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作品名:クリスマスに生まれて 作者:chihiro

第13回 それぞれの事情
関係者にとっては長い一週間だった。一週間の間に未遂を含めて六件の事件があり、メディアは警察のふがいなさを毎日報道していた。ワイドショーではどこから入手してきたのか十二人のプロフィールやその十二人の名前は英語、スペイン語、フランス語でクリスマスとつづれること、クリスマス生まれであることから「クリスマス殺人事件」とインターネット上でつけられた名前をそのままメディアでも使っていた。あるサイトでは次の被害者は英語で来るのかスペイン語になるのかと賭けているところもあり予想される被害者のスザンヌとナタリーには自宅まで押しかけられていた。
「私は数日前に双子の弟を亡くしたばかりなんですよ。なぜこんなひどい仕打ちを受けなければならないんですか!殺人者が誰なのかわかりませんがその人よりもあなたたちのほうが残酷です!」
ハーフであるスザンヌは言語の自由とばかりに自分の意見をマイクを通して主張したがそれが返ってメディアの餌食になっていた。強がれば強がるほどスザンヌの心の不安は強くなる一方だった。
(何とかしなければならない。こんなおかしな事件で自分の命を落とせない。私にはまだやることがある。)
しかしスザンヌは誰に相談していいのかわからなかった。クリスマスパーティの中で一番騒いでいたスザンヌだったがパーティの雰囲気を盛り上げようと意図して騒いでいたことであり本心は一人で壁の花になるのが怖かったからだ。スザンヌは部屋に閉じこもりカーテンを閉め暗い部屋の中で人生最大の危機を避けるためにテレビもインターネットもつけず、会社も辞めて神経質に過ごした。

一方ナタリーは日本語を自由に表現できないことから最初から口を貝にして黙っていた。部屋から一歩も出ずに何とか生き抜いているのはネットを通じて世間の反響を様子見しているためだった。
(少なくても私はスザンヌよりも状況を知っている。)ナタリーは優越感に浸った。ナタリーは自分の恋人である安藤望が直接手を下さなくても何らかの形で関係していることを初めから知っていた。宣教師の集いにて一枚の殺人計画を見つけたのはナタリーだった。ナタリーは完璧な日本語が話せないということで宣教師の間でも沈黙の虐待を受けていた。とくにヴィヴィアンヌとダヴィッドの馬鹿にした顔を思い出すだけで怒りが自然と湧き上がってくる。守は俺が一番この中で頭がいいんだといわんばかりの顔つきでみんなを見下しており、自分に屈服している姿を想像しているのかいつもニヤニヤしていた。三人が三人とも集いなどまったく眼中になく殺されたカップルはいちゃつきまくっていた し、守は時々メッセージを誰かに送っているのをナタリーは知っていた。そんなところに殺人計画の紙切れ。自分の携帯電話のカメラでその文面を写すと安藤望に送ったのだった。安藤とは数年前の宣教師の集いの帰りに偶然に出会った。その目の奥に何か野心を抱いていると感じていたが自分には関係ないと思っていた。つかの間の安らぎが欲しかったのだ。安藤と話をしてみるとクリスチャンであることがわかった。その日からメッセージは聖書に出てくる言葉に限られた。誰にも怪しまれないその言葉はナタリーにとっても好都合だった。
安藤とは肉体関係はあったがナタリーはもっと違うもので結ばれていると思っていた。同じ精神を持つ同士。性別を超えたそのものは一時の中途半端なものではない。裏切ったユダを正しい道に導くためにイエス・キリストの名において征伐を下しているのだと信じて疑わなかった。もちろんナタリーは安藤がナタリーを単なる駒にしか見ていないことを知っていた。しかし目的のためには誰かが駒にならなければならない。安藤のためだったら自分がその駒になったとしてもそれはそれでいいと思っていた。彼によって殺されるのか違うものに殺されるのかそれはわからないが目的のためだったら自分の命を差し出そうと決めていた。
(キリストのように復活するために一度滅びるのだ。私は喜んでこの命を体を神にささげよう。)

「そちらの様子はどう?」桜子は鈴木に電話で尋ねた。桜子は鈴木にナタリーを内田千尋にはスザンヌの素行を尾行させていたのだった。
「今のところ誰とも接触がありません。しかし部屋では世間の動きを見ているみたいですね。スザンヌのほうはどうなんですか?」
「先ほど内田さんに連絡入れたらイチロー君と同じような答えが返ってきたわ。だけどスザンヌのほうは精神的に相当参っているらしく今にも爆発しそうだって。」
「舞浜さんはどう思っているんですか?僕はどうしてもナタリーが覚悟を決めているように思えるのですが。」
「つまり安藤望が執行するってこと?」
「ええ。それとも違う人物で同じ考えを持っているものが執行するのか。その人物って誰なんですか?」
「これだけ殺人が行われてそろそろ姿を現してもいいころでしょうね。」
「いいころだって人事みたいに。舞浜さんはわかっているんですか?」
「予想はつけているけれどそれは決定じゃないわ。だから何も言わない。言葉に発することで思い込んでしまうから。精神的な問題ね。人生の大半は思い込みで行動しているようなものよ。とにかく何か変化があったらすぐに連絡頂戴。何も言わなくてもワンコールでもいいわ。そのために各一人ずつ担当をつけたのだから。」
「動きがあると思いますか?」
「それもわからない。そのために私たちは動いているんでしょう?」
電話を切ると鈴木は桜子が最後に言った言葉をかみ締めていた。その数秒後に白のカローラがナタリーの家の建物の前に静かに止まった。

(私、監視なんて出来るんだろうか?)スザンヌの家の前で内田千尋は不安に押しつぶされそうだった。千尋はこれが最初の任務だったのだ。監視するだけということで付き添ってくれる上司もいなければ同僚もいない。もし何か起きたらと思うといても立ってもいられなかった。千尋は警察学校に通っていたわけでもない。しかし知識と経験は同期のものとは比べ物にならないくらいあった。フランスで、アメリカで、中東でそして日本でも犯人を追ったことがある。それでも勝手が違う場所での初勤務は緊張を及ぼすものがあった。
舞浜桜子は千尋の日本での業績を知っていた。その勇気さを買われて警視庁のトップに千尋の警視庁入りを推薦したのだ。推薦はパリ警察署長、国際警察刑事二名と警視庁が否定できない確固たる連名だった。
「私は普通の人ですよ。警察のメンバーになることは出来ません。」
「あなたの推理力、機転のよさ、それを買ったのよ。国際指名手配されているものを次々に追いかけていたあなたにとって日本の事件など物足りないかもしれないけど。今回手伝ってやはり自分には向いていないと思えば内勤専門にするわ。」
「わかりました。それだけ言ってくれるなら見習いという形で今回は参加させてもらいます。」
千尋は桜子と交わした言葉を思い出した。そして自分なりに今回の事件を考えてみた。
殺害されたものたちもマークされているものたちも千尋はどんな心境になっているのか痛いほどわかった。千尋もまたクリスマス生まれだったからだ。
そしてその考えを破る音が聞こえた。白のセダンがスザンヌの家の裏側に止まったのだった。


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