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作品名:いつかきっと 作者:chihiro

第10回 黒い影
「おはよう。昨夜は連絡しなくてごめん。疲れていて早めに寝てしまった。だからこんな時間にメールを送っている。このメールで君が起きないことを願っているよ。」
久美は目が覚めて携帯電話に着信メッセージサインがあることに気がつき、高宏からのショートメールを読んだ。そして一度も会話がなかったことを気がついた。
「おはよう。私も考え事をして気がつかなかった。」久美は亡霊のことを書こうかどうしようか迷ったが結局書かないことにして送信した。数秒後に高宏からの電話がかかってきた。
「相変わらず君は早起きだね。」
「そういうあなたこそ。」
「俺は七時に出ないといけないからね。といっても今週は近くだから八時に出ればいいんだけれど。」
「今度の仕事は何をしているの?」
「依頼主は障碍者なんだ。急にそうなったからそれようにリフォームしている。」
「今まで元気で健康だったのに急に障碍者になるって相当なストレスを抱えているのでしょうね。」
「そうだね。一人で出来たことも出来なくて誰かの助けを借りないといけないのはやはり嫌だな。どんな人?」
「物静かな人だな。他はわからないや。」高宏は悦子のことを詳しく久美に描写説明しなかった。「考え事ってどんなこと?」高宏はその話を久美としたくなかった。
「うーん、自分でもわからないんだ。ちょっと不思議なこと。」
「どんな不思議なこと?」
「亡霊をみたような気がしたの。でもすぐに消えた。」
「君はたぶん霊感が強いんだと思う。」
「亡霊を見たのって今回が初めてよ。」
「ふーん、気にすることないと思うよ。何度も見るようだったらそのときに考えればいいさ。」
「そうね。今度の日曜日、私の家に来られる?やっぱり顔を見て話がしたいから。」
「休みが日曜日しかないとゆっくりと休めないからな。調子がよかったらその前に連絡していくよ。それでいい?」
「うん。」
「そろそろご飯食べるから。」
「わかった。」
久美は自分の心の中に黒い影が漂ってくるのを感じていた。高宏との会話はいつもと変わらない。でも高宏の心は自分に向かれていないと感じてしまったのだ。
(私の気のせいだ。気にすることない。電話をくれた。それだけを考えることにしよう。)

高宏は何故久美との会話に退屈さを感じたのかわからなかった。いや、久美に対して退屈しているのではなく悦子に興味があるからだ。
(占い師はなんていった?自分の思いのままに行動しろといった。だから自分の気持ちに素直になる。恋愛の対象ではない。ただ興味があるだけだ。)

久美は自分の隣に亡霊が現れたとしてももう驚いたりしなかった。二十四時間前には「自分みたいだ。」と思ったが「自分」なのだとわかったからだ。亡霊のもやもやした気持ちの表現は昨夜よりも大きくなっている。女性に第六感が働くのは女性は男性よりも想像が豊かなのではなくて冷静に相手を観察しているからだ。それは何も視感だけではなくその人の声のトーンとか言葉で説明できないものを嗅ぎ分ける能力を持っているからだ。もやもやした気持ちなのは戦わなければならないものの正体がなんなのかわからないから。いや、正確にいうと正体がなんなのかわかっている。はっきりと確定するのが嫌で自分が納得する理由を探しているのだ。
駅まで来ると久美は改札に入らないでバス停まで歩いた。何番のバスが彼の家の近くに行くかは調べてある。時間があれば地図アプリで彼の家に何度も訪ねた。彼の視点から考えるととても嫌な女を演じていることはわかっているつもりだった。しかし自分の心に突如現れた黒い影を彼に抱きしめてもらって「大丈夫だよ。」といってもらいたい。一分で足りることなのだ。(そのために私は今ここにいる。)次の停留所で降りると思うと体が震えた。
「疲れているところごめんね。でも一分だけでいいの。家から出て私に顔を見せて。今あなたの家の前にいるから。」
「そうなの?今行くから待ってて。」
部屋着に着替えた高宏はサンダル姿で現れた。
「どうした?」
「なんでもない。」
「何でもなくてここまで来ないよね。亡霊のこと?」
「亡霊は解決した。でも不安は消えない。」
「何がしたい?」
「大丈夫だよっていって抱きしめて。安心したいの。」
「わかった。」そういうと高宏は久美を抱きしめて髪をなでた。


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