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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第10回 蜜蜂と極道とH〜騒がしき地獄の中より〜
 

 卑弥呼


 日本古史の教科書の中に、比較的早く登場する偉人である。
 当時の日本列島に存在したクニ『邪馬台国』に属する巫女でありながら、
 邪馬台国と、その周辺に存在した30ものクニグニによって構成された
 連合国家『倭国』の盟主でもあった、まさに女傑と呼ぶべき存在である。
 1800年、いやミツバチ作中では1900年以上も昔の人物であるが故に、
 文献も少なく、その生涯のほとんどが謎に包まれている。

 判っている事といえば。

 弟がいた事。
 1000人もの女性の召使いがいた事。
 紀元180年頃に、戦を無くすために倭国の女王となった事。
 盟主となってからは、弟以外には顔を見せなかった事。
 一生独身を貫いた事。
『鬼道』という謎の術を用い、民衆を支配した事。
 紀元239年に、三国志で有名になった国の1つ『魏』に使いを送った事。
『魏』の王に、倭国の王の証として『金印』『絹』『刀剣』『銅鏡』などを与えられた事。
 3世紀半ばに『狗奴国(くなこく)』という敵対国家との戦いの中で逝去した事。
 そしてその後を、卑弥呼の宗女(血縁のある女性)である『壹與』が継いだ事。

 くらいの事であろう。

 ちなみにこれらは、支那国の歴史書である『「三国志」魏書東夷伝倭人条』。
 または『魏志倭人伝』と呼ばれる書物に書かれている、あまりにも、あまりにも少ない情報だ。
 もしかしたら卑弥呼は存在しなかったのではないか、という仮説が出るのも当然の少なさだ。
 しかしだからこそ、その生涯に空白部分が、謎が存在するからこそ、
 日本国の考古学者達は、その謎を自分こそが解くんだと躍起になった。

 なぜならば、そこには日本国の歴史の、知られざる顔が隠されているのだから……。

     ※

「なるほどな」
 意外にも歴女であった玲の意見を聞いて、秀一は腕を組みながら納得した。
「卑弥呼に弟がいたというのは初耳だが、確かにそれなら琉奈が視たという記憶の1部とも符合するな」
「ていうか、写真の場所で卑弥呼の記憶を視つけただなんて……まさか卑弥呼が関わってんデスかこの事件!?」
 まさかの偉人絡みの事件に、歴女の玲は大ハシャギだ。

「確かに……私が視た男の子を卑弥呼の弟だとすれば、いろいろと合点がいく」
 琉奈は玲のハシャギっぷりに耳を貸さずに、顎に手を当てながら納得した。
 しかし、なぜか心の奥底で、正体不明の引っ掛かりを覚える。

 本当に……本当にあの男の子は、卑弥呼の弟なのか……?
 夢の中で視た、1人の男の子。
 そしてその男の子の姉、卑弥呼と思われる女性の想い……。
 あれは……あれ、は……。

「――……な……琉奈? どうした?」
「!?」
 すっかり思考モードに入っていた琉奈の意識が、義兄の声で現実に戻される。
「な、なんでもない。大丈夫だ」
「……そうか、ならいいんだが」
 秀一は苦い顔をしながら、さらに続けた。

「さっき『チーム・ハートフル』の連中に聞いてみたんだが、どうやらコチラには来れないようだ。
 連中に、琉奈に刷り込まれた卑弥呼の記憶を全て引き出させて、
 琉奈を眠らせてまで記憶を視せる意味さえ潰してしまえば、
 琉奈がこれ以上、突発的に眠らされる事はないと踏んでいたんだが……」
 さっき携帯電話を手にしていた理由はそれか、と琉奈は心の中で密かに理解した。

「コチラに『チーム・ハートフル』が来られない以上、琉奈の記憶を引き出せずに、
 これから先も、突発的に眠らされる事があるかもしれない。
 それでも、琉奈……この事件に正面から立ち向かう気はあるか?」
「?? どういう事だ、秀兄ぃ?」
 突然の秀一の質問に、戸惑う琉奈。
 そして秀一は、1つの選択を琉奈に迫った。

