HAPPY BIRTHDAY!
「その国」では十七歳の誕生日を迎えると隔離させるという制度が設けられていた。 そこは十七歳の「楽園」と言われ、外の人間には憧れさえ抱かせる場所だった。 しかし、現実は残酷で、そこは生きるためにはあまりに厳しい環境で、生きていく意味すら不確かになるような場所でしかなかった。 生き抜く為に、知らなくても良いことまで、知らなければならなかった。 生きる権利を剥奪された者もいた…。
HAPPY BIRTHDAY!
そして僕達は22歳の誕生日を迎えた。
エピローグ 5年後
1
欧州某国の教壇に立つ、その青年は「隔離区域」という過去に行われた非人道的な実験について教鞭を振るっていた。 「失ったものは多かったです。出来れば今後一切、誰にも同じ経験はして欲しくありません。けれども、僕達はそこで、命の脆さ…そして命の強さを学びました」 青年の話しに誰もが無駄話一つせずに聞き入っていた。 「君達に伝えたいのは、君達のその命は誰にも奪うことはできないと言うことです。他人の命を奪う権利など誰にも無いということです。命というのは…他人には…もちろん本人にも不可侵の領域である。 …ということです」 そう、言い終えると計ったようにチャイムが鳴り、その青年は一礼の後、教室を後にした。
「ギー先生!」 教室を出て廊下を歩く青年をそう呼び止め、生徒が走ってくる。 「こらこら、廊下は走っちゃ駄目じゃん。」 呼び止められた青年は振り向き、そう言って生徒をたしなめる。その姿は大人びたとは言え、ノーネームの技術屋「ギー」の面影を残していた。 「…ごめんなさい!でも何か気になっちゃって!!」 息切れしながら十七歳の少女はそう言葉を吐いた。 「…何が気になったの?」 ギーはそう生徒に尋ねる。 「ギー先生と一緒に戦った…電王って人と…あとRealって人!それからどうなったんですか?だって死体も見つからなかったって…!」 少女はそう言葉を発すると悲しそうな顔でギーをのぞき込む。 ギーは彼女の頭を優しく撫でて、微笑んだ。 「…それが…たぶん僕にとっても救いだったんだと…そう思います」 そう言って、少女と別れ背を向け歩き出すギー。 少女は胸の中心が締めつけられるような、なんとも言えない切ない気持ちになり胸元に当てた手を強く握りしめ、歩き去るギーの背中を見つめていた。 2
時刻は正午を過ぎた辺り。午後の授業もある平日にも関わらずギーは身支度を整え、正門へと向かって歩いていた。片手には白菊の花束を抱えている。 「まだ正午だと言うのに、義一(ギイチ)教諭はおサボりですか?」 日本語でそう問う声がする、声のする方向に目を向けると、そこにはスーツ姿の男が立っていた。同じく片手には白菊の花束を手にしている。 「許可はちゃんと取ってありますよ。そう言う津少尉殿こそ軍の規則に背いてこんな時間に、こんな所で油でも売ってるんですか?」 微笑みを浮かべながら問い掛けて来た相手にそう、冗談で返す。 その言葉に向こうも笑っているようだった。
「もう五年になるんだね」 「早いもんだな…」 「その五年でツーは少尉殿だもんね!Realとか知ったら驚くんじゃない?」 「…そーかもな…」 並んで歩きながら話していた会話はそこで途切れた。二人とも微笑んではいるものの、どこかその笑顔は物寂しいような印象を受ける。 「しかし、大学院からの研究員としての要請も受けたんだろ?…お前がやりたかった工学の勉強を蹴ってまで、教員になるとはな」 ツーは途切れた会話を別の話題で繋ごうと、そうギーに話しを振る。 「ツーと同じだよ」 そう歯切れよく返すギーの言葉に、ツーは笑いながらその肩をポンッと叩いた。 ギーは予てより信頼を置かれていた、工学部の教授からの院生への進学の要請を断り、教員として「伝える」道を選んだ。 ツーは隔離区域から解放された後、すぐに隔離区域の捜索隊の一員へと加わりそのまま軍隊に所属した。彼は二度と同じような過ちを「犯させない」道を選んだ。
二人が向かう先には、公園(といっても芝生で覆われた小さい土地だが)があり、その中央にはちょっとしたモニュメントある。 二人はそこを目指し花を携えやって来たのだ。 そのモニュメントの前まで来るとそこにはいくつもの花束等が置かれていた。きっと他の仲間も来ていたのだろう。今は二人意外の姿は見えない。二人は他の花束に習って献花をし、そして黙祷を捧げた。
今日は、彼らが解放された日。
モニュメントには「隔離区域慰霊碑」と日本語で刻まれている。犠牲者の名前は記されていないシンプルな物だった。この慰霊碑を建立するにあたって名前を入れるという話しも出たが、「もともと自分たちの中では本名なんて意味をなさい単語でしかなかったから、犠牲者の名前は入れないで欲しい」と解放された人間全員が反対し、建立する側の人間もそれに従う形となった。実際、ギーもツーも入域前の名前を使うことをせず、解放後はそれぞれ「義一」、「津」とその名前を改めた。ファーストネームでも、セカンドネームでもない、ただの「義一」そして「津」。
「多分…認めたくなかったんだよね…。」 黙祷を終えるとギーはそう呟いた。 「名前刻んじゃったらさ…認めるしか…ないじゃん」 そう言うと、座り込み体を丸め肩を震わせる。 「…もう五年も経つのにな…俺も未だにそう思うよ」 そう言ってツーはまたギーの肩をポンッと叩く。 それが合図だったかのように、ギーは立ち上がってツーを見据え微笑む。その目は涙で少し濡れていたが、それでも悲しみを振り払おうと見せる清々しい笑みだった。 「行こうか」 「あぁ…」 ギーの言葉にツーも小さく頷き、二人は「また来るから」と言葉を残し慰霊碑に別れを告げた。
HAPPY BIRTHDAY! 僕達はこれからも自分が生きていることを祝い続ける。
HAPPY BIRTHDAY! 僕達は君達が生きていた証を毎年この胸に刻み生きていこう。
HAPPY BIRTHDAY!
献花された白菊が偏西風の心地よい風を受け踊っていた。 それはまるで、二人に手を振っているようにさえ見て取れた。
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