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作品名:いつかきっと 作者:chihiro

第11回 告白
初日には悦子をベッドに運んだ高宏だったがそれ以来は肌に触ることなく仕事に専念した。
そしてすべての注文を仕上げると確認のために悦子に見て貰った。
「どうでしょうか?」
「とても移動しやすくなったわ。他にも家の中で治してもらいたいところはあるけれどそれはあなたの担当じゃないし。」
「工事関係のことでしたら紹介することは出来ますよ。でも台所シンクの高さを調節するとか電気スイッチの高さを調整するということは俺には出来ません。」
「ええ、わかっています。私には時間がありますからおいおいとリフォームしていきますよ。ただこれであなたが来なくなるのが少し寂しくて。」
「俺は・・」
「ごめんなさい。こんな障碍者の女なんて相手に出来ないですよね。ヘルパーの高橋さんとはうまくいっているんです。女同士いろいろな話が出来るし。でも彼女はずっと一緒にいるわけじゃない。きっと誰もいないときに何かあったらどうしようという不安が大きすぎると思うんです。ちゃんと誰かに連絡できるようになっているのに。でもその人は私の知らない人で・・」
「俺の電話番号まだ持っていますよね。寂しくなったら連絡ください。毎回お相手できるかわかりませんけれど出来るだけ相手を勤めさせていただきます。」
「ありがとう。優しいんですね。私のところにいて恋人に怒られたりしませんか?」
高宏は一瞬久美のことを思ったが目の前の久美に似ている悦子をじっと見つめた。
「好きな人っていないんですよ。俺もこの歳になって一人って結婚を考えているわけではないけれど人生寂しいなって思うときがあります。」
「そんなことをいって私を誘惑しないでください。」
「誘惑はしていません。付き合ったりお茶したりデートしたりそういうことは今まではあったけれど自分から心の底から好きになったことっていないんです。きっと俺には何かがブロックして夢中になれないんです。すいません。こういう話ってあまりしたことないから自分の中でまとめられなくて。」
「あなたのプライベートのことまるっきりわかりませんけれど、そのまじめさが女性を魅了しているのではないかなって思います。きっとあなたの知らないところであなたを思っている女性がいるのではないかしら?私はこんな体をしているから多くのことを望みません。ただそばにいて幸せな時間を過ごしたい。極端な話私の知らないところで誰かと会ったり話をしたりしてもいいんです。あなたを独占したいって思ってはいけないと思うから。」
「二股も三股もかけられるほど俺は器用な人間じゃありません。」
「もうこの話はこれくらいにしましょう。あなた、困っているみたいだから。」悦子は小さく笑った。
「じゃ、俺はこれで。携帯電話でかけるときは自分の番号を表示させてくださいね。留守番電話に登録していないのでメッセージを残してもらうこと出来ないんです。気がついたら電話をかけなおしますから。」
「ありがとう。生きる理由ってその時々で変わるんですね。あなたは私に明日をくれました。」
「感謝されることはしてませんよ。それじゃ。」

久美は自宅で白鳥の湖を見ていた。クラシックバレエの経験がある久美にとって白鳥の湖は何度見ても飽きないバレエだ。特に第四幕の王子がオディールに心を奪われて悲しみに打ちのまされているシーンが好きだ。それは前世に待ちぼうけを食らっている自分と姿を合わせてみてしまうからだった。
(何故人の心は不変じゃないんだろう。何故私は不変のままなんだろう。どうしてもっと彼にたいして自信が持てないんだろう。どうして彼の心が変わるって思ってしまうんだろう。未来はまったく見えないはずなのに・・)
久美はビデオを見終わると時計を見た。時間はもうすぐ夜の十一時になろうとしている。
(今日も彼からの連絡はこなかった。)
約束したわけではない。しかし眠る前に少し話をすることを楽しみとしていた久美にとって連日の連絡なしは不安をあおるばかりだった。

(誰かに相談したい。しかし誰に相談すればいいんだ?こんなことはもちろん久美にはいえない。どうなるのか予想はつく。今まで恋愛なんて無用なものだった。だから悩まずにすんできた。いや、恋愛なんてものじゃない。ただ引き寄せられるだけだ。同じ顔だからよけいに厄介だ。)
体は疲れているのに頭の中で堂々巡りが限りなく続いていてとても眠れそうにない。
仕事であっている間はこれは仕事なんだと割り切れた。「寂しくなったら連絡をください。」それは彼女に言った言葉ではなく自分が望んだことなのかもしれないな。高宏は大きくため息をついて寝転んで携帯電話を取り出した。
電話帳の中で久美の名前が存在感を告げている。「私はここよ。連絡して」といっているみたいだった。それでも電話をかけなかったのは時間のこともあったがそれは表向き、常識上の問題で本当の問題はもっと別のところにある。そんなときに着信メールの音がした。
久美からだった。
「おはよう。たぶん疲れて早寝をしたと思うから書いているのは夜だけれどあなたが目を覚ましたときのためにおはようっていっておくね。縛り付けるのは嫌だから何かをしてなんてお願いしないよ。でも私の気持ちを書くならばとっても寂しい。まだあなたを信用していない証拠なのかな?こんなこと書いてごめんね。」
高宏は久美の気持ちがとてもよくわかった。しかしここで連絡を取ってしまったらよけい眠れなくなりそうだと、ここで誰かと話をしてしまったら自分の今のやりきれない気持ちを行ってしまいそうになりそうだと思い、携帯電話を置くと無理して目をつぶった。
窓の外から雨音が聞こえてきた。(明日雨で仕事が休みだったら久美に連絡をいれて食事にでも誘おう。)まるでこれ以上ない名案だと高宏は思いながら眠りに引き込まれていった。

「連絡しないでごめんね。今日は仕事が休みだから君の仕事が終わるころに迎えに行くよ。そして一緒にご飯でも食べよう。」高宏は七時になるとショートメールを久美に送信した。
「うれしい。終わったら連絡するね。」
高宏は久美が飛び上がりそうなくらいに喜んでいるところを想像してみた。
昨夜の睡眠不足がたたって雨音が一定のリズムを刻んで少しだけ眠った。そんな高宏が目を覚ましたのは携帯電話がなったような気がしたからだった。
不在通話一件と画面に表示されている。履歴からその電話をかけてみた。
「電話をいただいたみたいですけれど。」
「ごめんなさい。悦子です。」
「あ、こんにちは。どうしました?工事の不具合ですか?」
「いや、そういうわけではなくて・・ヘルパーさんが娘さんが怪我をして入院したからと今日一日お休みをとったんです。それで・・」
「今日は俺は仕事がないんですよ。夜にはちょっと用事がありますがそれまで時間がありますから行きましょうか?」
「本当に?昨日の今日でごめんなさい。」
「大丈夫です。口下手なんでただ話を聞いているだけになりそうですがそれでもよかったら今から行きますよ。」


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