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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

最終回 エピローグ
ハチマタはイラクで新聞を食い入るように読んでいた。そこにはパリであった複数のテロ事件のことが書いてある。
スタッドフランスではヘリコプターを操縦していたモハメッドはなくなり、墜落した破片に当たったものが軽症を負ったと書かれてあった。
パリ八区の三角劇場では一番被害が大きく死者が三十四人、重軽者が四十名あまりと書いてあった。一番ひどかったのが三角劇場で一般人に紛れ込んでいたテロリストのユーネスが放った時限爆弾の犠牲になったものが大勢だったということだ。ユーネスは体が粉々に分散されユーネスがあるということが判明するまで時間がかかったと新聞には書かれてあった。
レポブリック広場で起きた乱射事件はテラスで亡くなった人が多く遅くに夕食を楽しんでいた人が犠牲になった。レポブリック広場で起こしたテロリストは警察の手によって死亡させられた。
新聞ではこの事件の発案者アリの行方を追っている。クリニャンクールで時限爆弾が発見されその近くにあった廃車で北に向かったと報じられていた。たぶんフランスを出ているだろうとも。そしてフランスだけではなく隣国であるベルギーでまた新たなるテロ事件を起こすために仲間や武器を仕入れるためだということが書かれてあった。
事件が起こる前に海外に逃亡したマリーと自分のことは何一つ書かれていなかった。しかしハチマタはそれも時間の問題でアガディールでマリーが降りたこともイラクまでハチマタが向かったことも警察には知られわたるだろう。
ハチマタはマリーのことを思った。家族のもとにいるのであれば簡単に足がついてしまう。
彼女の携帯電話は破棄しなければアリなどとコンタクトを取っていたことがばれてしまう。
(逃げ延びてほしい)ハチマタは切実に思った。
(私のところも時間の問題なのかしら?)ハチマタは二つの違った思いを抱いていた。
警察がここをかぎつけるということは自分だけではなくほかの女性たちも解放される。しかし本当に見つけられるだろうか?一件何の変哲もない建物でこの建物から出入り自由なのは男性だけだ。ハチマタはアリのことも思った。
(結局私には彼が死ぬ直前になって怖くなって逃げたのだと思った。他のメンバーは全員死んでしまったのに。そんな弱虫の子供を宿しているなんて・・)
フランス政府がこの場所を見つけられなくても他の国の政府が見つけるだろう。そして六歳以上の男子が次期のテロリストとして育っていくさまを知らされるのだ。それはそれで全世界にとってショッキングな出来事なのだ。兄弟同然として育てられた女子を殺すさまも見るかもしれない。そして全世界から集まるちょっとしたデモストレーションをやりたがる成人男子。その中には女性も混じっているかもしれない。国から見捨てられた国民が憎しみや怒りをこめてテログループの餌食にされる。それでも世間は悪者はテロリストであって社会ではないと信じて疑わない。社会が変わらない限りテロリストは続くだろう。たとえここにいる次期テロリストが全員殺されたり心を入れ替えさせられたりして もだ。
テロリストを作り出すのは何も極端な思考ではない。武器がなくてもテロ事件は起こそうと思えば起きることが可能だ。
ハチマタは読んでいた新聞をきちんとたたんだ。そして施設の近くで今でも繰り広げられている次期テロリストの実地演習が行われている音を聞いた。
捨てられたと思っている国民はいったいどこに行くのだろう。それを知ることは最後まで叶わないかもしれないけれど死に急ぐのか死を待っているのかそれ二つしかない。
わが身の明日はわからないけれど反社会に足を踏み入れてしまったからには生まれてくる子供もその大罪を背負って生きていく。自分で作った汚点でなくても決して消えることはないのだ。

ちょうどハチマタが新聞を読んでいるころ、アガディールではフランス政府の要請のもと、モロッコ警察がマリーを逮捕していた。十一月十三日の同時テロでその前に主犯とされるアリと連絡を取ったことが逮捕の理由だった。
逮捕されてフランスで事情徴収を聞かれるだろう。息子のギムも何故テロリストの一味となったのかも。マリーは自分のこれからの未来を思い描いた。そしてフランス革命の主人公であったマリー・アントワネットのことを思った。
(毅然としていればいい。自分の思ったことを実行しただけだ。それがたとえ社会に反することでも。自分の行いに悔いはない。)
マリーはハチマタのことは思い出さなかった。忘れていたほうが、自分の頭からそのことを追い出していたほうが何もいえないからだ。アリが生きているということは情報として入っていた。しかしどこで何をしているのかは知らない。知っていることよりも知らないことが多ければ多いほど人間は幸せなのだとマリーは思った。自分に関することは警察に言うつもりだった。しかし他人がどんな策略で何をしていたかなど自分には知る由もない。
一日でも長く生きたいとは思わないけれどマリーにとってハチマタもアリも自分の息子・ギムと同じ感情を持っていた。
(逃げ延びて。死は誰にでも訪れる。だからこそ死に急ぐのはいけない。移民はいつまでたっても移民なのだ。それを理解するのは移民だけ。だから歩み寄りなど絶対にありはしない。)
人類が滅びるまで世界平和が果たしてやってくるだろうか?
答えはわかっていた。自分のことしか考えられない世の中にマリーは涙した。

アリは一ヵ月後にブルッセル中央駅にてシリアで知り合ったベルギー人と一緒にテロを起こしたがあっけなく警察の手によってその場で殺された。
ハチマタはそれから二週間後にアリの死をメディアによって知った。そしてその夜に施設を逃げ出して難民と一緒にフランスに戻ることに決めた。
移民の子は移民、テロの子はテロ。それを断ち切るために。

終わり


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