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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第6回 真実
クリストフの元に行かされてからモハメッドは工場にはいけなかった。翌朝にギムから言われたのだ。「もう工場でのお前の仕事はなくなったから違うことをしていろ。」と。
そのために数日間、一人でヘリコプターを動かしてなぜか他の方向にも行きたくなった。モロッコ時代のことは何一つ覚えていなかった。自分の知っているところは本当にサンドニだけなんだと思い立ったからだった。しかし他の土地を見ることははばかれた。
(何故何も知らされないのだろう?)
アリが帰ってきてからなぜかハチマタの姿を見ていなかった。
(何故ハチマタは突然消えたんだろう?どこに行っているんだ?)
ちゃんと会話をしてくれるものだったら誰でも良かったのかもしれない。しかし、アリはもう昔のアリではなかった。唯一ハチマタだけがモハメッドの心に光をともしてくれたのだ。そのハチマタがいなくなって・・一人で行動していると考えなくてもいいものをたくさん考えた。

「モハメッド、探したぞ。」
モハメッドは声のなるほうに目を向けた。アリだった。
「お前に言ってなかったことを言おうと思って。」モハメッドは固唾を呑んでアリの言葉を待った。
「ヘリコプターはうまく扱えるようになったか?」アリはモハメッドが頷くのを見て言葉を続けた。「よし、今週の金曜日にスタッドフランスで親善試合がある。その時間帯にお前はそのヘリコプターでスタッドフランスに突っ込んでくれ。それが作戦Aだ。」
「突っ込むって?意味がわからない。」
「言葉通りだ。観客席あたりがいいな。大いに混乱するぞ。試合どころではなくなる。」
「それってテロ?」モハメッドはそういってからすべての点が線につながったことに思い当たった。
「俺たち流のデモだ。お前がハチマタに言っていたことをマリーが話してくれた。」
「アリは何をするんだ?僕は何も計画を知らされていなかった。」
「俺も仕事はする。しかしパリで俺たち流のデモをする。」
「アリは死にたいの?何もかも自分の思い通りになっているじゃないか。何も僕たちがデモをしなくても・・」
「お前はこの世知辛い世の中に我慢できるのか?毎日その日暮らしして何も保証されないんだぞ。確かに俺たちは散る。でもそれが頻繁に行うことで次の世代が過ごしやすい世代になれば良いと思っている。」
「アリは次の世代のことなんて考えているの?今までは自分のことしか考えなかったのに。シリアにいって何があったんだい?」
「いろいろなことを学んできた。そして少しばかりの軍資金をもらってきた。」
「軍資金って言えばどうして工場であんなものを作れるんだ?」
「お前は知らなくてもいいことだ。とにかく金曜日だ。」
「まってよ。まだ話は終わってない。」
「お前の考えていることはお見通しだ。ハチマタも金曜日には来る。」
モハメッドはみぞおちにパンチを受けた衝撃が走った。図星を当てられて恥ずかしく穴があったら入りたい気分だった。
「僕が知りたいのはそのことじゃない。アリ、君を含めたほかのメンバーのなすべき行動を知りたいんだ。」
「あのときに話をしただろう。それだけじゃ足りないのか?工場からつれてくるメンバーは人それぞれだ。俺の管轄じゃないから誰を選ぶのかわからない。他に質問は?」
「どのくらい前から計画していたの?」
「俺がギムと会ったときからだから約二年ぐらい前からだ。」
「そんなに前から?誰も、たとえばマリーは反対しなかったの?」
「マリーはイラクとフランスの二重国籍者だ。そしてギムも同じだ。フランス国籍をとったのはパスポートや滞在許可書の色の違いだけじゃない。何度も提示を求められてイラク人というだけで白い目に見られた。フランスは難民に優しいと外面にはなっているが中はそうじゃない。フランス人は難民はおろかガイジンを嫌っている。多くの人が入ってくる。それだけやることなすこと今まで余裕で取れていた席がなくなるかもしれないんだ。フランス人はガイジンに国へ帰れという。あいつらの立場にしてみれば当然のことだ。そして俺たち移民はそんな肩身の狭い思いをしながらそれでもこの場に残らなければならない。お前だって苦労してきただろう。欧州人がフランスにいつくのと俺たちマグレブがフランスにいつくとでは天と地の差だということを。ギムのようにフランス人の何倍もの努力をしてやっと警察に入った。しかしやることは汚い仕事ばかりだ。これは国籍の問題じゃないんだ。人間本来の問題だ。同じ人間として生まれてきたからには同等の権利があるはずだ。生粋のフランス人だって政府のやり方に不満を抱いているものがたくさんいる。俺はシリアでその生粋のフランス人にあったよ。フランス人だけじゃない。いろいろな国のものが集まっていた。自分の懐だけ暖かくなって大統領の言葉を借りるなら「大臣になって喜んでいる人物」はいらない。あいつらが何もしなければ俺たちがあいつらの尻を動かさないといけない。」
「だからといって。」
「お前はこの計画に反対なのか?」
「いや、そんなことはない。アリのいっていることはまさしく正論でそれには賛成だ。でも死ぬことはないじゃないか。」
「正義のために死ぬというのは何も今に始まったことじゃない。第二次大戦に日本人兵隊がお国のために命を落としていった。子供は男子はもちろんのこと女子だって国にささげるものなんだ。俺たちの国はない。しかし志はみんな同じだ。どっちにしてもお前はすでにメンバーとして重要な任務がある。お前が残された時間は決行前の数日間だ。俺もいろいろと忙しいんだ。じゃあな。」そういうとアリはモハメッドを残してその場から立ち去った。
一人残されたモハメッドは考えた。ハチマタに言ったこと、難民時に両親、姉妹を無くしたときにすでに自分の心は死んでいると答えたことはうそじゃない。しかし本当にこのまま散ってしまっていいのだろうか?

