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作品名:ミツバチの日記帳‐鏡像の系譜‐ 作者:サカキショーゴ

第1回 血塗られた夢
 









※この物語はフィクションです。
※登場する人物・団体・施設・地域・法律・流派・武術・体術・格闘術・戦闘術・暗殺術等は架空であり、実在のモノとは関係ありません(笑)
※ただし、作中にて登場する仮説は一部を除き実在する!!










 かつて楽園≠ニまで揶揄されたそのクニは、今や地獄≠ニ呼ぶべき場所へと成り果てていた。
 確かに過去には多くのクニグニと、幾度となく食料や武器、宝を巡って戦を起こし、
 今のように地獄と呼ぶのに相応しい場所と化した事もあった。

 けれど、それはもはや過去の話。

 幾度となく戦を繰り広げた末、民達はようやく気付いたのだ。
 このままでは戦は永遠に終わらない。より多くの無駄な血が流れるだけだ、と。
 そして民達は、二度と戦を起こさない為の措置として、自分達をまとめる1人の盟主≠選出した。
 優れた盟主≠ェ存在し、その者の下で同盟を結びさえすれば、
 クニグニの価値観などの認識が統一され、戦が無くなるのでは、と踏んでの事だ。

 そしてその判断は、見事に正解であった。
 優れた盟主≠ェ現れてからは、クニグニの間で戦が起こる事は無くなったのだ。
 そしてそれは、どんな集団にも、リーダーという存在が必要不可欠であるという証明にも繋がった。
 こうしてその当時のクニグニは、誰もが羨む平和な楽園となった。

 しかしそんな楽園≠ヘ、一夜にして地獄≠ニ化した。

 1人の男の、裏切りによって。

 夜の虫でさえも寝静まる、夜中の事である。
 突如、夜空から幾多もの紅い光がそのクニへと落ちてきた。
 もしもその場に人が居たならば、それは流星群であると、誰もが思ったであろう。
 しかし空から落ちてきたその光は、そんな生易しいモノではなく、

 残酷にもその正体は―――楽園≠フ、さらに言えば平和≠ニいう幻想に終わりを告げる火矢≠ナあった。

 カッカッと木製の壁に矢が刺さる音がその場に響く。火矢に当たった家々はすぐに引火した。
 炎は激しく燃え広がり、数刻という時間を要して、クニ全体を覆い尽くした。
 しかし不思議な事に、そのクニには逃げ惑う民など1人もいなかった。
 クニ規模の大火事ともなれば、大勢の民が家から出てきてもおかしくないにも拘らず。

 そんな異常な地獄の中を、1人の男が駆けていた。
 このクニ特有の鎧を身に付け、そして武器を手にして、
 今は地獄と化したこのクニの中心部―――すなわち盟主の住まう建物へと。

 クニが小さいため、そしてかつてこのクニで育ったために、男は迷う事無く目的の場所へと辿り着く。
自分の仲間≠ェ放った炎のせいで息苦しい中、なんとか呼吸を整える。
 バンッという乱暴な音を立てながら、男は扉を押し開けた。

 中には1人の女がいた。まるで男の顔など見たくない、とでも言いたげに、男に背を向けて立っていた。 
 黒い、川のように流麗な長髪を生やし、煌びやかな衣装を身に付けた、
 いかにもヒメ≠ニ呼ぶのが相応しい女である。

「こうなる事は、分かっていました」
 女は、自分の住居が炎に包まれ始めているにも拘らず、全く動じていなかった。
 いや。それどころか、汗1つかかず、恐怖で身体が竦む事も無く、
 自分の背後に居る男に対して、慌てる事無く、淡々と、自然な流れで言葉を紡いだ。

「いえ、違うわね。正確には……この状況が、可能性の1つとして存在した、という方が正しいかもしれないわ」

 すると女は、一旦言葉を区切ると、その流れるように美しい長髪を揺らしながら後ろを振り返った。
 女の目に、紅蓮の炎を背景に、自分と対峙する男が映った。自分を、血走った眼で睨み付ける男が。

「なん、で……そんな冷静でいられるんだ……?」
 女性に見つめられた瞬間、男が口を開いた。
 酸素が薄くなり始め、さらには水分が蒸発を始めている中、男は何とか口内に唾液を溜め、言葉を発した。
「俺は……アンタに育てられたんだぞ? そんな俺が、今、アンタを殺そうとしている。
 アンタが……俺を利用して、この■■を支配しようとしなければ!!
 俺は!! アンタを……アンタをここまで憎む事もなかったのに!!」
 言葉を発し終わると同時。男は床を蹴り、女へと向かって全速力で駆け出した。

 次の瞬間。その場に鮮血が飛び散った。

 男が手に持っていたツルギが、女の腹部を貫いたのだ。

 男は女を突き刺すと、そのまま壁へと、女の背から突き抜けたツルギの先端を突き刺した。
 刺された瞬間、女は呻き声を上げたものの、そのまま動かなくなった。
 そして女に刃を突き刺した男も、しばらくは動かなかった。
 しかし途中で力が抜けたのか、男は自分の体重を女に預けると、荒い、深呼吸を始めた。

