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作品名:夢で会いましょう 作者:chihiro

第5回 あいたい・・
裕子の退院日時が決まった。一週間後の土曜日だ。やることは山のようにあるが自分の体がついていけない。効率よくことを運ぶために最初に裕子がやったことはやるべきリストを作ることだった。そのリストの中から何が最優先事項なのかを考える。そのことを思っている間裕子は夢の中でも英三に会うことはなかった。健康体ではないのですべてのことをするのには限度があったが間に合わなければ間に合わないでそれは仕方がないことだとあきらめた。
効率よく一週間をすごせたかどうかなんて自分ではわからなかったがとりあえず退院する前日まで大まかなことは片付けた。
大宮が裕子の部屋に現れたのは急にめまいを覚えてベッドに横たわっていたときだった。
「大丈夫ですか?もし体調が優れないのであれば退院日時をずらしてもいいのですよ。ここを使う予定だった患者は他の部屋に入りましたから。」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
「どちらにせよ今から検査します。その結果によって私が決めますから。」そういうと大宮は聴診器を取り出して検査に取り掛かった。
だんだんと痛みがひどくなっていく中で裕子は検査が終わったらインターネットで検索して携帯電話の画像を変えようと考えた。裕子の現在の画面は何の変哲もない画像だった。そもそも何かをしようとおもったことが一度もなかったが夢で彼と会えないのならばせめて彼に似ている人を待ちうけ画面にしようと思ったのだ。
「どう見ても今日の退院は難しそうですね。あなたにもそれはちゃんとわかっているはずだ。」検査を終えて大宮はそういった。
「明日、約束があって家にいないといけないんです。」
「キャンセルしてください。あなたの人生、あなたが決めたことだから人間としては何も口を挟めませんが医者として人間の命を守りたい。私の前にいるときは患者として少しでも病を食い止めますよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
大宮は何も言わなかったが裕子が口答えもなく従ったことからだいぶ痛みを我慢していると確信した。
一人になった裕子は痛みをこらえてインターネットに接続して検索した。一番雰囲気があっている画像を選んで写真を撮ると画面を変えた。
(どうしてあなたに会えなくなってしまったの?現実に会えない、夢でしかあえないのにそれが亡くなってしまったら何のために多くの人に命を伸ばしてもらっているのだろう。本当はあなたに触れたい。あのときみたいにそっと涙を拭いてほしい。あいたい・・)

「馬鹿だな。いつでもそばにいるって言っただろう?君が俺のことを覚えている限りずっとそばにいるって。何年も何十年もあわなかったことを思えばこの期間会えなかったからって何でもないだろう?」
「私はみんなが思っているように強くなんかない。ずっと肩で風を切ってそんなことをなぜいつまでも続けていないといけないの?私だって人間なの。がんばれるときもあるけれどがんばれない時だってある。」
「だから自分の人生を終わらせるのか?」
「何がいけないの?自殺はしない。ただがんになってラッキーだって思っているだけ。命が尽きる前に走馬灯のようにあなたのことを思い出しているだけ。人は安定を望むわ。あなたと結ばれたいなんてわがまま言わない。ただ自分にまだ魂が残っていることを確認したいだけ。」
「君は結局自分しか愛せないんだな。俺もそうだからその気持ちはわかるしそのことで君を攻めるつもりはない。」
「かわいそうな女だって思えばいい。あなたしか私を認めてくれた人はいなかった。」
「もし俺が君を他のやつと同じように子供扱いしていたら?」
「とっくに終わっていたわ。そうしたら私の人生ももっと違っていたでしょうね。私はあなたに出会えた事を感謝しているわ。それは変わることはない。あなたに出会えてあなたを愛してきたことを誇りに思っている。」
英三は裕子をじっと見つめた。そして静かにつぶやいた。「俺を愛してくれていたのは君だけだったといまさらながら気がついた。しかし君の言葉には矛盾がある。俺と結婚していたらきっと今みたいに好きになれなかったという。そのくせ安定を望んでいる。なぜだ?」
「本当に好きな人と結婚したらうまく行かないわ。自分の夢をあなたに対する愛情を壊したくなかった。安定を求めているからこそ壊したくないのよ。性欲だけしかなかったあなたにとってはわからないかもしれないわ。」
「性欲だけだからこそ虚しさを感じていたって思わないのか?」
「あのころはそんなことは考えられなかった。でも今はあなたはある意味ではかわいそうな人だったんだってなんとなくわかるわ。私があなたに望んでいるのは体のつながりよりも魂のつながり。それは私が十八歳のころから変わっていない。」
「ああ、そうだね。君の魂はあのころと同じように今でもピュアだ。もし君に触れられることができるなら確実に君の愛を確かめている。君にとっては他の男と同じに格下げになった俺をがっかりするかもしれないけれど。」
「がっかりはしない。」裕子は少し時間を置いてから静かに答えた。「それはあなたにもわかっているはずよ。」裕子は英三の目を見て答えた。
「再会してからの会話は通常の男と女の会話とは違う。魂のふれあいだ。」
「わかっているわ。あなたが言いたいことも。私があなたに会いたくて呼んだ。生身のあなたが今ここにいればきっとそれはうそだって思うせりふが多々あるでしょうね。私はそれを知っていながらそのうそに付き合うだろうことも。」
「君は年齢を重ねたんだね。俺には君の姿はいつまで経っても十八歳のころの君に思えるけれど。」
「私が十八歳のころにとどまっているのかもしれないわ。言葉では一応踏ん切りをつけたはずなんだけれど、時代が変わって昔の映像を視聴することができてまた過去に戻ってしまった。」
「懐かしんでいるだけなのかもしれない。本当は俺のことなんてとっくに忘れている。」
「そんなことないわ。もしそうだとしたら夢の中であなたと話をするなんてことはできない。他の誰かじゃないの。あなただけしかこういうことは実現しえない。」
「人間は九十パーセントが過去にしがみついて生きている。それが悪いことじゃなくて弱くて暗くてさびしいからそうならざるを得ない。」
「歌詞の中にもそんな言葉があったわ。その言葉は私を通して出た言葉かしら?」
「きっとそうなんだろう。普通のものはそれが何か知っていても言葉にすら表現できない。プロと呼ばれるものはそのものがなんだか知っていてしかも説明できるものだ。そして天才と呼ばれるものは遠くから見て普通と呼ばれる者たちがどんな言葉を望んでいるかを知り言葉に表す。」
「そうね。だからこそサザンはずっと第一線を走ってこられた。」
「そして君は彼らの歌を通して俺への思いをつないでいる。だから君に尋ねたんだ。君を愛しているのは桑田なのか?俺なのか?それとも君だけなのか?」
「たぶんあなたはその答えを知っている。」
「ああ、そうだったね。」英三は裕子の瞳を見つめて静かに答えた。「会話は確認のために使われる。未来を作るのは本人だけだ。君が俺と寝て終わりにしたのはそういうシナリオを自分で作っていたからだろう?」
「ええ、そうよ。それは肉体関係にしたくなかったから。それは今も昔も変わっていない。」
「そして未来も変わらない。だろ?」そういうと英三は悲しそうな顔をして消えた。


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