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作品名:killer site 作者:chihiro

第11回 人間の苦悩
桜子と千尋は黙ったままソファに座っていた。時計の音だけが規則正しく聞こえる。
「正直言って何から話せばいいのかわからないの。」そういって桜子は口を開いた。
「最初に思い浮かんだものからどうぞ。」千尋は真っ直ぐに桜子の目を見ながら言った。
「あなたがキラーサイトに登録したと私に知らせたときに以前自殺を考えたことがあるといったわね。」
「ええ、あまりにも多すぎるくらいに。私はどちらかというと引っ込み思案で思っていることを直接いえない、そんな少女時代をすごしました。でも勇気がないから自殺を試みたことはありません。自分ではない誰かが私を傷つけてその結果、死に至るならばそれはそれでいいと思っていました。」
「その考えは今でもあるの?」
「彼のおかげでだいぶ少なくなりましたがそれでも完全に消えたわけではないです。私が今生かされているのは彼の最後の言葉のみ。それがなかったらフランスで探偵にもならなかったし、国際警察の人たちと一緒に生きることを考えられなかったと思います。自殺を選ぶ人というのは絶望感の中に光が見出せない。たとえすぐそこに出口があるのに。でも人間なんてみんな似たり寄ったりなんじゃないですか?」
「そうね。特に日本人は自分の意見を隠す習慣があるわ。吐き出すことでストレスも解消されるのにその場を逃している。カラオケで自分の好きな歌を歌うことも山や海で大声で叫ぶことも結局その場限りしかない。もっと日常で発散させるものを作るべきだわ。今流行のネットビジネスだって今回のようなキラーサイトみたいな殺したいものと殺されたいたいものをあわせるのではなくネガティブなもの同士が集まってストレス発散させるような・・私の言いたいことわかる?」
「ええ、わかります。ネガティブを発散させるサイトはありますよ。だけどみんな言うだけで大して解決になっていません。マイナス思考もプラス思考と同じで伝染します。自分のストレスを発散させるつもりが溜め込んでしまっているんです。ユーザーはそれに気がついているけれどどうすることもできない。それはほかに吐き出す場所がないから。書き込みについてだったら白紙の上に自分の不満を書き記すしかないんです。その紙がたとえ真っ黒になったとしても。そこには自分の不満だけでほかの不満は存在しないような。作家や画家といわれるものが何のために真っ白な紙に向かって自分を表現するのか、それは自分に溜め込んだ不満やマイナス思考を開放してあげることなんだと思います。だ から作家にしてみれば物語がハッピーエンドで終わる物語はその作家の希望なのかもしれないけれど作家の本当の気持ちではないのかなと思っています。」
「あなた、精神科医になってみようと思ったことはないの?」
「茶化さないでください。経験でものを言っているだけです。自分がつらい苦しい時代を長く経験すると自分の記憶の棚の中から似たようなものを思い出すんです。精神科医は私に言わせればつらい経験が足りない。だから言葉にうそができる。」
「なるほどね。」
「人は自分のこの世での役割がわかっていない人が沢山います。わかっていさえすれば悩みも少なくなるのかと思います。」
「あなたは役割がなんだかわかるの?」
「まだわかりませんよ。この年齢になっても。死ぬ間際にわかれば安らかに死ねるかなって思います。」
「自殺で命を捨てきれない人はまだ役割を理解していないってことなんでしょうね。」
「たとえば原田さん、彼女は理解していたのかと思います。彼女の死顔を見ていませんがたぶん安らかだったと。それに彼女は私の身代わりになってくれました。私、今まで身代わりにしてしまった人が多いんです。私の幸運だとは思っていません。こうやって知らない人にも守られているんだなとだからそれだけでもその人たちのために生きていかないといけないなって思うんです。」
「あなた、強いわね。」
「いいえ、私は弱いですよ。今にも崩れそうになるくらい。でもみんながいるから私が存在できている。そのことを忘れないようにしています。」
「そういうのを強いっていうの。なぜみんながあなたを推薦するのかわかったような気がするわ。コーヒーを今いれるわね。飲み終わったらあなたの家まで送っていくわ。」
コーヒーを飲み終わって桜子と千尋は桜子の家を出た。車を発進させたときに桜子の携帯がなった。鈴木からだった。
「舞浜さん、事件です。長島洋子が自宅で殺されました。」
「長島洋子って?」
「平岡義之の内縁の妻です。」
「わかったわ。現場に内田さんと一緒に急行します。あなたも来て頂戴。」
「長島洋子って誰ですか?」
「平岡の内縁の妻。あなたが住んでいるマンションでこれで二件目ね。」

千尋のマンションは神奈川県警のパトカーが数台止まっていた。騒ぎで眠りを妨げられた建物の住民がマンション玄関口に数人固まって話をしている。千尋と桜子は玄関口で待っていた鈴木イチローと平岡の部屋がある階でエレベーターを降りた。
「ここは立ち入り禁止だ。」見張りを言い渡された警官が桜子たちに言った。
桜子は警視庁の手帳を見せて担当刑事を呼んでもらった。
「警視庁の方じきじきにお出ましですか。ここは神奈川県ですよ。」
「同僚がこの建物に住んでいるんですよ。それに今回事件があった内縁の夫は私たちが追っている事件の重要参考人。どのようにして殺されたのか教えてくださる?」
「殺されたのは長島洋子。内縁の夫はそのときには不在だったらしいです。死因は絞殺。指紋を隠すために手袋でやられたらしい。」
「平岡には知らせたの?」
「知らせましたよ。そろそろ来るころだ。」
まるで物事を図ったかのように平岡は現れた。焦燥しきった顔で現れたが演技しているような感じを千尋は受け取った。
「誰がこんなことを。」
「鍵はかかっていませんでした。犯人は顔見知りの可能性が強いです。心当たりは?」
「そんなことを私に聞くのかね?あるわけないだろう。彼女は二週間後にシシリーに行くことを楽しみにしていた。」
「その旅行はあなたとですか?」
「そうだが?夫婦で旅行が何か問題でもあるのかね?」
「いえ、奥さんの最近の行動に何か変わったことは?」
「別に変わったことはないと思う。」
桜子、イチロー、千尋はこれ以上何もできることはないと判断して三人で千尋の家に寄った。


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