 かつて愛した女性を、この手で処断したのだ。
 使命感と罪悪感が心の中でせめぎ合い、それが肉体へと影響し、呼吸が乱れても仕方がなかった。
 と、その時である。
 背中に、何か温かいモノが纏わり付くのを男は感じた。

「私はね、貴方の事を……本当の家族のように思っていたのよ……?」

 同時に男の耳に、優しい声が囁かれた。

 それはかつて彼が愛した女が、最後の力を振り絞って彼に伝えた―――最期の言葉であった。


     ※


「……夢……だよ、ね?」

 紅蓮と鮮血の世界(アクム)から一転。
 悪夢から逃れたい一心で、無理やり上半身を起こす最中。
 その瞳に映ったのは、窓から差し込む日の光で、ようやく色を取り戻し始めた木製の天井。
 そして、隣の部屋と自分の部屋を区切る8枚の襖と、自分が寝ている布団が敷かれた、6枚の畳。

 そこは彼女の自室。
 両親にねだって、最近ようやく手に入れた場所。
 紅蓮と鮮血とは、全く縁が無い場所。

 悪夢を見たが故に、少し充血した眼でそれを認識して、彼女はようやく安堵する。
 自分の世界は、夢で見たような紅蓮と鮮血に染まっていないのだと。
 だけど、未だに彼女の心は、紅蓮と鮮血の悪夢から開放されない。
 安堵はした。だけど、冷や汗が止まらない。心臓の動悸がいっこうに止まない。

 夢の内容が、夢の中の女の想いが―――頭の中で何度も何度も繰り返される。

 まるで自分の心が、夢の中の女の心で押し潰されるようであった。

 自分の胸を手で掴み、ギュッと、握り締める。
 しかし、胸の動悸はさらに激しくなるばかり。
 さらには、
 このまま自分は、夢の中の女の想いに押し潰されて死ぬのではないか。
 などと、死のイメージが彼女の頭を掠めた時である。

「あら? もう起きたの?」
 襖の向こうから聞こえてきた声が、彼女を現実へと呼び戻した。
 とても優しげな印象を受ける、女性の声である。
 彼女はハッとして、声が聞こえた方へと顔を向けた。
「なら、もう朝ごはんにしましょう? 早く着替えてね」
「……う、うん。分かったよ、お母さん!」
 まるで夢の内容を忘れようとするかのように、気持ちを切り替えようとするかのように、
 彼女は母の声に、敢えて大声で応えた。

 返事と同時に立ち上がり、自室の箪笥の前へと駆け寄る。
 駆け寄る最中、自分が着ている寝巻きが、汗でじっとりと濡れている事に気付いた。
 どうやら悪夢を見た際に、緊張のあまり汗だくになってしまったようだ。
 悪夢を見たのも影響し、自分がかいた汗にこれまで以上に不快感を覚えた彼女は、
 箪笥の中から着替えとタオルを探り、取り出すと、すぐに寝巻きと下着を脱いだ。

 とその時、ふと勉強机の隣に置いてある姿見に映る自分が目に入った。
 まだ思春期にすら入っていない幼児の平均的な体型である、自分の裸体。
 そんな自分の身体に、彼女は何か、違和感を覚えた。
 けれどその違和感が何なのか、その時の彼女には、まだ分からなかった。

     ※

 幼稚園の制服に着替えた彼女は、食事の席に着いた。
 台所に置かれた洋式テーブルの上には、バターを塗ったトーストと味噌汁を主食に、
 ベーコンエッグとドレッシングをかけたサラダをおかずとした、ごく普通の朝食が並んでいた。
 けれど彼女は、先程見た悪夢が悪夢だけに、なかなか食欲が湧かなかった。

 そんな中、台所に置かれたTVには、最近替わったらしい新しいニュースキャスターが映っていた。
 昨日行われたらしい、とある考古学教授による会見の様子をキャスターは報道している。
 報道し終わった直後、ニューススタジオから会見の様子を撮影した映像に切り替わった。
 映像の内容は、とある考古学教授が、とある地域に何々がある、などと大声で宣言している、というモノだ。
 会見に集まった新聞記者達が、教授に非難の声を浴びせる。しかし教授もめげずに反論した。

「本当にあるのかしらね?」
 自分の席に着く彼女の母が映像を見て、苦笑しつつ呟いた。
「さて、な。でも無いとも言い切れないぞ?」
 すでに席に座っている彼女の父も、苦笑しながら呟いた。
 とその時である。

「ん? どうしたんだ? 顔色が悪いじゃないか」
 ようやく娘の異変に気付いた父親が、突然娘に話しかけてきた。
 彼女は一瞬ビックリしたが、すぐに父親の方に顔を向け、
「うん、ちょっと……怖い夢を見ちゃって……」
「怖い夢?」
 聞いた瞬間、父親は心配そうな顔で彼女を見つめた。

 しかし彼女は、そんな父親に心配をかけないよう、敢えて笑顔を見せながら、
「大丈夫だよ。夢だから、気にしてないよ。それじゃ、いただきまーす!」
 大きな声で食事の挨拶をしてから、食事を開始した。
 彼女の両親が、心配そうな目で見つめているのに気付かずに……。
 


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