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作品名:いつかきっと 作者:chihiro

第6回 軌跡
どこまでも続く広い高原。遠くに見かけたことがある山脈が連なる。高原にたったひとつぽつんと立っている掘っ立て小屋が自分の家。いや、正直には自分の家ではなく彼の家だ。どうやって生計を立てているのかわからない。でもそんなことは重要なことではない。私はいつだって彼のそばにいた。頭をくしゃくしゃとされるのが大好きだった。言葉で会話は出来なかったけれど一緒にいるだけで幸せだった。人間の彼と犬の私では人生のサイクルが違う。だから彼を残して先立ってしまうことをどこかで悔やんでいたはずだった。しかし結果はその逆だった。ある日近くの湖に行ったとき誰かが仕掛けた罠に引っかかってしまったのだ。私は動揺した。彼を助けられない自分に腹が立った。どうして罠にかかったのが彼ではなく自分ではなかったのか。
「俺はもうここでおしまいだ。それが運命ならば受け入れよう。だからお前はここから立ち去るんだ。」
私は寂しい声でないた。顔を近づけ頬をなめる。「立ち去るなんて出来ない。何故あなたを残してどこかにいけられるのだろう。そんな哀しいこと言わないで。」
「この世にあるすべての動物、植物はその形を無くしても聖霊となって次の形になる。それは永遠に受け告げられるんだ。だからお前とは必ず会える。俺はそう信じているよ。」
「待っている。ずっとずっと待ってる。あなただけしかいないから。」そういう意味をこめて私は彼の頬に鼻をつけた。
「大丈夫。俺たちはいつだって深い絆で結ばれているから。姿を変えても必ず会えるよ。」そういうと彼は静かに息を引き取った。
「大丈夫。彼の言ったことを信じよう。私たちは永遠に一緒だ。」私はいつまでも彼のそばを離れなかった。

ヨーロッパのどこかの町、太陽の光はなく人々は暗い顔をしている。街のところどころには瓦礫があり兵隊たちが町を闊歩している。みな、窓を閉め、雨戸を閉め、満足に食事も睡眠も取ってない。街に残っているのは女性と老人と十五歳ぐらいまでの子供だけだ。十六歳になると国に兵士として取られてしまうのだ。彼は今日その十六歳の誕生日を迎えた。そして明日になれば兵士として国のために働かなければならない。
「今夜の夕食は町の人たちがくれた鶏肉をつかったスープよ。力をつけて・・何故私は女として生まれたのかしら。どうして女性は家に残らないといけないの?歴史上にはたくさんの女性がリーダーとして戦っているのに。何故戦うの?領域奪いなんて一番くだらないことだわ。」
「仕方がないよ。戦争は今に始まったわけではなくそして今回が最後でもないと思う。人は俺が一番という考えを捨てない限り戦争がこの世からなくなることはない。一般市民は力がないから国の命令に従うだけだ。」
「女子供だけで何が出来るというの?女性は、女性の気持ちはどうなるの?夫や息子を国に取られてとってもやりきれない思いをすると思う。」
「姉ちゃんは母親じゃないだろう?」
「同じことよ。姉弟の二人っきりでどうして取られないと・・」
「俺だって行きたくない。でもそういう時代なんだ。」
「ずっと待ってる。」
「そんなの無理だよ。」
「無理じゃない。私はあなたの母親でも恋人でもないけれどでも家族よ。待っているのが当然でしょう?それに待っている家族がいるって思ってくれるだけで希望が生まれると思うの。帰るために生きようって思うでしょ?」
「俺はいつも口うるさい姉のいるところが一番だって思ってるよ。」
「何その口うるさい姉って言うのは!」
「ごめん、冗談だよ。冗談言えるのも信用しているからだろ?愛だよ。愛。」
「自分の勝手な解釈だけでものを言わない!」
「まじめな顔をしてなんて愛はささやけないよ。恥ずかしい。」
「わかってる。明日から私は誰とこういった話をすればいいの?哀しくてやりきれなくて。」
「わかってる。姉ちゃんには感謝しているよ。」
「絶対に絶対に生きて帰って来るんだよ。年齢から行ったら私のほうが先なんだから。」
「わかってる。ちゃんと戻るから待っててよ。」
翌日二人は無言だった。言うべきことは言った。いまさら言葉は必要はなかった。
そしてそれから数時間後に敵軍が自軍の基地に空襲されたとニュースが入ってきた。
「戻ってくるから待っててよっていったくせに。うそつき!私は一人残されて夢も希望も消えてどうやって生きていけばいいの?」

(ずっとこんなものばっかりだ。私は夢や希望を持ってはいけないの?だったら何故生まれ変わってあの人をずっと追っているんだろう?何故ずっとあの人を待っているんだろう?待っているって夢や希望じゃないの?それがたとえ・・ううん、捨ててしまったら何も残らない。私のこの世で与えられた使命はあの人と結ばれること。だからこんなにも接点がある。何度もチャンスを与えられるのは絶対にあきらめずに夢を持ち続けろってことだよね?希望は自分でつかむんだってことだよね?状況が変わったって自分が変わらなければなんとでもなるんだ。悲観的にならないで前進しなくっちゃ。第一今の状況は悲観的になる必要なんてまるっきりない。たとえ今までと同じ展開になったとしてもそれがなんだっていうの?そう、私には無限大の時間がある。そして自分が任務を果たして・・その後はどうなってしまうのだろう?過去の経験は今でも記憶があるけれど未来のことはまるっきりわからない。私が捕らえた映像はいつだってあの人を待っている姿の私ばかり。)

「今何してる?」
携帯電話の着信知らせが緑ランプになり内容を見てみると高宏からのショートメールだった。
「あなたのことを考えてた。あなたは?」久美は過去のことを話すつもりはなかった。(前向き、前向き。私は今幸せのときにいる。)
「俺も君を思っていた。」恥ずかしさと恋してるの絵文字を記入してメールを返してきた。
「ずいぶんとショートメールの打ち方覚えたね。」
「君のおかげだよ。でも携帯電話をいじれるのって休憩中や帰宅したときしか出来ないから。今頃やっと機能を使いこなし始めたって馬鹿にしているだろう?」
「そんなこと思ってないよ。今までそういうチャンスがなかっただけ。人それぞれ経験することなんて同じじゃないし、それがいくつになろうが重要なことではないわ。」
「いつも思うんだけれど君は常に前向きなんだね。発言がいつもポジティフだ。」
「夢や希望に年齢なんて関係ないしあきらめるのをやめなければいつだってそれは有効だから。たとえ現実はその夢や希望から程遠い場所にいたとしても。」
「簡単に手に入るものに魅力は感じない。苦労して時間をかけたものって手に入れてから大事にすると思うんだ。君に関しての俺の場合はどんなだったのかわからないし、今回のことに関しては苦労もしないで手に入れたけれどでも少しでも君の夢や希望に報いるために努力しようと思う。」
「私、感謝を学ぶためにあなたと出会っているのかもしれないな。今ふと感じたの。あなたへ一言言うとしたらそれは「ありがとう。」って言葉だもの。」
「俺は君への一言ってなんだろうな。まだわからないや。」
「哀しい言葉だったら要らない。」
「哀しい言葉じゃないと誓っていえるよ。」
「今度の日曜日空いてる?」
「何故?」
「チョコレートを渡したい。」
「いいよ。」
「遠慮しないで、自分で作って渡したい。味は保証できないけれど俄然あなたのために創りたいって思った。」
「ありがとう。日曜日は今のところ空いてる。何時にしようか?一緒に昼食でも食べるか?」
「うん、一秒でも長くあなたと一緒にいたい。」


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