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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第7回 親子最後の別れ
ギムとマリーは近くにあるイラク人がやっているカフェの一番奥で話をしていた。
マリーは木曜日にハチマタと一緒にモロッコに行き、そして最終地のシリアに向かう。そしてマリーは二度とフランスの地に立つことはないのだ。
二人はあまり普段から話しをしなかったがこの日は特別だった。
「わかってはいるんだけれど、いざとなるとやはりうろたえるね。」
「そうだな。あまりマリーに親孝行を出来なかった。」
「いや、お前は最後までいい子だったよ。私の自慢の息子だよ。」
「イラクについてからの準備は大丈夫なのか?」
「ええ、まずはハチマタを施設に届けてから施設の誰かに送ってもらうことになっている。

「そうか。ハチマタは医者に見てもらったのか?」
「ええ、順調だそうよ。あの子も考えてみれば不憫かもしれないわね。」
「いや、俺はそうは思わないよ。俺たちは彼女に将来を与えた。たとえ彼女が望んでいないとしてもだ。同じ境遇の多くの人がいる場所ではどの国の警察でさえも突破することはないだろう。マリーだって同じことだ。」
「私は未来なんてないよ。私は命を落としてもいいと思っている。ただ残念なのはあんたの近くで死ねないってことだね。」
「それはいいっこなしだ。俺たちは悪くない。イラク人ということでどれだけの苦労をしたか。何もしていなくてもいつだって冷たい目で見られていた。イラクという国が悪いんじゃない。確かに問題はあるけれどそれはどの国にしたって同じことだ。イラク出身の有名人は世間体が悪いけれどそれでもみんながみんな悪いってわけじゃない。考えてもみろよ。貧しいなりにも一生懸命に毎日を生きて虫けらのように殺されていった人たちのことを。テロが悪いからか?だから正義はテロリストを殺すのか?それは人間として間違っている。ミサイルを撃つことでまじめな人間が殺されるんだ。殺人の間には正義も悪党もない。金曜日には俺たちメンバーは全員死ぬ。しかし俺たちに悪気はないんだ。人はいずれ命を落とす。どんな形にしてもね。悪性のがんがあって医者に余命宣告をされた。それと結局は同じことなんだよ。俺たちの意思は引き継げられていく。」
「わかっているよ。だから反対はしない。好きなようにすればいい。私もきっと数日のずれはあるにしても後を追うからさ。」
「俺の勝手な望みだけれどマリーには一日でも長く生きていてほしい。」
「それは無理だよ。フランス政府だって馬鹿じゃない。関与した人間として問い詰められるか殺されるかだ。私がもっと若くて機敏に動けるならばフランスにいてあなたの近くで死ねたのに。それだけが残念だよ。」
「マリーには任務がある。ハチマタを施設に届けることだ。そして俺たちが散ってもその思いは受け継げられて行く。」
「ああ、わかっているよ。イラク人に生まれたことを誇りに思うさ。そして私の愛する息子が命を張って全世界に伝えようとしていることもね。」
「マリー」ギムはそういってマリーの手を取った。マリーはその手を握り返した。
「さて、何か食べよう。これが私たち親子の最後の食事だ。」
「そうだね。何を食べようか。これが最後だと思うとあれもこれもと欲張ってしまう。」
「好きなものを注文すればいいさ。私はそんなに食べれないんだからあんたの食べたいものを少し分けてもらうだけでいいよ。」
マリーが涙を拭くのを見てギムは心が揺らいだ。しかしすでに二年前から決めたこと。そして数日後にはマリーは息子が命を落としたことをどこかのメディアで知ることになる。
「ねえ、今の正直な気持ちを聞かせて。」マリーは何度か声をかけていたらしく手をつつかれていたことに気がつかなかった。
「今の気持ち?やっとここまで来たかって気持ちとかマリーに申し訳ない気持ち、他にも言葉にならない気持ちが混ざっているよ。」
「あなたは自分の人生を全うした。胸を張っていられるよ。」
「ありがとう。生まれ変わったらまた家族になりたいな。」
「そうだね。きっとなれるよ。輪廻は場所や時代は変わっても近くにいる人は形は変わるけれど同じだと思うから。」
「そうだね。きっとそうだ。また会える。それを聞いて心が何かすっきりしたよ。急におなかがすいてきたな。さあ、何を食べよう。」
ギムはマリーがわざと明るくしているのを気がついていた。


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