モハメッドはどこかにスリが出来そうな人物を探そうときょろきょろあたりを見回した。そしてこの瞬間でも会いたい人の顔が見えた。その顔はだんだんとモハメッドに近づいてくる。
「こんなところで会うなんて奇遇だね。一人で外に出てはいけないはずじゃなかったのか?」
「想像通り迷子になってしまって途方に暮れていたところ。あなたの顔を見てどんなにうれしいか想像できないでしょうね。」
「どこにいたの?」
「わからない。この街はなんていうところ?」
「えっと、ル・ブジェっていう街。空港があってすぐ近くに航空博物館がある。それだけの街で後は何もない。」
「それでも人が多いわ。」
「博物館のせいさ。博物館には遠方からの人も来る。カフェでコーヒーでも飲まないか?コーヒーが飲めるならばの話だけれど。」
「いいわ。私、あなたに真実を告げなければいけないと思う。」
ハチマタの真剣なまなざしにモハメッドはうろたえた。
「真実ってどんなことだい?」
「カフェで話すわ。通りの向こう側にカフェがあるでしょう?あそこに行きましょう。」
モハメッドはハチマタが今までとは違った雰囲気であることを悟った。
(俺はハチマタにも嘘を吐かれていたのか。なぜ俺ばっかり・・)

そのカフェは人が数人しかいなかった。二人は一番奥のテーブルに着いた。
「私ね。記憶が失ったなんていうのは嘘なの。アリに言われたの。明後日マリーと一緒にモロッコに発つ前にどうしてもあなたに言っておきたかった。」
「明後日だって?金曜日にはフランスにいないの?」
「モロッコ経由でシリアに行くわ。そしてなんとかっていう施設に入る。」
「なんだい?そのなんとかって。」
「私と同じような境遇の人が世界中から集まってくるところ。私、アリの子供を妊娠しているの。」
モハメッドは雷に打たれた気分だった。
(アリの子供を宿しているだって?何故だ?そんな中だったのか?)
「愛のないセックスよ。あの人は私の人生も決め付けているの。」
「どういうことなのかはっきりと教えて。」
「子孫を残したいのですって。」
「君はそれに同意したんだ。」
「同意なんてしてないわ!」大きな声を出したためにカフェにいる全員がハチマタを注目した。「私はアリの血を引く子供を育てることで次の世代の戦闘士を育てるの。まるで機械みたいに。」
「俺にはそれがどんな意味なのかわからない。」
「ここでは話せないことよ。今度の金曜日に関係していること。」
「つまり・・」
「そう。そういうこと。別に子供を産むことは反対じゃない。でも産みたいと思った人の子供じゃなくて義務に近いから。」
「アリは君のことを好きなの?」
「嫌いでしょうね。欲求のはけ口、子孫を残さなければならない義務感。そういうふうにしか抱かれていないわ。」
「どこがどう間違えばこんな展開になるんだ?」
「私も知りたいわ。」


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