「お前さえ納得してくれるのならば、拠点であるここに残って、
 夢の内容……この事件の解決の糸口になるだろう、その内容を、
 電話で知らせてくれる役になっても構わない、という事だ」
「!?」
 それは、戦力外通知にも等しい言葉だった。
 唯一の救いは、選ぶ権利が与えられている点であろうか。

「ど、どうして?」
「当然だろう」
 琉奈の質問に、秀一は即答する。

「いつ眠るか分からない味方を、これ以上、極道という戦闘のエキスパートとの戦いに巻き込むわけにはいかないからだ」

「あ……」
 義兄の言葉に、琉奈はすぐに納得した。
 眠るという行為は、生物共通の、大きな隙が生まれる瞬間の1つである。
 中には浅い眠りを維持し続ける訓練を受けているおかげで、
 例え寝込みを襲われそうになっても瞬時に戦える戦士はいるにはいるが、
 琉奈の場合は、いつ起きるかも分からない眠りである。

 にも拘らず、そんな琉奈を戦場の真っ只中に向かわせ、途中で眠ってしまえば、
 敵は確実に、容赦なく、無慈悲にも、琉奈のその身を蹂躙するであろう。
 そしてそれを、琉奈の家族が、看過できるわけがない。
 だからこそ琉奈は、返答に困った。

 家族を、そして仲間を心配させたくはない気持ち。

 わずかな間だが共にいた少女・小姫を助けたい気持ち。

 この2つの思いが、琉奈の胸中で拮抗しているのだから。

 私は……私は、どうすれば……。
 どう返答すればいいのか分からない琉奈が、思わず顔を伏せた。
 それでも、秀一は、ついでにその傍にいる玲も、琉奈の返答を待った。
 ありがたかった。でもだからこそ、琉奈は苦しかった。
 こんな優しい家族を、仲間を、自分が眠ってしまったせいで劣勢に追い込むような事はしたくはなかった。

 でもそれと同じくらい、自分達が不甲斐無かったせいで連れ去られてしまった小姫を助けたかっ―――。

 ホントウニ、ソレダケ?

「!?」
 拮抗する、心の中。
 そこで琉奈は、謎の声を聞いた……。
 こ、この声……私に記憶を刷り込んだ卑弥呼か? いや、違う。この声は……。

 声の正体に、即座に琉奈は思い当たった。
 だが、私に刷り込まれたのは卑弥呼の記憶だけではなかったのか?
 なぜ……なぜこの声が、私の心の中で聞こえ――ッッッ!?

 戸惑いは一瞬。
 琉奈の脳裏に、あの時の記憶が、ふと甦る。
 自分達は味方であると、小姫に、目を見て告げたあの瞬間。

 自分を映す、そのつぶらな瞳。

 その瞳に映る、自分の瞳。

 それらを見た時、果たして自分は――何を感じた?

「!?」
 思い返してみて、初めて、琉奈はそれ≠自覚する。

 小姫は……なぜか私を、巧壱たちとは違う目で見ていた。

 そして私も……小姫を、小姫と同じような目で見ていた。

 なぜ?

 ……解らない。

 全く、何も、解らない……けど、

「解らないからこそ……私は、知りたい」
「??」
「琉奈、ちゃん?」
 ようやく現実に戻ってきた琉奈が告げた返答に、秀一と玲は困惑した。

「なんでだろう」
 しかし返した返事は、どこか不明瞭で。
 そしてその表情は、どこか自嘲気味で。
「私は、小姫に……執着している」
 けれどその言葉は、己の核心を確信していて。

「自分達の不甲斐無さのせいだとかじゃ、ない」
 理屈などではない。
 理屈を越えた何かが、琉奈の中には確かに在って。

「私は……私は、小姫を助けなければいけない。なぜ私なのか、解らない……けど、なんとなく解るんだ。
 そしてだからこそ……この気持ちがなんなのか、もっと明確に、小姫にもう1度会って、ちゃんと知りたいんだ!」
 だから琉奈は、義兄に、初めて感情をむき出しにして意見をした。

