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作品名:老人と私 作者:chihiro

第6回 孤独を気取るうちに孤独になったよ
結に友達は少なくいても常に絡んでいるとは限らない。むしろ逆でめったに交流を取らない。そんな結にある夜、早苗から電話があった。
早苗は以前結が自宅近くの美容院で知り合った結よりも五歳年下の女性だ。年齢を考えることは結にはまったく規定がなく話があえば年上でも年下でも同等の付き合いをしてきた。
しかし早苗は知り合いとはいっても友達と呼べる間柄ではなかった。たまに時間を共有してきた仲間のはずだったのだ。
そんな早苗が結に連絡を取ったのがその二人が出会うきっかけとなった場所から完全に撤退したという知らせだった。
早苗も一人暮らしできっと愚痴を言う相手が結しか見つからなかったのだろうと結は勝手に解釈した。愚痴の原因は複数の雇い主だった。共通の知り合いである美容院の代表がどんなに汚い手を使って私利私欲に走っているか、技術もないのに高い料金を払ってまで顧客をやるものではない、はたまた結の知らない早苗の違う生活を電話口で話していた。
結は黙って聞いた。厳密に言うと愚痴を聞かされる役目を買って出たのだ。人は自分の心に感情をしまっておくことは出来ずにうれしいこと、感動したこと、そして特にネガティブな怒りや哀しみを吐き出そうと誰かに言わなければならない。その人にとっては相手が誰でもいいのだ。黙って聞いてくれて時々同調してくれる人であれば。
結はその早苗の愚痴を聞きながらそういえばホームにも愚痴ばかり言う人が担当フロアでも違うフロアでもいたなと思い出していた。
いわゆる自己中心の人は時々「あなたはどう?」「私はこういうことをしたいのだけれど協力してくれる?」などといった断りの言葉が足りない。人間というのはわがままな動物でそういう小さなワンクッションの言葉が妙に引っかかったりするのだ。その言葉が足りないと「この人は私のことを何も考えていない。」ということになり、疎遠になる。孤独を気取っているうちに寂しくなるのだ。冷静になって考えてみれば自己中心の人と疎遠になり新しい人脈を探せばいいだけの話なのだが人はあまり変化を好まない。挨拶から始まってどんな話をして相手と意気投合して連絡を取り合える仲になるまで時間もかかるがエネルギーも必要だ。「面倒くさい。」その感情が頭を体を支配し一人でいることに慣れてしまう。仕事上での付き合いならばそれが自分の生活にかかっているのであれば面倒でも動かなければならないが個人的な付き合いだと人は楽することを選ぶ。
「電話で話をするのもなんだからあってお茶しながら話そうよ。」早苗はそう結に提案した。
「OK,いつがいい?私の休みは週末と水曜日なんだ。」
「じゃあ、今度の土曜日。」
「場所は?」
「杉田でいい?」
結は承諾した。杉田には行きたくなかった。その理由を早苗は知っているはずだ。でも待ち合わせ場所を折り合わなければ早苗から解放されない。

