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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第11回 蜜蜂と極道とI〜混沌! 大捜査線〜
 
 午前8時11分。
 朝っぱらから、なんと元気のいい事か。
 とある建物の屋上にて、3人の男と1人の女が、朝食を食べずに戦舞を繰り広げていた。
 まぁ、食べた後で戦舞なんてすれば腹が痛くなるだろうが。

 建物の名は『ホテル 紅域(クリムゾーン)』。
 屋上に居ますは、サークル形式探索チーム『Little-Bee』の構成員である、ようやく回復した新堂櫂と青城龍斗。
 そして2人が相対する、昨夜に出会った極道一家『鹿児島組』若者頭の東郷幹也と、その舎弟ならぬ舎妹の彩音。

 探索チームと極道。
 それは言わば、真実を求めるその目的は同じなれど。
 苦難の果てに手に入れたその真実を。

 世間に公表し、名誉を手に入れるか……。

 闇の中へと葬り去り、金に換えるか……。

 この真実という概念へと向ける価値観の決定的な違いにより、いずれ相対した時に争う事となる宿命の間柄。

 だが不思議な事に、4人はかれこれ7時半から戦い続けているにも拘わらず、両者の身体には傷1つ付いていない。
 というかそれ以前に、現在このホテルの最上階にて、それぞれの味方が泊まっている状況で、
 なぜ今さらこの4人が戦わねばならないのであろうか?
 下手をすれば両勢力の間に亀裂が生まれる可能性もあるだろうに……。

 そう。4人はけっして、怒りや憎しみ故に争っているわけではない。
 これから立ち向かう運命≠ノ少しでも抗えるよう、極道2人が櫂たちに、極道との戦い方を教えているのだ。

「は、速い……」
 呼吸が少々乱れ、全身から滝のような汗を流しながら、
 逆刃刀を主な得物とする龍斗は、相対する幹也へとその切っ先を向けながら呟く。
 対する幹也は涼しい顔で、

「お前が、自分と戦った相手に、もしもリベンジする機会があるとしたら、
 まずはこれくらい武器を早く振り回せるようになれ。
 少なくとも、俺はそうやってアイツ≠フ能力を破った」
 まだまだ体力に余裕があるぞと言わんばかりに、息切れ1つせずに龍斗にアドバイスをする。
 かつて相対し、そして今は敵となり、憲司を斬った、あの侠の事を思いながら……。

 そしてもう1つの戦いの方はと言えば、

「う、嘘やろ!? 俺が……俺が、女に!?」
 櫂の首筋に向けた、5本の凶器。
 彩音の手刀……いや正確には、凶器と化した5枚の爪が、
 櫂の喉仏まで、あと1cmというところで寸止めされていた。
 そう。彼女は櫂の張った弾幕を掻い潜り、櫂の懐まで踏み込んだのだ。

「理解した? これが、極道よ」
 彩音が櫂へと、優しく語り掛ける。
「戦う覚悟ある者は、平等に戦う資格を与えられ、そして資格を与えられた者は、
 地獄さえも生ぬるい修練の末、家族を狙う災厄を薙ぎ払う、一振りのヤッパとなる。
 テメェみたいな、女ナメてるような思い上がり男なんぞ、敵じゃあないわよ」

「ッ!? くっそ!」
 悔しさ故の悪態が、櫂の口からこぼれる。
 櫂は女を、護る対象としか今まで見なしていなかった。

 確かにその考えは、ある意味合っているとも言える。
 男と女とでは、体力に明らかに差があるのだから。
 ちなみに、逆に女は、男よりも精神力が上である。

 だが世界を捜せば、そんな男女間の体力関連の常識を破壊する女性も存在する。
 そしてそんな常識はずれな女性の1人こそ、この東郷彩音であった。
 櫂は、その事に気付く事無く油断し、こうして不覚を取ったのだ。

「ていうかそれ以前に」
 そんな櫂へと、彩音はさらに言葉を重ねる。
「テメェのその考え、いつの時代のヤツだよ? まさかテメェのオツムは今も男尊女卑の時代なんですかぁ?」
「な、なんやとぉ!?」
 身動きが取れない状況であるにも拘らず、櫂は顔を歪ませるほど怒った。

