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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第5回 ユーネスの思い
ユーネスは無口なほうだが自分の心の中に湧き出るハチマタの思いは抑え切れなかった。
しかし、ハチマタと二人きりになることは難しい。完全な片思いのまま人生を終わらせていいのだろうか?と何度ももう一人の自分がささやく。
思えばユーネスはいつも誰かの管下で自分の意見も言わずにしたがっていた。家族の中では兄弟の一番上ということでいつも物分りのいい兄貴役を小さいころから演じてきたのだ。
五人兄弟だったが決して両親は裕福な人たちではなかった。母が父の元で苦労しているのをなんとなく感じていたし実際に何度か母の口から聞いたこともある。だから自分が反対なことであっても家族が決めたのであればそれに従うしかなかったのだ。
金曜日までの命だというのは期日がはっきりとしなかったときからわかっていた。それは自分の運命なのだということもたぶんアリに出会った最初の日にわかっていたのかもしれない。
アリは自分に少しだけ自由をくれた。家族にはいくらかのまとまった金を、そして一人独立をしてアリのために働くことを約束した。
男と男の約束だと感じた。ハチマタと逢った後でもアリに対する気持ちは変わっていない。
しかしアリが毎日のようにハチマタを抱いているところを聞いているとすぐにでも止めに行きたくなる衝動に駆られたのだ。
いつの日か、アリはハチマタを抱き終わった後すぐに出かけたことがあった。
ユーネスは湯を沸かし、ハーブ茶をハチマタのために作った。
お茶を入れたことをハチマタに告げると煙草を吸いながらハチマタの様子を伺った。
数分後に服を正し、髪の毛を梳いてからユーネスの元で静かにお茶を飲んだ。そのときにユーネスはハチマタに心を奪われたのだった。
「ありがとう。」ハチマタはお茶を飲み干すと小さくユーネスに言った。
その翌日にユーネスはアリが来ると何かと用事を作った。
一人でいると何故アリがハチマタを抱いているのか考えた。そしてあるひとつの答えがひらめいた。
アリは子孫を残すという人間が生まれてからの本能でハチマタを抱いていることだった。そこには愛がないことをハチマタもアリもそしてユーネスでさえも気がついている。そしてもう一人の自分はからかうようにして「俺がアリの立場だったら良かったのにって思っているんだろう?」と笑って言う。ユーネスはそんな自分に答えを与えなかった。沈黙を守っていたがそれはYESといっているようなものだった。

物音がした。急に現実に戻されたユーネスは音がするほうに出向いた。ハチマタだった。
「後からアリが来るのか?」
「いいえ。」
「何をしに来たんだ?」
「お茶を飲みに来たの。」
ユーネスはハチマタを中に入れた。そしてハーブティを作った。
二人分のハーブ茶をテーブルに置くとユーネスは煙草を取り出して吸った。
「私、あなたに質問があるの。どうしてモハメッドの前では記憶喪失だなんて嘘をつかないといけないの?モハメッドには何も知らせていないんでしょう?何か可哀相だし不公平だわ。」
「君の悩みじゃないさ。アリが考えてそうしているだけだ。俺たちはアリの考えに従わないといけない。」
「何故従わないといけないの?私が抱かれているのは何故?」
「その答えは君も知っているはずだ。君は明日か明後日にはマリーと一緒にシリアに発つ。俺たちはその後俺たち流のデモをする。そして君はおなかにいる子供の世話をする。デモから遠く離れたところで。」
「そこには私の考えも主張もないわ。」
「俺だってこの計画には俺の考えも主張も何もない。俺だけじゃない。モハメッドだってギムだってそうだ。すべてアリの考えで計画は進められている。」
「何故?あの人がお金をばら撒いているから?それで人を納得させているから?人間は感情を持った動物よ。他の動物だって感情というものは持っている。何故虫けらのように扱われないといけないのかわからない。」
「そういう運命なのさ。ある意味では俺も君も工場に関係のある人間も選ばれた人なんだ。」
「私たちが移民の子だから?それって関係ないわよね。たまたま?それじゃ理由にならないわ。」
「君は子孫を残すことに不満を抱いているのか?」
「そんなことはない。でも私たちはどこにいるの?フランスよ。世界一貧富な国・二ガーにいるわけじゃないのよ。」
「アリが嫌いなのか?」
「嫌いってわけではないわ。ただ愛のないセックスが嫌なだけ。」
「愛ってなんだ?俺はわからない。そのときに愛しているって言えば勝手に飛べるのか?人の心は不変じゃない。それに君のもうひとつの国であるモロッコだって親の決めた相手と結婚して子供を生む習慣があった。」
「ユーネスは恋をしたことないの?好きな人と添い遂げたいって思わないの?」
「思ったことはあるさ。だけどもう遅いんだ。だからその人の幸せを未来を願う。」
「きれいごとね。」
「きれいごとなことなんてあるものか。俺が何故無口なのか知っているか?自分の心を吐き出してしまうことが恐ろしいからだ。俺だって怖い。そして思いを告げられたらどんなに心がすっきりするだろうと思う。しかし出来ないんだよ。そのことについては後悔していない。そして自分の人生に関しても同じだ。」
「そうか。好きな人がいるんだ。その人ってどんな人?」
「その話はしたくない。ここで俺なんかとお茶しながら話をするのは君にとっていいことじゃないと思う。俺はちょっと出かけてくる。帰りたくなったら勝手に帰ってくれ。」ユーネスはそういうと立ち上がって大またでドアの外に出た。
行くところがなかった。自分の居場所であるはずの部屋は好きな人がいついている。事態が違った形だったら告白の最大のチャンスだった。しかし自分の自制心が勝った。口に出さなければ一生、ハチマタは知ることがない。これでいいんだ。自分に言い聞かせるユーネスだった。


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