待ち合わせとなった日時にその場に行くと雰囲気が変わった早苗が現れた。といっても最後にあったのはまだ冬の時期で服装が重装から軽装に変わっただけの話だ。
二人は近くのカフェに入った。
早苗は早速待っていましたとばかりに愚痴を囃し立てた。結もだいたいは聞き役だったが知っている名前が出てくるので時折口を挟んだ。本心ではもう合わない人の悪口を言ったとしても何も変わらないじゃないか。と思っていたがそのところは言わずにおいた。
早苗は一通り愚痴を言い終わると今度は自分の怪我のことを言い始めた。そしてどんな職業も日本人の考え方を根本的に変えない限りこの国では永久に住みやすい国にはならないことを二人で確認しあった。
「自分の意見を言うのは大いに結構だけれど、自分とは違う意見もあるってことをどうして気がつかないんでしょうかね?」
「だから私はいっつもメッセージを送るの。日本の考え方は数学的な考え方だって。方程式はひとつ答えもひとつ。それ以外の方程式や答えは許されない。いつまで経っても社会主義が治らない国だよ。」
「答えなんて人それぞれで、顔も違うし考え方も違う。数学じゃなくて国語的な答えが合ってもいいんだけれど。頭の固い人ばかりで嫌になるわ。」
「だから頭が固くない人は自分が間違っていると思い込まされて孤独になる。日本人って全年齢が子供みたい。高齢者が多くて社会や未来に希望が持てなくてはかない現実から身を投げたいと思っている。だからどんな年齢の人も下を向いて歩いている。頭を上げて背中を伸ばして堂々としている人ってどのくらいいるのでしょうかね?何のために生まれてきたんだろう?死んだ後に何があるなんてわからないけれど、そこで道は閉ざされるだけラクだと思う。だってその後は考える必要なんてないんだもの。生きていれば何か素敵なことがあるかもしれない。でもないってこともありえるでしょう?統計によると一番の死因はがんらしいけれどなりたくなくてなった人ばかりじゃないはず。」
「何故そう思うの?」
「だって二位だか三位が自殺だから。統計だって正確な数字じゃない。ましてやアンケート方式で統計をだしたって自分が求めている答えがなかったら答えがある中から一番近いものを選ぶしかなくなると思うの。この時点ですでに正確じゃない。おまけに日本人は大うそつきだから、自分のおなかの中に渦巻いている本音を読まれたくないから違った答えを出しているかもしれない。」
「結さんはこれから何をしたいの?」
「何も。ただ死を待っているだけ。ただ待っているだけではなくてその日まで何をやるか、何をやりたいか、それこそが人生なんだと思う。こんなえらそうなことを言っているけれど言うのとやるのでは大違いだし、自分でもはっきりいってわかっていないことがある。頭の中で想像することを実際やるのではまったく違うし。」
「それでも他の人たちとは違うと思う。ほとんどの人たちは自分たちが不老不死でもあるかのようにいいことばかりしか頭にない。確かに自分にモチベーションを持たせるためならいいことばかりもありだと思うけれど、でも実際は最悪パターンもあるのだからそういうところも逃げないで考えないといけない。私も美容関係に進みたいとか事務は嫌だとか目先のことしか考えなかった。」
「何をどうどこで思うかはその人それぞれだと思うな。時期が来たら考えればいいことだから。だけど○○歳なんだからこういう考え方が出来て当たり前だって言うのは間違っている。」
「うん、それはいえるね。大まかなラインは何歳になったらこれは出来るでしょうって思うけれど出来ない人もいることを考えないと。」
「この国がミリタリーなのはそのほうが楽だからでしょう。例外のことを考えると頭が混乱するから、ひとつまとめてが一番いいって結論なのでしょう。」
「リーダーシップをとる人もそれについていく人も不本意でも楽だからという理由だけで成り立っている。確かに変化はエネルギーを使うから。日本が戦後急成長を告げたのは何でだかわかる?」
「わからない。」
「私が思うのには初め、開国したばかりのころは外国のまねっこだった。それからこうやったら楽できるんじゃないかって研究したから。いつも日本人はラクの追及なんだ。それはそれで素晴らしいと思う。それを利用してきたし無駄な力を使わないで物事が進むのであればそれでいいと思う。でもラクになりすぎて考える姿勢をどこかに忘れてきてしまったのだと思う。」
「確かにそれはいえるね。」
「そして変わっていないのもあると思う。」
「それは何?」
「臭いもの、つまり面倒なものにはふたをする。見なかったことにする。」
「うん、あるわ。」
結は結局早苗と六時間も一緒の時間を共有した。今までの鬱憤を晴らしたかのように心は軽くなったがそれは一過性のものであることも十分に承知していた。
結の心の中に漂っている黒い雲はなかなか途切れることはなかったのだった。


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