次の日の朝、美香より先に学校に到着した千夏は、席に着き、また少し緊張を感じた。 慣れていない学校での朝に、一人席に座るのは緊張するものだ。
”落ち着け……落ち着け……”と心の中で、何度も一人繰り返していた。
「お〜〜は〜〜よ!!!!!」
後ろから声がした。 この元気な声の主は、美香だとすぐに気付いた。
「あ。おはよう。朝から元気がいいねぇ。美香は。」 と言い、ふと美香を見ると、美香は目を輝かせ、こちらを見ていた。
”え?なに?”と思っていると、
「美香って呼んでくれたぁ〜!!!」
と言って、美香は抱きついてきた。
「あ〜そっか。昨日は一回も名前呼ばなかったもんね。お〜ヨシヨシ。イイコイイコ。」 と言って、美香の頭を撫でた。
「うんうん!」 と、美香は猫の様に千夏の胸で甘えていた。
そんな感じで、朝の時間を過ごし、ホームルームが始まった。 ふと、周りを見渡すと、やはり空席が2つあった。
”今日も来てないんだ。”と思ったが、別に気にはしなかった。
五十嵐は、またあの適当な出席を取り終え、教室を出ようとした。 その時、 ”ガラガラガラ” と、前の扉が開いた。
千夏は、”来た。”と直感で思った。
やはり、来た。扉を開けたのは友喜だった。
五十嵐と目の合った友喜は、昨日と同じように堂々と言った。
「どうも。」
五十嵐は、呆れた様子で、
「君は時間内にこれないのかい?」
と、友喜に言った。 友喜は当然の如く、
「そうだな。今は無理とでも言っておこう。」
と答えた。
”あなたには、無理じゃなくなる日が来るのかい?” と、千夏は心の中でつっこんだ。
一時、五十嵐と友喜の会話が続き、友喜は席に着いた。
その日の午後、千夏は学校を無事に終え帰宅しようとしていた。 校門を入ってすぐのところに、自転車置き場がある。 学校まで自転車に乗って来る生徒は、そこに自転車をとめることになっている。
その横を通り過ぎる時に、自転車置き場の方から声がした。
「おい。転校生。」
”自分の事だ。”と、すぐに気付き、ふと横をみた。 そこに立っていたのは、友喜だった。
思っていたより早く来たコンタクトに、びっくりしながら千夏は答えた。
「な……なんですか?」
「俺、友喜。よろしく。友喜って呼んでくれ。」 と、友喜は自ら自己紹介をしてきた。
「え……あ……はい。アタシは近藤千夏です。よろしくお願いします。」 と、千夏は何故か敬語で答えた。
「これでジュース買ってきてくれないか?」 と、言いながら握りしめた手を差し出してきた。
”え?おごってくれるの?”と思いながら、思わず手を出してしまった。
友喜から受け取った物を見てみると、 何かの鍵だった。
「チャリはそこにあっから。」 と、言いながら1台の自転車を指差した。
「え?」 千夏は、どういう事かわからなかった。
「いや、だからジュース。もちろん千夏の分も買っていいから。」 と、堂々と千夏に言った。
”いやいやいやいや!パシリですか?!おごってくれるんじゃなかったんですか?!” と心で思いながら、
「何で私が買ってこなきゃいけないんですか?」 と、友喜に言い返した。
友喜は”ん?”といった表情で、
「硬いことゆ〜なよ。ほら。頼んだぞ。」
と、言いながら、千夏の背中を押し、自転車まで誘導した。 それは、変な自転車だった。レトロ風な自転車と言うべきだろうか。
”ま。ジュースくらいいいか。次からは絡まれないようにしよう。” と、思いながら自転車の鍵を開けた。
自動販売機の場所も知らないのに、自転車をこぎ始めた。
”あれ?自販機ってどこだ?”と、思い、ふと周りを見渡そうとしたら、
あった。
目の前に。
”ちっか!!!” と、心の中でつっこんだ。
それは、自転車のあった場所から、10メートルと離れていない場所だった。
そこで、ジュースを適当に買った。 自分の分のジュースも。
もちろん、自分のお金で。
帰りは、友喜の所まで自転車を押して帰った。
自転車をとめ、友喜にジュースを手渡した。
「はい。」
「おう。」 友喜は、当たり前のように受け取った。
”ありがとうとか言えないのかよ。” 千夏は少しいらだちを覚えた。 でも、それも少しの我慢と思い、耐えた。
「千夏は、福岡から来たんだろ?」 友喜が話しかけて来た。
そうだ。何かが引っかかっていた。 ”なぜいきなり名前で呼ばれているんだ。” まずそこだ。 いくら抵抗はないとは言え、それは友人間での話し。 何のコンタクトもなしに、いきなり呼ばれるのはさすがに抵抗がある。 しかも、相手は男だ。
「どうした?」 何かを考えごとをしている千夏に、友喜は話掛けた。
「え。あ。いや。なんでもないです。はい。福岡から来ました。」
”まぁいいや”と、心の中で解決をして、千夏は答えた。
「そうか。福岡ってどういうとこ?いいとこ?」 更に友喜は質問をしてきた。
”そんなに聞いてどうすんだよ。”と、思いながら、 「はい。いい所ですよ。」 と、簡単に答えた。
「そうかそうか。」 と、友喜も簡単に答えた。
続けて、 「何でこっちに来たんだ?答えにくかったら答えなくていい。」 と、聞いてきた。
「別に特別な理由じゃないです。親の転勤でこっちに来ました。」
「そうか。じゃあ今親元から通ってんのか。」
「はい。」
「そうか。」
「はい。」
「家は近いのか?」
「そこそこ。」
「そうか。俺の家も近くだ。兄弟は?」
「いません。」
と、そっけない会話が一時続いた。 気付けば、友喜のジュースはなくなっていた。
缶をグシャっとつぶして、友喜は言った。 「これご馳走さま。俺、財布無くしてさ。金がなかったんだ。今度借りを返す。」
「いえ。結構です。それでは。」
と、言い残し、そそくさと自転車置き場を後にした。 ”なんだよ。財布なくしてたのか。そうならそうと言えばいいじゃん。” と、千夏は少し苛立ちを覚えた。
”アタシ、あいつ苦手だ。”
そう思った。
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