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作品名:星を道標に ]Z 奇跡 作者:ナナセ

第1回 冬休みの収穫
  


         〜 奇跡 〜







 大切な人の願いなら、どんなことでも叶えてやりたい

 なのになぜ、俺はためらう?











        〜 序章 〜




 高見に帰って、これまでとは少し違う日常に戸惑っている


 ランディーを呼ぶ声がなくなったこと

 二人分で終わる食事

 出迎えのない帰宅

 庭先で始めた素振り

「おやすみ」と言う相手が一人になったこと


 ランディーがいないだけでこんなに静かになるなんて、思いもしなかったよ

 お前は確かに、我が家の一員だった

 いなくなって実感するって、こういうことなんだ

 いつかこの静けさにも自然と慣れていくんだろう

 だけど今は――


 寂しいよ、ランディー











 

          〜 冬休みの収穫 〜  



 
「先生〜、まだ着かねーのー?」
「ケツ痛ぇよ〜」

 飛行機とバスを乗り継いではや数時間。
 とにかくじっとしていることが苦痛な生徒―主に体育会系の面々―が、我慢の限界を訴え始めた。
 飛行機の機内では非常に大人しかったのに、この変わりようは外の景色と連動しているに違いない。
 スキー板さえあればその辺でも十分滑れそうなほどの積雪を目にすれば、気持ちを抑えられなくなるのも当然と言ったところか。
「山は逃げも隠れもしないぞ。あと一時間もすれば着くから大人しくしとけよ」
「げ〜! 長げぇよセンセ」
「滑る前に身体が固まる!」
 等々、騒ぎ始めた生徒達にすかさず注意が飛んだ。
「お前ら、あんまり煩いと向こうでどうなっても知らんぞ」
 担任の丸山先生が言外に「騒ぐな」と脅しをかけている。
 そんなやりとりを聞きながら、一人想いに耽っていた。


 一月下旬に組まれた四泊五日の修学旅行は、もう十数年スキー合宿と最終日の班別の自主研修を兼ねた観光と決まっている。
 スキー場の半分が西城高の生徒で埋まる一大イベントをそれだけの年数繰り返していれば、自然にお得意様状態になる。
 特に西城高の評判は先輩達のお陰で概ねよかったりするから、施設の方から断られた事はないらしい。
 但し、一箇所に限定されたりはしてないし、メジャーではなくマイナーの中で施設の行き届いている所を数箇所決めて巡回させていると安達先輩が教えてくれた。
 今年はニセコスキー場の中の一つだと聞いたけど、北海道のスキー場なら正直どこでもいい。
 一度は最高の雪質で滑ってみたかったから、この日をずっと心待ちにしていた。
 後ろに座る生徒達のように喚いたりはしないけど、気持ちは彼ら以上にハイテンションだった。

 それにしても、と、まだまだ着きそうにないバスの中、持て余した時間で思う。
 北斗の身体能力の高さはどうなっているのか、本当に謎だ。
 というのも冬休みの帰省で若干立ち直った彼と、田舎の同級生とで地元に近いスキー場に行った時、その運動神経を知っているはずの友人達が北斗に感嘆の眼差し……ではなく、変なモノを見る目を向けてきたからだ。


 復調の兆しが辛うじて見えはじめた北斗の様子に安堵して、当初の予定通り三日に高見に戻ることにした俺達は、年越しの初詣を孝史達と近くの神社で済ませ、その時に夏休みの別れ際に話していたスキー練習を強引に組み込んだ。
 と言っても馴染みのある小規模なスキー場では二日からしか営業しないので、翌日、雅也の家族に便乗して連れて行ってもらうことになった。

 で、スキー板の選び方も知らないド素人の北斗に、文字通り手取り足取り教えた訳だけど。


「成瀬、半端ないって」

 どこかで聞いたような台詞を隣でボヤかれ、思わずそっちに目を遣った。
「マジ、最初はどうなる事やらって心配しちまったけど、半日滑っただけで素人には見えなくなったもんな」
 ゴーグルを上げ、その姿を呆れたような眼差しで追う雅也に苦笑いしか出ない。
 全く同感。
 リフトも使い綺麗なシュプールを描いて降りてくる北斗は、とてもじゃないけど三時間前、傾斜でのターンの練習中に後ろ向きで滑っていった奴とは思えない。
 あの時は思わず追いかけて行って横から抱えるように転ばせて止めたんだった。
「転べっ!」て言っても「どうやって〜!?」とか言いながらどんどん加速していくから、ちょっと怖かった。
 北斗に怪我がなくて本当によかった。
 本人は転がされてびっくりしつつも、その珍事に声を上げて笑ってたけど、笑い事じゃないよ、ホント。
 それでも、ランディーが逝ってから初めて見せた心からの笑顔に、俺も文句なんか出るはずもなかった。


