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作品名:いつかきっと 作者:chihiro

第5回 デート
その日の関東地方はシベリアからの冷たい寒気に加えて湿った空気がシナ海から流れ込み中部地方を中心に大雪を降らせた。
久美は昼休みに高宏にショートメールを送った。
「雪だね。寒さに気をつけてね。」
返事は帰ってこないことは十分に承知していた。真夜中の電話で自分の携帯電話を購入して何年もたつのにいまだに機能を使い慣れていないといっていたのを覚えていたからだ。
しばらくたって携帯電話に着信の音がした。高宏だった。
「ありがとう。寒くて早く帰りたいよ。君の仕事が終わったら連絡して。たぶん早く帰って家にいると思うから。」
「わかった。仕事が終わったら連絡するね。」
久美は高宏がなれない手つきでショートメールを打ったところを想像して暖かい気持ちになった。
(大丈夫。うまくいってる。そしてこれからもうまくいく。)

久美は寒さに震えながら高宏を待っていた。電話で仕事が終わったことを知らせてこれからいくよと返事をもらったのに30分たっても姿が表さない。(何かあったのだろうか?)不安になった。
「ごめん。渋滞にはまって早く来られなかった。動物クリニックの前に車を止めてる。そこから見えるかな?」
久美は左右を見回した。確かに動物クリニックがあってその前に深い青色の車が止まっている。
「確認できた。そこまでいくね」そういうと電話を切って車に近寄った。
「寒かっただろう?暖房の風向きを自分の前に調節して温まって。そしてどこで何を食べる?」
車の中は暖かく運命の人の笑顔に久美は暖かい居心地よさを感じた。久美がシートベルトをすると車は静かに動き出した。
「リクエストは?」
「それはこっちのせりふだよ。でも暖かいものがいいな。」
「ラーメン!」
「そんなものでいいの?」
久美はうなずいた。
「君は気取らないんだね。(そして性格がまっすぐだ。)この時間だったらまだ中華街は空いてるかな。どこの店がうまいとか知らないけれど選択はたくさんあると思うから。」
「はい。」
「震えているの?そんなに寒かった?」
「大丈夫。サンマーメンが食べたいな。もし見つからなかったら他のラーメンでもいいけれど。」
「こだわりがあるんだね。」
「野菜あんかけラーメンなんて自分でも作ろうと思えば作れるのかもしれないけれどなぜか好きなの。きっとあんかけってところが気に入っているんだと思うな。」
「思い出があるの?」
「うーん、これといってないわ。初めて食べたときにおなかがすいていてとてもその味がおいしかったからなのかもしれない。何かに夢中になるときってちょっとしたきっかけよね。」

「何か初めてのことなのに初めてじゃなくて懐かしい感覚が先ほどからしているの。あなたは感じている?」
サンマーメンの最後の汁を飲み干すと久美は高宏に尋ねた。
「なんて言葉だっけ。デジャヴ?俺も感じてるよ。」
「今まで何度となく前世もその前もこんなようにホッとできる瞬間を体験しているのかもね。」
「そうだね。そのことについて少し話を聞かせて。俺は君のメッセージを受け止めたけれどそれだけで他のことはいっさい現れないんだ。どうやら君が前世からの記憶を覚えているみたいだから。」
「私もはっきりと覚えているわけじゃないの。断片的でしかも楽しい雰囲気のシーンじゃない。きっとどこかで言いようのない不安を抱えているのではないかと思うの。」
「どんな不安?」
「あなたがどこかに言ってしまうこと。私は忘れ去られた存在になること。こんなことはたとえあったとしてもあなたにいうべきことじゃないってわかるんだけれどでも言わずにはいられない。人の心は常に動いている。だからそのときに楽しければいいはずなのに、私は前に進めないの。進めないのは進んではいけないからなのか自分で進もうとしないのか、もし自分で進むことが出来るのであれば長い間こんなことを思ってはいない。きっと進みたくないのかもしれない。それだけ私にとっては重要だと思っていることなの。」
「先のことはわからない。過去のこともわからない。今だけを見つめるってことは出来ないの?確かに君のその思いで俺たちは出会った。過去がどんなであれ未来がどう変化しようとも今を楽しもうよ。違うかい?」
「そうね。あなたの言うとおりだわ。」
「不安になるのは誰だってひとつは必ずあると思う。でもそればっかりじゃ先に進まない。俺は君のことを他の連中よりも理解しているつもりだ。過去からのつながりがあるからね。だったら一人で悩んでいないでどんどん打ち明けてほしい。一人で不安になる必要はないんだ。解決できることは二人で解決しよう。」
「ありがとう。そんな言葉を期待していなかったからありがとうぐらいしかいえなくてごめんなさい。」
「誤る必要なんてないさ。俺は君にとってどんな役割を果たすのかわからないけれど精一杯努力させてもらうよ。明日は晴れるのかな?」
「少なくても関東地方は一週間ずっと雪ってことにはならないわ。」
「だとしたら明日は仕事だ。君を送っていくよ。」
「ありがとう。」久美はそれだけしかいえなかった。言葉が見つからない。

久美の家まであっという間だった。(渋滞でもなって一緒にいる時間を少しでも長くしたかった。)
「じゃあまた。」
「うん、じゃあまた。」
二人はそういうと見つめあった。時間にしてみたら一瞬のことだったが二人には時がとまったかのように思えた。
(会うたびにどんどん好きになる。そうするとどんどん不安になる。いつかメッセージのような状態になるのではないかとびくびくしている。この世に男性はたくさんいるけれど私にとっての男性は過去からずっと彼だけ。思いを遂げるまで何度でも生き返り、探して振り向かせる。それが私の願い。それが私のこの世での任務。誰にも止められない。自分でさえも止められない。)
久美はそのときになんとなく過去にしてきたことに気がつき始めた。


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