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作品名:ハチマタの運命(KAMIKAZE続編) 作者:chihiro

第5回 キプロス
ハチマタは夢の中にいた。夢の中には今までかかわりあった人が多くいた。いやだけれどあのアリでさえもいた。(きっと私はあの世にいったんだ。だからみんなに会えることができた。)そう信じて疑わなかった。
どこからか何語かわからない言葉が聞こえてきた。目を開いて自分の置かれている状況をいち早く把握しようと努めた。そこは小さな部屋だった。窓からは明るい日差しが差し込んでいる。自分はベッドに寝かされていて動こうと思っても痛みで動けられなかった。
(あれからどうなったんだろう?)ハチマタは記憶を探ってみたが思いつかなかった。ケリーが自分の腕の中で死んでいったのはわかっている。その後の記憶がないのだ。
人が入ってきた。やさしそうな男性だった。「目が覚めた?」
何かをいったがハチマタにはわからなかった。男性は今度は英語に切り替えたがそれでもハチマタはわからない。そのときにどうして英語をもっと勉強しておかなかったのかと後悔したがそんな余裕などなかった。フランスで生まれフランスで育って海外に行ったのがつい最近の話だ。それまでは英語を含めほかの言語など話す機会も勉強する機会もなかった。
男性は今度はアラビア語を片言ながら話した。聞いたような言葉だったがハチマタには言い返すことができなかった。すっかりと困り果てた男性はほかの部屋に行き女性を連れてきた。
女性は何カ国語かの言葉をしゃべった。
「あなたの名前は?」フランス語で聞かれたときにハチマタは躊躇した。本当の名前を言うべきかそれともナディアという名前を使うべきか。
「ナディア。」
「なぜ漂流されていたの?」
「難民船に乗っていた。イラクを出てエンジンが動かなくなって大きな船の波に転覆させられて友達をなくした。その後は覚えていない。」
「漂流しているところを私たちの友達が見つけたの。あなたはラッキーだったわね。たぶん難民船だと思って調べてみたけれど生存者はいなかったわ。」
ハチマタは自分ひとりだけが生き残ってしまったことに心を痛めた。自分があなたたちの命を守るといったくせにみんな死なせてしまった。
「あなたの両親は?」
「いない。」
「兄弟、恋人、知り合い。同僚。」
「みんな死んでしまった。」
「なぜイラクなんかにいたの?」
「ある施設に入れられていた。私はその施設の女性を助けたい。だから逃げて何とかしてもらうためにフランスに戻ることにした。」
「どんな仕打ちを受けているの?」
「ひどい仕打ち。子供が殺されて親は子供と6年しか一緒にいられない。」ハチマタはテロリストという言葉を使うのをためらった。
「私は警察でもなんでもないわ。あなたが話をしたくなったときでもいい。でもその話を聞けばだいたいどんな施設にいたのか予想はできるわよ。その施設にはどのくらいいたの?」
「半年ぐらい?」
「わかったわ。その施設にはどんな女性がいた?」
「いろいろな国の人がいた。無理やり妊娠させられて施設に入れられて女の子は殺され男の子は予備軍に。」
「あなたも妊娠していたの?」
「難民途中で生まれて砂漠に埋めてやった。私を妊娠させた人への復讐?絶対に実を結ばせたくなかった。」
「長く話しすぎたわね。今日はこの辺にしておきましょう。あなたはしばらくここで養生しなさい。」
「でも早く話をしなければ。」
「大丈夫よ。あなたが言ったことを私が代弁するから。あなたが直接いったとしても警察に何時間も監禁させられてひどい目にあうだけだわ。そうやってあなたの知り合いは死んだのでしょう?」
「新聞を読む限りでは・・」
「あなたは素直ね。このキプロスはトルコとギリシャが半分半分なの。だから料理もその料理が中心。あなたがフランスにいたころはどこにいたの?」
「パリ近郊。」
「そう、じゃああまり口に合わないかな。でも栄養つけるために食べてね。」そういうと女性は出て行った。
ハチマタは一人になってから気がついた。男性も女性も自己紹介しなかったことに。ハチマタは急に不安になった。誰が聞いているかわからないから適当にあしらっておくというフランスでの日常をすっかりと忘れてしまっている。イラクにいるときだって自分の事情などナディアでさえにも話をしたことがなかった。ケリーとあって彼女の真摯な心にふれて変わってしまったのだろうか?とにかくハチマタは脅されているかのようにべらべらと本当のことを話してしまった。もし彼らがフランス政府に通じて指名手配されていたら。テロリストと関与したことでどんな罪に問われるのだろう?
私は被害者だ。強姦されて妊娠させられて施設に送られた。それまでの間に確かに彼らテロリストと呼ばれる人と話をしたけれどテロのことについては一切話をしてくれなかった。イラクについてからだってナディアに少しさわりを教わっただけでそれ以上のことは何も知らない。
知らなくても関与したということで懲役をもらった人がいることを知っている。ここから逃げないといけない。でも右も左も言葉もわからず小さな島でどうやって逃げ出す?彼らは養生をしろといった。だからまだ時間がある。しばらくおかせてもらってじっくりと考えるのだ。警察が動き出す前に。私が言うべきことは警察ではなく政府なのだから。
ハチマタは急に気分が悪くなってはきそうになりトイレを探した。
トイレを探しながら家の中を探索した。普通の家のようだった。しかしたんすや引き出し、扉がしまっている部屋の向こう側に何があるかわかったものではない。急に思いついたがテロの一味だったら寝ている間に殺されているかもしれない。
「あら、ねていないとだめじゃないの。気分が悪いの?トイレを探しているの?」先ほどの女性がサロンにいて心配そうにこちらを見ている。ハチマタはうなずいた。
「こっちよ。あまり話しをしすぎたかもしれないわね。それとあなたは病院にいくことになったわ。」
ハチマタは驚きの表情を表した。
「あなたが出産した後の糸縫いのこと。砂漠の中で何もないところであれだけのことをしてくれた人はとてもすばらしいわ。でもあなたは子を産み落としてからしばらくそのままで歩いていたでしょう?だから子宮にちょっと問題があるの。そのための入院よ。」
「私そんなお金はありません。」
「私が言い出したことだから私が責任を持って払うわ。あなたは黙って指示通りに動いていればいいの。」
「それでどうなるんですか?私は施設を抜け出したせいで殺されるのでしょうか?警察に連れて行かれて刑務所行きになるのでしょうか?」
「面白そうな話ね。でも殺しもしないし警察にも行かないわ。病院にいくだけ。私がすべてやってあげるっていったでしょう?信用できない?」
「信用できません。私はあなたのこと何も知らない。」
「あ、そうか。自己紹介していなかったわね。私の名前はアディル。先ほどあった男性は私の夫のニコラス。夫はテレビのプレゼンター。私は貿易会社に勤めているわ。私たちに子供はなし。ほかに知りたいことは?」
ハチマタは貿易会社に勤めているのはうそだと感じた。確かに貿易をしている人ならば何ヶ国語を話しても普通だが隠れて何かの任務についていると感じた。


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