気分になってきたわ!!」
「大地先輩の家族を泣かせるだなんて……僕も絶対、ソイツらを許せません!!」
 宇宙も、涙を流しながら怒鳴った。

「テロ組織? 極道? そんなの、関係あるか」
 そして巧壱も、心の中で怒りの炎を燃え上がらせながら、
「やっと掴み取った家族の幸せを奪うアイツらを……俺は誰であろうと許さない!」
「私もだ」
 両拳を思いっきり握り締めながら、琉奈も言う。
「私も……テロなどという、くだらない事のために、
 1つの家族の平和を奪ったアイツらを、絶対に許さないッ!!」

 家族の平和を取り戻すため。
 この事件を引き起こした黒幕達への怒りを力に変えて。
 今再び、探索チーム『Little-Bee』とサポートチーム『紅の十字架』は立ち上がる。

 だが、未知なる相手へと立ち向かう覚悟を決めたのも束の間。

「だ、誰だガキ共!?」
「どうやってここが分かった!?」
 玄関の方から、響き渡る喧騒。
 まさか敵が攻めてきたのかと、巧壱達全員が思った時だった。

「琉奈先輩! 居るんですよね!?」
「私達の話を、聞いてください!」
 聞き覚えのある声が、喧騒の彼方より轟いた。
「ま、さか……」
 琉奈の驚愕を皮切りに、その場で全員が絶句する。
 喧騒の彼方より響き渡った、その声は……。

「僕です!! 秋宮亮です!!」
「琉奈先輩!! 真琴です!! お願いです、話を聞いてください!!」
 


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