「テメェは女の可能性を見くびっている!!」
 彩音は怯まず、さらに続ける。
「女は護られる存在だぁ? はっ! 馬鹿馬鹿しい。逆に考えてみろ?
 護られるだけの女は、いったいどんな女になるのかをよ?」
「?? 何を言うとるんや!?」
 突然の指摘に、櫂は怒りを忘れ、ただただ困惑する。

「護られるだけの女。それは逆に言えば、どんな困難も降りかからない幸せな女。
 だがその幸せと引き換えに、女は1つの不幸を味わう事になる。
 困難に立ち向かえないからこそ、その困難に立ち向かおうという意思が生まれず、
 そのせいで、困難を乗り越えるために……女は、自分を磨く事を忘れてしまうのよ」
「!?」
 その意見に、櫂は衝撃を覚えた。

「自分自身を磨こうとも思わない、怠惰した女が、いったいどんな生活を送るのか知っているのか?
 もはや、人としての輝きが一切無い……生きているのか死んでいるのか分からない女になるんだよ!!」
「あ……」
 彩音の言葉が、櫂の心に突き刺さる。
 彩音の意見が、櫂の中の常識を破壊するほどの正論であったのだから。

「……それを肝に銘じないと」
 そして彩音は、もうすぐ朝食の時間なので、最後にこう締め括った。
「女の極道との戦いの中で、絶対テメェは死ぬ」
「ッ!!? ……くっそぉ……」
 それは櫂に戦力になってもらうための、起爆剤となりうるかもしれない厳しい酷評。
 だがその言葉を胸に刻んで成長できるかどうかは……櫂の覚悟次第である。

     ※

 同時刻。
 数分かけてようやく宇宙関連のドタバタを収束させた琉奈は、ドッと疲れてソファに座り込んだ。
 何がなんだか分からなくなるようなモーニングタイムはもう勘弁してほしい、と言いたげな顔で。
 だが先ほどのドタバタのせいで、いろいろとワケが解らなくなったので、

「それで、巧壱達は大丈夫なのか克兄ぃ?」
 現在パソコンをいじっている、父親違いの兄である柊克輝へと質問をした。
「あ、うん。たぶん大丈夫だよ、琉奈さん」
 克輝までダークサイドに堕ちていたらどうしようかとヒヤヒヤしていた琉奈にとって、 なんとも心地よい返答であろうか。
 琉奈の方を向いてでの返事ではないが、そんな無礼をチャラにしたいほど、先ほどのドタバタに比べるとずっと良かった。
 だからなのか、琉奈は知らず知らずの内に表情を緩めてしまう。

「土屋大地さん、だったかな? その人の国内外の足取りを徹夜で追い続けてぶっ倒れただけだから」
「いやソレ無事なのか!?」
 再び琉奈が緊張した。だがそんな琉奈に顔を向ける事無く、克輝はさらに続ける。

「なんでも最近ネット業界で発売された、米国出身のとあるエリート大学生が開発した、
ハッカーキラー≠ニかいう、エシュロンよりも厄介なシステムと戦い続けたみたいなんだ。
 僕は僕のやるべき事をやれって言われたから、あまりみんなを見ていなかったけど……凄まじい電子戦だったよ、うん」
「い、いろいろとヤバくないかソレ素人の私でもなんとなく解るぞ!?」
 琉奈は思わずツッコミを入れた。

 だがそんな琉奈の言葉など無視するかのように、
「おい克輝、それで原因は分かったのか?」
 巧壱の兄にして須桜総合事務所所長である須桜康士が克輝に声をかける。
「あ、はい。やっぱり京都≠ニ奈良≠ニ大阪≠フ連中が裏にいるみたいです」

「「やっぱりそうか」」
 康士と、謎の男の声が重なった。
 琉奈が声のした方を見てみると、そこには極道の皆々様。
 おそらく彼らの内の誰かの声だったのだろう。

「え、やっぱりって……いったい今はどういう状況なんだ克兄ぃ?」
「いや琉奈嬢、それくらい俺達が説明してやるって」
「……あー……それなら、お言葉に甘えさせてもらおう」
 説明を求める琉奈に、救いの手を差し伸べたのは……またしても極道の皆々様。
 琉奈としては眼光鋭い侠達と目を合わすのはなんだか重苦しい気分になるので苦手なのだが、
 ここで断れば後でいろいろ後悔しそうな気がするのでお言葉に甘えさせてもらった。

