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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第4回 アリ、帰還
翌日の昼過ぎのことだった。眠さと戦いながら細かい作業をしていると扉が大きく開く音がした。そこにいたものは一同に手を止めて扉のほうに目を向けた。モハメッドも同様だった。一同に緊張が走る。ギムがごまかしきれなくて警察が介入したと誰もが思ったのだ。扉を大きく開けた本人が作業場まで来てその人が誰なのか理解した瞬間、誰もが安堵の息を漏らした。アリだった。アリを知らないものは警察ではないこと、アリを知っているものは懐かしさをこめてアリを見つめた。
アリは真っ直ぐにユーネスとモハメッドのそばに近づいて行った。
「アリ!いつ帰ったんだ?」
「いまだよ。向こうに行っている間にもこちらの様子をマリーが報告してくれた。ユーネス、仕事が終わったらモハメッドと一緒にギムの家に向かってくれ。大事な話がある。」
ユーネスは何も言わずに黙って頷いた。
モハメッドは何も言わなかった。いえなかったのだ。シリアに行く前と後ではアリの雰囲気が違いすぎていた。しかし原因を問いただすのに今は最適とはいえないことはモハメッドもわかっていた。
モハメッドが考え事をしている間にアリはいなくなっていた。
「おい、さっさとこれを片付けようぜ。」ユーネスに言われたモハメッドは我に返り仕事を再開した。

アリを囲んでユーネス、ギム、そしてマリーまでもがその場所にいると得たいの知れない不安がモハメッドを包んだ。聞こえてくるのは外からの車や人の声と、中では時々うなりをあげる冷蔵庫の音だけだった。
モハメッドはハチマタはどこに行ったのだろう?と思った。これから何かが始まろうとしていることはアリが帰ってきたときからわかっていた。いや、ユーネスやギム、そしてアリがマリーと連絡を取っていたことでアリがシリアに行く前から何かが近未来に起きるのであることは想像がついた。いったい、どんなことが起きようとしているのだろう?なにか別のことを考えていても結局、その問いに戻ってきてしまう。
「十一月十三日にスタッドフランスでサッカーの親善試合が行われる。その日に我々も決行しようと思う。」アリはみんなを見渡した。そしてモハメッド以外全員が頷いているのを確認した。「ユーネス、仕事の進行状況はどうだ?」
「順調です。いつでも準備OKなようにそろえています。」
「よし、では役割を言う。ギム、君はパリ十区にある「カフェ・カサブランカ」にて作戦Bを執行してくれ。工場にいるもの数名を連れて行ってもかまわない。ユーネスは八区にある「三地区劇場」で作戦Cを執行してくれ。これも工場にいるもの数名を連れて行ってくれ。人選は君に任せる。そしてモハメッド、お前は作戦Aだ。その前にお前にだけやることがある。今からそれを習うために俺と一緒に来い。」
「行くってどこ?」
「ブジェ空港だ。」
ブジェ空港・かつて旅客運行のために使われていた空港だが今では貨物専門の空港になってしまっている。
「そこで何をするんだ?」
「飛行機の操縦を覚えてもらう。飛行機といってもヘリコプターよりも規模が大きく、ジェット機よりも規模が遥に小さいものだ。まあ、数回の練習で身につけられる簡単なものさ。」
「それは僕だけでやるの?」
「操縦に二人は要らない。」
モハメッドはアリから漂ってくる威圧感をまともに受けたような気がした。
(自分はアリのことを何にもわかっていなかったのかもしれない。)
ブジェ空港にたどり着くと一人の背の高い男性が立って二人を出迎えた。
アリはその男性と握手をして挨拶を交わすとモハメッドを紹介した。
「OK。君の名前は?」
「モハメッド」
「じゃあ、一緒に来て。早速やり方を教えるから。」
モハメッドはその男性についていった。そして後ろを振り向くとアリが空港から去っていくのがわかった。
(これからマジで何が起こるんだ。)モハメッドの心には不安だけしかなかった。

「こいつの助手席に乗って。操縦をしながら教える。繰り返し同じことをいうのは好きじゃない。だからしっかりと頭に叩き込むんだ。まあ、簡単な操作だけれどね。」
モハメッドは産まれて初めて神経を集中させてその男性の説明を頭に叩き込んだ。何度か操縦しているとこんなにも簡単だったのかと思われるほどスムーズに操縦が出来た。
「うん、君は飲み込みも早いしこつがつかめている。これだったら大丈夫だろう。少し遠くまで行ってみるか?」
すでに日は暮れあたりはすっかりと暗くなっている。そんな中を飛ぶのか?と急に不安になった。
「知っている街はないかね?」
「サンドニ。それしか知らない。」
「OK。じゃあサンドニに行ってみよう。暗くなってもスタッドフランスだったらわかるだろう?とりあえず上に上げるぞ。」
モハメッドは言うとおりにするしかなかった。
「ここからは南西の方向だ。車だったら四十五分ぐらいのところだがヘリコプターだったら五分ぐらいでついてしまうよ。」
モハメッドは南西にヘリコプターを動かした。
「ほら、見えてきただろう?明かりがなくても格好の目的地になれる。」
「名前を教えてくれないか?何か質問するときに名前が知らないと呼べない。」
「俺か?俺はクリストフ。」
「じゃあ、クリス。アリとは知り合いなのか?」
「アリ?ああ、先ほどの男か。知らない。」
「じゃあ、何故。」
「電話がかかってきてヘリを飛ばしたい男がいるから教授をしてくれと頼まれた。それだけだ。」
「そうなのか。」
「何か問題があるのか?」
「いや、そういうわけではない。」モハメッドはクリストフの身なりを見た。どこから見てもフランス人でがっしりとした体つき、黒く焼けた顔は昼夜かまわずにこの手の乗り物に乗っている男の顔だった。
(何故・・)まだ何も知らせられていないモハメッドはアリがどういった目的でモハメッドにヘリコプターの操縦訓練をさせているのかわからなかった。
「おい、聴いているか?しばらく自分一人で練習してみたほうがいい。そこでだ、この減りが入っている倉庫の鍵を渡しておく。パリまでは入るなよ。何かと規制が引かれて厄介なことになる。」
「鍵を返すときはどうすればいい?」
「倉庫近くに小さな事務所がある。そこにおけば誰かが片付けてくれるさ。」
モハメッドは小さく頷いた。


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