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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第11回 それぞれの死、それぞれの意味
モハメッドは二十時四十五分に携帯電話のアラーム機能をセットしておいた。それが出発の合図にしようと思ったのだ。しかしそれよりも以前からコックピットに乗りヘリコプターを操縦するだけになっている。ブジェ空港の夜は昼に比べると活気がない。近くにある飛行機博物館がしまってしまうこと、ブジェ空港は貨物専用の空港なのだが一定の時間には一機も飛ばないのだ。あたりを闇が覆い尽くす。時々風に乗ってどこからか人の笑い声が聞こえてくる。その笑い声はたとえ自分に対してではなくても自分に対して笑われていると施設で過ごしたときから自動的に植えつけられてしまっている。それが嫌だった。それは施設から一緒にいるアリも同じだということはモハメッドにもわかっていた。 だからこそこんな任務を思いついたのだということも。きっと他のメンバーもそうなのだろう。嫌だとしてもその日暮らしをして明日への希望も夢もないものにとって普段の復讐をする絶好のチャンスを見逃すはずはない。テロリスト集団はそういった格差差別の犠牲となった者たちへのチャンスの場を与えている。
モハメッドはいまさらどうでもいい気持ちがした。後一時間後には屍となっているのだ。社会という悪の前にして光に群がり死んでいく蛾のように。
アラームが鳴った。出陣のときだ。自動車を運転することはなかったがまるで自分の愛車のようにエンジンを入れヘリコプターを宙に浮かした。
「母さん、父さん、そして妹たちよ。やっと一緒になれるよ。遅くなってごめん。」
一人の操縦席でモハメッドはそうつぶやいた。
約五分後、モハメッドは目的地上空にいた。工具店は明かりが消えて誰一人いなかった。その反対に一メートルもないスタッドフランスでは七万五千人の観客が親善試合を今か今かと待ち望んでいる。明かりあるところに暗闇あり。明暗はつねに一対になり離れずごとし。
「さあ、デモストレーションの開始だ!」モハメッドはスピードを上げて勢いよく工具店に突っ込んだ。衝突する瞬間、家族を思った。少なくてもそれだけで幸せな暖かい気持ちになれた。モハメッドは満足した。

サンドニの工場地帯にある倉庫でユーネスとその仲間たちは工場の壁に掲げられている時計を見て確認した。
「よし、時間だ。」
外には一台の車がある。もちろん自家用車ではなく盗難車だ。盗難をしたのはユーネスではなくアリだった。アリは午後一番に盗難車を工場に置いた。足が簡単についてはいかなかった。アリは一週間のうちにパリおよびパリ周辺をくまなく探し見捨てられた車を探していたのだった。
ユーネス、エリオット、グレゴリー、ブリュノはその車に乗り込んだ。もちろんユーネスを除く三人の手には二丁ずつのライフル、拳銃を所持していた。ユーネスは自分の腹に時限爆弾を巻いていた。現地についてから巻いていたら時間がないからだ。
サンドニからパリ八区の三角劇場まで三十分とかからない。走行通路は工事もなくすんなりと行くことが出来た。
ユーネスの一行は手早く車から離れた。
三角劇場はトークショーを行っていた。世知辛い世の中のもやもやを笑いで忘れようと思う観客は後を絶たなかった。百人ぐらいの小さな劇場だったが満席だった。
受付にはもう誰も入ってくる人がいないためにセキュリティーは甘かった。ホールは薄暗く途中でトイレに席を立つ人のための明かりしかついていない。
ユーネスはエリオット、グレゴリー、ブリュノにしぐさで指図するとトークショーをしている扉を開けた。中の暖かい空気が外に向かって流れてくる。ユーネスを除く三人は扉を開けた瞬間からライフルで乱射した。
倒れる音、パニックの叫び声、満面の笑みから恐怖のどん底に落ちたものたちの顔。出入り口をふさがれて行き場を失ったものたちは舞台上横の機材を置いていあるところに急いだ。ライフル乱射は終わることなく続いている。それを見ていたユーネスは自分の死に場所は機材が置いてあるところだと決め、乱射をよけながら壁沿いに歩いていった。
パニックを演じるのは簡単だった。今までの恐怖を思い出せばいいだけだ。ユーネスは機材周辺で姿勢を低くして頭を抱えているものたちの中心にいった。
「アラー神の導きを!」そういうと腰に巻きつけていた爆弾ベルトを動かした。
耳を突き刺すような音の後、静まり返った。

ギムはアリと工場員のトーマス、アンドリュー、イッサムと共にパリ十区にあるレポブリック広場に降り立った。暖かい風と共に近くにある飲食店から一般人の笑い声や話し声が聞こえてくる。
アリは(三十分後にはその笑い声や話し声は静けさに包まれる。最後のひと時を楽しむがいい。)と鼻で馬鹿にした。
アリはギムに最後の別れを示した。拳骨をあわせる。二人は短く頷いた。そしてアリはすぐ近くのレポブリック駅に向かった。
ギムはトーマス、アンドリュー、イッサムとカナル運河近くのテラスがあるレストランに向かった。暖かい夜なのでテラスで遅い夕飯を食べている客が数人いる。中からはスタッドフランスで親善試合が中断されていた。複数の爆発音にスタッドフランスは騒然としていたからだ。テレビを見ながらそのことを話している客もいた。そして八区の三角劇場に画面が切り替わった。それがギムの合図だった。トーマス、アンドリュー、イッサムはいっせいにレストランにいた人々にライフルを乱射した。ギムの服装は警察の制服だったので見回りに来ているのかと安心させたために誰もが自分のいるところでも乱射事件が発生するとは夢にも思わなかったのだ。
パニックはレストランの中よりも外で目撃した人々によって起こった。逃げ惑う人々は右往左往さまよう。どこに逃げれば一番安全なのか誰もわからなかった。とにかく今いるところから一刻も早く逃げ出したい。そんな思いが民衆を走らせた。
ギムを初めとする一行は死を恐れなかった。精神的に民衆よりも精神面で有利にたっていたのだった。
警察はあちこちで起こったテロ事件にてんわやんやの騒ぎだった。人員が足りない。おまけに隣県のサンドニでさえも事件は起こっている。警察を動員させるのが苦労した。

一人地上で起きている事件をよそにアリは口笛を鳴らしながら次の目的地へと向かっていた。目的地といってもアリだけがどこの作戦にも入らずにいた。当初の計画では廃車となっている車があるクリニャンクールにいってユーネスから譲り受けた時限爆弾で警察とカーチェイスを行いながらうまくいけたらベルギーでちょっとしたデモストレーションを起こすはずだった。しかしクリニャンクールの駅を降りると一番近くにあったゴミ箱に時限爆弾を放り投げた。そして時限爆弾なしで廃車でベルギーを目指して旅立ったのだった。アリは死ぬ気はあった。しかし警察に殺されて死のうとは思わなかった。その上の行動だった。
ベルギーに行けばシリアで一緒だったものと合流が出来る。パリだけではなくヨーロッパ全体をパニックのどん底に陥れたかった。そのために新たな仲間や武器が必要だったのだ。


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