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作品名:いつかきっと 作者:chihiro

第9回 ブラックスワン
家に向かう途中高宏は占い師はどんな役割を果たしているのだろうと考えた。(何故関内まで引き寄せられたのか。)久美が占い師のことを話していたのを思い出した。(俺が出会った占い師と久美があった占い師は同一人物?)
家に到着する少し前に携帯電話の着信サインがついた。高宏は車を止めて携帯電話を見なくても誰からかわかった。久美からだ。自宅について車庫に車を入れて自分の部屋に入ると久美のメッセージを読んだ。
「連絡がないから少し心配です。それとももう寝ちゃったのかな?」
「たぶん同じ占い師とあってきた。」
「何故?何かあったの?」久美はまるで待ち構えていたかのように返信してきた。
「高速乗らなかったんだ。未来への道にすでに進んでいると。」
「具体的には?」
「何も。質問しようとしたら消えていた。」
「その占い師っていったい何者なのかしら?私は電車に乗っていて同じ車両の女子高生の話を聞いていってみたの。どこにいるのかわからなかったけれどまるであちらから私のほうに近づいてきた。」
「俺のときもそうだったな。前世までその占い師とあったりすれ違ったりした記憶は?」
「ないわ。そういう状況じゃなかったし。」
「そうか。気にしても仕方がない。君もいろいろなことに気にしないように。自分で自分の首を絞めているようなそんな印象を受けたから。」
「わかった。過去のことも未来のことも考えずに今のことを考えるようにするわ。」
「じゃあ、明日も早いから俺は寝るとするよ。」
「おやすみなさい。」
二人はコミュニケーションを切ったが眠れずに窓から星を見ていた。

翌朝から高宏は新しい現場だった。高宏の仕事は建築で個人宅の新築からリフォームまで何でもやる。親の代から取引の顧客が主で新規で仕事を頼んでくるものはあまりいない。
しかし今回はまったくの新規で家族の一員が障害者となったのでそれようにリフォームをしてほしいという一週間ほどの注文だった。
その家に向かうと障碍者となった本人しかいなかった。ヘルパーは買い物にいって今はいないという。高宏はショックを隠しきれなかった。遠めで見るその女性は久美にそっくりだったのだ。
「何か私についてます?」仕事を始めてからもちょくちょくその女性を見ている高宏にその女性は尋ねた。
「ごめんなさい。知っている人にとてもよく似ているんです。そんなこともあるんだなって。」
「恋人?」
「いや、たぶん恋人よりも大事な人。」
「うらやましいわ。私は結婚を約束した人がいたのだけれどこんなふうになってしまって逃げられちゃった。」
「あなたに悪いところがないのに状況が変わっただけで逃げる男はたいした男じゃなかったんですよ。かえって結婚する前にわかってよかったじゃないですか。」
「そうね。でもヘルパーさんしか人との接触がない。もう恋も出来ないと思うと女として終わってますよね。」
「散歩はしないんですか?病院に行くとか?」
「しているわ。ヘルパーさんとも一人でも。でもだいたい同じ人しか話をしないし、あなたみたいな男性とお話しするなんて何ヶ月ぶりかしら。」
「話ぐらいだったらいつでも付き合いますよ。仕事上でも話をしないといけない場面が出てくると思うし。」
「まあ、うれしいわ。あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は細川悦子。あなたの下の名前は?」
「高宏っていいます。」
「高宏さんね。改めてよろしくお願いします。」
悦子との会話は楽しかった。体が動かせない分だけ悦子は顔の表情がとても豊かでころころと変わる。そんな顔を発見するのが楽しくて仕事を正確に早く済ませて会話を多く設けたかった。
「入浴とか着替えはヘルパーさんの仕事?」
「そうね。自分では上半身しか着替えられないもの。今まで当たり前のことが出来ないってとっても歯がゆいわ。」
「一人ですまないで家族と一緒って可能性としてはあるの?」
「うーん、ないわね。この家を売って障碍者用の住宅に引っ越したほうがいいのかなって考えたこともあるんだけれど。知らないところに行くよりも知っている、なじみのあるところで静かに生きたいの。」
「自分の足で立つことは?」
「もう、ないわ。私は一生このまま。でもね、だいぶショックから立ち直ったの。」
「なぜこんなふうになったの?」
「トラックに轢かれたの。下半身を義足にすればいいのでしょうけれど検査の結果義足をつけることが出来ないの。これが私の運命だって受け入れるわ。ごめんなさいね。少しおしゃべりしすぎたみたい。少し向こうの部屋で休むわ。」
「寝かせてあげましょうか?」
「そうね。ヘルパーさんの帰りが遅いみたいだから。」
高宏は持っていた工具を置いて悦子の車椅子を押して奥の部屋にいった。ベッドからかけ布団をどけて悦子を抱き上げた。空気みたいに軽い。それが高宏の印象だった。
「ありがとう。仕事に戻ってください。」
高宏は頷くと仕事を再開した。
しばらくするとヘルパーが帰宅して食料を片付けると奥の部屋に行き悦子の様子を見ていた。そしてキッチンに戻るとお湯をかけた。
「悦子さんを寝かせてくれてありがとうございます。お茶でもどうですか?」
「ありがとうございます。」
「今日は扉を取り付けたら終わります。先ほど実物を見せていただきましたがとても広いですね。そんなところに細川さん一人で住んでいるんですか?」
「彼女の祖父は大企業の会長なんです。今は他人にその席を譲ってますけれど。彼女自身も財産を持っていてだからこんなところでも維持できるんです。」
「一人よりも誰かがいてくれたほうがいいのでは?」
「自分と同じ障碍者をここに呼んでいわゆるホームを作ればいいと提案したことがあるんです。そうすればおしゃべりも出来るし。でも考えたことないといわれました。今回あなたに来てもらったのは一人にしろ誰かを呼ぶにしろリフォームして損はしないと思い私の一存で決めさせてもらいました。悦子さんは最初は嫌がってましたけれどまんざらでもなくてよかったです。」
「少しでも楽しい想いが出来るといいですね。それじゃ、俺は・・」
高宏は悦子の部屋を外から眺めた。そして大きくため息をついた。