「まずは…………何から話すべきだ?」
 極道の1人が仲間に訊く。
『『『いや口火切ったお前で判断しろよ』』』
 その極道が仲間達から同時にツッコミを入れられた。

「……あー……じゃあまず、琉奈嬢が倒れて、あれから数時間。もう次の日の朝だ」
「!? そんなに、私は眠っていたのか……」
 最初の時はすぐに目が覚めたと言うのに、今度は数時間を要したという事実に、琉奈は愕然とした。
 もしかしたら、最終的には眠り姫≠ノなってしまう可能性も捨てきれない事実だったのだから。

 しかし、そんな事を考える余裕は無いと言いたげに、説明はさらに続く。
「その間に、俺たち極道と、アンタら『Little-Bee』『紅の十字架』は利害の一致で共闘する事になった」
「ッ!? ……やはり、そうなったか」
 こうなるんじゃなかという、予想はしていた。

 秀一から聞いた経緯によれば、自分達が見つけた少女と、
 極道一家『鹿児島組』が捜していた少女が同じ組織の連中にさらわれたのだ。
 例え相手が相容れない組織であろうがなかろうが、その相手と自分の共通の敵が未知の存在であるならば、
 そして利害が一致しているならば、組まない手はあるまい。

「で、その共闘する事になった理由なんだが、櫂や龍斗に聞いたところによると、驚いた事に、
 俺達の捜しているお嬢とアンタらが捜している嬢ちゃんの顔が、どういうワケだか全く同じだったからだ」
「な、それは初耳だ!」
 秀一から聞かされていない情報が出たので、思わず、さらに驚愕する琉奈。
 おそらくあまりにも急展開だったので、さすがの秀一も頭で整理しきれなくて忘れていたのだろう。

「なんで2人が同じ顔なのかは分からないが……とにかく、これらの事実から、お嬢と嬢ちゃんをさらった連中は、
 2人に関係のあるナニか≠狙っているんじゃねぇかと、アンタらとの話し合いの結果、結論が出た。
 それで2人を捜すにあたって、櫂と龍斗の証言をもとに、俺達は人海戦術で、康士さんらはハッキングを駆使して、
 お互いの出来ない事を補完し合い……ついにヤツらの足取りを掴んだ」

「!? 見つかったのか!?」
「ああ。だが巧壱がやっとの思いで見つけた、ヤツらの映った監視カメラの映像なんだが、どうも粗が酷くてな。
 粗を取り除く作業に入ろうとしたその時に、康士さんと翔哉さんが、先生……土屋大地先生の足取りを追う途中で、
 どうもハッカーキラー≠ノ見つかってしまったらしくて、それでやむなく巧壱も援護のために粗取り作業を中断して、
 なんとかハッカーキラー≠ゥら逃げおおせたと思ったら、巧壱も翔哉さんも精根尽き果てて……。
 やむなく、まだまだ精根尽き果てていない康士さんが監視カメラの粗取りを取り次いで……で、ご覧の通りだ」

「……………………………………………………」
 琉奈は驚愕のあまり言葉が出なかった。
「あ、1つコイツは言い忘れてますが」
 極道がまた口を挟む。別の侠だ。
「克輝は現在、このホテルのオーナーでもある、俺達の同志の『滋賀組』の連中と共に、
 滋賀州の製薬会社が倒産した原因を突き止めている最中です」
「???? どうして製薬会社が出てくるんだ?」
 頭に疑問符を浮かべる琉奈。

「念のためですよ、念のため」
 極道は苦笑した。
「裏社会のネットワークは、それこそ植物の根みたいに縦横無尽に拡がっていますからね。
 もしかすると、その根が別の根と、地中たる裏社会で繋がっている可能性もあるんですよ。
 ならば今回の誘拐事件と、ここ数年で滋賀州に起きた製薬会社の倒産ラッシュにも、
 なんらかの繋がりがあるかもしれなかったんですが……どうやらドンピシャだったらしいんですよ。
 残念ながら」

「?? 残念ながら?」
 謎が新たな謎を呼び、琉奈の困惑がさらに広がる中、さらなる謎が生まれた。
 だがその侠が放った言葉は、
「どうやら……滋賀州の製薬会社を倒産させまくったのは……。さらに、お嬢と嬢ちゃんをさらったのは……。
 俺らの同志の『京都組』『奈良組』『大阪組』だったんですわ」
 今の琉奈にとって、1番必要な情報であった。

