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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第7回 AKIYA / create 'n' image

「タバコ吸いてー」
 DJブースの脇に置いたマイクで言うと、それまでフロア内の闇を駆け回っていた原色のレーザーが消え、高い天井の照明が明るく点った。
 煌々たる光に充満した視界を細め、視覚が光に慣れるのを待つ。
 徐々に慣れてきた頃に、照明室につながるステージ上手の階段から、ひとつの足音が聞こえた。



  <Seven : AKIYA / create 'n' image >



「相変わらずいいプレイするよな」
 首にかけたヘッドホンを外して目の前のシーケンサーの脇に置くと、そいつは興味の薄い口調を発した。
「だったらもっと興奮しろよ」
「興奮してる俺を見たい?」
「撤回する」
 開けられるくらいに光に慣れた視界で、無表情を顔に貼り付けた男がいた。脱色したショートヘアに黒縁メガネ、ジップアップパーカーにコットンのショートパンツ。彼が細身であると、露わにしている細い膝元から察することができる。
「サトが興奮してたら俺がひく」
「だろ?」
 高野慧(さとし)――通称サト。秋哉の2コ下で、トモの弟。彼は左眉だけ上げて応えた。
「けど、秋哉のDJプレイが好きなのは事実だぞ。照明を乗せやすいから楽しみながらできる」
 パーカーのポケットからタバコを取り出すサトを見て、秋哉は自分の喫煙欲求を思い出した。カーゴパンツから取り出したタバコに火をつけ、思い切り吸い込んだ秋哉はフロアを見渡した。
 縦に長く、3階分の高さを吹き抜けにした空間。鉄扉と向かい合い、フロアより2段ほど高く設えられたステージが、今こうして秋哉とサトのいる所。フロアの四隅には2階分の背丈のあるスピーカーが、でんっ、と腰を据える。
 フロアは倉庫の外観ほど広くはない。バーカウンターや、2階・3階に造られた休憩ルームのレイアウト上、外観より細長く造られている。
「なあ、秋哉?」
 左手と正面――2階と3階の休憩ルームのガラス張りの壁を見上げていると、サトが声をかけてきた。
「あ?」
 煙を吐きながら首だけ回す。
「秋哉にとって、音楽って何?」
 いつのまにか階段に腰を下ろしていたサトが、真っ向から秋哉を見つめた。
「……なーんだろなぁ?」
 すぐには答えられず、秋哉は足元に転がっていた空き缶を拾い上げるとサトの方へ歩み寄った。サトより一段上の階段に座り、彼のとなりに空き缶を置く。
「俺の生活には欠かせない、むしろ生活のひとつかもな」
 煙のたゆたう虚空を仰ぎ見ながら秋哉は言を紡いだが、
「…いや、あくまで嗜好品だわ。タバコみたいなもん」
 首を振って言い直した。
「そっか」
 ぼんやりとサトの煙が昇る。
「そんなこと聞いてくるなんて珍しいな。どうしたよ?」
「来月にイベントやるだろ? そのイベントが、俺の中でどういう位置づけなのかって考えてみたわけなんだけど」
「ふんふん」
「いまいち、はっきりしないんだ。今まで何度かクラブらしいイベントはやってるんだし、我楼メンバー全員でやるって点が大きな違いだけど、俺の立ち位置が変わるってわけじゃない」
 タバコの先で白く、長くなった灰を空き缶に落として、サトは嘆息を漏らした。
 2人の間に沈黙が流れ込む。
 ふぅ。
 秋哉は吐いた煙を追うように口を開いた。
「それでいいんじゃね?」
 空き缶に灰を落として、続ける。
「トモとサトって、何かと難しく考えすぎなんだよ。ただ、トモの方が肩に力入れて考えてない。おまえは考えることに対していちいち肩に力入れすぎってだけ」
「……かなぁ?」
「そう見える。物事考えてる時、サトは下向く癖があるだろ? トモを見てみろよ。マンションの屋上で寝転んで空見上げて、ただ寝てるだけなんじゃねぇかって思うくらいリラックスしてる」
 すっかり短くなったタバコを空き缶に突っ込んで、サトの肩を揉んでやる。
