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作品名:杜鵑草ー春まだ遠くー 作者:chihiro

第3回 思い切って
俺は夕食を済ませて少しインターネットをしてから寝落ちしてしまう。スカイプをオンラインにしていると複数の女性から起きてる?との伺いのメッセージが来ている。彼女からのメッセージだけ「ごめん、寝ていたよ。明日はきっと起きていて話をしようね。」って書いた。彼女との会話は共通の漫画の話で別に大事な話というわけではない。しかし自分と同じ漫画を好きな人が少ないだけに話し相手が出来てわくわくした気分になる。いつか彼女にいわれたことがある。
「私、自信がないの。だから私以外の人とは話をしないで。逢うこともいやだな。お願いその私の願いを聞いて。」
俺は何も考えないで「いいよ」といった。
そういうことであの人以外でも誰かが「逢って」とか「話をしようよ」とか言うときに正当な断りが出来ると思ったからだ。
そんなことで話をするのは彼女だけになった。それは表向きで誰かがグループで漫画の話をしようよと誘いがかかるとすぐにそのグループに入って話の花を咲かせたものだ。
恋愛の話をしているわけではない。そのグループに自分の気になる女性はいない。それに自分に好きだというものはそんなにいないと自負していたからだ。
あの人の誕生日になった。スカイプで生年月日が期されて誕生日おめでとうとメッセージを贈りましょうと書いてある。あの人から何か言ってくると思っていたのでそれまで何もアクションはしなかった。あの人は予想通りにメッセージを送ってきた。「誕生日おめでとう。」「ありがとう。」それで話は終わりだった。去年はそれから話が続いたがあの人はそれでメッセージを送るのをやめた。
何故だ?俺は自分に問いかけた。きっと女の勘で何かを感じ取っているのかもしれないとも思ったが遠く離れているところでわかるものかと高をくくっていた。
まったく女の考えていることはわからない。自分だけを見てといってみたり、完全に知らん顔されたり、俺はもしかしたらあの人の手の平で躍っているだけではないのかと時々思う。からかわれているのか?もしそうだとしたら一刻も早くそういった遊びをやめてもらいたいものだ。
そうはいっても今年のバレンタインには何を送ってくれるのだろうとも期待はしていた。
彼女とは会って食事をするだけだ。彼女のように何かを作ったりしない。冷静に考えて誰が俺のことを考えてくれているのかは明白だ。しかし俺としては歳の近い、そして近所に住んでいる彼女のほうが何かと都合がいい。お互いに恋というのには縁がなかっただけに俺のリードでなんとかなるのだ。しかし彼女はどうだ。あの日はじめてあった日には彼女は俺を誘ってきた。中にはそういう女性もいたけれどあれほどまでに強引ではなかった。
そんな思いを馳せながら一月の終わりが近づいた。
「よし、今度彼女から連絡が来たら、いや、俺のほうから彼女に言うべきだ。俺には二股をかけるなんてことはできない。そもそも国外にいるのだから二股にならない。俺は彼女に恋愛感情として好きといったことは一度もないのだ。」

「ねえ、今話があるんだけれど時間ある?」俺は彼女がオンラインになっていることを確認して言った。
「うん、大丈夫だよ。何?」
「俺さ、黙っていたけれどいま付き合っている人がいるんだ。それで彼女に他の女の人とあったり、話をしたりしないでくれって言われているんだ。」
「でも今は話をしているわよね?かなり矛盾していない?」
「こういうことは他の人から君の耳に入るよりも自分から言ったほうがいいと思ったから。」
「私たちの共通の友達なんていないはずよ。黙っていればわからないのに。」
「そうなんだけれど。」俺は彼女の強さにたじたじになった。「ごめんね。だからもう君が日本に来ても逢わないし、今までいろいろなプレゼントをもらったけれどそれもいらない。」
「それは今年のバレンタインデーも含まれるの?」
「ああ。」俺は短く答えた。
「ごめんね。午後に日本に送ってしまったばっかりなんだ。」
「そうか。それだったら仕方がない。でもそれで終わりにしてほしいんだ。本当にごめんなさい。」
「ごめんなさいですむと思っているの?私の気持ちは数年前からわかっているはずだよね?それでその気持ちを無視して日本で彼女を作るなんて。」
「君の気持ちは知っているけれど俺は君に恋愛感情を持ったなんて言った覚えはないよ。」
今度は彼女が黙る番だった。きっとショックを受けているのだろう。後味の悪い沈黙だった。
「話ってそれだけ?」
「そう。」
「わかったわ。あなたが誰を好きになって誰と仲良くなることはあなたの勝手だもの。別にそれに対して何も言わないわ。でもね、私が好きになったのはあなたなの。私の勝手であなたを好きになった。だから私の好きにさせてもらうわ。教えてくれてありがとう。私はこれから出かけなければいけないからこれで会話は斬るわね。」
たぶん彼女は泣いていた。そしてこれから出かけるというのも嘘だった。日本では深夜、つまりフランスでは夜の時間に彼女が出歩くことなどほとんどないからだ。
俺はこの先にも彼女とは一癖もふた癖もあることをそのときに感じ取っていた。


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