小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:夢で会いましょう 作者:chihiro

第3回 死の宣告
「寝顔がとても幸せそうだった。楽しい夢でも見ていたのですか?」大宮は裕子に優しく語りかけた。
「そうなんですか?昔お世話になった人との夢を見ていました。」
「あなたは笑ったほうがとても美しいです。それをさせてくれる人はお見舞いには来ないんですか?」
「その人は現在どこにいるのかわからないんです。でもさびしくはありません。だって夢の中で会えるから。」
「そうですか。さて手術の日程が決定しました。あさって午前十時から行います。手術の手順ですがもう一度全体を見てから子宮を全部摘出します。手術自体は難しくはありません。」
「とった後のことを教えてください。」
「しばらくは安静でしょう。最大で二週間ぐらい安静にしていないといけないですがその後は普通の生活に戻れます。千葉さんは盲腸を取ったことがありますか?」
裕子は首を横にふった。
「盲腸はつなぐまで重湯ぐらいしか最初は食べられませんが今回の場合は腸ではありませんから今までと同じです。」
「先生、大丈夫です。ちゃんと先生のことを信用していますから。よろしくお願いします。」
「ではまた明日の検診まで。」
裕子は複雑な気持ちだった。雄三と話をし始めたのはいつだっただろうと考えたのだ。
(元気に越したことはないけれどもし彼と夢の中で会えなくなってしまったらまた色あせた生活を送りそうだ。彼はいつまでも一緒にいられるといってくれた。)そこまで考えて裕子は思考を止めた。
(私は死にたいのだろうか?それとも生きて夢の中で彼に会いたいのだろうか?)

手術の日まで裕子は英三と会うことはなかった。夢の中でしかあえないから会いたいときに会えるわけではない。見舞いに来てくれるものもなくテレビも見ず話をするのは食事を持ってくる看護婦と大宮だけだ。しかもいわゆる世間話というのはまったくといっていいほどしない。読書をするわけではなく昼夜窓から見える光や風や生活音を聞いている。裕子は何度か自分が自然に消えていく錯覚を覚えた。
手術の当日がやってきた。看護婦が必死になって説明をしているが裕子は興味もなくただうなずいているだけだった。
(私がこんなふうに変わったのはやはり病気が原因だろうか?ううん、彼のことを思い出すようになってからだ。それっていつだっけ?)
「千葉さん、これから麻酔を打ちます。麻酔を打ったら合図しますから一から順番に数えてくださいね。」裕子はチクリと痛みを感じた。そして数字を数え始めた。
「一、二・・三・・・・よ・・・・」

夢の中でいつものように川を眺めながら英三はそこにいた。
「久しぶりだな。どうしてた?」
「今手術中らしいの。私はこれからどうなるの?」
「手術は成功する。ただその後問題が生じる。」
「どんな問題?なぜあなたはそれを知っているの?」
「君は答えを知っている。べつに隠し事をしていたわけではないが話す機会がなかった。」
「私はどうやってあなたと話しをしていることができるのかしら?」
「君が深く俺のことを思ってくれたからそれでつながった。」
「わかったわ。そして手術の後のことだけれどどうなってしまうの?」
「それも君は答えを知っている。君は手術後何十年も生きられない。子宮がんは他に転移している。」
「死ぬのは怖くないわ。その後私はあなたと同等になれるのかしら?」
「君しだいだ。俺にできることはただ見守るだけ。」
「私しだいなのね。それを聞いて安心したわ。私は魂になってもあなたを好きでいられる自信があるもの。」
「君にそんなふうに思われてうれしいよ。」
「今日のあなたはどこかさびしいそう。なぜ?」
「君が悲しいからだろう。俺の姿は君の心に反映する。俺の思考はこのさい関係ない。」
「それでもあなたの意見を聞きたいわ。」
「今の状況では俺の意見は君の意見だ。君の求める意見も知っている。それを聞きたいのか?」
裕子はうなずいた。
「この言葉を言うのは二度目だ。君は魂となって俺と永久に結ばれる。それ以上何を望む?」
「魂になったら私の意志はなくなるわ。そうしたらあなたと一緒かどうかなんてわからない。」
「俺を信じられなくても自分の気持ちを信じろ。それに今話をしていることはまだ君の担当医から話されていないことだ。想像がついたとはいえるが他から聞いたとなると君が厄介なことになる。」
「それはわかっているわ。もし真実を話してもきっと信じてくれる人はいないでしょうね。第一、あなたと話をしていることは自分でさえもすべて信じているわけではないから。」
「そうなのか?君の気持ちがそんなものだとは知らなかったよ。」
「がっかりした?」
「ああ、少しばかり。」
「前はこんなふうではなかったの。最近よ。ふあふあと雲の上を歩いているような気持ちになってすべてどうでも良くなってしまった。」
「なぜ君は俺を覚えているんだ?もう何年も経っているのにいきなり呼び出した。」
「なんとなく自分がもう長くないってことを知っていたのでしょうね。」
裕子は視界から英三が消えていくのをぼんやりと眺めていた。

再び目を覚ましたとき見慣れた病室だった。部屋には誰もいなかった。
(私の現実の人生なんて所詮こんなもの。確かに自分で殻の中に引きこもっているのかもしれない。でも人生を謳歌しようなんて少なくてもいまは考えられない。終わりにしたいと思っている自分がいる。)
裕子は一人きりの病室で携帯電話でユーチューブを見始めた。サザンオールスターズの四十周年ということで昔の貴重な映像が見ることができる。そしてそれを見て夢の中の英三はもしかしたら実際に存在しているわけではなく自分ひとりだけで考えて一人ごとを言っているのかも知れないと裕子は思った。
「千葉さん、何を見ているんですか?」大宮はそういうと携帯電話を覗き込んだ。「ああ、これは昔の映像ですね。みんな若い。」
「先生は彼らがデビューしたときのことを知ってますか?」
「おぼろげながら。ジョッキング姿で早口言葉。目立ちたがり屋の芸人だなんてまさしくそうだなって思いました。千葉さんは好きなんですか?」
「昔は私の家に電話をかけると必ず彼らの曲がかかっているといわれていました。」
「なるほど。彼らはたしか六十歳代でしたよね。そこらへんの二十歳代とも比べようがないくらいたくましい。」
「そうですね。」裕子は大宮とともに笑った。
「ところで手術の結果ですが。」大宮は笑いを止めて真剣な表情になった。「手術は成功したのですがすでに内臓のほうにまで転移していました。」
「あとどのくらいですか?」
「長くて半年ぐらいです。」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 259