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作品名:ハチマタの運命(KAMIKAZE続編) 作者:chihiro

第10回 ダブルミッション
バスは九時前には到着していた。そして教会にいる全員がそのバスを今か今かと待ち望んでいた。
ハチマタはいったいナディアはどんなことを言って彼女らを納得させたのだろうと思った。その答えは遠くない時間に明らかにされた。バスの中には女性たちだけではなかった。女性の恋人、夫と思われる人も乗っていたのだ。そしてナディアもラディックも。
「これから空港に向かう。そして我々はイギリスに向かう。イギリスでは難民を受け入れてくれるだろう。そして内乱の地ではないので安心して外を闊歩できる。幸いにも友人が屋敷を提供してくれた。今回宿となるのはその屋敷だ。今までは男女別々だったが自分のパートナーと一緒の部屋を用意する。」
歓喜にならない声があちこちで飛び交った。
誰もがこれで平和が訪れると信じて疑わなかった。普通の格好ができる。外に出て自然の空気を吸える。何よりも現在抱えている恐怖や不安から解き放たれることだ。
「しかし外泊は禁止だ。ちゃんと出かけるときに用紙に名前と時間を書く。後は自由だ。これは人数確認のためでもある。」
もっともらしい理由に一同はうなずいた。

ロンドンヒースロー空港からバスに揺られて一時間あまりロンドン郊外の屋敷を見たときには皆が驚いた。いかにも立派な屋敷でロンドン中心に行くには少し不便だったが何とかなると皆が思っていた。部屋割りを決め皆が落ち着いたころナディアはハチマタを呼んだ。
「みんなパートナーがいるのにあなただけ一人というのはかわいそうだからアンドリューを紹介するわ。アンドリューはこの屋敷の主なの。」
アンドリューはハチマタを嘗め回すように上から下へ下から上へと見た。それをハチマタは気分が悪いと思った。
「よろしく。君は特別だとナディアから紹介された。どんなところが特別なのか今夜から楽しみだ。」
「よろしく。」ハチマタは挨拶の後の言葉を一切無視して答えた。
さっぱりとしてラフな格好でペアで出かける人たちを見てハチマタは誰が最初の犠牲者になるのだろうと思った。メンバーの中にはイギリス人も含まれている。きっと車を使ってプチデモを起こすのだろう。
ボーっとしているとナディアが呼んでいることに気がついた。
「アンドリューと一緒に彼らの後をつけてほしいの。もちろん彼らはちゃんと実行するでしょう。でも心配だから。あ、そうそう。まだあなたたちはそれほど仲良くなっていないから言っておくけれどアンドリューは射撃の名人よ。何でもオリンピック候補になったくらいだから。彼らが失敗したときに彼が始末するわ。」
ハチマタはラディックと一緒にいるアンドリューを見つけた。目があうとアンドリューはハチマタへ近づいた。
「さて、一緒にデートしてこよう。彼らの行き先は知っている。だから遅れても大丈夫。」
「どこなの?」
「外国人がロンドンに来て必ず訪れるところ。」
「ロンドン塔。」
「そう。」
「どうするつもり?監視を頼まれたからには私には知る権利があるわ。」
「OK。カップルが出かけた。橋の中央で車を止めて女性が降りる。男性は車を動かし橋を通行中のものを轢き続ける。女性はナイフで刺す。」
「一気にではないのね。不安が募って途中でやめるのでは?」
「彼らの夕食に薬物を入れておいた。麻薬と思ってくれればいい。その薬は二十四時間効果がある。男性は最後に橋からテムズ川に飛び込んで終わりだ。女性は警察に逮捕されるか自分も身投げするか、それとも俺が始末するか。」
「結局今日は彼らにとって最後の日になるのね。」
「そういうことだ。」
「なぜ彼らを選んだの?」
「イギリス人だということ。車の免許証を持っていること。女性は女性陣の中で一番ストレスが高く精神的に不安定だということで決めた。君の向こうの任務は彼らを施設から助け出すことだ。すでに彼らはイギリスにいる。つまり任務は終わっている。そしてアディルから任務を言い渡された。それを実行してもらう。今回のイギリス入りは何もロンドンだけではない。ヨーロッパに入ったことでいろいろなところに場所を変えられる。君はすべての行いに立ち会ってもらう。」
「次はどこなの?」
「それは今はいえない。ロンドンの仕事が終わったら教えてあげるよ。ベッドの中でね。」
屋敷からロンドン塔までそんなに時間はかからなかったが途中で高層ビルが火災になっているのを見つけた。
「あれはあなたたちがやったの?」
「違うね。誰かがやったものでもテロの事件にされたんじゃたまったものじゃないよ。しかしちょうどいい。ロンドン警察は火災とロンドン塔での事件でてんやわんやするわけだ。人は何も殺し合いをしなくても死ぬときは死ぬんだ。テロなんて事件と片付けられるが事故なんだよ。自分の命がほしければ家の中でこもっていればいい。しかし家の中でも事故は起こる。今回の火災みたいにね。誰かが火を消し忘れた。それによって何の罪もない人が亡くなる。事故を起こした人も亡くなるだろう。しかしテロの場合は違う。警察は目くじらを立ててやっきになって攻撃する。」
「あなたはテロに関して肯定派なの?」
「どちらでもない。しかし考えてもごらんよ。悪いのは社会だ。どの国も市民は苦しんでいる。それを政府は理解しない。だからそれが怒りになって何とかしようという運動が起こる。それを一般にテロリストと呼んでいる。君の仲間だってそうやって散ったんだろう?」
ハチマタはモハメッドたちのことを思った。マリーでさえも事件を起こしたわけではないのにハンストを起こしてなくなった。
「移民やテロは断ち切ることはできないの?」
「残念だができないね。俺もイギリスに住んでいるが南アフリカの出身だ。俺も難民だったんだよ。移民、難民、その言葉があるだけでどれだけ馬鹿にされたか。確かにどの国でも表面上は移民に親切だ。しかし影ではなんていわれているかわからない。その怒り、悔しさを勉学に向けた。しかし勉学に向けられるのは限られている。俺はある生粋のイギリス人に助けられた。だからここまでできた。しかし移民は変わらない。だからイギリス社会から一歩引いている。」
ハチマタは返す言葉がなかった。アンドリューの言っていることはすべて正論だったからだ。それでも罪のない人を死なせるわけにはいかない。たとえイギリス人がイギリス人を殺す羽目になってもそれはいけないことなのだ。テロリストを敵に回すことになっても自分の信念は曲げられない。

ロンドン塔についたときにはすべてが終わっていた。朝微笑みながら出かけていった男女はテムズ川に落ちて死亡した。黄色のテープがそこらじゅうに張り巡らされ近づくことはできなかった。
(自分のミッションは失敗した。)ハチマタは臍をかんだ。
「よし、ロンドン橋までのドライブとなってしまったけれど次もあるからゆっくりはしていられない。屋敷に帰る。明日はまたドライブだ。」
「今度はどこなの?」
「マンチェスター。」
「何があるの?」
「明日のお楽しみ。」
(明日こそは罪のない人たちを助けなければ・・)ハチマタは自分に活を入れるために深呼吸をした。


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