「……そうか」
 対する秀一の反応は、拍子抜けするほどの平坦な返事だけだった。
「そうか、って! 反応薄っ!」
 思わず玲はツッコミを入れてしまうほどに。

 だが玲のツッコミを軽く無視して、秀一はさらに続ける。
「どうやら目を見る限り、刷り込まれた記憶の中の感情に流されているってだけじゃ、なさそうだな」
「!? しゅ、秀兄ぃ……その……」
 琉奈は反応に困った。なぜなら秀一の指摘が、ほぼ図星なのだから。
 けれど秀一は、そんな無茶な意見を通そうとする琉奈を咎めようともせず、
 代わりに、よりいっそうの真剣な顔で、未だに起き上がっていない琉奈を見つめた。

「なら、琉奈……その意地、なにがなんでも貫き通せ」
「!! 秀兄ぃ……いいのか? 私が前線に立っても……?」
「元々お前の意見は尊重するつもりだったんだ」
 秀一は、どうという事は無い、と言いたげに返事をした。

「それに、お前がそう選択するなら、お前が怪我しないよう、
 巧壱たちによりいっそう頑張ってもらう。それだけだ」
「秀兄ぃ……」
 琉奈は心の中で、義兄に感謝した。

「さて、と。琉奈、そろそろ動けるか?」
「!! ああ、問題ない」
 家族への感謝も束の間。秀一は琉奈に、遠回しに前に進むよう促した。
 琉奈は義兄の言葉に応え、起き上がり、ベッドから降り、新たな1歩を踏み出す。

「覚悟しろ、琉奈」
 そして最後に、琉奈の無事を願って、最後の忠告を。
「ここから先は……何が起こるかも分からない、今まで以上の……そう簡単に逃げられない地獄≠セ。
 けど、お前なら……今までどんな困難もブレイクスルーしてきたお前なら、絶対大丈夫だ。
 だから自分を、みんなを信じて……みんなと前に進んで、お前の求める真実を突き止めてみせろ」

「…………ああ、もちろんだ!」
 琉奈の眼光が、一際鋭さを増した。
 それを見届けた秀一は、心の中で琉奈の成長を密かに喜びながら、
「……みんなは隣の部屋にいる」
 ただただ、みんなのいる場所を伝えた。
 琉奈は、ただ黙って頷いた。

 足を1歩1歩踏み出し、琉奈は前に進む。
 みんながいるという、部屋の前に立つ。
 ドアノブに手をかける。その瞬間、手がわずかに震えた。
 今まで以上に予測できない未来が、すぐそこまで迫っているのだから。

 落ち着け、落ち着け私……みんなと共に、今までもいろんな謎を解いてきたじゃないか!
 心の中に拡がろうとする緊張を抑えつけるため、自分自身にエールを送る。
 しばらくして、震えが止まる。
 同時に琉奈は、不退転の思いのままに、ついに、手に力を入れてドアを開けた……!

 そこで、待っていたのは……。

 4代あるパソコンの内の1台と、目をかっぴらいて向き合い、高速でキーボードを打っている須桜康士と。
 康士が使っているヤツ以外の3台の内の2台のパソコンのキーボードの上でそれぞれ果てている須桜巧壱と風深翔哉と。
 そんな3人を手伝い、まだおぼつかない手つきながらも最後の1台のパソコンのキーボードを操作している柊克輝と。
 なぜか絶望のオーラを出している天ヶ崎宇宙と。
 彼らが使っていないソファやベッドにて座っている、眼光が鋭い侠(おとこ)共だった。

「うわっ!?」
 秀一の言った通り、そこは確かに地獄≠セった。
 まるで地獄の鬼達と、鬼達が罰を強いている罪人の魂のような構図であった。
 これが俗に言う『地獄絵図』というモノであろうか……。
 だが意外にも、侠連中の口からは、

「お、女に怖がられた……ちょっとショックだぜ」
 なんだかコミカルなコメントが。
 琉奈は思わず唖然とした。
「そりゃオメェの顔が怖すぎるからだよ勲夫」
「ああ? そりゃオメェもだろ源吉!」

 そして目の前にて繰り広げられるは、あまりにも……。

「まぁまぁお2人さん、そうカッカすんなよ」
「ああん? テメェが仕切ってんじゃねぇ!」
「いやガチで落ち着けよ」
「ああもう足が痺れてきたぜ」
「正座にこだわるからだ、アホめ」
「あんだと!? 正座ナメんな!」
「つうか腹減ったな」
「そういや朝メシまだ食ってねぇな」

