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作品名:旅行記私鉄編 作者:烏山鉄夫

第4回 第三章 小田急電鉄小田原線
神奈川県湯河原へ遊びに行く機会を得た。
往復JRに乗るつもりだったので、今日の「乗りつぶし」は全くの突発的な行動であった。
平成二一年一一月二一日、東京9時21分発の普通電車に乗った。ロングシートであったが、先頭車に近い車だし、土曜日の朝の下り電車だから空いており、座席もさらりと埋まって居る程度で発車をした。
品川で早くも運転士が交代した。たった六・八キロの乗務だったが、車庫を出るところから担当して居たのだろうか。若い人が乗り込んで来た。
この電車の警笛は、ピョウッと言う重い音がするのが旅情を感じさせる。
大きな煙突が見える。久保山の火葬場で、朝早くから煙が立ち昇って居るのを見た事があって、どきっとした。今日も乗客の頭越しに、もうもうち煙が天に向かって吐き出されて居る。
平塚で、特急「スーパービュー踊り子」3号を先に行かせ、後ろ五両を切り離す為に六分停車をした。慌ただしくハイデッカーの車体が走り去って行く。
酒匂川の長い鉄橋を渡り、新幹線の高架橋が近付いて来る。小田原である。気分次第で「もう」と思うし「やっと」と思うが、今日は淡々として居る。
今日の目的地である湯河原に11時02分に到着をした。1890円の大型乗車券ともお別れである。
駅前からバスに乗って僅か五分、湯河原小学校停留所で下車をする。
ここからは徒歩となる。
バス停から手元の案内図を頼りに歩き出すと、電柱に看板が設置されてあり、それに従って近道と称する、コンビニと駐車場の間の小径へ左折をする。いくつかの目印(パチンコ店、立体駐車場)が次々に現われ、ついに白亜の建て物が見えてくる。即ち「西村京太郎記念館」への到着を意味した。
名の通り、推理作家の西村京太郎氏の資料を展示してあり、氏の御自宅に隣接しており、御本人が顔を出す事もあると聞く。
一階は喫茶室、二階が展示室となって居る。階段を登ると、Nゲージの大型レイアウトがまず目に飛び込んで来る。何時までも見て居てあきさせない。
氏に関するクイズが用意され四問全問正解で景品を頂けるそうだが、残念ながら一問とちってしまった。
階下の喫茶室は大きな窓が心地良く、スパゲッティと珈琲を注文する。マグカップは頼めば持ち帰りが可能である。
また停留所まで歩き、箱根登山鉄道バスに揺られて湯河原駅へ戻った。折角の温泉街だが、ひと浴びもせずに今度の上り電車に乗って、小田原で一旦下車をする事にして居る。
改札を入ると、二匹の狸が居た。勿論飾りだが、湯河原温泉の「発見者」が狸であると言い伝えられており、地元の人はによって万葉公園と言う所に神社を建立したそうだ。
それは良いのだが、妙な事になった。現在一三時を過ぎたところだ。熱海で「車両点検」が行われた関係で東海道線に影響が波及して、特に下りは熱海の構内が満線になってしまい、快速電車が長時間停車を余儀なくされ、上りは特急を先に動かすと言って「踊り子」の姿を見てから「522M」に乗った。当然満員だが、時間調整も無くすんなり小田原に運ばれた。
小田原の駅舎が改築されてから初めての利用である。赤い三角屋根が懐かしいが、近代的な建て物に生まれ変わった。
これから小田原城へ歩くつもりである。たいした距離では無い。
小田原は城下町であったから、或いは東海道の宿場であったから、歩いて居ても名残りと言うか趣があって楽しい。濠沿いの道に出た。ぶらぶらと、気持ちの良い晩秋の晴れ空の下を歩く。
駅からも見えるお城は「小田原城跡公園」として整備されており、実に堂々として恰幅の良さに威風を感じる。流石は北条早雲以来五代ゆかりの城郭である。
さて、敷地内では折りしも「小田原農業まつり」が開催されており、大勢の人々が賑やかに歓声をあげて居る。屋台で唐揚げと焼きそばを求めてお祭りに参加をした気分を味わう。是は昼食であろうか、それとも「間食」に当たるだろうか。
軽食を摂った事で何故か満足をしてしまい、お城を見学せずに駅に向けて歩き出してしまった。
白黒の猫と白一色の猫がじゃれ合い、白い方が毛づくろいの為に舐め回して居る姿を見つける。白黒の方は「親愛表情」をして気持ち良さげで、白い方も矢張り目を細めて居る。ほのぼのとした寄り道となった。
今思うと何ら根拠は無かったのだが、東海道本線の遅れが取り戻せて居ないと判断をし、この機会に小田急の特急に乗ってみようと思い立った。半ば強引であるが、ささやかな贅沢をしようと考えたのだ。尤も、普通列車のグリーン車を使う手もあったし、最高の贅沢とは新幹線を利用する事であろう。
帰りの乗車券は別途購入しなければならないので、JRを利用しても、小田急の世話になろうとも、結果は同じである。特急券は券売機であっけなく入手が出来た。何時もみたいに一ヶ月前から気をもみながら買うのとは違って若干拍子抜けをした。新宿まで八五〇円とは安く、JR運賃の割高感が余計に目立つが、是は国鉄時代に非があろう。
