小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第9回 十一月十二日
午前五時・マリーは二つのトランクケースを持ってハチマタと一緒に家を出た。送る人はいなかった。家には誰もいなかった。ギムの計らいでモハメッドは工場にユーネスと一緒に用事を言いつけたのだ。そのギムは警察官としての深夜勤務で九時にならないと家に帰らない。
マリーとハチマタは公共機関でオルリー空港に行った。
二人の行き先はモロッコだ。マリーはモロッコでハチマタと別れモロッコに留まる。そしてハチマタはシリアへと行き先を変更するのだった。
「初めの予定では一緒に行くつもりだったけれどイラクに着いたらある女性がハチマタを迎えに来る。その人と一緒に行動をしていれば何の心配も要らない。」
ハチマタは頷いただけだった。誰が聞いているのかわからないから余計な質問はするなと前日の夜にマリーに言われたのだ。
ハチマタは自分の運命をのろった。自分のお金で旅行をするわけではないから不満はいえないがただ子孫を残すためだけの役目に腹を立てていた。
飛行機に乗るまで二人には何の問題もなかった。税関は知らない。しかしハチマタはこれから起きる出来事を知っている。それだけの話だ。
機上の人となってもマリーもハチマタも話をしたりしなかった。マリーは読書をしたり好きな映画をみたりして過ごしていた。ハチマタは気分が優れなく大半を睡眠で費やしていた。
機上アナウンスがもうすぐアガディールに到着することを告げている。機内はざわつき始めた。荷物をまとめて降りる準備を始めたからだ。
マリーもハチマタもそのまま動かなかった。
アガディールは暑かった。太陽がまぶしすぎる。ハチマタはめまいを覚えた。
マリーとハチマタは到着ロビーに着くとすぐに出発ロビーに向かった。ハチマタのイラク行きのためだ。
「あんたを迎え入れる人の名前はナディアという。施設に向かう前に着替えが必要になるかもしれない。あの国はイスラム教が強いからね。その着替えもナディアが用意してくれていると思う。言葉の問題だったら心配は要らないよ。彼女はアラビア語もフランス語も話せる。」
ハチマタは興味のなさそうに頷いた。しかしそんな態度でもマリーは何も言わなかった。
そして二人は永遠の別れをした。

イラクは焼け付くような暑さだった。ハチマタはパリに戻りたいと願った。しかし戻れないことは知っている。自分でパリ行きのチケットを買うだけのお金はなかった。
ナディアはすぐに見つかった。そしてマリーの言うとおりに空港のトイレで着替えた。
ナディアは運転手を連れていた。女性は車の運転が出来ないからだ。
どのくらい走っただろう。車は大きな施設の前で止まった。ナディアはハチマタを案内するとこういった。
「私たちも彼らと同じなの。男の子を産んで六歳になったら離れ離れになる。そして二度と会うことがなくなるの。女の子はすぐに殺されるわ。彼らが必要としているのは男の子だけだから。何故こんなことを知っているかって?私はこの子が三人目なの。初めは女の子、次が男の子。どちらも六歳まで手元にいたわ。でもある日、娘は突然入ってきた男性に連れて行かれた。そして男の子の団体の練習の餌食にされた。息子は今ではその中にいるでしょうね。おなかにいる子は男の子なの。だから後六年一緒にいられる。私たちは種を宿す器として扱いを受けるわ。あなただって複数の男性と寝たでしょう?そこに愛なんてない。彼らも自分が近未来に死ぬことの確率が高いから子孫を残すのに一生懸命なの。ああ、愛されたかったわ。自分の人生を今でものろっているわよ。あなたもそのことはしっかりと頭に入れておきなさいね。」
ハチマタは周りを見渡した。ナディアの言うとおりにその女性の団体は乳児を抱いているもの、ハチマタと同じように宿しているものばかりだった。そして団体が行き着いた場所はイラクの大きな家でそこには同じような環境の女性ばかりの場所だった。
(なんと言う運命だろう。)ハチマタは心からがっかりした。それでも彼女らは誰一人として自分の運命をのろっていなさそうだった。かえって自分の子供と数年しかいられないことで溢れんばかりの愛情を子供に注いでいる。
(私にもそういうことが出来るのだろうか?)いや、できるかなんて考えているものは誰一人いない。そうしなければならないのだ。人間として女性として生まれてきたものとして。この施設もいずれかは偵察が入るだろう。そして危険分子とされて殺されるだろう。もしくは銃撃されて、善と一般に言われるものの手によって命を落とす。それが運命なのだ。悪は血を流しては滅びない。増徴するだけだ。それを誰も気がつかない。それが悪になったものの中には気がついている人もいる。だから必死に自分なりのデモをするのだ。
(人間って本当におろかだ。神は何故生物を作ったのかわからない。もし生物を作るのであれば殺しや愛やそういった感情を持たない生物を作ればよかったのに。いきなりロボットの世界だけだってありだった。感情を持ったばかりに悲しみやつらさを味わう。憎しみが生まれて殺傷を繰り返し運命の歯車に巻き込まれる。そして私も自分の感情とは裏腹にその歯車に飲み込まれた。もし生き抜きたいと思うのならば彼女たちを見習って自分の血を分けた子供に愛情を分け与えよう。神が創った感情という名の愛のもとに。)
ハチマタはまた回りを見回した。確かに自分が感じた直感のもとにそこにいる女性たちは不幸の中にいるにもかかわらず笑顔が耐えない。それが本当に心の底から笑っていることではないと誰もが知っている。だがそんなことはどうでもいいことだ。その日暮らししか出来ない人間にとって無理してでも笑わなければならないときがあるのだ。それが永遠と思える時間を費やそうと。
ナディアはそんなハチマタの心の葛藤をそばで見ていた。そして(彼女は合格した。)と心の中でつぶやいた。
ハチマタは自分の荷物を大きなホールの片隅に置くとナディアと共に女性たちの輪の中に入っていった。
「ハチマタ。彼女は三ヶ月だ。アラーの神の御心のもとに男子が生まれますように。」
ナディアがそういうと周りの女性たちはアラビア語でナディアと同じようにつぶやいた。
それが歓迎のしるしだった。
(違った運命でこの人たちに出会ったとしたらもっと彼女らのことを好きになっていたかもしれない。)ハチマタはまだ自分が置かれた状況をうまく把握していないのだった。
「一週間も過ごせばすぐになれる。ここの一日の動きはシンプルだ。外に出ることは禁じられている。医者はすぐ隣の施設に駐在しているから何があったとしても大丈夫だ。ここは激戦区にしてはスポット的なところで静かに暮らすことが出来る。熱狂的なアラー神の信仰者はアラー神が守ってくれていると思っているようだが、実際はどうなのかはわからない。ただ善人といわれるものたちに見つかるのも時間の問題だ。最近はレーザーだのGPSだのいろいろと探るものがあるからね。私を含めてだが一日はここでお茶をするなりしゃべるなり何をしてもいい。しかし誰もプライベートの突っ込んだところまでは話しをしたりしない。思い出してしまうからだ。そうなると悲しみや憎しみなどやりきれない感情があふれ出す。彼女たちも必死で自分の心を平静に保とうと努力しているの。だから天気の話やその人の子供、おなかの具合などを聞くのはOKだが他のことは聞かないでやってほしい。それだけ守れば誰もあんたを目の敵にはしない。覚えておくことだ。」
「わかったわ。」ハチマタはそっけなくいった。感情を表に表さないこと。それはパリにいたころから常に心がけていたことだからだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 281