 そういえば、と連鎖的に思い出す。
 高見の家のリビングで北斗が告げた、ランディーとの十一年を聞いて欲しいという、俺にとって晴天の霹靂とも言える告白は、山崎との会話であっけなく夜へと持ち越された。
 コーヒーまで淹れて準備万端だったのに、
『明日っから部活始めんぞォ』
 の一言で、休みがあと半日しかないのを悟った北斗が、ショップの有効期限内に俺を店に連れて行く方を優先したんだ。
 まあ、あれはあれで楽しかったからいいんだけど。

 山崎に電話を掛けた後、リビングに戻ってきた北斗からいきなりの予定変更を告げられ、心残り半分大急ぎで出掛けた俺達は、北斗が以前利用していた一つ隣の駅に降り立った。

 年始のバーゲンセールで賑わう商店街を北斗にくっついて行くと、一店目は商品棚に群がる人に気圧されて入店する気を失くしてしまった。
 街の人混みにも随分慣れた気でいたけど、ここはまた別の意味でカオス化していた。
 さすが、俺でも行ってみたいと思った店、人気あるんだ。
 恐れをなしたのを察し苦笑を漏らした北斗も、強引には勧めず次の店に案内してくれた。
 もう一軒はここよりずっと落ち着いて選べるだろうから、って。
 そうして向かったのは、商店街の一角を占めるデパートの四階にある、ちょっと高級そうなブティックだった。
 北斗が行くにはものすごく違和感を感じそれとなく訊くと、前に仁科さんからおばさん経由で紹介されたと教えてくれた。
 仁科店長のお勧めなら間違いないなと納得して、人のまばらな店内を見渡せば、扱っている服のデザインも好みの物が多く、冬物もすでにオフ価格で出ていたから、上下併せて三着ほど買った。
 俺にしてはいい買い物が出来て満足している。但し、北斗がいればこそだ。
 現にショップに入った途端、速攻で店の人に声を掛けられ、案内されかけた。
 一人だったら絶対口車に乗せられ派手なヤツを買わされていたに違いない。
 それか何も買わずにそそくさと帰るか、多分そっちだな。
 北斗が店員の女性を上手くかわして、ゆっくり選ぶ時間を確保してくれたのは本当に助かった。
 相変わらずこういうところは凄く頼りになるんだよな。

 それで終わればよかったんだけど、北斗からも一箇所付き合って欲しいと言われ、「いいよ」と易請け合いしてついて行った所が……ものすごく可愛い喫茶店? だった。

 大通りから何筋か入ったところにある隠れ家的なその店は、さほど大きくはないのに夕方だったせいか結構混んでいた。
 普通だったら北斗も入らない乙女チックな雰囲気の店構えに、自然と足が止まった。
 正面の趣のある木製のドアに続く緩い階段が、狭いスペースにも拘わらず森の中の小道を連想させる。
 おまけに建物の左右にある腰窓の下の小さな庭には、小動物の置物が物陰からこちらを覗くように密やかに置かれ、彼らの臆病さと好奇心を上手く演出している。
 冬の日没は早く、ライトアップされたそれらは太陽の下で見るより幻想的に感じられた。
「………」
 見られてる? って意識すると、こっちまで恥ずかしくなるから不思議だ。
 そう、まるで上の窓から誰かに覘かれているような、そんな気分。
 実際は話しに夢中で、外を眺めてる人なんかいないだろうけど。