小田急小田原線は、新宿と小田原とを結ぶ八二・五キロの私鉄線である。小田原急行鉄道として昭和二年に開業をした古参の路線である。なお、今日は「乗りつぶし」であるから、途中の新百合ヶ丘までたどり着いた時点で目標は達成となる。「小田急」と聞いてほとんどの人が想像するのが、この小田原線であり、それ位本数の多い幹線でもある。
手元の指定席特急券は、「はこね」26号、九号車の進行方向右側となって居る。ホームで待って居ると、平成八年に登場をした車両がやって来た。種別としては「特急ロマンスカー」と言うのが正式名称だが、その代名詞でもある展望席が無い形式に当たってしまった。
登山線の箱根湯本発なので既に着席して居る人が多い。小田原15時05分発。足柄地区ののどかな景色の中を軽快に走って行く。広々とした水田が開放的だが、足柄平野と言うそうだ。小田原市と訣別して足柄下郡開成町に舞台は移った。町内唯一の開成を静かに通過をした。
缶ビールに手を伸ばした。
松田町制一〇〇年の横断幕が見える。新松田から渋沢までの駅間距離が六・三キロで小田急電鉄最長だが、特急だからさしたる苦しみも無く掛け上がってしまった。渋沢は同社最高地点である。
15時16分、秦野市のカントリーサインが右手に立って居た。神奈川県道七一〇号線に向けて設置されたものだ。
谷間をなぞりながら短いトンネルをくぐり、盆地から紅葉の美しい山岳路線の風情だ。だいぶ昔の事だが、国道二四六号線を利用した時も、淋しい所だと思ったが、車窓から見ても私鉄としては珍しく旅情を感じるカーブが多い区間を行き、二五パーミルの急勾配を下って行く。四十八瀬川沿いに敷かれた線路は、四九二・九メートルの第二菖蒲トンネルを出たところで渋沢に迎えられる。
今度は秦野盆地に向けてきつめの下り坂を駆けおりる。秦野トンネルを挟んで東海大学前で、かつては「大根」と称して居た。次は鶴巻温泉で、これも気になる駅名である。伊勢原に向けて走行中、ここも人家が無くなり驚く。
何か地理をカン違いして居た様で、厚木市は神奈川県のだいぶ西側に位置して居る。あれだけ山あいの紅葉に目を奪われたのに、まだ東京の「との字」さえ視界に届いて居ないのである。
本厚木の構内に徐行で進入し、加速をしながら通過をして行く。隣の厚木で、一本前の急行を追い抜く。
缶ビール二本目を買うか、思案をする。でも止めておく。人の気配が多い所で呑んでも、居酒屋で一杯引っ掛けて居るのと何ら変わりが無いからである。
ここまでは旅情を楽しんだが、この先は「皮肉」を楽しむ区間である。つまり、乗客も電車の本数も多い区間で、イクライニングシートで悠々と過ごせるのだ。帰宅の行程とはいえ、旅の開放感から、小さな優越感を味わった。
乗車率は八割位か。町田に停車し一五名程乗車して来た。特急券を買ってでも座って行きたい人が多いのだ。ここからだと六二〇円の出費となる。
新百合ヶ丘を無事に通過した。因みに前回は小田急多摩線を利用した、と言うより乗りつぶしに乗車した際に、乗り換えの為に訪れたのである。とりたてて感想は無いが、大物路線を一つ片付けられて目出度い。
あとは、いわば消化試合みたいなものである。ただぼんやりと景色を眺め、退避して居たりすれ違う電車の形式を心の中で確認して、ひとときを過ごして居た。
新宿地上ホームに定刻16時19分、到着をした。
友人改札を通り、特急券を記念に持ち帰る事を許可して貰う。
こうして、小田原・新百合ヶ丘間六一・〇キロを乗り終え、小田急小田原線の完乗を果たした。
新宿で降りたまでは良いが、どうも私には扱いにくい駅である。乗降者数が全国第一位である巨大な要衝だし、単に慣れて居ない為に迷宮とさえ思っておじけづき、出来る事なら近寄りたく無い駅の一つである。幸いな事に、小田急の改札とJR総武線に便利な西口改札は近接して居たから、たいした移動をせずに済んだ。
新宿13番線から、16時30分発の総武線直通電車に乗車をした。この駅では着席の好機が多いので、それが唯一の喜びである。
普段通りの総武線であり、書く事は無い筈だった。
信濃町で降りて神宮球場へ行きたくなったり、市ヶ谷の濠をゆっくり散策したいと思ううち、非常停止ボタンを押され、安全確認の為に三分遅れた。
隅田川も荒川も、大きな川をためらう事なく渡って行く。別に帰宅を急いで居る訳では無く、今日は遅延回復の意味もあるが総武線は普段から案外速くて順調に走行する電車を楽しんで居た。
市川には、17時09分に降りた。あとは、家に向けてひと踏ん張りだ。
楽しく充実をした一日で、だいぶ気分転換が出来て良かった。


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