 ……………あまりにも、アットホームなやり取り……。

 そんな、自分の中の極道のイメージとは正反対な場面を目にして、
 琉奈は未だに、呆然として動く事は出来なかった。
 とそんな琉奈の心情を察したのか、ようやく琉奈の存在に1人の男が気付き、声をかける。

「あ、琉奈さん……お目覚めですかぁ?」
 なぜか未だに絶望のオーラを発している宇宙だった。
「そ、宇宙さん……この状況はいったい!?」
「ああ、確かに……混乱しますよね、この状況……」
「い、いったい何が……?」
「ええ、っとですね……まずどこから説明したものやら……」

「と、とりあえず宇宙さんの事が気になるのだが」
 琉奈は真っ先にそう意見した。
 他の人達のありさまも確かに気になるが、それ以上に、自分に気付いてくれた味方である宇宙が、
 どうして絶望のオーラなどという宇宙らしくないモノをまとっているのかが1番気になった。

「えぇと……じつは櫂に、誤解されちゃって……」
「ご、誤解?」
「じつは、この事件に僕の先輩である、土屋大地先輩が関わっていまして」
 それを聞いた途端、琉奈の目の色が変わる。
 やはりこの事件には、自分のルーツを知るために渡英した時に聴いた声の主にして死者であり、
 自分達の依頼人である天ヶ崎宇宙の先輩である、あの土屋大地が関わっているのだから。

「それで、巧壱くんと、康士さんと翔哉さんに大地先輩の足取りを追うのを手伝ってもらって、
 ようやく見つけた手掛かりを、いろいろあったからさっきまで櫂に読んで≠烽轤チていたんだけど……」
「!? なにか手掛かりが!?」
 何気に、なぜ巧壱たちがパソコンとにらめっこしたり果てていたりするのか分かったが、
 それ以上に、琉奈にとっての注目すべきモノは土屋大地という男についての情報であった。

「えっと、それが……コレ、なんだけど……」
 そう言いつつ、宇宙が懐から取り出したそれは――。

『暴走歴女!!』
『暴走歴女!! 2』
『転生歴女の世界征服日誌!!』

 ――3冊のライトノベルであった。

「え?」
 思わず、またしても呆然とする琉奈。

 作者名は『相田太一』とあった。
 作画担当は『藤崎・ロドリゲス・政宗』とあった。
 表紙のイラストは、俗に言う萌え画であった。
 文庫名は『オーバードライヴ文庫』であった。
 出版社名は『イグニッション・カンパニー』であった。

 何がなんだか解らない顔の琉奈に、宇宙は絶望のオーラを周囲に撒き散らしながらも説明する。
「じつはこの小説は、大地先輩が執筆したモノなんだ」
「な、なんだって?」
 さらに困惑する琉奈。

「あの人、手に入れた金のほとんどを遺跡発掘費用やら研究費やら旅行費やらにつぎ込むから、
 毎日毎日毎日毎日生活に困っていて……それで密かに小説執筆に手を出していたんだと思うんだけど……」
 宇宙の顔に、さらに影が差す。琉奈はまたしても困惑した。

「巧壱くんがこの事を突き止めてくれて助かったよ。作者名は偽名だったっていうのに突き止めちゃうんだから。ホント巧壱くんには感謝してもしきれないよ。先輩のこんな貴重な一面を知る事ができ……話を戻すけど、なんでも、ネットで調べたところによると、この『暴走歴女!!』シリーズは大地先輩の自伝らしくて、これは大地先輩の足取りを追うための重要な手掛かりでは!? と思って、この本をわざわざ手に入れるためだけに東京州の本屋に向かったけど、間違えて同人誌コーナーに入ってしまって大恥かくわ、ようやくライトノベルコーナーに着いたと思ったら売り切れで、最後の手段として、絶対陳列しているだろうアニマイト本店に向かったら、通常版は全部売り切れで限定版、しかも最後の1つしか残っていなくて、それが通常版よりも高めなお値段で、シリーズ……と言っても2冊しかないけど、その『暴走歴女!!』シリーズと、大地先輩の別の著書である、自伝ではなく転生モノ……だったかな? そんなジャンルである『転生歴女の世界征服日誌!!』に、それぞれの作品のドラマCDも付いてきて、まぁいろいろ付いてきたから高かったんだと今思えば納得だけど……とにかくアニマイトにこれしかないのならばなんとしてでも手に入れるべきだと研究者としての恥をしのんで手を伸ばしたら、同じくそれを狙っていたマニアと限定版を懸けて大地先輩をどれだけ慕っているかの勝負をする羽目になって、それでいろいろと精神的に傷付いてでも何とか勝ち取ったその限定版を読もうと思ったけどいろいろ疲れて……それで代わりに櫂に読んでもらったんだけど……………僕は……僕はぁ!! ホモなんかじゃないぞ櫂ィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!」

