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作品名:ハチマタの運命(KAMIKAZE続編) 作者:chihiro

第4回 難船
「おい!海だ!ついに着いたぞ!」先頭に歩いていた男性が後方に向かって叫んだ。後方の連中は海を見ようと暑さに負けずに駆け足だった。
「人はもともと水の中の人だった。だから母の腹にいるときも海に浮かんでいるかのような気分になる。」
「今までの疲れって吹っ飛んだわね。」ケリーはハチマタにつぶやいた。ハチマタはうなずいただけだったが感動しているからだとケリーは勝手に解釈した。
(もう歩かなくていい。)ハチマタは正直なところ自分の体が限界以上に疲れていることを海を見ながら感じていた。ハチマタだけではない。一緒に歩いてきたものたちも同様だった。海を渡ればヨーロッパにいける。ギリシャにつくのかイタリアに着くのかわからないけれどそこにとどまるつもりはなかった。十五人中何人かはそのまま居残るかもしれない。しかし大半の人間はロンドンに行きたいと休息時間の話を聞いて知っている。ケリーもイギリスに行きたいといっていた。
ハチマタはフランスにとどまる理由はなかった。知っているものはいない。友もいない。しかしあの事件が明らかになればフランスにとどまらなければいけない。そしてコントロールつきの保護をされるのだ。そんなものにイギリス希望は無理だろう。ハチマタはフランス政府に言うべきことがあった。自分の最大の任務である。それに物心がついたときからパリに住んでいた。確かに高級住宅街ではなかった。どちらかというと負の連鎖しかできない貧民層だったけれどそれでも自分のホームだった。
一向は港に集まった。しかし彼らだけではなかった。あらゆる方面から来ている難民が港に集まっていたのだ。
「ヨーロッパに行くには5000ナディール必要だ。」船員はそういった。
「2000ナディールじゃないのか?」ほかの難民が尋ねた。
「いや、5000だ。現金で支払ってもらう。」
お金のない難民に大金を支払わせる船員に頭に来たがハチマタは黙っていた。
港にいた半分の難民はなくなくトルコを通ってヨーロッパに入ることにしたらしく港から離れていった。その中にケリーもいた。
「ケリー!」ハチマタはケリーを呼んだ。「ちょっとした手術をした支払いをしたい。私があなたのお金を払うよ。」
「そんな大金を私のためになんていけない。ヨーロッパについてからだって必要なお金だよ。」
「ヨーロッパにいったら大丈夫。私は数年前までフランスにいた。そして金持ちじゃなかったけれどちゃんと生きるすべを身に着けた。だからそれは自信を持っていえる。乳飲み子を抱えて歩いて遠回りしてヨーロッパに行くなんて絶対に行けない。自分のことを考えて。そして子供のことを考えて。」
「ありがとう。」
「あと、今から私の名前をハチマタではなくナディアって呼んでほしい。」
「理由は?」
「警察のリストに入っているかもしれないから。」
「わかった。ナディア。いい名前だ。」
「乳飲み子も金を払ってもらう。1000ナディールだ。」
「子供は母親がいつも抱いているから席を取らない。だから一人分にしてほしい。」ケリーの変わりにハチマタは船員にいった。
船員はハチマタをなめるようにしばらく見つめてうなずいた。「仕方がない。絶対に席に下ろすなよ。」
席に下ろす必要はなかった。定員が何人なのかわからないがすでに船は人の重さで半分が沈みかかっている。
「お前が舵をとれ。やり方はいたって簡単だ。エンジンを入れるときはこれを引っ張る。(そういうと船員は縄のようなものを示した。)止めるときはこの赤のボタンを押す。右に回したり左に回したりするのはハンドルと同じだ。」
ハチマタはうなずいた。「ここから一番近いヨーロッパまでどのくらいの時間がかかる?」
「波の具合にもよるが2,3時間でつく。港についたら同じような服を着た船員がいる。幸運を祈る。」
