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作品名:KAMIKAZE 作者:chihiro

第1回 移民の子は移民
フランス、パリ近郊・サンドニ

雨が吹き荒れる中、モハメッドとアリは高層ビルのひとつの階段で煙草を吸いながらどこかうつろさが漂っていた。
「今日はこれからどうする?」
「どうするってこの雨だからな。それでも人は出かける。そのときに狙うんだ。クリスマスが近づいている。いつもよりも金は持ち歩いていると思う。たとえば郵便局のほうに近づいている女、今道路を渡って反対側にいった女なんか完璧だと思うね。」アリはモハメッドにその女を指差した。
「誰がやるんだ?」
「お前がやれ。」
「俺?なんで?」
「お前は力がある。脚力もある。俺はここで待ってる。」
「わかった。」モハメッドはそういうと獲物を見つけたライオンの気持ちになった。
女は軽いびっこを轢いていた。つまりバックを取って全速力で走れば追いかけられない。
モハメッドは豹のように後ろから近づいていった。そして両手で力いっぱい肩かけしているバックを引っ張った。バックは自分の手に渡り、その女性はショックを受けてすぐに追いかけようとした。しかし全速力で走れない。走りながら後ろを振り向くと女性は追いかけることをやめて青ざめた顔をしていた。

「いくらあった?」モハメッドを待っていたアリは聞いた。
「たいしてもってないな。百ユーロと小さな封筒でどこの金だ?それが一枚。」そういうとモハメッドはアリにその紙幣を見せた。
「ああ、日本円だ。ま、仕方がない。相手が悪かったと思えばいい。これをいつものところで換算しよう。今晩の夕飯ぐらいにしかならないな。」
「その前に吸わせてくれよ。」
「ああ」アリはモハメッドに小さな袋を渡した。
モハメッドはそれを受け取ると階段に座って紙とフィルターで巻き始めた。
「なあ、これは誰にも話をしてないんだけれど相談があるんだ。」
モハメッドはアリの顔を見た。
「相談ってなんだ?」
「フランスを離れようと思う。」
「どこに行くんだ?」
「シリア。」
「シリアって誰か知り合いがいるのか?」
「いない。」
「じゃあ、なんで?」
アリはモハメッドの横に座って真顔になった。
「昨夜ネットサーフィンをした。あるサイトに出会った。その内容はとても素晴らしかった。俺たちはフランスで生まれた。一応はフランス国籍だ。しかし現実はどうだ?どっからみてもマグレブだ。警察からの監視も四六時中だ。一人のフランス人がそんなことされるか?違うだろう?だから国籍の問題じゃないんだ。ましてフランスは二重国籍、多重民国だ。自由、平等、博愛なんていうのは十七世紀の話で二十一世紀の話じゃない。今は平等なんてないんだよ。フランス人同士だってそうだと思う。だがそのサイトは違っていた。本当に自由、平等、博愛そのままだった。その教えを見てみたいんだ。俺はお前を誘っているわけではない。ただ俺がいなくなるとお前の仕事がなくなる。薬にしたって何を狙うかだって俺が指示を出してきたからな。」
「俺はどうすればいいんだ?」
「そうだな。これから人に合わせる。」
「誰なんだ?」
「警察官だ。」
「何で?」
「安心しろ、警察は警察でもそこらへんの警察とは違う。そいつは俺たちと同じフランス国籍だがイラクの国籍も持っている。だから裏にも通じているってことさ。」
モハメッドは急に不安になった。昨日までの俺たちの変哲もない生活はどこにいったのだろうと思ったのだ。

ギムは体格のいい警察官だった。いや、警察の制服を着ていないところではまるで今の今まで誰かと戦ってきたかのように体中からエネルギーがあふれ出していた。
軽く挨拶を交わすとモハメッドは自分が場違いの場所に来てしまったかのように思えた。
「そうか、お前は行くのか。気をつけろよ。最新の情報によるともう普通の生活は出来なくなるみたいだからな。」
「忙しくなるのか?」
「ああ、そうらしい。もともと火種はあったんだ。それが爆発しそうになっているだけだ。」ギムはアリにそういうとモハメッドを見た。「お前は何が得意だ?」
「何も。今まではモハメッドに指図されていた。」
「町外れの工場地帯で一人募集をしている会社がある。そこでまじめに働け。」
「そ・・」
「言い訳は無用だ。」
ギムの言い方は恐ろしかった。そして街中でギムにつかまらないでよかったと感じた。
「明日十時に俺の家にこい。その工場まで案内する。」

ギムは寡黙な男だった。何も話さない。そして何故自分がその寡黙な男に連れられて町外れの工場に行くのかわからないので自分も話せなかった。
ギムは工場長と思われる人と一言、二言話をした後工場の中に入り誰かを探していた。そして探し人を捜し当てると手招きをしてその男性を呼んだ。
「ユーネス、これからお前の弟子となる名前は・・・」
「アリです。」
「そうそう、アリだった。何かとこき使ってやってくれ。」
「わかりました。つまりモハメッドは行ったんですね?」その答えをギムは頷いただけだった。
(こいつらは知り合いなのか。そして俺が知らないモハメッドのことを知っている。いったい何が起こっているんだ。)
「アリ、そこらへんから椅子をもってこい。そして俺がやっていることを見て覚えるんだ。」
アリはいうとおりにした。初めはユーネスが何をしているのかわからなかったがそれがいろいろな形の時限爆弾であることに気がついた。アリは周りを見渡した。他の行員たちは自分の仕事を一心にやっている。とてもユーネスが時限爆弾を作っているのを知らないのか、知っていながら知らん顔をしているのかどちらかだった。
「後十分で休憩時間に入る。そのときに昼飯にしよう。」ユーネスは静かに言った。モハメッドは頷くしかなかった。


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