久美は仕事先の玄関を出るとすぐに携帯電話を取り出してメールのチェックをした。ニュースアプリで話題のニュースが複数と読者登録したサイトからのお知らせがあったが高宏からのメッセージはなかった。
(仕事、忙しいのかな・・)
新杉田駅までの道のり久美は隣に誰かがいるような気がして横を振り向いた。誰もいない。退社時間のはずなのにその周辺は人がいなかった。まるで別空間に放り込まれたみたいに。
体全体の神経が自分の右側に集中している。小柄で自分よりも背が小さく頭は鼻のあたりまでしかない。めがねをかけていて眉間にしわを寄せている。ため息をついているわけではないのにその人の苦悩がビシビシと伝わってくる。
「どうしたの?何があったの?何故そんなに哀しいの?」久美は思わずそうつぶやきそうになって自分の頭の中での空想なのかもしれないから発音はだめだと自分に言い聞かす。
駅の構内に入りエレベーターでホームに行き電車を待つ。携帯アプリからフランスの朝のラジオ番組の録音を聞く。楽しいことだけを考えて不安を消して明日に備える。久美はそうやって今まで生きてきた。そしてたぶんこれからも。そうでもしないと前世のことまで覚えている久美にとって生きていくことじたいが難しいのだ。その亡霊は明るいところでは姿を現さなかった。自宅の最寄の駅について家までのほんの三分の間にまたその亡霊は現れた。肩を震わせている。久美はまるで「自分みたいだ。」と感じた。そして今までそういうものが現れたかどうかを思い出そうと試みた。うまくいかない。思い出されるのはとても強いものでいつまでも彼を待っているというものだけだ。その亡霊は今までもきっと存在していてキーポイントになるものだと直感的にわかっているのだがどんな展開になったのかまるっきりわからないのだ。久美は仕方がなく就寝することにした。
高宏からの連絡がなかったのは今回が初めてだが自分のことに夢中で話をしなかったことなど思いつかなかった。


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