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作品名:クロード・レヴィに捧げる弾丸 作者:葦原瑞穂

第5回 グローバリズムと情報化社会についての試論
 ようするに酒飲んで寝ようと思ったら、眠れなくなったのでさらに酒を飲み続けたらいつの間にかこんなところに迷い込んでしまったということなのだ。

 ここはどこか?

 人々がいわゆるグローバル社会と呼ぶ場所だが、実態的な話をすれば四隅を四角く切り取られた直線的空間であり前後左右上下に都合六枚の行き止まりが存在している。

 飲み過ぎ故の妄想などではない。

 酒ということであれば少しなら話はできる。
 例えば今日は消火栓をかたどったデザインのボトルで有名な、あのタンカレージンを奮発のつもり(千六百円)で購入して冷凍庫でとろっとろに冷やし今グラスに百tほど一気飲みしたところなのだが、ウルトラスーパーアルティメイテッドベリーベリードライマティーニと形容してもなお足りない酒に仕上がっており、要するにベルモットの影も形も気配も記憶も存在しない単なるジンのストレート。

 それで酔ったのだが、グローバル社会に酒は必要欠くべからざるべき嗜好品であり、副産物として幾らかのアルコール依存性廃人を発生させることになりはするものの、プルサーマル発電による高レベル放射性廃棄物よりは全然無害で、コンクリ詰めにして地下三百メートル以下の地層に数万年間隔離する必要もなく、極めて健全かつ牧歌的なアル中病棟に三ヶ月ばかり拘置すればγ‐GTPなども程よい数値に落ち着き、あとは飲んでは後悔を繰り返しつつ現実社会からフェードアウトしていくという潔さである。

 むしろ酒は世界平和に多大なる貢献をしているのであり、特にロシアの政治家などは相手が泥酔状態でなければ一切信用せず、どのような重要な和平交渉でも酒抜きには全然まとまらないというのだから、過去にどれ程の国家間の緊張と対立が、アルコールの霧の中に包み隠されてきたかについては、推して知るべしと言えようもの。

 ところでさっき我が家(バツイチ子持ちのシングルマザーのイソーローである)の玄関の頑強極まりない鉄扉を、無謀な勢いでノックするものがいた。
 県営住宅というものは何故かわからないが刑務所並みに頑丈に作られている。
 壁などはノックしてもペトペトというくぐもった音しかしないほどの分厚いコンクリートのかたまりである。
 玄関は全て重たい鋼鉄でできており、慣性に任せて無分別に閉めようものなら、翌日にはドアの前に苦情の張り紙がされるほどの大音響を放つ。
 おそらく、幕内力士三人ばかりで体当たりしてもビクともしないだろう。

 その扉を、何を血迷ったか罰ゲームがごとき勢いで二十発ほどノックし続けた者がいたのである。

 だが人的督促すなわち取り立てなどにかかずらうつもりはない。
 たかだか三文判一発で何故俺が人の借金を立て替えなきゃならない?
 そんなものクーリングオフだ。
 世界は絶え間なく加速しているのであって、そう遠くない未来に紙切れとサインと三文判などというレトロな方法など通用しなくなる世の中が到来するだろう。
 黄門ちゃまの印籠が「つーかインローって何?」という時代になったように。

 こうして世界は今日もステキにグローバルである。
 そこには顔と名前と過去を持つ個人など必要とされない。
 英語が話せてキーボードが打ててインターネット接続環境(スマホ可)さえ持てれば、あとはどうにでも、どうとでもなるのだ。

 仮出所中の犯罪者でさえそう思うのだから間違いない。

 名前も経歴も顔も住所も全国ネットのワイドショーでさらされ、親父は自殺し、一家離散、母親と姉は名前を変えてどこかで細々と生きている。
 全くもって一昔前ならとうに人生終わっていたはずの人間が、新規参入の匿名空間においてカリスマブロガーともてはやされ、付属のアフィリ収入は月に百二十万ばかり(先月)。
 種銭元手にデイトレ三昧、利食いに利食いを重ねた結果、もうすぐ預金は億を超える。

 めでたく刑期が満了したら、こんなヒモがごときしみったれた生活からはエスケープして、シンガポール辺りで新しい女とステキに豪遊して余生を送れればいいなあなどという妄想を噛みしめる今日この頃である。

 まさしく、我々は新時代に生きているのだ。

 以上、グローバリズムと情報化社会についての試論。
 我が手になる被害者諸氏のために⇒合掌。


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