 宇宙のいろいろと黒い感情がこもった魂の雄叫びにビックゥッ!! と琉奈の体が跳ね上がる。
 だが琉奈にはどうする事も出来ない。
 いろいろと宇宙が、今までとはまた違う大冒険をしてきたのだと解りはしたが、それだけだ。
 というか今のダークサイドに堕ちつつある彼に、琉奈にしてあげられる事はあるのだろうか……??????
 もはや魔≠ノ侵された連中よりも厄介な闇が、霊能力者でなくとも彼の背後に視える気さえするくらい彼は重症だ。いろんな意味で。

 とその時である。

「も、もうやめてやれぇ!!」
 ソファでくつろいでいた極道の1人である男性が、宇宙の前に立ちはだかる。
「宇宙さんのライフはもうゼロなんだぁ!!」
「なんで私が悪者みたいになっているんだああああああぁぁぁぁぁあああああッッッッ!!!!!!?」

 ……………………………………………………なんだかもう、いろいろとグダグダだった……。

     ※

「で、本心はどうなんデスか? 先輩」
 琉奈が先ほどまで眠っていた部屋にて、秀一と玲は片付けをしていた。
 琉奈の状態を知るためにいろいろと出した医療器具の片付けである。
 そんな中、玲はさり気なく、先輩である秀一に問いかけた。

「何の事だ?」
 一方の秀一は、顔色1つ変えず返事をする。
 だが玲には分かっていた。

「トボけちゃって。本当は、琉奈ちゃんを先に進ませる事で、
 琉奈ちゃんの異変≠、これ以上加速させたくなかったんデスよね?
 にも拘らず、先輩は琉奈ちゃんを先に進めた。
 先輩、いったい何を考えてるんデスか?」
 疑惑の目が、天才医師の背中を射抜く。

 するとそんな後輩の言葉に、天才医師は淡々と、
「……見たんだよ、俺は」
「見た?」
「アレは……あの目は……俺の知る琉奈のソレじゃない、俺達の知りえないナニか≠フ目だった」
「!? え、まさか悪魔にでも取り憑かれたなんて、言わないデスよね……?
 いやまぁ、琉奈ちゃんは霊能力者デスから、そういう事態もありえるかもしれませんケド……」
 あまりにもオカルトじみてた意見なので、科学の可能性を追求する側として、とりあえず釘を刺す玲。

 だが、その科学を追及する側でエリートと慕われるその天才医師の表情は真剣で、
「馬鹿げているかもしれん。でも、俺にはそう見えた。
 だが助けようにも、悪魔じみたソレは、明らかに俺達の管轄外の事象だ。
 だが科学側がエクソシストの資格を持つ教会なんぞに『助けて』なんて言えるわけもない。
 けどその目は……どこか、琉奈と同じ決意を持っているようにも、俺には感じた。
 ならば……この事件の前線に立たせて、この事件の終焉を見届けさせたのならば、
 琉奈の体からとっとと出て行ってくれるかもしれない……そう考えたんだよ」

「な、なるほど……そういう事、デスか……」
 玲はただ、秀一の言葉に耳を傾け、納得した。
 ホントウに、秀一のやった事は正しい事なのか。
 そんな不安が一瞬、脳裏をよぎる。
 さらに言えば、天才医師の願いは、琉奈の中に潜んでいるという正体不明のナニか%ヘくのか。
 それは、誰にも分からない。

 そして分からないままに、物語はこれからも進んでいく。
 先の見えぬ、運命へと向けて……。
 


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