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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第40回 TOMO / 花火好き

 拍手喝采。
 波止場は大いに賑わった。里央と玖美が手を取り合って喜んでいる。初対面だといういうのに、すっかり意気投合した様子。
 花火の音の余韻がまだ尾を引く鼓膜。やっと、智は安堵した。無事に花火演出が終えられて、胸は充足感に満ちていた。
 花火がすべて打ち終わっても、しばらく拍手は止まなかった。これだけの人々をここまで楽しませることができて、心の底からうれしかった。
「うれしそうだね」
 顔にまで出ていたらしく、明仁に言われた。



  <Forty : TOMO / 花火好き >



「わかります?」
「全身から感じるよ」
「今回のイベントに参加できて、すっごくうれしいんです。こんなにたくさんの人に来てもらえて、楽しんでもらえて」
 やっと、人波が動き出した。みんなが笑顔で、満足そうだ。
「あいつも楽しんでるようだしね」
 言う明仁の顔は、智を挟んで玖美と里央を向いていた。彼の視線に気付いた玖美がにっこり笑う。
「あいつ、花火が好きなんだよ」
「ええ、知ってます」
「そっか。そうだよね」
 バツが悪そうに、明仁は笑った。
「智くんの母親なんだから」
「そう言われても、いまいちピンと来ないんですけど」
 智、苦笑。
「複雑だよね」
 言葉尻ほど軽い気持ちで明仁が言っていないことくらい、智にはわかってる。この人は軽率な態度なんて取れない。
「玖美さんのどこに惹かれたんですか?」
 実の母親を『さん』付けで呼ぶ智に戸惑ったのか、単に答えを探しただけか、明仁は奇妙な間を置いた。
「そういう風に聞かれると、どうも照れるね」
 口調からは、とてもそうとは思えないことを言ってのける。
「明仁さんと玖美さんは正反対な性格に思えるんです。玖美さんは芸術が好きなのに」
「芸術が好きだとか嫌いだとかで結婚したわけじゃないよ」
「それはそうですけど」
 にしても、智には根本的な差異に思えた。
「僕は、彼女の天然の無邪気さに惹かれたんだと思うよ。僕にはないものだから」
 もっとも。明仁は付け加えた。
「彼女が芸術家であったら、どうなってたのかはわからない」
 玖美と里央はすっかり打ち解けていて、2人っきりの会話に熱を込めていた。
天然の無邪気さ。
 頭の中で明仁の表現を書いてみる。口の中で呟いてみる。
 玖美にぴったりな言葉だ。
 そして、ヒナは見事にそれを受け継いでいる。
「僕も、花火が好きなんだよ」
 思い出したように明仁が口にした。
「まさか、ここで見るなんて思いも寄らなかったよ」
「夏ですから」
「冬の花火の方が好きだけどね」
 芸術嫌いとは思えない言葉に、智は吹き出した。
 里央が、やおら頬を突付いた。
「そういや、トモ?」
「何?」
 指を払う。
「彼女さん、やわらかい人だね」
 脈略なんて見当たりようのないことを言ってきた。
「会ったの?」
「ヒナと一緒にいたよ」
 その唇をにんまり、横に伸ばしながら断言する。
「あれは、トモをしっかり受け止めてくれる人だ」
 智が知る中で、里央は慧以上に人を見る目が確かだ。写真を撮っているから確かなのか、確かだから撮っているのか、それはわからないけれど。
「彼女できたんだ?」
 声音からいたずら心が垣間見える。ぽんっぽんっ。明仁は智の肩を叩きながらひと言。
「大切にしないとね」
「楽しそうですね〜」
「そりゃそうだよ。高校の時から知ってる、甥っ子みたいなもんだから」
 義理の息子でしょ。
 言おうとして、すぐにやめた。
 明仁は智を1人の人間として見てくれている。
「彼女だなんて、智くんも大きくなったのねぇ」
 うっとり言う玖美からは、そういった気なんてさらさら感じない。『くん』付けで呼んでくれていても、母親気性は抜け切れない。
 ま、産んだ当人だから致し方ないとしよう。
「彼女さんも我楼の人?」
 心なしか、明仁の『我楼』という語感がやわらかい気がした。
「香耶の手伝いです」
「手伝い?」
 予想通り、明仁の眉が上がった。玖美も首を傾げている。ヒナと仲の良い里央はやはり事の顛末を聞いているらしい、2人の反応に笑いを噛み殺していた。
「何かやってる人じゃなくて?」
「ここ最近、写真を始めたくらいですかね」
「おおっ、ナイスっ」
 共通点を見つけた里央が最速リアクション。頭の中ではきっと、いつ会って話そうかと画策しているところだろう。
 トモのいない間、彼女が一澄と行動を共にする予感が湧く。一澄にとっていい刺激になってくれるはずだ。
「じゃあ、我楼の人じゃない?」
「そのうち、正式なメンバーになるんじゃないですかね」
 明仁にはぼかして答えたが、智には自信がある。
 ただし。それにはヒナが必要不可欠。
 明仁に問い質したかったが、里央がいる手前、どうしても動きにくい。
「それだったら、近いうちに会えるかもね」
 彼がさらりと言った言葉の意味を、瞬時に汲み取れなかった。
「このイベントは何時まで?」
 呆気に取られてしまった智の脇から、里央がしゃしゃり出る。
「22時までですっ」
「そっか。もう少し時間があるんだね」
「来てくれる人が十分に楽しめるように、時間はたっぷり設けたんです」
 里央の説明に満足げな顔で頷いた明仁が、玖美に微笑みかけた。
「もう少し、回ろうか」
 いつもの、余裕そうな声で。
「――――――――仲いいね、あの夫婦」
 2人肩を並べて人波に紛れた後姿を、里央がうらやましそうに見送った。
 対して智は、にわかには信じられない思いをどう処理すべきかに悩んだ。明仁の言動はあまりにも彼と不釣合い。気持ちの移りあい?――などと言葉遊びをしてみても、手中の思いは居場所を見つけられないまま。
「あんな夫婦になりたいもんだねぇ」
 いつになるかはわからない。
「その前に、相手を見つけなきゃね」
 けど、いつか見つけられるでしょ。
「……ねぇ? なんだか魂抜けてない?」
 それまで胸の隅に取っておこう。
 智の顔の前でひらひらと舞う里央の手をつかんだ。
「気のせいだよ」
 微笑(わら)う。
 潮風の中に、花火の残り香を見つけた。



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