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作品名:ハチマタの運命(KAMIKAZE続編) 作者:chihiro

第6回 シークレットエージェンシー
病院にはアディルが付き添いでついてきてくれた。レントゲンの検査をみて医者は難しそうな顔をした。ハチマタは不安になった。医者はアディルに説明している。それをハチマタに通訳し始めた。
「結論から言うとあなたはもう妊娠できない体になってしまったらしいわ。簡単に言うと子宮が下がりすぎて縫いこんだものが清潔ではなかったために炎症を起こしている。ここではその炎症を治すには薬しかできないの。」
「妊娠しなくてもいいです。もう二度とあんな思いはしたくない。」
「トラウマになっているのね。それはわかるわ。でも本当に好きな人ができたときにはどうするの?」
「子供を持つことは何も自分で出産しなくてもできます。」
「確かにそうね。里子をもらったりすればいいのだから。でもそれでいいの?それで炎症については今は薬だけれどたとえばスイスやオランダでは手術をして直すことができるらしいわ。」
「スイス、オランダに行く機会がないし、私にとって子宮はなくてもいいものだから。」
「わかったわ。あなたがそれほどまで言うのならばそれで決まりだわ。そうと決まったらさっそく家に帰りましょう。あなたの顔色は悪いわ。」
「イラクにいたときからですけれど強い日差しに慣れていなくて。」
「日中で歩いていなかったの?」
「施設からは出られませんでした。だから平気でした。でもフランスにいたころも昼よりも夜のほうが活動していたかな。」
「人それぞれリズムがあるから。フランスではどんなことをしていたの?あ、言いたくないことだったら言わなくてもいいわよ。」
「まともな仕事をしていたわけじゃないんです。その日暮らしでした。一番はぶりがよかったのはやはり売春かな。だから愛のあるセックスってしたことがないんですよ。そのころにあったのが子供の父親でした。」
「いろいろと苦労しているのね。」
「なぜ人は勝手に生まれて生きていくために仕事をしてお金を稼がないといけないのでしょうかね?私、親の顔を知らないんです。きっと面倒だったのか金がなくて捨てたのかどちらかでしょう。」
「自分の経験をポジティフに考えましょう。おかげでいろいろなことがあった。確かに苦しいことのほうが多いけれどその年でそれだけの経験をしている人は少ないわ。あなたは政府に話して施設に監禁されている女性を助けたいと思った。それはいい考えだと思うしやらなければならない。でもどんな国の政府でもすぐには動けないものよ。恵まれない子供、餓死寸前の子供の世話をしているのは政府じゃないわ。福祉団体。」
「そうですね。私は政府にいっても無駄ってことなんですね。」
「言うことは大切。でも一箇所だけではだめだと思うわ。そこであなたに相談があるの。」
「どんな相談ですか?」
「もう一度その施設に逆戻りしてみんなを説得するの。」
「そんなことできません!複数の男性が毎日四六時中施設の周りをはいかいしています。施設の中の女性は怖がって外に出ようとしません。私が逃げるときに複数の人に声をかけました。でも誰も怖がってしまって首をたてに振ることはなかった。」
「それは歩いて横断しなければならないからでしょう?もし入り口に護送する車が着いていたら?」
「パトロールの人はどうするんですか?彼らは人を殺すことはなんとも思っていない人たちなんですよ。」
「そんな人たちに政府が介入しても無理だってわからない?だから違う方法で救出するの。その任務をあなたがやってくれたらもちろん報酬は出すわ。保険もかける。」
「保険をかけても誰も受取人がいません。」
「では報酬だけね。ユーロ建てがいいかしら?」
「いったいアディルさんは何の仕事をしているんですか?それって明らかに貿易じゃないですよね。」
「違うわ。私の表向きの仕事は貿易だけれど裏はシークレットエージェンシーなの。」
「シークレット?」
「007って知っているでしょう?あんな感じのもの。」
「私は機敏じゃないし起用じゃないし、頭の回転だって遅いです。」
「あなたにそういうものを求めていないわ。私があなたに求めているものは何とかしたいというその気持ち。答えはすぐでなくていいわ。今は養生が最優先よ。でも考えておいて頂戴。ちなみに報酬額は2万5千ユーロってところかしら。一日の収入としては悪くないと思うわよ。」
「そんなに?」
「危険が潜んでいるんですもの。それにあなたは保険は要らないっていったし。さてとそろそろお昼ね。食欲はある?」ハチマタは首を横にふった。
「そうか。ガスパッチョだったらのめるでしょう?後必ずお昼寝して頂戴ね。」

ハチマタはベッドに横たわってアディルのいったことを考えた。政府に掛け合ってもすぐに動いてくれるわけではないことはなんとなく予想はついていた。ヨーロッパ会議とかやらにかけられてどの国がどういう展開でどんな作戦を実行するのか考えなければいけないからだ。だとしたらそれまで施設に入れられている女性はまたしても強姦されたり愛する子供の命を奪われたりテロ予備軍として手放さなければならない。自分が施設に逆戻りしてみんなを護送して安全なところまで送れば子供を手放すことは避けられる。命だって奪われたりしない。予備軍もなしだ。何よりも施設の中にいて何とかしなければならないと感じたではないか。安全な方法で方々の国に帰ってつつましくも生活はできる。一日の報酬が二万五千ユーロだというのも魅力的だ。何に使うわけではないが人助けをしてお金を稼ぐということの経験がないだけに憧れににた気持ちも湧き上がってきた。
そこまで考えてハチマタはすべての考えを頭から追い出した。今の自分には眠りが必要だった。
ただこれから妊娠する必要がないことが今日の収穫といえた。
ハチマタは目をつぶると闇に吸い込まれていった。

暗闇の中に見える場所に見覚えがあった。ブローニュの森だ。近くの国道に車が止まり複数の男性がハチマタを目指して歩いてくる。知っている顔ばかりだった。ギム、ユーネス、そしてアリ。ギムは先にお金をくれた。ギムが下がったと思ったとたんにアリが前に出ていきなりスカートを捲し上げた。そこに言葉はなかった。やさしさもなかった。思いやりさえもなかった。ギムとユーネスはそれを見ていただけだ。お金をもらったから何もいえないけれどなぜ自分がこんな目にあわなければならないのかと自分をのろった。そして毎日のようにアリはさかりのついた獣のようにハチマタをむさぼった。
「いやー!!」
自分の悲鳴で目を覚ましたハチマタはそれが夢であることに感謝した。
思い出したくない過去だった。もしこの過去を消すことができるなら何でもしようと心に決めた。


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