ハチマタはうなずくと乗り込んだ全員の安全を確かめて縄を引っ張りエンジンをかけた。
エンジンの場力が弱いのか定員がオーバーしているのかエンジン音が心もとない。
「みんなを不安にさせるわけではないけれど安全服をつけて。黄色のものがあるはず。」
言われた定員は探し始めた。
「みんなにいきわたらない。」
「女、子供を優先にして。泳げる人は悪いけれどなしにして。」
みんなは不安に覆い包まれた。
そんなときだった。突然エンジンが止まってしまったのだ。縄を動かしてもどのスイッチを押しても何の反応もしない。今まで来た港からだいぶ来ているが向こう側の岸は見えてこない。自分たちが今どこら辺にいるのかさっぱり見当がつかなかった。
「水が入ってきた!」誰かが叫んだ。その場所を見ると小さな穴が開いていてそこから海水が浮上してきているのだった。
「不必要な荷物は海に捨てましょう。人命第一で考えましょう。生きていればまた買えることもあるわ。それにその小さな穴をふさぐためにプラスチックのテントがあったはずだからそれを敷いて海水を防ぎましょう。」
「俺たちはどうなってしまうんだ。かけなしのお金を払ったのにこんなことになるくらいだったら歩いてトルコ経由でヨーロッパに渡ればよかった。死にたくないよ。」
「大丈夫。パニックにならないで。こういうときはあせってはだめ。確かに安全なひと時じゃないけれど必ず問題解決の糸口はあるはずだわ。たとえば商船とか、ヨーロッパの近くにいればパトロール船とか。」
「時間的に言って一時間もしていないうちに故障が発生した。船員はヨーロッパに着くまで2,3時間はかかるといっていた。だからまだパトロール船を見ることはできない。商船だってこの通路を通ってくれればいいが違う通路だったら?」
「もしそうだとしてもネガティブに考えない。みんな生きたいんでしょう?だったらそれを強く願うの。そうしたら絶対にかなうから。船も動かさないとだめね。港から30分で海に放り出されて一番近い国といったらトルコになるわ。トルコに行くことにしましょう。だから船を進路東に進ませる。」
「そんなことしても大丈夫なのか?」
「忘れたの?私たちは難民なのよ。だから引きもどれといわれるかもしれないけれどちゃんと話を聞いてくれればわかってくれるはず。私は絶対に誰も死なせない。自信はないけれどちゃんと私が最後まで舵を取るから安心して頂戴。そして船をこげる全員でトルコ入りするの。今までの苦労を無駄にしたくないでしょう?」ハチマタは全員をたしなめた。
「あんたは強いね。」ケリーは前に座ったハチマタに小声で言った。
「そんなことないわ。私はやりたいことがある。だからここで死ぬわけには行かない。ただそれだけのことよ。」
そんなときに近くに大きな船が通った。難民船はみんな手を振りながら合図を送ったが大きな船は気がつかない。そしてその大きな船の通った跡による波で船が転覆してしまった。
「ケリー大丈夫?」ハチマタはすぐにケリーを見つけて抱き寄せた。
「子供といっしょだからこの服も効き目がない。」
ハチマタはすぐに何かつかまれるものを探したが浮かんでいるものは何もなかった。
あたりにはおぼれて死んでいるものもたくさんいた。泳ぎに長けている人はきっと東に向かっているのだろう。誰か一人でも上陸して自分たちのことを話してくれることをハチマタは願った。しかしそれまでの命はまったく保障されたものではない。ここはプールではないのだ。ゴールまでどのくらいあるのか誰も見当がつかない。港に着くまですでに体力を消耗している。そんな体で泳ぎきれる人は難民の中にはいなかった。
「ハチマタ。どうやら私たちはだめみたい。あなたはがんばって自分の目的を果たして。」
「弱気になってはだめよ。」
「子供が息をしていないの。たぶん私もそろそろ。あなたに最後に会えてよかった。」そういうとケリーは動かなくなった。
「ケリー!!」


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