「な、んだと……? 貴方達の、仲間?」
 琉奈の瞳孔が、驚愕により見開かれる。
「な、なぜそんな事が……? というか、なぜそれが分かったんだ?」
「櫂たちと戦ったヤツらの戦術には、覚えがあるんだよ」
 その質問には、さらに別の極道が答えた。

「だからある程度、目星はつけていたんだが……どうも確信が持てなくてな。
 もしかすると、似たような技を使う連中かと……さっきまでは思ってた。
 だが克輝によれば、滋賀州の製薬会社倒産事件の裏側に、アイツらがいるらしいじゃねぇか。
 それでようやく確信した。犯人は、確実にアイツらだ。
 倒産事件とどう繋がっているかは分からねぇが、間違いねぇ。
 アイツらは今、良心を無くし、こんな事件を引き起こしやがったんだ!」

「ああ。アイツら何を考えているか解らんが、ぜってぇ許せねぇ!」
「お嬢のみならず、顔が似ているだけのカタギの嬢ちゃんまでさらうなんてよぉ!」
「その上、滋賀州の製薬会社を潰すだと!? いったいナニ考えてやがる!?」
「クソッタレ! 同志だと思っていたの―――」

「うるさい」

 その瞬間。部屋の空気が5度くらい下がったような気がした。
 康士の、絶対零度の声であった……。
「ようやく完全に粗が取れた。見ろ」
 康士が琉奈を見ながら右手の人差し指をパソコン画面に向けた。

 自分に向けての命令だった事に、ワンテンポ遅れて気付いた琉奈は、慌てて画面を見た。
 そこに映っていたのは、琉奈の予想通り、それぞれ女の子を腕に抱えた鬼仮面と忍者レイヤー。
 画面の中に、たくさんの車止め用の四角柱状の石と、白線が映っている。
 おそらくどこかの駐車場の監視カメラの映像だろう。

 そしてそんな4人の周りに、突然3台の車が3角形を作るように囲んで停車し、
 4人の姿を隠した後、3回、ドアが開いた音が画面から聞こえた。
 4人がどの車に乗り込んだのかを隠すためのトリックだろう。
 その後、3台の車はグルグルとその場を高速で回転し、
 最後は1台ずつ、駐車場の出口に向かって出て行った。

「車のナンバーを隠すために、敢えて高速で回転したんだろう。
 だが、その程度でナンバーを突き止められないと思ったら大間違いだ」
 康士は退屈そうに、そして冷ややかに解説する。
 同時にキーボードとマウスを高速で操り、映像の速度をスローモーションに変更する。
 するとどうだろう。高速で回転していた車のナンバーが、くっきりと映ったではありませんか。
 数時間にも及ぶ粗取りの成果である。

 そして、1番肝心の車のナンバーは……。
「『京都組』『奈良組』『大阪組』の持ってる車だ……」
 極道の1人が、非情なる事実を告げる。
 自分達の同志が、敵として改めて認識された瞬間。
 場が、急に沈黙した。

 だがその沈黙は、すぐに破られた。
「皆さん、憲司さんが目を覚ましましたよ! ……ってあれ?」
 場の空気を読まずにそう報告したのは……………悠だった。

     ※

 数時間前の、とある駐車場。
 出入り口付近に停めてあるワゴン車の陰に、1人の男が隠れていた。
 今まさに、目の前で、2人の少女が誘拐されるのを確認するために。
 男は、全身真っ黒のライダースーツを身に着けていた。

 いや、黒いライダースーツに身を包むだけに飽き足らず、
 黒いアイシールド付きの、これまた黒いヘルメットも身に着けていた。
 黒が好きなのであろうか。
 なんにせよ、夜に交通事故に遭いそうなカラーセンスである。

 と、そうこうしている内に、くだんの3台の車が駐車場から出て行った。
『京都』『奈良』『大阪』のいずれかの車に、2人の少女を乗せて……。
 真っ黒男はソレを確認すると、すぐにとある場所に電話をかけた。
 相手は4コール目で出た。

『俺だ』
 どこか威圧感を感じさせる、男の声だ。
 相手の男に対し、男は答える。
「誘拐事件は起きました。これで計画≠ヘ次の段階に進むでしょう」
『そうか。引き続き、監視を頼む』
「ええ。それがあの人≠フ指示ですからね」
 その言葉を最後に、黒い男は電話を切った。
 


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