「えっと、ここに入るのか?」
 ちょっと臆して背後から聞けば、「そう」とあっさり答えられ、がっくりと肩が落ちた。
「やっぱりか。けど北斗、恥ずかしくない?」
 一応確認せずにいられない。
 この場所に似合うのは、自分が深い森に迷い込んだ少女―のような気分になれる『女の子』だろう。
 案の定、
「一人は無理」
 あっさり認められ、こいつの趣味を疑わずに済んでほっとした。
「だよなぁ」
 うんうん頷いていると、振り向いた北斗がいい笑顔で付け足した。
「けど、ここのホットケーキが凄く上手かったんだ。俺も二年前、西沢に案内されて一回来ただけだけど、久しぶりに思い出して瑞希にも食べさせたくなった」
「う、う〜ん? 嬉しいようなそうでもないような?」
 そこまで北斗が勧めるってことは味には相当自信があるんだろう。
 それでも素直に「じゃあ、はいってみようか」と言えない『壁』が、目の前のドアには働いている気がする。
 若干引き気味の俺に、北斗が止めを刺した。
「もう六時だし、夕飯もここで済まそ。因みにその時食べたランチも中々美味かった」
 随分前の事なのに、結構しっかり覚えている。
 西沢に連れて来られたって言ったけど、二年前なら北斗は中三、引退後の事か。
 そこまで遡ってハッとした。
 あれだ、去年彼女に聞かされた、北斗と出掛けてたら電話が入って、用が出来たから別れたって話。
 恐らくその日が幸子さんと対面した日だったんだ。
 あの西沢が北斗の後を尾行ても気付かれなかったのは、それほど幸子さんに意識がいってしまっていたんだろう。
 そこに行くまでに何を想い、どれだけ葛藤したか。
 今、こうやって俺を誘うということは、もう完全にあの日の出来事は昇華されたと思っていいんだよな。
 その諸々も含めて、過去の事を打ち明ける気になったんだとしたら、また一歩先を越されたようで何だか悔しい。
 けど、そんなところを素直に『凄い』と思う自分も当然いるわけで。
 取り合えず今日はとことん北斗に付き合ってやろうと、改めて決心した。
 もちろん夜に持ち越された過去の話も含めての『とことん』だ。

「ランチってことは昼に寄ったのか。なら今出てるメニューはディナー用?」
 上からの照明が綺麗に当たるよう、絶妙な位置に立ててある黒板。
 そこに書かれたポップ調の文字を追うと、ざっと流し見た北斗が軽く頷いた。
「だな。あの時はタイムサービスの詳細が載っていた気がする。品数もここまで多くなかった」
「夕食だからちょっと豪華になってるのか。ま、いいよ。家に帰っても冷蔵庫の中身はそんなにないし」

 ということで、二人で小ぶりのドアを潜った。
 この際、店内の好奇の目は完全に遮断だ。
 
 去年のインターハイ全国大会の翌日、広島のレストランで受けた視線がカーテン越しに見る太陽ぐらいに感じる。
 それでも中に入れば意外にもカップルの席があったりして、数少ない男性客からはあからさまにホッとしたような気配が漂う。
 先に歩く北斗に女性客がザワザワする中、店員に案内されて奥まった二人掛けの席に着くと、コートを脱いで背凭れに掛け、氷の入ったグラスに手を伸ばした。
 この店に連れて来られてから、変に緊張して喉が渇いた。

 もう半年も前の事になるのか、千藤監督は相手が北斗なら平然としてるんじゃないかと言ってたけど、その台詞で同席者を盛大に誤解した俺は、随分頓珍漢な返答をしたように思う。
 ただ、あの時の想像通りやっぱり北斗は平然としていた。
 愛想を振りまいたりは絶対にしないけど、数多の視線にちら見されてもそこまで機嫌悪くないのは、二年越しに叶えようとしているスイーツの威力、だろう恐らく。
 こんな北斗も珍しい。

 メニューを開いて頭を寄せ合い夕食を吟味する。
 そんな俺達の周辺では――ザワザワが一層大きくなっていた。
 

 この店の甘ったるい雰囲気にも拘わらず、ここに来たがった気持ちがわかった。
 勧められたホットケーキは二年前と変わらない味だったらしく、一人感動している北斗の向かい側から、微笑ましい気分でそれを眺めていた。
 もちろん俺もその美味しさに感動したんだけど、どうして今まで来なかったのか訊くと、一人では無理だと諦めていたらしい。
 男連中にはプライドが邪魔をして頼めないし、山崎は言語道断。女子は尚更誘えない。
 ぼやく北斗に「もっと早く連れて来てくれればよかったのに」と言ったら、
「そう簡単に休み合わないだろ」
と、速攻で突っ込まれた。

 食後のコーヒーも満ち足りた表情で口にする北斗を見れば、付き合った甲斐もある。
 それに、紅茶も中々美味だった。
 ここなら少しくらい抵抗があってもまた来たい。
 西沢に会ったらお礼言っといた方がいいのかな? なんて思いながら、休みの最後にようやく心身共にゆったりとした一時を味わえた。


 総括――波乱万丈な冬休みの最後に、思いがけない収穫があった。





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