「切羽詰まって考えるよか余裕持って考える方が負担も軽い。来月のイベントのこと、そうやって考えてみな?」
「……ん、そうしてみる」
 この場が無音でなければ聞き取れないほどの細い声で、サトは小さく頷いた。
 彼の肩を揉んでいた手を止め、元気付ける意味でも双肩を叩く。
 ばんっ。
「痛ぇよ」
 睨み付けてきたサトに秋哉は笑顔で応えた。
「――秋哉ー?」
 ふいにフロアに広がった秋哉を呼ぶ声に、彼は緩慢に腰を上げた。DJブースに出ると、出入り口ドアを開けて入ったヒナを見つける。その後ろに御杉とトモの姿がしっかりあった。
「作業の方はどうしたよ?」
 ケータイを開くとデジタル数字が18時前を示している。
「ひと休み?」
 声を張り上げた質問をヒナは首を振って否定した。
「今日は切り上げ」
「いいのかよ? 時間ねぇんだろ?」
「明日からがんばる。で、今日から一緒に作業してくれることになった強力な助っ人、御杉一澄ちゃんでーす」
 上機嫌に御杉を指すヒナ。何よりもその紹介に顎が落ちた。
「はあ!?」
 遅れて立ち上がり、秋哉の脇についたサトが、
「誰、あれ?」
 変わらず興味ゼロな語調で御杉を見やる。
「ヒナの友達なんだけどよ、なんであいつが助っ人?」
 なにやらわめく御杉と、それをなだめているヒナとを眺め、状況が飲み込めない秋哉は直球で問いを投げた。
「なんでそうなってんだよ?」
「あたしが、一緒にいると楽しいから」
 なぜか不満顔な御杉のとなりでヒナが胸を張った。その後ろではトモが笑いをこらえている。
「あー、なるほど」
 大体、状況が飲み込めた。ヒナはそういうヤツだ。極めて自分に素直で、純粋で、自己の欲求を満足させるためならひたすら前進。押してもだめなら押し倒せ。
 押し倒されたのが御杉だった、というだけの話。
 生まれ持っての才能か、ヒナには人を押し倒せるだけの力がある。
 ヒナは、そういうヤツだ。
「ねーねー」
 などと思いを馳せていたら、ヒナに覚まされた。
「ちょっとでいいから回してよ」
 フロアの中央まで来ていた3人の先頭でヒナが催促する。彼女の満面の笑顔は当然のように秋哉を動かした。
「ちょっとだけ、な。どうせだから光も付けね?」
 トモとサトに目配せする。
「ま、肩慣らし程度でいいなら。久しぶりだしね」
 ぽんっ。待ってましたとばかりにヒナに背中を叩かれたトモは、直接ステージに上がると、サトを上手の階段に促した。
「単純」
「うるせ」
 サトの残した呟きに吐き捨て、秋哉は階段を上る二人を見送った。
「プレイしてくれるの?」
 さっきまでの不満顔はどこ吹く風、御杉がはしゃぐ。
「がっつんっとよろしく〜」
 ヘッドホンを首にかけた秋哉は、頭の上で大きく手を振るヒナに手を上げて応え――ちょうど照明が落ちた。
 視界が暗く塗りつぶされ、秋哉の頭の中が音楽に満たされる瞬間。
 膨らむ音楽観。
 シーケンサーのベース音でスタートするイントロ。
 ゆったりと。
 音楽感が指先から全身に染み渡って――

 ――音楽が、生まれる――

 ――ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ♪
 人が持って生まれた鼓動の4つ打ち。
 乗せるレコード音源。
 フロアを駆けるレーザー。
 体を揺らし、踊るヒナと御杉。
 秋哉とトモ、サトで創り出す世界。
 音と光に彩られたここが、秋哉は好きだ。
 幾重にも重なったメロディーとリズムに合わせて、天井からぶら下がるボックスライトが数色に灯る。
 DJブースの後ろに置かれた棚からレコードを選んでは、レコードプレイヤー上で回るレコードと交換する。
 音楽の媒体としての自分がここにいる。
 音楽とスピーカーをつなぐコード。
 オーディエンスにイメージを伝えるマテリアル。




 我楼は、秋哉にとってとびっきり最高な。
 創造する想像の場。








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