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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第8回 アリの考え
アリは高層ビル内にある小さな公園のトイレでマリファナを吸いながら今までのこと、そして数日後のことを考えた。
両親の記憶はアリにはなかった。フランス人家庭ではイラク人ということで差別にあった。それが悔しかった。何故里子として迎え入れられたのだろうとも考えた。里親になるものは事前に検査をして適しているかどうかを調べるはずだった。確かに相性というものもあるがあれは苛めるために里子を引き取ったとしか思えなかった。物心がついたころから一人だったからいまさら命がどうなろうと関係なかった。最初の目的はフランス人に対しての憎悪だったのだ。だから生粋のフランス人を仲間にはしなかった。移民の子は移民として同じ気持ちを持ったものだけしかわからないものを共有したかった。ハチマタに対しては愛情を抱いていたわけではない。初めは欲求のはけ口として彼女を利用した。ハチマタは自分が愛情を抱いていないことをちゃんと理解している。何回も体を重ねてもそれは変わらなかった。所詮人は一人なのだ。人間を助けるものは人間だとどこかで読んだことがあるがそれはまったくのうそで一人で何とかしなければいけない。人生はまさに修行の場なのだ。だから自分の命を懸けてまでフランス人に仕返しをしてやりたかった。
「それも後二日で終わる。」アリは独り言をつぶやいた。
完璧に計画は進んでいる。これが成功すればフランスは特にパリは大パニックに陥るだろう。アラブ圏の人間は胸をなでおろすかもしれない。欧州各国から来ているものは自分の祖国に逃げ帰るかもしれない。その後どうなろうと自分には関係のないことだった。
アリは自分の最後を想像した。警察と応戦になって銃に撃たれて死ぬだろう。「俺の人生はなんだったんだろう?」自問したが帰ってこない答えだとわかっていた。今となっては何の後悔もない。今まで生き抜いてきた。しかし後数日の命だということを認識するといまさらながらもっと他の道があったのではないかと思う。
(その迷いはもう何年も前に悩んだはずだ。そして自分で決めた。それを実行するだけの話じゃないか。)
生まれたときはみんな平等だと誰かがいっていたらしいがそれは嘘だ。すでにどの家庭に生まれたかでその後の人生が決まってしまうのだ。何の苦労もしない子供は親にたった一言何がほしいと言えばいい。しかし貧しい家庭の子供は何かを得るために何の苦労もしない子供の何十倍の労力を使わなければならない。不公平だ。
他人に影響力をもつ人間はたった一言ですむがそうでないものは自分たちのようにちょっとしたデモを起こさなければならない。
女にしてもそうだ。たとえばハチマタ。彼女は自分が愛なしで抱いていると思っている。確かに性欲だけでも抱ける女はいる。しかしそういう類の女は一度抱いたらそれで終わりだ。何度も抱いたりはしない。ハチマタを抱いているときにどんなことを考えて抱いているのかハチマタが知る由もない。
普通のカップルのように映画を見たり、食事をしたり、ふざけあったりけんかをしたり。しかし現実にはそれは叶わない。だから自分の心の中で想像しなければならない。夢の中で叶う。自分の本音は誰にも話さない。話せない。それでいいのだ。そういう運命なのだから。
(生まれ変わって普通の暮らしが出来る環境だったら*ここが重要*笑いの耐えない家庭を持ちたい。)
アリはそう思った自分に中傷した。
(夢にも思っていないことを思うな。センチメンタルになるには資格が要る。俺はその資格さえも与えられなかった。)
「アラーの神が見守っている。」
今はそれだけしか思うことにしよう。貧困という言葉がなくなり不満・不平がやってくる素晴らしい時代にするために自分を犠牲にするのだ。国のための犠牲ではない。この世につらさを感じて命を落としていったものは何も俺が初めてではないし終わりでもない。これからも続くだろう。素晴らしい環境のもとで育ったものに気づいてもらうために。自己中心な考えをやめてもらうために。一種のヒーローなのだ。革命は時として正義が悪者になる。それはいつの時代もそうだった。そしてこれからもそれは続くだろう。上下関係が続く限り。不要な意味での競争が続く限り。
アリがアルカイダにいってすぐに彼らの主張は間違っていると思った。それと同時に正しいとも思った。世間一般は何の罪もない人を殺すことに悪を感じる。しかし戦争はどうだ?何の罪もない一般人が巻き込まれている。それは今に始まったことではない。中世いやその以前から殺生は繰り返されてきた。そこにそれぞれの意味がある。そしてその真実の意味はありふれたモラルで消されてしまっている。格差社会はなくならない。それがアリの出した答えだった。泣き寝入りをするものもいるだろう。しかしアリは泣き寝入りをするつもりはない。格差社会に立ち向かうヒーローとなるのだ。
モハメッドの言うことも一理ある。移民の子は移民としてその日暮らしをしていたほうがいいのだろう。しかし人間として男として生まれたからにはある意味での英雄を気取っていたい。どんな意味でもこの腐った社会に名前を残したいと思う。
そのためにだったら何でもよかった。カミカゼ、アリにとってそれがヒーローになるキーポイントだった。
カミカゼはアリがはじめてでもなく最後でもない。きっと時代が変わってもカミカゼはなくならないだろう。テロを嫌うものでさえも心のどこかに今の生活を変えてくれる人物を待っている。それが悪いものだとわかっていてもだ。
アリは空を見上げた。パリの天気は相変わらず雲に覆われて憂鬱さを増している。しかし天気にはもう自分の心を左右されないほど固まってしまっていた。
シリアの天気はパリのそれとは比べ物にならず毎日のように青空が広がっていた。しかし晴れていても心は晴れなかった。逆に太陽のまぶしさが心を傷つけている。ささくれだった気分は太陽は不必要ということだ。Xデーに雨が降っても晴れていても関係ない。だから夜を選んだ。暗闇は好きだ。悪いこともいいことも不透明にしてくれる。笑いなど人生に不必要。ばら色の人生なんてくそ食らえだ。人間いずれは死ぬのだ。何日早かろうと遅かろうとそんなことは世間にとっては何の意味もない。そして地球上生物にとっても何の意味も持たない。
(形なるものいずれは無に帰る。)アリが人生二十四年間で学んだことだった。どんなに生前中に功績を収めようとも名を有名にさせようともいずれは忘れ去られる。住んでいる地球でさえも日々変化をしている。それが自然の法則なのだ。地球が生まれて人間、いや生き物が存在し始めたときから始まっている殺傷は地球が滅びるまで消えない。知らない人間はどうして?を繰り返すだけで答えにたどりつこうとしない。
(俺は気がついた。そして実行するだけだ。そこには悪も善もないのだ。ただ自然の法則上悪人と善人に区別されただけだ。本来すべきことはちっぽけな地球という星を壊すことだけれど自分の利益だけを考えるものたちにその勇気はない。俺もその一人だ。地球内の人間、もしくは地球外の生物が殺傷をやめるべきだと地球を壊してリセットしなければならない。その日はもうすぐやってくる。ただそれまでは今までと変わらず殺傷を繰り返すだけだ。)
アリはもう一度マリファナを吸うと一口で捨てて自分の最後の仕事をすべくその場から立ち去った。


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