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作品名:killer site 作者:chihiro

第10回 サイトの裏方
目黒中央病院は東京都目黒区にある大きな総合病院だった。広い敷地にゆったりとした設計になっており入院中の患者がくつろげる場所でもある。小春日和のその日は多くの患者たちがあちこちに設置されているベンチでくつろいだり、見舞い客と談笑をしていたりした。問題になった薬品室は五つの建物の中のメインである大きな建物の地下一階にあった。
「これは何に使おうとしていたのかね?」薬品課の刑事が聞いた。
「私にはわかりません。先生に言われてここにおいておけといわれたので。」受け答えしている薬剤師は新入りらしく緊張を許さない状況にしどろもどろだった。
薬品課の刑事・後藤は千尋が入ってきたことを完全に無視した。千尋は無視されることは慣れっこになっているのでしばらく会話に耳を傾けていた。
「君の上司はどこに行ったのだ?」
「ほかのものが探しに行ってます。私はこのままここで待っていないといけないのでしょうか?」
「もちろんだ。」後藤は苛立ちを隠せずに薬剤師に聞こえるように舌打ちをした。
そこへ音を立てて扉が開き、薬剤師の上司である・山寺正子が現れた。
「私がここの責任者である山寺です。何か問題でも?」山寺は落ち着いた口調でたずねた。
「ああ、大問題だ。これは何だね?」
「これは山トリカブトといって自主で生息している毒草です。」
「そんな毒草をどうして病院で扱っているのかね?」
「トリカブトは漢方薬に使われていることをご存じないんですね。うちの多くの患者さんは西洋薬品よりも東洋薬品を好まれましてね。漢方薬にも力を入れているんです。そこでトリカブトの伏子が必要になってくるということです。ご理解いただけましたでしょうか?」
千尋は山寺正子の勝ち誇った顔を見た。自分が天下をとる大物悪党の顔に似ている。後藤も長年刑事をやって山寺正子の話は本当だがすべての真実を語っていないとわかっていた。しかし正当論をひとつ言われてしまってはほかに言い返すことができない。
「これからトリカブトの毒を取り除く作業に入るのでお引取り願えませんかね?」
引き下がるしかなかった。一点の不透明さも見せずに警察を引き取らせるその腕は見事だった。千尋は桜子とイチローを待つ傍ら、携帯電話のネット検索で山寺正子のことを調べた。
「ごめんなさい。遅くなったわ。もう終わったの?」
「ええ、薬品室の室長・山寺正子にストレート負けしました。彼女はやり手ですよ。イギリスオックスフォード大学で学び、ボストン大学で大学院生活を送ってます。ああいうのを帰国子女っていうんでしょうね。」
「ストレート負けっていうことは何一つ聞き出せなかったのね。」
「残念ながら。薬品課の後藤刑事も一緒だったのですがたじたじでした。」
「そう、彼がたじたじだということは相当な人なのね。で、あなたの直感は?」
「私の?」
「そう。」
「黒です。彼女の顔は国際警察に指名手配されている犯人の顔と頭脳の持ち主だと感じました。」
「白と言っているものを黒と言い換えてもらうのは難しいことね。またこれで難題が増えたわ。ここで何かをできるわけでもないし、ワンクッションおきましょう。私のおごりで何か食べていかない?」
「どうしちゃったんですか?」イチローは目が飛び出るくらい驚いて桜子に言った。
「考えたのよ。事件が難航していて私たちに焦りが見え始めているなって。だからここは事件のことは忘れてストレス発散。ただしそんなに出せないわよ。」

三人は夜の渋谷の街をさまよい、こじんまりした料理屋に入った。そこは各部屋に分かれていて落ち着いて食事をできるところだった。
「いくら管轄内といっても渋谷って事件多いですよね。」イチローはビールを半分ぐらい飲み終わるとコップを見つめながら言った。
「渋谷は十歳代から高年齢までいろいろな形で集まってくるわ。その中には様々な感情が含まれている。今回みたいに殺したいもの、殺されたいもの、それをビジネスにしてしまうもの。」
「傍から見ているとみんな生きるのに一生懸命になっているのだと思います。今回のビジネスはきつい冗談のような気がしますが、殺されたいもの、殺したいものは自分の存在をこんな形でアピールするしか方法がなかったのかと。」
「そうね。死んでも何も変わらない。殺しても何も変わらない。それはやってみないとわからないことなんでしょうね。ただ死んでしまったらやり直しが利かない。それを死んでしまう前に気がついてくれる人が多くなると期待しているわ。」
イチローも千尋も桜子の意見にうなずいた。少し沈黙が流れる。それぞれ生について自分なりに考えていたからだった。
そんなときに廊下が騒がしくなった。
「・・同じようなものを作ったそうですよ。」
「二番煎じ、コピー。日本人はいつだってはげたかのように食いついてくる。しかし目くじらを立てることじゃない。」
桜子、イチロー、千尋の三人はお互いの顔を見合わせた。たった今廊下を渡っていったものの声に聞き覚えがあったからだ。
「どうしてこんなところに?」
「これはもう偶然ではなく運命なんでしょうね。神様は私たちにより多くの情報を得ろといっているみたい。」
「二番煎じやコピーって・・誰かがあのサイトの真似をすることにしたのでしょうか?」
「ありえないことじゃないわ。私も日本のビジネスははげたかのようにヒットすると思ったらコピーといわれようとやるものだわ。」
「それは裏を返せば日本人が今の生活に苦痛を抱いて死んで楽になりたいという気持ちがあるからだと思います。死んでも楽にならないのに。」
「お開きにしましょうか。せっかく仕事のことを忘れてリフレッシュを図ったつもりだったのに彼らが同じ場所に現れてしまったのならリフレッシュどころではなくなってしまったわね。」
「それに僕たちは顔が割れている分だけはちあったりするとまずいですよ。」
「今度はイチロー君の家あたりで家呑みするしかないわね。」
「これから家に来ますか?」
「今日はいいわ。彼らのせいで酔いが完全にさめてしまったから。」
「私はここで彼らの行動をチェックしたほうがいいと思うのですが。」
「それはないわ。彼らはどちらかというと頭脳明晰な人たちの部類よ。いくらメンバーだけだからといって料理屋で肝心なことを言うはずがないもの。」
「そうですね。」千尋はしばらく考えてからそう応えた。
「この時間だったらまだタクシーは捕まるでしょう。一台拾って順番に回ってもらうわ。」
千尋は桜子が次にしようとしていることがなんとなくわかった。
渋谷から一番近いイチローの家がある世田谷区にいってからタクシーの中で千尋は桜子と黙って夜の東京を眺めていた。
「ねえ、ちょっと家に寄ってこない?」
「はい。そうくるだろうと思っていました。」
「なんだ。相変わらず鋭い勘をしているのね。」
「今日は気が済むまで話し合いましょう。」


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